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運極さんが通る  作者: スウ
世界ランキング闘技大会編
39/127

本戦②

 


 ピロリん。

『本日の試合は、午後4時からです。遅刻しないように、お気をつけ下さい。』


 4時か。

 まだまだ時間はあるな。

 よし、対人練習をしよう。

「るしー!今日も僕の双剣使う?」

「いや、俺の大鎌はっ!?」

「今日は最初からジンの双剣かなぁ。」

「やったー!」

「えー。」

 朝から元気だねぇ。

 私はもう歳だから、フラフラだよ。

「るし、今日も対人をやるか?手加減はするぞ?」

「うん、よろしく。」

 本戦は強い人ばかりだ。

 ここまでの勝利はただの装備のゴリ押しで勝ててきているようなものだ。

 技術が全然足りない。

 このままではその内ボロが出るだろう。

「ヴィネ!私頑張るよ!でも、目潰しはダメ、ゼッタイ。」

「わかっている。で、得物はなんだ?」

「…大鎌で。」

「あいわかった。」

 この本戦では、ブラッディ・ローズも使うつもりである。

 その為の訓練だ。

「いくよっ!はぁっ!」


 ガギィッ








「お昼ご飯ですよー。」

「「はーい。」」

「るし、行くぞ。」

「お…おう。」

 あちこちが痛くて動きたくても動けぬ。

 ヴィネに攻撃を仕掛けると、大鎌がいつの間にか手から離れて、空を舞いながら落ちてくる。

 それに目を奪われていると、鳩尾に拳がめり込んでくる。

「るし、(おまえ)は余所見をしすぎだ。常に相手を見て行動することが必要だ。視界を広く、が大事だぞ?」

「おっぷ……うん。」






 ご飯を食べるとあら不思議。

 痛みが引いていくではありませんか。

【鑑定】をしたって無駄です。

 見ないでおきましょう。

 その方が身のためです。

「るし、午後の部は対人練習はなしだ。(おまえ)は試合観戦にて技術を盗んでくるといい。」

「わかった!いってくるね!」

「「「「行ってらっしゃい。」」」」







 広場を抜けて会場に向かっていると、

「おい…モキュモキュ…るしか?」

 カインと出会った。

 頬を大きく膨らませている。

「食べながら話しかけるのは感心しないぞ。」

「うっ…すみません…ゴッ。」

 喉に食べていたものが詰まったようだ。





 本日三試合目の試合は見物だった。

 一時間にも渡る攻防の末に決着がついた。

 どちらのチームも拳闘士×2 VS 拳闘士×2。

 試合開始直後から殴り合い。

 殴る度に血や汗が飛び、ついでにと歯も飛んでいく。

 柔道技や、空手技が使われる度、

「あの絞め技…いいなぁ。次の試合で真似しよ。」

 と、カインがブツブツ言っていた。

 カインの心も燃え上がっていたようだ。

 最後に勝ったのはLvが高い方のチームで、僅差の勝ちだった。

 フラフラになっても尚戦い続ける4人には観客(オーディエンス)や、司会の人達から賞賛の拍手が送られた。






『さぁ、本日四試合目、風の鎧と圧殺君VSケモ耳マッチョと指狩りの戦いだ!というか、るしっていう名前、ここ最近よく見かけますね。人気なのでしょうか?』



 この酷い名前は、一試合目に、印象の強く残った言葉を勝手に司会が仮の二つ名のようにして、呼んでいるのだ。

 それにしても…ケモ耳マッチョと指狩りとは、いったいどういう事なのだろうか。

 指狩りは何となく分かる。

 指を切り落とす感じでしょ?

 でも、ケモ耳マッチョとは…?

 まぁ、会えば分かるよね。

「行くぞ、るし。」

「うん。」

 石畳を上る。



『あの噂の軍服さんの名前もるしという名前らしいので、ファンが名前を真似してたり…でしょうかね?さぁ、カウントいくよぉっ!!』


 集中を高めて相手を見据えた。

「ぶっ…。」

 横でカインが吹いたのが、見なくても分かった。

 私だって吹き出しそうになるのを必死に堪えているのだから。

 ケモ耳マッチョの風貌は、名前の通りである。

 ケモ耳に、厳ついオッサンの顔をして、身長が2m近くあり、凄くマッチョ。

 上半身は裸で、盛られた筋肉が威圧してくる。

 対して指狩りは、小柄で、肌の色が悪く、影が薄い印象を受ける。

「カイン…油断はダメ。」

「わかってるって。」

 私達は武器を構えた。


『go!!!』


 ケモ耳マッチョが開始直後に大剣を投げてきた。

 それを避けると、背後に気配が。

「危ないっ!!」

 ドンッと身体を押し飛ばされ、振り返ると、指狩りが、カインを攻撃していた。

 いや、私を攻撃しようとしていたけど、カインによって遮られ、結果的にはカインに攻撃を与えることになった、というところだ。

「ちぃっ、うまい事いくと思ったんだけどなぁ。」

 指狩りがボヤく。

「お〜っと、こっちを忘れてもらっちゃ困るぜ?」

 直後にブォンッと空を切る音が耳元で聞こえた。

 動くまもなく右腹に衝撃と痛みが走り、吹っ飛ばされた。

「ごふぁっ…!?」

 はやいっ!!

 何とか空中で体制を立て直し、着地する。

 前を見ると、何かが飛ばされてきた。

 見ると、カインだった。

「るし…カフッ…ごめん、こいつら強いな…。」

「だね。」


『おーっと!!風の鎧と圧殺君ペアが早くもピンチだぁ!』


『ケモ耳マッチョと指狩りペアは昨日もこの手を使っていましたね。風の鎧と圧殺君ペアは、何とか突破口を見つけなければ、危ういですね。』


 この大会で戦ってきた中で、1番強いとも言える人達だ。

 ヴィネに余所見はダメだ、視野を広く持てという言葉をもう破ってしまった。

 この2人に勝つためには1人ずつ潰していく方法しかない。

「カイン、あのちっこいのをすこし足止めしといてもらえないかな。」

「…?少しの間だな?任せとけ。」


 私はケモ耳マッチョに向かって走り出す。

 指狩りが横から襲ってくる。


 ガギィッ

「残念。お前の相手はこの俺だぁ!!」

「邪魔。」


 カインが足止めをしてくれている間に、そのままケモ耳マッチョに向かって突き進む。

「来いよっ風の鎧!」

「ケモ耳マッチョォォォォ!!!」


 ガギィィィンッ


 大剣と双剣がぶつかり合う。

 ギリギリと刃を合わせ合うが、私はこのままだと力負けしてしまうのが目に見えている。

 だから、双剣を1度手放す。

 反発する力が無くなった為、体制を崩すケモ耳マッチョ。

「おまっ…何をっ!?」

 右手をチョキの形にして、

「ほいっ!」


 プチュッ

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

 目潰し攻撃を行った。

 痛いよね。分かる、分かるよその気持ちっ!!





 〜カインside〜


「お前、うざいよ。」

 どうにかしてケモ耳マッチョの元に行こうとする指狩り。

 だが、俺がいる限り、ここは通す訳にはいかない。

「俺を殺してから行ったほうがいいんじゃねぇか?」

「はっ。何でそんなメンドクサイ事やんなきゃいけないわけ?」

 ここは挑発をかけてみるか。

「あ、わかった。逃げるんだな?自分が弱いから俺に負けるのが怖いんだな?そうだよな?そうなんだな?指狩りさんよぉ。」

 指狩りの顔が熟れたトマトのようになる。

 こりゃ、切れたな。

 瞬きをした瞬間、奴が視界から消えた。

「んなっ!馬鹿なっ!!」

「こっちだよ。ノロマ。」

 指に凄まじい痛みが走る。

 数本の指が地面に落ちているのが見えた。

「ぐっ…ぁぁぁぁぁ!!」

 コイツっどうやって指を切ったんだ?

 いや、鎧の隙間をなぞって切れば出来るか。

 それでも、何故こんなに移動速度が早いんだ?

 まさか、SPDに極振りしているのか?

 だが、それで俺に攻撃が入るハズがない。

 何か種がある筈だ。



「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」


 るしの方からケモ耳マッチョの叫び声が聞こえた。

「…っごろうっ!!」

 指狩りは沈んだ。

 正確に言えば、影に潜った。

 俺は瞬間的にコイツがどこに行こうとしているのか気付いた。

「るしっ!危ねぇっ!!」

 異常な移動速度の仕組みはわかった。

【影移動】のようなスキルを持っているのだろう。

 影と影の間を移動するなら、影が消えれば移動を阻止できるのではないだろうか。

「【光魔法】を使えっ!!!」

 間に合ってくれ。

 そう願った。




 〜主人公side〜


「るしっ!危ねぇっ!!」

 カインの叫ぶ声が聞こえた。

「【光魔法】を使えっ!!!」

 何故、と考えるまでもなく【光魔法】を行使する。

「くっ…。」

 背後から声が上がった。

 振り向くと指狩りの上半身のみが石畳の上にあった。

「るしっ!!止めだッ!」

 わかっている。

 迷わず双剣で首を撥ねた。

 HPが0になったのを確認し、カインの元に行く。

「アイツは影を移動するスキルを持ってたんだ。ナイス、るし。」

「カインのお陰だよ。ありがと。」

「残るはケモ耳マッチョだな。」

「そう「おいおぉい。イチャイチャにオジサンも混ぜてくんねーかなッ!!」


 ドガァァン!

 2人に向かって大剣が振り下ろされた。

 私は無傷。

 カインが守ってくれたから。

「ったくよぉ。…あとは頼んだぜ。」

 HPが0になり、ゆっくりと金色の光に変わっていった。


『おおっ!!1 VS 1のタイマン勝負だ!盛りあがってきましたねぇ!!』


『ですねぇ。あ、指狩り選手に集中していた人の為に解説いたしますと、ケモ耳マッチョ選手は指狩り選手に攻撃が集中している隙にポーションを自分の目にかけて治していました。あの目玉の再生する場面(シーン)は、グロかったですっ!!見る限りでは、このままいくと風の鎧選手が不利に見えますね。』


 確かに不利だ。

 でも、私にはまだ武器がある。

 双剣をアイテムボックスにしまう。

「戦意喪失かぁ?メンタル弱すぎるぞぉっ風の鎧さんよぉ!!」

 勝者の笑みを浮かべてケモ耳マッチョが突進してくる。

「戦意喪失?巫山戯んな。」

 私はウォッカの力を借りるとした。

 ブラッディ・ローズを取り出す。

 嫌な予感を感じたのか、急ブレーキをかけるケモ耳マッチョ。

「本番はここからなんだよ。ケモ耳マッチョ。」

 おもむろに指を切り、ブラッディ・ローズに血を吸わせた。


 すると、ブラッディ・ローズの形状に変化が生じた。

 刃は二枚刃になり、黒い刀身は、艶を浴びたように光り、花びらの模様からは赤黒いオーラが発生し、刃と柄の付け根からギョロりと大きな目が現れた。


 キャハハハハッ

 二枚刃を震わせて、大鎌から高い笑い声が発せられた。

 柄はまるで生きているかのように脈を打っていた。



「マジかよ。」

 ケモ耳マッチョが後ずさったのは仕方のないことだ。

 大鎌の変化もそうなのだが、何よりも、白と緑を基調とした風の鎧が、今や、黒と赤の鎧に変わっていたからだ。



 高揚感が半端ない。

 ある種の開放感が身体を占めている。

 心地いい。

 快感に意識が埋もれてしまいそうだ。

「さぁてぇ、ケモ耳マッチョ。断罪の時間だ。」

 大鎌をクルクルと回す。


 花びらが舞う。


 舞う。


 舞う。


 舞う。


 ケモ耳マッチョは動こうとするが、動けない。


 やってくる死に目を逸らすことが出来ない。




 ケモ耳の首が飛んだ。



 嗚呼、いい!


 いい!


 いい、いい、いい、いい!!


「〜っ!」


 このまま浸っていたい。


「る〜っ!」


 血で染まっていたい。


「るしっ!!」


 声が聞こえた瞬間ボンヤリとしていた頭に光が差したような感じがした。


 現実が見えてくる。

「カイン?」

 場外にいるカインを見る。

「勝ったぞっ!」

「勝った?」

「そうだ!!勝ったんだっ!!」

 周りを見ると、立っているのは私だけ。

 あれ?ケモ耳マッチョは?

「俺達は勝ったんだっ!凄かったぞ!るしっ!」

 …。

 何があったか思い出せない。

 いつの間にか鎧も真っ黒になってるし。


『し…試合しゅーりょぉぉー!!勝者、風の鎧&圧殺君ペア!いやぁ、何というか、ドンマイ、ケモ耳マッチョ&指狩りペア!』


『身も凍るような武器でしたね。アレを出されたらひとたまりもありませんね!さて、次の試合は午後5時からです!それでは皆様、まだまだ盛り上がっていきましょう!!』


「「「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」」」






「カイン、私、実は最後ら辺の記憶があやふやなんだ。」

「まじか。多分あの大鎌のせいだと思うぞ。キャハハとか言ってたし。」

 そうだったのか…。

 大鎌恐ろしや。

「そういや、明日勝てば準決勝だな。」

 そう。

 準決勝だ。

 今日の戦いで軍服を使う覚悟が決まった。

 カインの想いも受け取った。

 だから、出し惜しみはもう無しだ。

 ここは確実に勝ちに行く。

 2人のために。

「私、明日は隠してた装備全部出す。」

「…そうか。やっとか。明日、勝ちに行こうな。」

「うん。」

 勝つよ。

 勝ってみせる。

 例え、どんな敵が来ようとも。



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