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運極さんが通る  作者: スウ
世界ランキング闘技大会編
31/127

神=運営に祈ろう。

 


 大会一日前にも関わらず、私達は今、教会にて神に祈りを捧げている。

 時は3時間前に遡る。




 ギルドクエストの掲示板にはいつも通り人が溢れかえっている。

 いや、いつも以上に、だろう。

 さすが大会一日前だけあって、プレイヤーの数が多いのなんの。

 私も討伐系のクエストいっぱい受けて、明日に備えようかな。

 そんな中、新しいクエストが貼られた。

 私はそのクエストを見た瞬間、光の速さで紙を奪い、受付に持っていった。


 クエストの内容はこうだ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


  熱心な信徒を募集しています。教会内の掃除、神への祈りを共に捧げましょう。


 報酬…【生活魔法(クリーン)】の書。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 報酬が美味い。

 美味過ぎる。

 以前アリシアさんが言ってた、クエストで貰える魔法だろう。

 受注を済ませてさっさと行こうではないかっ。

 雑務クエストだし、早く終わるだろ。

 んで、残りの時間はLv上げに専念すればいい。




「るしー。鎧のままでいいのー?」

「あ、そだね。2人のもアイテムボックスにしまうからちょうだい!」

「おう。ほらよ。」

 2人の装備と私の防具をアイテムボックスにしまい、教会へ行く。

 場所はだいたい分かる。

 ダンテスさんのお店の近くで見たような気がするからだ。



 コンコン

 教会の扉をノックすると、

「はーい。」

 修道服を来た女の人が出て来た。

「あの、クエストを受けてきたのですが。」

「あら!かっこいいお兄さんと可愛い2人の子供さん?ですね。今回はクエストを受けていただき誠にありがとうございます。早速ご案内いたしますので、私についてきて下さい。」

「分かりました。」



 教会内は想像と全然違っていた。

 あの神聖な気配を感じるような空間ではなく、蜘蛛の巣や、埃に塗れた場所だった。

 壁にムカデが這っているのを見て、帰りたいという気待ちが芽吹いてくるが、それをグッと押し込む。

 あのムカデの足…ヤバイよね。

 うん、ヤバいって。

「あの、なんでこんなにも汚れてしまっているんですか?」

 修道女さんは足を止めて、

「それはですね、ここで働いているのはもう私しかおらず、そんな私はお掃除が苦手中の苦手なんです。ふふ。」

「…そうなんですか。」

 いや、ふふ、じゃないでしょっ。

 ここまでした犯人は貴方でしたかっ!



 ちょうど十字架の真下まで来たところで、

「ここで少しお待ちください。地下から掃除道具を持ってまいりますね。」

 と言って、奥の方に歩いていった。

 天井を見上げると、小さな黒い物体が電気に纏わり付くように、うにょうにょ動いているのが見える。

「うぅ…。」

「るしー。元気だして?僕が炎であの虫焼く?」

「いや、それだと跡が残るだろ。ここは俺の出番だな。」

 ウォッカは覚えたての魔法を発動させる…のだが、手のひらに現れただけですぐに散開してしまう。

「あれ?おかしいな。」

「お待たせしました。皆様、不思議な顔をしてどうされたのですか?」

 私達は今起こった出来事を修道女さんに伝えた。

「あぁ、なるほど。教会内では、地下に設置してあるサークルのお陰で、魔法が使えないようになっているんですよ。確か理由は、神聖な場所を魔法で崩されないように、だったと思います。」

 崩されないように…ってことは、崩そうとする輩がいるってことなのかな?

「では皆様、お掃除お願いします。私は外であそ…お買い物をしてきますので。」

 そう言って修道女さんはそさくさと外にお出かけに行った。

 今絶対遊びに行くって言おうとしたよねっ!?

 まぁ、依頼を受けたのは私達だし、ちゃちゃっとやりますか。

 掃除道具を握る。

 学校にあるような普通のTの字箒だ。

 これでどうやって天井を掃除しろと?

 最初にすべきは天井のゴミを床に落とすことなんだけど。

 教会だから、天井が高く、三角型のようになっている。

 あんなに高いとこに手が届くはずがない。

 ということで、地下に行って、サークルを消しに行こうと思う。

「2人とも、地下に行ってサークル消したら魔法使って綺麗にできるよ!」

「おー。簡単だねー。」

「消したらまた書き直せばいいだけだもんな。るしは頭がいいなっ。」

 2人の許可もとったことだし、早速地下に下りよう。

 修道女さんは地下から持ってくると言って、奥の方から掃除道具を持ってきた。

 ということは、地下は奥の方から行けるということだ。




 奥の方に進むと扉があり、それを開くと、地下に向けての階段があった。

 壁沿いには松明がかかっており、パチパチッと音をたてている。

「怖っ。2人とも、先行かない?」

「「無理。」」

「ですよねー。」

 こうして、私が先頭に立ち、恐る恐る階段を下りて行った。

 松明は、隙間風に煽られて、不気味に揺れている。

 しばらくすると、大きな鉄で出来た扉が見えてきた。

 その扉にはライオンの顔の様な3Dの大きい装飾がついており、それが妙に威圧感を放っていた。

「(ゴクリ)ねぇ、これも私が開けないとダメなやつ?」

「「うん。」」

「…り、了解です。」

 その扉には鍵穴がなく、ちょっと力を込めて押すと自然と開いた。

 暗い部屋に足を踏み入れた瞬間、

 ボッ

 ボッ

 ボッ

 と部屋中の松明が自動的についていった。

 徐々に明るくなるにつれて、部屋中央にいる何かに気づく。

 何かは松明がついていくのを確認した後、ゆっくりと私たちがいる方に頭をもたげた。

 全ての松明がついた。

 中央にいるのは縛られた黒く美しいライオンだった。

 だが、その目は冷たく、今にも私達を射殺さんとする目だった。

 身が竦んでしまう。

 何故、このライオンの様なものが教会の地下に縛られているのか。

 わからない。

 わからないから聞きたくなってしまう。

 好奇心は抑えられず、思わず口から漏れてしまった。

「あ…貴方は誰ですか?」

 言葉が通じるかはわからない。

 反応が返ってこない。

 声をかけたことが間違いだったのかもしれない。

 竦んだ脚を動かして、帰ろう。

 そう思った時。


(おまえ)は、我が恐くないのか?」


 深い声が聞こえた。

 直後に息が詰まりそうなほどの重圧がかかる。

 これは殺意。

 首の後ろがピリピリする。

 このまま黙っていると、殺されるかもしれない。


「恐いです。正直言って、私は貴方のことがわからなくて恐いです。その…貴方は何者なのですか?」


 殺意が萎んだ気がした。

 そのライオンはこちらをジッと見つめる。

 永遠とも感じられる静寂が降ってくる。

 ジンとウォッカは直立不動でフリーズしている。

「ジン!?ウォッカ!?ど…どうしたの?」

 2人から返事は返ってこない。

 代わりに、ライオンから返ってきた。


「そこの2人の鬼は元はゴブリンだろう?…ゴブリンは醜くても妖精。この部屋は妖精と悪魔、天使を封じる場所だ。力の弱い者はこの部屋に入ると動けなくなってしまうのだ。だが、この部屋を出ればまた動けるようになる。」


 なるほど。

 部屋を出ればって…2人が石のようにピクリとも動かない。

 まるで足にボンドを塗ってあるようだ。

「あの…動かないんですけど…。」

 返事は返ってこない。

 本当にこれはクエストの1部なのだろうか。


「そこの(おまえ)。お前の名は何だ?まず、人の名を聞く前に自分の名を名乗ったらどうだ。」


 貴方は人じゃないじゃんっ、て言いそうになるのをグッと堪える。

「私の名はるしです。」

 ライオンは再びジッとこちらを見てくる。


「我が名は『ヴィネ』。ソロモン72柱の1柱。序列第45位で王の役職を賜っている。故あってここに閉じ込められているわけなのだが、我を救けてはくれないだろうか?」


 心臓が早鐘を打つ。

 目の前にいるのは、大悪魔だ。

 救けてくれと言われても、簡単に救けることは出来ない。

 ソロモン72柱と言えば、『レメゲトン』などが有名である。

 確か、ソロモン王は神や天使の名を使って重要な地位にあった72体の悪魔を自由に使役し、最終的にはそれらを真鍮容器に封印した。

 悪魔たちを封印した容器はバビロニアのある湖に沈められたが、のちに何も知らない者が引き上げて蓋を開けてしまい、悪魔たちは世界中に散ったと言われていたはずだ。

 彼らは「ソロモン王の72悪魔」「ソロモンの72柱」と呼称されていた。

 ちなみに72という数字は占星術における全ての領域である12宮を更に六分割した合計数でもあった…という感じだ。

 72柱の悪魔と言っても、全ての悪魔が凶暴だという訳では無い。

 寧ろ、凶暴な悪魔の方が少ないとも言える。

 私が知っている知識はここら辺までだ。

 だからこの目の前にいる悪魔が凶暴かどうか知る由もない。

 だから、ここは条件を出す。

「ヴィネ…を救けるのに、交換条件があるけど、いいですか?」


「ふむ。呼び捨てとはな、面白いやつよ。で、条件というのは?」


 ヴィネの目が私を射る。

 心臓がバクバクする。

 ここは、言うしかない。

 もし、ここをうまく切り抜けられても、上は地獄だ。

 腹を括るんだ!私!

「上の教会の汚れを全て取り払ってほしいのです。なにぶん、天井に手が届かないもので。」


 ヴィネは下を向いて肩を震わせる。

 何かまずいことでも言っちゃったかな…。

 謝らな…


「クハハハハッ。(おまえ)、本当に面白いやつよ。我を救けるのと引き換えに教会の汚れを落とせ、それだけだと?クククッ。」


 怒ってないようでした。

 爆笑してます。

 まぁ、これはこれでいいかな。

「あの、どうやって助ければ良いのでしょうか?」

 ここからが本題だ。


「うむ。本来は、ここを守る守護者を倒し、我に外から触れるということなのだが、今はその守護者は何処かに行ってしまってるようで、気配を感じぬ。(おまえ)は運がいい。アレは相当強くてな…。我でも骨が折れる。アレがいないのは好機だ。我を救けようと我に触れようとするだけでアレは(おまえ)に襲いかかってくるようなやつだからな。今までに何人もの人間(ヒューマン)が殺されていったよ…。(おまえ)は我に触れるだけで、我は解放される。」


 おぉう…。

 修道女さん、恐ろしや。

 帰ってくる前にパパパッとやっちゃいましょう。

「じゃあ、触れますよ?」


「頼む。」


 恐る恐るヴィネを縛っている赤い鎖を避けながら、その身体に触る。


 パンッ

 鎖が千切れ、金色の粉に変わりゆく。

 1部、消えない鎖があったので、アイテムボックスに、仕舞っておく。

 ヴィネは縛られていたため、身体を地面に縫い付けられていたが、今は4本の足で立っている。

 大きい。

 3、4mはあるのではないのだろうか。


「よくやってくれた。堕天使よ。我は(おまえ)との契約を守り、今、教会を神聖な場所に戻してやろう。」


 ヴィネは前足でトン、と地面を押す。

 すると、光が地面から溢れ、その光は階段をかけ登って言った。


(おまえ)が上に戻った時には、掃除が終わっているだろう。埃残さず…な?」


「ありがとうございます!!」

 感謝だっ!

 あの汚い場所を掃除してくれるなんて。

 ありがたや。


「我は(おまえ)を気に入った。(おまえ)のような奴ならば、我が同胞も救けられるのかもしれぬな。」


 ヴィネはそう言って、何も無いところから一冊の本を取り出した。


「これは◈ソロモン王の鍵。別名、ソロモン王の大きな鍵とも言われる魔術書(グリモワール)だ。これを(おまえ)に与える。この本は、解放した悪魔を召喚出来るものだ。言っただろ?我は(おまえ)を気に入ったと。この本があれば、我は何時でも(おまえ)が呼べば駆けつけることが出来る。だが、使い方を間違えるな?これがあれば、世界をも混沌に落とすことが出来る。この意味は分かるな?」


 何それ、危なっ。

 ヴィネが本気の顔をしてるから頷いておく。


「うむ。分かってくれたなら、いい。ではそろそろ我は征く。(おまえ)も教会には気をつけろよ?」


「はい。」

 教会…危ないところなのかな。

 今度、ググって見る必要があるようだ。


「ではな、『るし』。また会えることを祈ろう。」


 そう言ってヴィネは幻だったかのように静かに消えていった。

 これは夢ではない。

 そう、私の腕の中にある魔術書(グリモワール)が語っていた。






「あら、随分と教会が綺麗になりましたね。ありがとうございます。」

 修道女さんが買い物から帰ってきたようだ。

「いえいえ、これが私達の仕事なので。」

「ふふふ。では最後に神へのお祈りを捧げましょう。」

「はい。」

 私達は、ステンドグラスから差し込む光を浴びながら、神への祈りを捧げた。


 どうして、私が魔術書(グリモワール)なんていう危ないものを貰ってしまったのですかっ!!

 まだ、序盤ですよっ!?

 運営っ。

 神よっ!

 どうしてこんなことに。


 と、神(運営)に問うたりした。






私が帰って、数時間後、教会から女のまるで獣のような荒れ狂う咆哮が聞こえたという。



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