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運極さんが通る  作者: スウ
序章
18/127

ジンの想い

  〜とあるゴブリンside〜


  るしは夜になると、爆睡して、何をしても起きない。

  叩いても、コチョコチョしても、耳元で大きく叫んでも起きない。

  一体どうなっているのだろうか?

  いや、これが普通なのだう。

  あ、るしが起きた。

  眠そうに瞼を擦ってる。

  「おはよう、ジン。」

  「Gehi。」

  僕もおはよう、と答える。

  それにしても、ベッドというものが気持ちいい。

  ずっとコロコロしてられる。

 

  今日は、朝から武器を買いに行くようだ。

  なんでも、るしは自分の武器がボロボロになってしまったし、僕は武器を持っていないから、買いに行くらしい。

  るしの隣を歩いていると、いろんなヒューマンからの視線やヒソヒソ声が向けられる。

  僕は気にしてはいないけど、るしはどうなんだろう。

  昨日なんて、僕のせいでるしが嫌がらせにあった。

  僕の為に、また争ってくれた。

  僕のせいであんなことになってしまったのだ。

  せめて、戦闘の時ぐらいは役に立ちたい。

  いや、立たなくちゃいけないんだ。

  僕は、るしには返しきれない恩があるんだから。

 

  僕が考え込んでいると、

  「ジン、着いたよ。」

  るしの綺麗な声が聞こえた。

  どうやら目的の場所に着いたらしい。

  扉を開けると真っ先に熱風が襲ってきた。

  目がしぼしぼする。

  家の中が熱い。

  たくさんの人が何かに集中してコンコンカンカンしている。

  るしはキョロキョロして、誰かを探してるみたい。

  手伝いたいけど、僕には探し人が誰だか分からない。

  「おーい!!るーしーさぁーん!!」

  今の声の主が きっと、るしの探し人なんだろう。

  チラリとるしを見ると凄く嫌そうな顔をしてた。

  あの人じゃないの?

  るしにこんな顔させるなんて、アイツ…許せない。

  顔は覚えたからな。

 


  アイツの名前はアルザスって言うらしい。

  今日は、コイツを頼りに来たみたいなんだけど、どうやら武器を作ってくれないらしい。

  何故かシュンとしているアルザスをるしが励ましている。

  そんな奴はほっといて、違う所に行こうよ。

  るしが楽しそうにアルザスに話しかける姿を見て、僕の胸がモヤモヤした。

  僕は頭を振る。

  胸のモヤモヤは取れない。

  頭のモヤモヤは取れたのに。

  これは、一体何なのだろうか。

  わからない…。

 

 

  何故かムカつくアルザスと別れて、るしと僕は小さい紙とにらめっこしながら細い道に入っていった。

  ミミズみたいな線が書いてある。

  これ、何かな?

  るしは読めるみたい。

  凄い!こんなものを解読出来るなんてるしはすごい人だ!


  ここは日の光が入りにくくて、暗くて、どこか故郷に似ている。

  もう、あそこには戻らない。

  だって、僕はるしの為に生きるんだから。

 

  さっきから何回も同じ場所をグルグル回っている気がする。

  気のせいなのだろうか。

  いや、違う。

  同じ場所だ。

  さっき僕が壁に傷をつけた場所に戻ってきてる。

  思わずため息が漏れる。

  「gehii…。」

  るしがビクッと体を震わせワナワナとこっちを見てくる。

  ん?どうかしたの?

 

  るしにバレないよう少しずつ道をかえる。

  だって、ずっと同じ道をグルグル回ってても目的の場所につかないと思ったんだ。

  少し先に1件のお店が見えた。

  多分アレがるしの探している場所だろう。

  「Gehi!」

  るしに場所を知らせてあげる。

  間違ってたら、ごめんね。

 

  るしは僕を振り返って、良くやった、とニコリと微笑んでくれた。

  胸がふわふわした。

  モヤモヤが一気になくなる。

  あのモヤモヤは何だったんだろう。


  るしがドアを開ける。

  暗いなぁ…と思った瞬間、パッパッパッと光がついた。

  中は見た目から想像出来ないほど広くて、壁にキラキラした武器がたくさん飾ってあった。

  るしは、奥から出てきた人と何やら話している。

  僕は暇だし、壁にかかっている武器を眺めていた。

  その中で一際興味を引かれたのが、2振りの剣だ。

  かっこいい。

  使ってみたい。

  「ジン、何か使いたい武器ある?」

  僕はるしの問に迷わず答えるため、トコトコとその剣がかかっている壁の下まできて、それを指し示した。

  これが使ってみたい!

  るしは少し驚いた顔をして、怖い顔のオジサン、ダンデスに何か言った。

  ダンデスは僕の方を見て目を光らせ奥の方に行った。

  …。

  危ない人なのかな?

 

  いそいそと武器を抱えて奥からダンデスが帰ってきた。

  4本の剣と…3組の双剣だ!

  るしは大きな武器を選んでた。

  僕はどれにしようか。

  双剣か、

  曲双剣か、

  扇剣か。

  るしの話によると扇剣が1番かっこよく見えた。

  「Ga。」

  るし、僕はこの扇剣がいい!

  と伝えると、るしはバッとダンデスの方を向き、

 シュバっという音がしそうな早さで地面にひれ伏した。

  え…?るし、何してるの?

  僕も真似した方がいいのかな。

 



 

  いろいろあって、僕達は武器をゲットした。

  分かったことは、ダンデスはアルザスよりいい奴だったってことだ。


  ギルドってところでクエストっていうものを受ける。

  そのクエストを達成するとお金が貰えるらしい。

 

  るしは僕の手を引いて、いい匂いのするお店に行った。

  ぐーぎゅるぎゅる

  「Gehi!!」

  お腹空いたー。

  るしはクスクスと笑う。

  その店でタコヤキというものを2つ買って僕にそのうちの1つをくれた。

  そのタコヤキというものがものすごーーく美味しくて、ついついるしの分に手を伸ばして食べてしまった。

  るしは自分の手元を見て不思議そうに首を傾げ、時折僕を見てくる。

  どうしたのかな?

 

  そのあと、るしは、タコヤキを3つほど買って、アイテムボックスというものに仕舞ってた。

  あと、僕を助けた時に使ったぽーしょんていうのも買った。

  怪我をしてもすぐに治せるようにねって言ってた。

  るしはいい人だ。

 




  街の外に出て、グリーンワームっていうブヨブヨの虫の群れを倒した時にLvが上がって、スキルも習得した。

  これで、るしをもっと上手く守れる。


  ……グリーンワームの血のベトベトが気持ち悪い。

  糸を引いてる…。

  るしも同じ惨状だった。

  お揃いだね。


  るしは僕の顔を見て、心配そうな声で聞いてきた。

  「ジン、今から兄弟を、家族を倒しに行くけど、問題ないの?」

  もちろん問題ない。

  だって、僕はるしの為だったら何だってするし、他のゴブリンと会ったって、あっちは僕を兄弟とは思っていないだろうから。

  るしが心配することないよ。

  るしは優しすぎる。




  ガサガサッ

  僕は、僕の兄弟と遭遇した。

  躊躇いはしない。

  躊躇ったら、こっちが殺られるから。

  相手のゴブリンの棍棒は腐ってたみたいで、剣を合わせた瞬間にはもう、決着がついていた。

  元兄弟が金色の粉に変わる。

  さて、先に進もう?るし。

  「良くやったね。偉い偉い。」

  頭を撫でられた。

  嬉しい…。

  ……手を離された後に糸が引いていたのは見なかったことにしよう。




  深い草原を抜けると、目の前に見たことがある森が展開していた。

  ……僕の故郷だ。

  この暗くて、ジメジメしている感じは間違いない。

  るしは土地勘がないだろうから、僕が案内しよう。

  確か湖があったはずだし、そこでべとべとが落とせたはずだ。

  「Gehi。」

  僕はグイグイとるしの手を引っ張る。

  るしも僕が案内しようとしているのが分かったのか、素直についてきてくれた。

 


  おかしい…。

  兄弟達…ゴブリン達の気配がまるっきり感じられない。

  首がチリチリする。

  嫌な感じだ。



  湖が見えてきた。

  ここでベトベトを落とすことが出来るなー!

  …。

  やっぱり、何かがおかしい。

  どんよりとした気持ちの悪い空気がつきまとってくる。



  眼前に広がっていたのは、以前僕がるしと会う前に来た綺麗な湖なんかではなかった。

  以前は透明で透き通るような綺麗な湖だったのに、今や見る影もない。

  水面がポコポコいってて、ドロドロの赤紫色に染まっていた。

  思わず首を傾げる。

  何が起こったの…

  湖を見つめていると、ジュッジュッていう音が微かに聞こえてきた。

  目を凝らして水面を観察してると、ほんの一部分の赤紫色のところが元の透明な色に戻り、また赤紫色に染まる、というのが見えた。

  もしかして、るしの不思議な力があれば湖が元に戻るんじゃないだろうか。

  湖を指して、その事を頑張ってるしに伝える。

  ……。

  どうやらるしも気づいてくれたみたい。

  良かった。

  るしは綺麗な翼を広げて湖の中心に行った。


  首の後ろがチリチリする。

  瞬間、背中がゾクッとした。

  バッと振り返ると、30体ほどのゴブリンがこっちに迫ってきていた。

  皆目が虚ろで、口から涎を垂らしている。

  このままアイツらを進ませると、るしに危険が及ぶ。

  今ここで僕がアイツらを倒さないとっ!

 

  るしが叫んでいるのが聞こえる。

  「ジン、やばくなったら、私を置いて逃げてッ!!」

  ダメだ、僕がるしを守る。

  「Gehi?GAAA!Gehi!Gaッ!」

  死んでも守る。

  「ジン!!ジンッ!!……お願い…ジン…死なないで…。」

  僕は腰に下げてある扇剣を抜く。

  そして、駆け出した。


  「Gaaaaaッ!!」


  敵に切りつける。


  攻撃を紙一重で避ける。


  直後に背中に激痛が走る。


  「Guu………GAAAAAAAAAAAa!!!」


  例え激痛が身体を貫こうとも僕は戦う。


  るしの為に。


  「GAAAAAAAAAAAa!!!aaaaauuGooaaa!!」


  ただただそれだけの為に。


  幾度となく襲ってくる激痛。


  血が飛び散る。


  「ジンッ!!逃げて!!生きてよ!ここで死なないでっ!お願いだからぁぁ!!」


  るし、そんな悲しい顔しないでよ。


  笑って。


  いつもみたいに笑ってよ。


  僕はそんな悲しい顔を見るために頑張っているんじゃないよ…。


  扇剣は舞う。


  脚がもつれないように、しっかりと気を保つ。


  ゆっくりと、るしの方を見る。


  「Ga…。」

 

  笑って、と。


  笑顔を向けてくれさえすれば僕はまだ戦える。


  るしを守り続けることが出来る。


  …もう少しで限界が訪れそうだ。


  嫌だ。


  負けたくない。


  るし……。

 

  気が遠くなる。


  その時、

  「ジン……ありがとう…頑張れ……。」


  涙を貯めた目で彼女は笑顔を向けてくれた。


  ありがとう。


  僕はまだ、戦える。


  腕の感覚がもう無いけど、もう少し…もう少しだけなら、武器を振り回すことが出来るだろう。










  どれだけの時間、扇剣を振り続けたのだろうか。


  扇剣はヒビが入ってもうボロボロだ。


  僕の身体もボロボロだ。

 

  自分の血と相手の血で染まりきっている。


  ボロボロだけど、心だけは燃えている。


  まだ行けるだろ?


  まだ戦えるだろ?


  るしを守るんだろ?


  負けられないんだろ?


  と。


  相手はまだ10体も残っている。


  でも、でもでもでもッ!!身体が言うことを聞いてくれないッ。


  全てが限界値を振り切っていた。


  身体はとうに断末魔を上げていたのだ。


  パキッ


  扇剣に大きな亀裂が入った。


  パキンッ

  カランカラン


  遂に限界を超えた扇剣が悲鳴を上げて倒れた。


  僕の身体も、すべての機能がそれと同時に動かなくなった。

 

  ごめんね。


  るし。


  ……。


  ゴブリンが隙ありとばかりに襲いかかってこようとする。


  ……。


  怖いなぁ〜。


  ……るし。


  ありがと。


  僕は自分の死を見届けるために大きく目を開く。


  これが最後に見える光景。


  僕の弱さが招いた死。


  ちょっとだけの、るしとの旅は楽しかったなぁ!


  いやぁ…たのしかった。



  「スティール・ラック」

 


  るしの声が響いた。

  僕を殺そうと近寄ってきたゴブリン達を綺麗な黒い翼で殴り吹き飛ばしてた。

  るしと目が合う。

  「お待たせ。」

  ……ッ!

  「Ga…。」

  るし…ごめん…僕…

  「ありがとう。休んでて?ここからは、私のターンだから。」

  …。

  るし、任せたよ。

  「G…a。」

  何だか僕、眠いや。

 

  僕の意識はそこで途切れた。







 

 




  体に血が戻ってきて、身体中がポカポカする感じがした。

  意識が覚醒する。

  「G…?」

  るしが泣きながら抱きついてきた。

  「ジン!よっがっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!うわぁぁぁぁん!」

  「Gehi!?Gu………。」

  嬉しいけど…く…苦しい…

  苦しいいい…

  るしが力を入れすぎていたことにやっと気づいたようだ。

  「ごめんね…。」

  目が合う。

  「ありがと。」

  ドキッ………

  「Ga」

  べ…別に…。

  当たり前のことだし。

  るしを守るのが僕の役目だからね。

  でも、良かった。

  るしが笑顔でいるいてくれるだけで僕は元気いっぱいだ。



  いつの間にかベトベトが、なくなってた。

 

 

 


 

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