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運極さんが通る  作者: スウ
序章
12/127

ゴブリンの想い

次々と視点が入れ替わりますが、次からは主人公視点です。

 


  〜とあるゴブリンside①〜

  僕はゴブリンの集落で生まれた。

  そこは暗くてジメジメしていて、どんよりしていた。

  生まれた時から頭にモヤモヤがかかっているような、そんな漠然とした違和感がずっと、まとわりついてきた。

  いくら難しいことを考えようとしても、頭にもやがかかって思考を制限される。

  だから、簡単な行動しかとれない。

  僕の兄弟達は、僕よりも頭にモヤモヤがいっぱいあるみたいで、意思疎通が叶わず、僕のことを兄弟だとすら思っていないようだった。

  そんな兄弟達は大きくなると、集落からでていって、帰ってこなかった。

  きっと皆、外の世界にいる人間という種族に殺されたのだろう。

  僕達ゴブリンは弱い。

  この世界では最弱の生き物、未来のない生き物だと言われている。

  最弱であるけど、毎日を生き残るために必死であるため、繁殖力が強い。

  もし仮に、まだ外に出ていってない兄弟達が外に出て行って死んでしまっても、次の日には新しい兄弟が出来ている、というわけだ。

  たまに、僕のようにモヤが少なくて、Lvの高い兄弟が、他の兄弟達をまとめている。

  いつか僕もまとめられる存在になるのかと思うと、今すぐそんな場所を飛び出して、外の世界を見たいという衝動に駆られるようになった。

  僕は生まれてから1度も集落を出たことがない。

  いったい外にはどんな世界が広がっているのか。

  そう思うと、兄弟達が集落を出ていった理由も分かった。

  そんなことを思い立った途端、僕は気づけば集落を抜け出していた。

  なんで抜け出してしまったのだろうか。

  …分からない。

  頭にモヤがかかってうまく思い出せない。

  モヤモヤが増えたきがする。


  デモ、そんなことはどうでもイイ。


  早ク、早ク、早ク、外の世界ヲ見たイ。


  走っテ走っテ走っテ、とうとう僕ハ外の世界に出タ。


  キレイな世界ダった。


  自分より背の高いサラサラと揺れる草や新鮮な空気、青い天井、その天井に浮いている2つの光るものを見た時、モヤを少し晴らしてくれた。

  僕は外の世界がすぐに、好きになった。

  鼻歌を歌いながら探索を始める。




  兄弟達を殺したであろう人間達の存在を忘れて。


 


  ガサッガサガサッ

  「〜〜〜。〜〜〜っ。」

  何だろう。

  誰かがこっちに向かってくるみたい。

  「〜〜だ!」

  声が近づいてくる。

  「ゴブリンだ!殺っちまおうぜ!」

  声の主が姿を表した。

  僕よりも背の高い3人組で多分人間という種族のやつだ。

  そいつらが僕に向けて剣を向けている。

  戦慄した。

  背中に冷水を投げかけられたような衝撃が僕を襲った。

  本能が叫ぶ。

  ニゲロッニゲロッ!!コイツらには勝てないッ!殺される!!と。

  本能に従い、すぐに逃げようとするが、その前に剣が振るわれる。

  足に激痛、直後に体が吹っ飛ばされた。

  痛みに視界が霞む。


  死にたくなイ。


  何としてでも逃げなけれバ。


  必死にヤツらから逃げようと、痛い足を引きずりながらも動く。

  モヤが増える。


  シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ、シニタクナイ…


  「おい!あっちにゴブリンが3体いるぞ!」


  エッ……。


  「あ? …ゴブリンてのは素早いからなぁ、コイツに止めを刺す前に移動しちまうだろうし…。ちっ。さっきのヤツを諦めてあっちのヤツらのとこに行くぞ。」


  タスカッタ?タスカッタノカ?


  他の兄弟タチガ、ヤツらの…人間タチノ目にトマッタカラ、タスカッタノ?


  ワカラナイ。


  モヤモヤがサラニ増えタ気がスル。


  イタイ、足がイタイヨ。


  ナンデ、こんナことするノ?


  次、アッタラ、シヌ。


  シヌ、シヌ、シヌ、シヌ、シヌ…


  コワイ、コワイ、コワイ、コワイ、イタイ、イタイ、イタイ、イタイ…


  ハ…早ク、安全ナ場所ニイカナクチャ。



  ガサガサッ

  「〜〜〜〜♪」

  ………。


  アァ、オワッタ。


  セメテ、死ヌナラかっこよく死ニタイ。


  デモ、ヤッパリ怖い。


  ヤダ…シニタクナイ……シニタクナイヨ。


  足を庇いながら声のする方を睨みつける。

  出ててきたのはさっきより小さい人間?だった。

  ソイツは大きな黒い翼を持っていて、不覚にもキレイだと思ってしまった。

  その人間の姿を見た時、頭の中のモヤが全てなくなった。

  とても、不思議な感じがした。

  頭が冴える。

  だからこそ分かってしまう、今僕が立たされている状況を。

  警戒を強めて睨む。

  ソイツは僕が睨んでいるのに、そんなこと関係なしにジッとこっちを観察してくる。

  時折心配そうな、そんな顔をするソイツに何故か無性に腹が立った。

  「Gaaaaaッ!」

  人間のクセに…。

  ソイツは僕には何もせずにヒラヒラと手を振って元きた道と違う道を進んでいった。

  変な人間だった…。

  …本当に人間だったのだろうか?…。

  どちらにせよ、次は見逃してもらえないかもしれないだろうから。

  早めに場所を移動しよう。

  アイツは何で僕を殺さなかったのだろう。

  きっと僕の兄弟達を手にかけているだろうに。

  ……。

  ダメだ。

  僕には分からない。

  分からないということは恐ろしい。

  難しく考えられなくて、痛い目に遭わされるから。

 


  少し移動したけど、足が痛すぎてもう動けない。

  ここで休憩しよう。

  チラリと右足を見ると、赤紫色に腫れ上がっていて、変な方向を向いている。

  涙が出てきた。

  まだ死にたくないなぁ。

  集落から出なければ……良かったなんてことは思わない。

  出たからこそ、キレイな世界を見れた。

  僕は死ぬかもしれないけど、でも、あの暗くてジメジメした場所で死ぬよりかはいくらかましだ。


 

  ガサガサッガサガサ


  「ラッキ〜。こんなとこに手負いのゴブリンだ!サクッと倒しちまおうぜ!」

  「油断するな。さっきまで奇襲され続けていただろう?…だが、その鬱憤も溜まっているからな。手早く経験値に変えるとしよう。」

  ………人間だ。

  しかも2人。

  僕を殺す気なのだろう。

  ………………………。

  僕は…僕はまだ、死にたくないっ!

  イヤだッ嫌だ嫌だ!

  「Gaaッ!!」

  モヤモヤのせいでうまく考えがまとまらない。

  だけど、逃げなくちゃいけないという事だけは分かる。

  緑色の髪の人間が剣を構えて切りかかってくる。

  「はぁっ!」

  それを避けようとするけど、足がうまく動いてくれないッ!

  その隙に剣が僕のお腹を切り裂いた。

  「GAAAAAAAAAAAa!!!」


  イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ


  助けて助ケテ…誰カ、タスケテ!!


  動カナクチャ……早ク……シンジャウ!シンジャウ!!シヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌシヌ!


  動ケ…ウゴイテクレ…オネガイダカラ…


  ……マダ…シニタクナイヨ……。


  「おっしゃぁ!俊、弓で止めだ!」

  「まかしとけっ!」


  ヒュンッ

  鋭く尖った矢がこっちに飛んでくる。


  モウ…オワリだ。

 

  ………。

 

  ……………。

 

  外ノ世界ヲミレテヨカッタ。


  僕は迫り来る死に目を瞑った。


  バキッ


  目を開けると、大きな黒い翼の生えた人間がいた。

  ……モヤが無くなる。

  その人は僕を殺そうとしている人達と何か言い争っているみたいだ。

  何を言っているのか気になるけど、もうすぐ死ぬ僕には関係の無いことだろう。

  血が抜けすぎてもう体の感覚がない。

  眠たい。

  ものすごく眠たい、このまま眠ってしまいたい、

  そう思った時、

  「と…とにかくっ、このまま私の獲物を取ろうとするなら、私が相手になろう。でも、私はそんなことはしたくない………。だから、どうかここで引いてはくれないだろうか?お願いだ。頼むよ…。」

 

  …っ!

  この人は僕を助けるためにあの2人と戦おうとしている。

  何でこんな死にかけの僕を助けようとしてくれるのかは分からないけど、僕はそれを嬉しく思ってしまった。

  頑張っているあの人のために目を瞑ってはいけない。

  この睡魔に打ち勝たなくてはいけない。

  だけど、そんな抵抗も虚しく、段々と視界がボヤけてくる。

  2人との争いが終わったのか、あの人がすぐにこっちに来た。

  僕の口に必死に瓶を当てて何かを流し込もうとする。

  でも、僕はそれを飲むことが出来ないんだ。

  なんたって、もうピクリとも体を動かすことが出来ないから。

  それに、ここは寒い。

  …。

  何で人間であるあなたがそんな悲しそうな顔をするの?

  やめてよ。

  そんな顔しないでよ。

  僕はゴブリンだよ?何処にでもいるただの最弱のゴブリン。

  こんな僕を生かそうとするなんて、あなたは本当に変な人だよ。

  「Guu………。」

  ありがとうって言ってもどうせ分かんないだろうな。

  痛みはもう感じない。

  体がすごく軽い。

  これが死ぬってことなのかな。












  ……あれ?生きてる?

  急いでお腹の傷を確認する。

  あのパックリと切り裂かれていた傷口が最初からなかったかのように無くなっていた。

  そっか。

  この人が助けてくれたんだ。

  人間のクセに…変な人だ。

  その人をジッと見ていると、僕の視線に気づいたのか、

  「これで君はもう大丈夫だよ。痛いところはない?」

  と聞いてきた。

  痛くなんてない、むしろ頗る好調だ。

  その人はニッコリ笑って僕に背を向けると翼を広げた。

  飛び立とうとしていたようだけど、何か難しい顔をして翼を折り畳んだ。

  もしかして、もう帰るの?

  そんなの嫌だ。

  まだ何も返せていないのに。

  クイックイッと翼を引っ張る。

  すごいフワフワだ。

  その人は僕の方を振り返って思案しているような顔をしていた。

  コロコロと表情が替わるから、面白いと人だと思ってしまう。

  一緒にいたら楽しそうだな。

  でも僕はゴブリンだから、それは叶わぬ夢なのだろう。



 

  『プレイヤー名 “るし ”に【テイム】を要求されています。答えますか?』

 



  突如として、それは聞こえた。

  それとは、初めて聞く世界の声だった。

  自然と胸が大きく高鳴る。

  僕は、るしに返しても返しきれないほどの大きな借りがある。

  今度は僕がるしと助けるんだ。

  そして、僕は応えた。

 

  「了承した。僕がるしを死んでも守る。」

 

  と。

 

 

  『スキル【テイム】が成功しました。

 特殊個体“ゴブリン”の意識の最適化を行います。』


  世界の声が、聞こえなくなった。

  その途端、今まで感じていた違和感がごっそり取り除かれた様な、心に穴がぽっかり空いたような、そんな感覚に襲われた。



  …これで、難しく考えれるようになったから、

  るしを守ることが出来る。

 

  . 僕がるしを守る。 .

  . 誰からも守ってみせる。 .

  . だって、るしは僕の… .

 

 

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