偽善行為とテイム
〜とある二人のプレイヤーside①〜
俺達は二人でパーティーを組んでいる。
今日はLvを上げるために、いつもより深い草原を探索していた。
何度も何度もモンスターに奇襲されかけたが、【気配察知】のスキルお陰で未然に防ぐことが出来た。
警戒を強めながら進んでいると、一匹のゴブリンが足を庇いながら座り込んでいた。
俺は思った、今日はついている、と。
隣を歩いている相棒、俊に笑いかける。
「ラッキ〜。こんなとこに、手負いのゴブリンだ!サクッと倒しちまおうぜ!」
俊も少し表情を緩めて、
「油断するな。さっきまで奇襲され続けていただろう?…だが、その鬱憤も溜まっているからな。手早く経験値に変えるとしよう」
俺は俊とリアルの友達だ。
同じ大学に通っている。
『Live Online』の発売日に8時間程一緒に並んだ仲でもある。
俊は無口だけど、いざ口を開くと的をつくようなことを言ってくれて、何度も助けられた。
そんな俊は俺の一番の親友だ。
その俺の親友が油断するな、と言ったのだから、気をつけなくてはいけない。
ゴブリンもこっちに気づいたようで、足を庇いながらもキッとこっちを睨みつけてくる。
弱っているモンスターを倒すことに、何も抵抗を感じない。
だって、この世界はゲームであり、相手はモンスターなのだから。
倒して当然だろう?
「Gaaッ!!」
ゴブリンも攻撃態勢に入る。
いや、アイツはどうやら、俺達から逃げようとしているらしい。
こんな弱り果てた美味しい獲物、みすみす逃すなんて、俺達はそんなに甘くはない。
なんたって、俺達は攻略組だから。
剣を掲げ、いつも通りに俺がモンスターに牽制の攻撃を仕掛ける。
「はぁっ!」
ゴブリンは必死に剣を避けようとするが、足が痛いからなのか、反応が遅れ、俺の攻撃が腹に直撃する。
「GAAAAAAAAAAAaッッッ!!!」
ゴブリンは本来、とても素早い。
SPDは20ほどあるのではないか、と掲示板で囁かれている。
そんなゴブリンをこんなに簡単に仕留めれそうなことはそうそうないだろう。
戦いの最中だというのに、思わず笑が零れてしまう。
本当に今日はついている。
「おっしゃぁ!俊、弓で止めだ!」
「まかしとけっ!」
きっと次の攻撃であのゴブリンは死ぬだろう。
遠くで弓を構えた俊が弓を放つ。
ヒュンッ
油断するな、と俊に言われたけど、今回はそんなことを心配する必要は無さそうだ。
俊が射た弓は吸い込まれるようにゴブリンの方に飛んでいく。
その弓がゴブリンの体力を削り、金色の粉に変わる………ことは無かった。
バキッ
「「なっ…!?」」
ゴブリンの消滅を阻止したのは空から降ってきた死神のようなやつだった。
そいつは氷るような笑顔で
「ちょーっと、待ったぁ」
瞬間、背筋が氷った。
〜主人公side〜
空中から、【鑑定】を使って2人のプレイヤーを上から視る。
まずは、緑色の髪をした奴から。
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種族 ヒューマン ☆3
名前 斗真
ジョブ 剣士
Lv 5
マーカー 緑
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HPとMPが視えない。
恐らく、私よりLvが高いからだろう。
次に青色の髪。
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種族 ヒューマン ☆3
名前 俊
ジョブ 狩人
Lv 5
マーカー 緑
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もし、戦うことになっても多分、いや、確実に死ぬだろう。
ヒューマンだし、Lvは1つしか違わないのだが、私は運に極振りしている身。
あの2人の攻撃を掠ったりでもしたら、大幅に体力を削られる可能性がある。
連携プレイをされると、もうデスペナは確定だ。
……というか、私何考えてるんだろ。
ゴブリン助けるためにプレイヤーキルをしようとしてるとか本当にどうした?いつもはこんな事しないのに。
あ、あれか?『VRMMO』の技術にテンション上がっちゃって俺TUEEEE感を味わってるから?
いや別に俺TUEEEEでは無いんだけど。私攻撃力0だし。
うわぁ、体が止まんない。偽善行動を起こしたくてうずうずしてるよ…。翼を閉じ、急降下。
ヒュンッ
私はゴブリンさんに当たるか当たらないかのぎりぎりのところで矢を折った。
1度見逃した怪我を負ったゴブリンが、むざむざ殺されるのはちょこっと良心的に許せない、なんて思ってみたり。はぁ、やっちまったなぁ…。
バキッ
「「なっ……!?」」
「ちょーっと、待ったぁ」
2人のプレイヤーを一瞥して、なるべく笑顔で言う。敵意はありませんよ?
同年代に見えるし、敬語は捨てる。
その2人のうち、髪色が緑のやつ、なんて名前だったっけかな、【鑑定】した時に視たはずなんだけど…ここは緑君としようか、が前に出てきた。
「お…おいっ!お前何をするんだ。そいつは俺達の獲物だぞ!!」
さて、ここは何て答えようか。全くのノープラン出来てしまった。
➭▲コイツは私の獲物だっ!!
▲……。(黙り込む。)
▲謝る
▲脅す
▲逆ギレする
ポチッとな。
➪▲コイツは私の獲物だっ!!
「コイツは私の獲物だっ!!」
「巫山戯んな!俺達が攻撃した後に横取りとか卑怯だっ!!」
確かにそうだ。
ギルドの受付嬢さんも説明の時に特に念を押していってたね。
ここはどうやって切り抜ければ………。
あ、そういえばゴブリンさん、足を怪我してなかったっけ?
痛々しかったから、よく覚えているよ。
よし、申し訳ないけど、それを利用しよう。
「君たち、何でこのゴブリンが最初から足を引きずっていたか知っているか?」
「は?んなもん知るかよ」
緑君、お静かに。
君は黙って話を聞いていなさい。
君が喋ると私のボロが出ちゃうだろ?
「それはね、私が攻撃してここまで追いやったからだよ。ゴブリンっていう種族が素早いってことは君たちも知っているだろう?私が少し目を離した隙にコイツに逃げられてしまったんだ。で、そのゴブリンを追いかけていたら君たちに横取りされそうになってたって訳だ。そういう理由で、君たちの方が卑怯者なんじゃないか!?」
「うぐっ…」
緑君が悔しそうに顔を歪める。
ふっふっふっ、言ってやったぜ。
コミュ障にしてはよくやった!
私は、自分をを褒めてやりたい!
と、私が舞い上がっていると、ずっと黙っていた青い髪色の人、名前忘れた…青君でいいや、が口を開いた。
「そのゴブリンを逃がしたお前が悪いんじゃないのか?」
「ぐっ…」
おっしゃる通りで。痛いところをついてきた。
確かに今私が言った内容には無理がある。
いくらゴブリンが素早いからって、足を痛めて、格段にスピードが落ちたヤツを逃がすわけがない。
「それに、だ。不自然な点は幾つかある。お前はそれをどう説明する? このゴブリンがお前のだという物的証拠はあるのか?」
「……」
グゥの音も言えぬ。
「黙っているということは、回答を持ち合わせていないととってもいいんだな? なら、そのゴブリンは、俺達が貰う」
嘘八百は正論には勝てぬ!
このままじゃ押し切られてしまう。
何か、何かないのか?
俯いた私は、背後にいるゴブリンさんを視界の隅で捕らえた。
虫の息、といったところか。弱々しく胸部が上下している。
押し黙った私を見た二人組みは、これ以上噛み付くことがないと踏んだのか、私の横をすり抜けてゴブリンの元に足を進めようとした。
「力を示せ」
無防備な腕を掴み、二人を私の前に引き戻す。
顔を上げ、見栄張ったりの不敵な笑を作った。
「私に勝てたのなら、このゴブリンは君たちにあげよう。負ければ、潔く去れ。言っておくが、私は少々強いぞ?」
これは賭けだ。
私の挑発に彼らが乗れば、私の負け。引けば私の勝ち。
これが、平凡な私が考えられる最善で少し高圧的な策。
剣を抜く動作を見せれば、2人は同様したように目をシパシパさせた。
緑君がなにか言おうとするが、青君がタイミングよくそれを遮る。
「じゃあ俺と戦ーー」
「ーー分かった」
「おい!?」
目を剥く緑君に、青君は頭を振る。
「癪だが、今回は引く。お前のような強い奴が手負いのゴブリンを逃がしてしまうようなミスを犯すとは思えないが、まぁ、そういうことにしておこう。俺達はここを去る。…さっさとそのゴブリンを始末しておけ」
踵を返す青君に、緑君は抗議の声を上げた。
勘づいているようだったけど…引いてくれてよかった。
青君に引きずられていくように連れていかれる緑君は、怒りの形相で私を睨んだ。
「おい!お前の顔覚えたからな!今度あった時は覚悟しとけ!!」
え…嫌だ、会いたくない。締められる…!
「出来れば君とはもう会いたくない。会う予定もない」
「テメェぇぇぇ!!!」
ゴンッ
緑君の頭の上を鳥が旋回している。
青君や、君は緑君の相棒じゃないのかい?結構痛そうな音がしたけど…。
いや、相棒だからこそ、止める時は全力で、っていうやつだね。
2人が去っていくのを確認したあと、私はすぐにゴブリンさんの容態を確認する。
やばい。
瀕死の状態を通り越して虫の息だ。
急いでアイテムボックスからロウポーションを3本取り出す。
1本めの蓋を外し、ゴブリンに飲ませようとする。
だけど、体に力が入らないようなのか、なかなか飲んでくれない。
確か、傷口にかけても効くって店員さんが言ってたな。
壊死しているお腹の傷口にロウポーションをかける。
「Guu………」
傷口にしみているようだがここら我慢してもらうしかない。
ロウポーションを丁度3個使い切ると大きい傷が全て消えた。
ゴブリンさんは自分の傷が無くなったのを見て、パシパシと傷があった場所を不思議そうに叩いている。
これこれ、止めなさい。
傷口が開くかもしれないでしょ?
……。
ロウポーションのお陰で完治してました。
ゴブリンさんは困惑した顔でこっちを見てくる。
「これで君はもう大丈夫だよ。痛いところはない?」
と声をかけてみる。
言葉が通じるかは分からないけど、見たところ傷は完治している。
うん、大丈夫そうだな。
これでしばらくは安全だろう。
プレイヤーに襲われなければ。
さて、ギルドにクエスト達成の報告に行かないとな。
ピロリん。
『称号✦偽善者 を獲得しました』
おおう、分かってたよ。
でも称号として貰えるなんて思ってなかったなぁ。
出来れば返品したいところだ。
✦偽善者…偽善者的行動をとったものに送られる称号。
確かに偽善者だって分かってたけど、貰ってしまうと、なんか腹ただしくなってくるね。
ハッタリ言って騙して、ゴブリンを助けたから、これは正当な称号なのかもしれないけど…解せぬ。
クイックイッと、羽を引っ張られた。
なんだい?ゴブリンさん。
私は今、ちょ〜っとばかし機嫌が悪いのですよ。
ピロリん。
『スキル【テイム】を取得しました』
へっ?何でそんなスキルを取得したわけ?
しょ…詳細を確認しなくてくは。
【テイム】……モンスターを調教する際、お互いの間に絆が出来た場合のみ、配下に加えることが出来る。また、パーティーメンバーと同じ扱いになるが、経験値はそのまま入ってくる。(現在、配下を一人増やすことが可能です。又、Lvが上がるに応じて、配下を増やすことが出来ます。)
おお…。
実に面白いスキルだ。
早速使おうと思う。
このゴブリンさんに。
だって、ねぇ?ここまでしたんだもん。
流石に愛着が湧いてくるよ。
でも、ゴブリンさんも了解してくれないとテイム出来ないらしい。
…とりあえず、【テイム】を使ってみようと思う。




