プロローグ
皆様お久しぶりです、スウです。感想ありがとうございます、まだ返してはいませんが、全て読ませていただいております。これより、時間の許す限り、全話に編集を入れ、最終的には最新話の更新ができればと思っております。新しく読まれる方、今まで読んでくださった方、どうかこれからもよろしくお願い致します。2021.6.29
『VRMMO』
それは仮想現実大規模多人数オンライン(Virtual Reality Massively Multiplayer Online)の略称である。まぁ、簡単に言うと、全身フルダイブ型オンラインゲームである。
もっと噛み砕いて言うとだ。
……小説投稿サイトなどで、異世界の物語が描かれ、その物語を読み、こんな世界に行ってみたい、自分も冒険してみたい、魔法を使いたいっ……など思ったことがある人はたくさんいると思う。
そんな叶うはずもない願望を叶えたのが、『VRMMO』という訳だ。
その技術が発表されたのは2120年の夏であった。
『VRMMO』の技術が搭載された始まりの作品である『Potential of the story』、通称『POS』は5感である「聴覚」「視覚」「味覚」「嗅覚」「触覚」、そして、第六感をリアルと同等、それ以上に感じることができるということをキャッチフレーズに、多くの人の心揺さぶり爆発的な人気を出した。
実際に体験した人は皆言うのだ。
「まるで違う世界にいるようだ……」と。
『POS』が発売されてから約1年と2ヶ月たった今でも、その熱はまだ覚めていない。
そして、今日は『VRMMO』の2次作品『Live Online』の世界45カ国同時リリースの日である。キャッチフレーズは『POS』と同じであるが、それにプラスしてタイトルに『Live』とあるようにゲームの中にある広場で、生中継で多くのプレイヤー達の勇姿を見ることが出来るそうなのだ。
何より、サブタイトルである「君が輝く場所がある」という言葉が、初回作で燻っていた者や、まだ『VRMMO』を始めていなかった人の心に火をつけたのだった……。
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〜主人公side①〜
私、黒川 柚もまだ始めていない人の中の1人である。
何故始めなかったのか?
それにはちゃんとした理由がある。
時は約1年と2か月前に遡る。
当時、私は近くにある大きなゲーム屋さんに『POS』を買いに行った。
テレビのCMで、「リアルと同等、いや、それ以上に」や、「五感をフルに感じられる」、などとよく取り上げられていたため、発売日を心の底から待っていたのだ。
ちゃんと発売5時間も前から並び、場所も確保していた。
「今から販売を開始しまーす!」
その言葉と同時に私より先に並んでいた人達から歓喜の悲鳴が上がった。
私も心が高鳴り、ドキドキとワクワクで心臓がはち切れそうだった。
ボルテージの上がる一般通り。平日の朝にも関わらず人でごった返すという異様な光景。繰り広げられる整理券の取り合い。熱中症で倒れた人が救急車に運ばれていく。
変な緊張感からか、私の背中はしっとり濡れていた。
様々なアクシデントはありつつも、『POS』が入った箱を手渡された時、天にも登るような心地になったあの感覚は、今でも忘れない。で、それを早くプレイしたいがために、信号が赤だというのに横断歩道を突っ切ろうとしたのが一生の不覚。
耳をつんざくようなクラクションが鳴って、そこで記憶はシャットアウト。
……ご想像通り、車に轢かれて重傷を負い、入院していた訳だ。
幸いにも、この時代は医療が発展しており、事故で重症を負っても、殆どが1ヶ月以内に傷が完治した。
退院後は受験勉強に追われ、ゲームに手をつけるところではなかった。
なんやかんやで受験という大きな壁も乗り越えて、こうして自分の部屋でニヤニヤしながら新作の『VRMMO』のゲームを手にしている訳だ。
何時間並んだのかって? そりゃぁ、前回よりも長い時間ですよ。
ふっふっふっ。
長時間並んだかいあって、初回特典のやつをgetしたぜ。
凄いだろう? そうだ。凄いのだ!
むふふふふ。
これが受験を乗り越えた者の力。果て無き根性と意地、忍耐力の賜物である。
そういえば、あとで知ったんだけど、車に轢かれた時に『POS』が見るも無残な姿になっていたという……。母上にあの写真を見せられた時、さすがの私もくらっと来た。
はぁ、思い出したらなんか悲しくなってきた。
あれ結構高かったんだよね。
あの話を聞いた時、大粒の涙を流したもんだ。えぐえぐ泣いて枕を三つもダメにした。今となってはいい思い出だけどね。
だけど、失うものばかりではなかった。私はあの事故で学んだのだ。
テンションが上がっている時ほど視野を広く、と。
今もテンションが上がっているから、目をつぶってゆっくりと息を吸って吐いて、深呼吸をして落ち着こう、そうしよう。
チラリと手元の新作のゲームが入っている箱に視線を落とす。
『Live Online』
タイトルの下に売り文句が書いてある。
「君が輝く場所がある」
金文字で書かれたそれをなぞるように読むと、胸に熱いものがこみ上げてきた。
うおおおおおおおおおおおおおおおお。
遂に私はVRMMOデビューを果たす時が来たんだァ!!
はぁぁぁ楽しみ! 楽しみすぎる!
正直、ゲームにこんなに心を揺り動かされるなんて思わなかったよ!
ゴロゴロと床で悶える。
嗚呼、この1年と2ヶ月のことを思うと……。
ガンッ
「っ〜〜〜〜!!!」
足に鋭い痛みがッ!
小指を机の角にぶつけたぁぁぁぁ!
さっき気をつけたばかりなのにぃ……。
「不運だぁ……」
涙が溢れてくる。目尻を拭った私は箱を再度抱きかかえる。
……いやぁ、長かったなぁ……うんうん。
感傷に浸ること数十秒、足を介抱しながら箱のテープを剥がし始める。
この際に箱がビリっと言っちゃったのは、内緒である。
これが普通だよね? ね?
説明書を取り出し、それを読んでからヘルメットのようなもの……ヘッドギアっていうのね……それを被ろうとすると、中からまた説明書のようなものが落ちてきた。
「いたっ」
別に痛くないんだけど、こういうのって何か声が出ちゃうんだよね。
四つ折になっている説明書を開いて、声を出して読む。体の中に溜まっていた熱気を少しでも外に出したいからだ。興奮しすぎて逆にちょっと苦しかったし。
「プレイする方へ。『Live Online』をプレイするに当たって、注意事項があります。1つ、行動には責任をお持ちください。2つ、『Live Online』の世界の住人は、我々運営の手を離れて、独自のじゅ……ンンっ、人格を有しています。よって、命あるものとします。それをお忘れなきように。3つ、我々運営は、『Live Online』の世界の永続を望んでおります。それでは、良き異世界ライフを。貴方に最大の敬意を」
ふんふん。とりあえず、NPCは傷つけたらあきまへん、ていうことはわかった。
了解であります。
説明書を畳みなおして箱の中にポイ。もう触らない気がする。
いそいそベッドにダイブし、ゲームを始めるために必要なヘッドギアを被る。近未来の音がした。わぉ。
スッと目を閉じ、いざゆかん。
「さて、始めるとしますかっ!!」
待ってろよ、まだ見ぬ世界よ。
[[Live Start!]]




