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だから、私は咬ませ犬がいい  作者: ニワトリのぼん
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地位の格差を感じた少年

 


 俺には兄が四人いる。その内の二人は異世界大魔法学校という、ブラッドリー家の子息令嬢が代々通っている学校の生徒だ。そして今日から五年間、俺と親友もその学校に通うことになる。

 俺の親友というのは、俺が昔からリスペクトしてる王族の血を持つ親友だ。

 異世界では、大陸の統一で 王は廃止されたが、純粋で、高濃度な魔力を持つ彼等は、王と呼ばれずとも、その地位は確かに高いものだ。つまり、親友 アレクサンダー・ヴェリタス・ア・ラインハルト様、いつも革の手袋をした彼は、俺の記憶では高貴な血の持ち主のはずだ。


 そんな王族の血を持つ彼だから、妖精族とコンバートで小さなパーティーを開いていても、驚かない。彼は与えられた仕事を涼しい顔をして簡単にこなし、何事にも心を動かさない、氷の皇子。

 きっと、気高く潔癖な生粋の純粋であるこの方に、妖精さえ惹かれたのだろう。俺達、貴族のように。


「わーお、アレクサンダー様 妖精族とパーティーとは。彼等を、手懐けるなんて流石です。良いですなぁ、羨ましいですね」

「くっ…ブラッドリー」


 …………………ん?


「な、何故貴様がここにいる」

「…」

「答えろ、ブラッドリー。それか、今すぐここから立ち去れ」

「………なんで、そんなペラペラとお話なさるんですか、アレクサンダー様」

「はぁ?」


 な、なにその人間らしい反応?待ってくれ、ほんとに、目の前にいる彼は、あの高貴な血を持つ、俺の親友アレクサンダー様なのか?

 何事も無視を決め込む彼が、アンドロイドと呼ばれる彼が、俺の通訳なしじゃ、会話が成り立たない彼が、いま、苦々しい顔をした人間らしい、人間になっている。

 俺が呆然でしていると、妖精族は片方の眉を器用に上げて、アレクサンダー様を睨み付けた。

 あれ?この白金の妖精族、どこかで見覚えが…


「てーゆーうーかー、ボクゥ、ナニか不気味な言葉が聞こえたんだけどぉ?」

「……俺は何にも言ってはない」

「ハーン、そーゆーのね」

「事実だ」


 なんか、この部屋 急激に気温が下がって、寒くないかい?アレクサンダー様のティーカップの中身がパキパキと、凍り始めた。やっぱり、物理的に寒くなっているよな!

 命が惜しい俺は、部屋に出た。元々 親友の様子を見に来ただけだったので、顔を合わせたらもう十分。早く自分のコンバートメントに戻って、温かいコーヒーを飲みたい。コーネリアスに売店で買わせた、ガトーショコラも 一切れ残っているはずだ。それと一緒に飲もう。

 気を遣える優秀な彼なら、ちゃんと保温魔法で出来立てのままだろう。俺は体と心を早く温めたくて仕方がなかった。



「え?ふふっごめんなさいね、私も連れがいるのよ」

「わかった わかった。一緒に学校へ向かうのは、諦めるさ。代わりに、もう少しだけ ティータイムに付き合ってくれよ」

「そうねぇ、レモンパイを用意してくれたら考えるわ」

「お安い御用」


 ガチガチと震える体を摩りながら、廊下を歩いていると、目の前でダークブラウンの髪をした女性が、魔人族に言い寄られていた。

 耳に髪をかけるその女性は、意識をしてはいないのに、勝手に目が惹きつけられる。そんな自分に気付いて、俺は小さく咳をした。

 しかし、それは魔人族の男は容易に拾い上げたようだ。ニヤリと笑う顔で、こちらを見た。


「オイ、パツキン レモンパイ買ってこい」

「なに?」


 そう言って魔人族は、俺の手に収まらないほどの宝石を持たせた。褐色の肌に、銀色の髪、その顔、覚えたぞ。さて、この屈辱をどう料理してやるか。

 俺が杖を取り出すと、魔人族は面白そうな顔をして、流行遅れの下品な杖を取り出した。


「オマエ、そんなダサい棒切れでちゃんと魔法が扱えるのかよ?」

「それは、こちらのセリフですよ。何です、その杖は。悪趣味過ぎて見るに堪えない」

「…コレはなぁ、今 魔界で一番人気の杖だぜ…コレを侮辱する事は、俺様を侮辱する事は、魔界を侮辱するという意味だ…死んでも、文句いえねぇなぁ」

「冗談でしょう?魔界という処は、裕福だと聞きますが、センスは破壊的なんですね。流石野蛮人の集まりだ。因みに俺の杖も今 魔法界で一番人気の杖です。予約だって14年先まで埋まってます」

「ア?やんのか?」

「はっ!そっちこそ」


 お互いのロープを、掴み合う。俺たちの殺気で、廊下には誰一人出ていない。


「まあまあっ!決闘ね、魔法での決闘は見れるなんて初めてだわ!あっ、ちょっと待って、レイア達にも見せてあげたいわね…お二人とも、レモンパイは、良いから少し待って頂戴!」


 彼女を除いては。


「オウ、分かった。早く戻ってこいよ、セル」

「ええ、ええっ!急いでくるわっ」

「…」

「別に走らなくても…あ、転けるなよー。って、もう居なくなっちまった。あーかわいいなーセルはー」

「…」

「ということで、セルが戻ってくるまで待ってろ、人間」

「………興醒めだ。帰る」

「ハンッ、逃げるのか?」

「安い挑発には乗りませんよ?失礼する」

「チッ」


 俺は、会話はもう終いだというように、ロープの端をわざと強く弾いた。不愉快な舌打ちが聞こえたが、見逃してやるよ、野蛮人。


「あら?せっかくアレクが空間魔法を使って、急いで戻ったのに、もう終わりかしら?」

「ウンウン、もう終わってるよセル。だから帰ろう!早く帰ってパーティーの続きをしよう!」

「セル!」

「ハ?ナニこの魔人族?ボクのセルに触らないでくれる?」


 魔人族の声と、ダークブラウンの髪をした女性の声、それと氷山より寒いコンバートメントで聞いた先ほどの声が、後ろから聞こえた。

 それでも俺は、構わず足を進める。


「ア?なんだこのガキ。キーキーうるせぇなぁ」

「こら、メイ」

「セルーそんな可愛い顔すんなよー」

「きゃっ ふふっ、だめ、やめなさい」

「もう、もうっ!魔人族マジウザい!セルに抱きつくなー!!」

束縛魔法(タクトート)

「良くやった、アレク!魔人族ざまーっ!」

「あらまぁ」


 ………いま、俺の親友の声がした。しかも、魔法を唱えた気がする。


「チッ、これマジで抜けねぇ…ざけんな 醜い血がァ!!」

「へっへー!ざまーみろ!」

「アレク、もういいわよ。早く解放してあげて頂戴。メイが可哀想よ」

「そうさ!アレク、サッサと解放してやれ!セルに辛そうな顔をさせるつもりなの!」

「………なんで助けた俺が、悪役になってるんだ」

「チンタラするな、アレク!ボクにケツを蹴られたいのか!」

「レイア…」


 後ろを振り向いたら、あり得ない光景だった。アンドロイド閣下が、妖精族とふざけ合っていた。なんだ、あのアレクサンダー様は。まるで、俺たちと変わらないただの子どもではないか。そして、あり得ない出来事は続く。

 むっつりといじけたような顔をしたアレクサンダー様は、杖を振って魔人族を解放した。

 それを確認して、にっこりと優しい笑顔を見せたダークブラウンの髪の女性が、アレクサンダー様の髪を撫でる。そして、その恐れ多く、不敬しかない行為に何も言わないアレクサンダー様。ア、アレクサンダー様しっかりしなされ!


「ありがとう、アレク。貴方が誰よりも優しいって知っていたわ」

「…うるさい」


 顔は能面、言葉は乱暴。なのに、アレクサンダー様の耳と声の熱は素直だった。

 俺の顔は きっと、ピクシーのイタズラに合った幼児のような顔をしているのだろう。純粋に驚いた。だって彼は人間が大嫌いな潔癖症だと思っていたからだ。

 俺が、肩を組んだだけで、拘束魔法を使ったりするのに…


「あぁ、イテェな。クソ」

「メイ」

「セルが、口にキスをしてくれたら治るんだが」

「もう しょうがないわね」

「エッ!セル嘘でしょ、騙されちゃダメだ!!」

「ヘヘッそうだろ、しょうがないだろ。ガキは黙ってな。…セル、ちゅ〜」

疲労回復魔法(ムラッタバート)

「くううぅ、畜生、体が回復していくぜ」

「も、もう!セルってばビックリさせないで!本気でキスをするかと思ったんだケド!」

「俺様は、それでも良かったんだケドな」

「ボクが!イヤなの!ボクが!許さないの!」

「ホントにうるせぇガキだな」

「口を謹めよ、田舎者。石を掘ることしか脳がないクセに」

「ア?」

「まぁ、確かにメイの故郷は鉱山ばかりだったわね」

「故郷?エ?セル、魔界に行ったの?ボクのところには、まだ来てないのに?」

「えぇ、とても素敵なところだったわ。私 あんなに大きな山で、ワイバーンに乗ったのは初めてだったわ」

「あぁ、そうだったな。そん時は、俺の後ろに乗って…ククッ、セルはガキみたいにはしゃいで落ちたっけな」

「そうなのよ!あの時、彼に助けて貰ってなかったら、悲惨な事になってたわねーふふっ」

「笑い事じゃねぇから。ほんと、あの時、ミネルザスが居なかったらマジで危なかったぞ」

「うふふふっ反省してます」

「たくっ」

「…」


 魔人族と彼女には、周りが見えていないのだろうか。パキパキと凍りつく廊下も、寒さに震えながら霜の付いた窓から覗く生徒達も見えていないのか。

 いくら、決まった身分しか乗れないこの車両が、一般の車両に比べて人数が少ないからといって、最低でも20人は乗っているんだぞ。僕達を巻き込むなんて、そんな理不尽の極み、許されるわけないじゃないか!!


「あら?何だか、寒い気がするわ」


 アッハッハッー。君は、見た目が可憐な女性だが、中身はトロール並みに鈍感なんだね。ちょっと、嫌味っぽく聞こえるかい?わざとさ!!いい加減、この嫉妬深い妖精族を止めてくれ!君の周りには、アレクサンダー様が停止魔法という高度な魔法で、凍るのを遅らせているが、こっちは丸裸なんだ!


「セル、帰ろ」

「うん そうね、体を冷やすのは良くないわね。コンバートに戻ったら、温かいレモンティーを飲みましょう」

「セル、早く帰ろう」

「ふふっ分かってる、分かってる。押さないで、レイア」

「早く帰るの」

「えぇ えぇ、それでは御機嫌よう、メイ。それと素敵なブロンドヘアーの方」

「もう行くのか?まだ居ろよ」

「セル 早く」

「あらあら、レイアったら。挨拶はしなくては失礼よ」

「じゃあね、低知能共」

「もうっレイア」

「アレク、早く来い」

「あぁ」


 アレクサンダー様が、二人の側に寄り、ロープを翻す。途端に彼等は、霧のように拡散した。


「チッ、セルを取られちまった。セルに会いてぇなー」

「…なら、彼等のコンバートに行けば良いじゃないか」

「そーしてぇが、あのレイアという奴、撹乱魔法でコンバートに、辿り着けないように細工してんだよ。証拠に朝から全車両を探したが、セルがコンバートから出てくるまで、全然見つからなかった」

「だが、俺はアレクサンダー様に会えましたよ?」

「それは、会いたいと思う人間が、セルじゃなくて、アレク…なんとかっつう奴だからだろ。あ、でも貴様、場所とか覚えては」

「ないですね。覚えていたとしても、教えません」

「ははっ、まだ根に持っているのか。小さい器だな。どうせ、もうセルはアレに拘束されたんだ、学園に着くまで俺様は寝る」


じゃあな、人間。

そう言って彼も、ロープを翻して消えた。

 廊下には、ばら撒かれた宝石と、空間魔法を施されたオーダーロープを持っていない、俺だけが残っていた。………いやいや、なんか俺が三下っぽくなったが、あのロープは伯爵の屋敷を容易に買えるほど値がするものだぞ。

 改めて、アレクサンダー様の凄さがわかった一日だった。まじ、あの人リスペクトだわー






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