ガチャスト第二話
「ようこそ 我がゲーム大会へ」
ゲーム大会とはどういうことだろうか、僕と同様集まった大勢も動揺しているようだった。
「ゲーム大会とはどういうことだ」
その中の一人が声の主を探しながら問いかける。
「勿論、そのままの意味ですよ」
と声の主が室内前方に備え付けられたホワイトボードの目の前に現れる。良く良くみると向こう側が透けているためホログラフだろうか。
薄いノイズが全身を走りながらもその佇まいは生身の男性となんら変わることはない。それだけに頭に被ったヘルメット状のマスクが異彩を放っていた。
「ちょっと待て、まず願いを叶えると聞いてやってきたがそれは本当か」
先ほど問を発した男と同じ声がする。
「無理のない程度は叶えさせて頂く所存であります。こちらを見れば少しは納得して頂けるかと」
ヘルメットの男がリモコンを操作するとホログラムの足元に大量の金札が積み上がった状態で現れる。遠目からでもあれら全てが本物であることは十分にわかった。ここにいる全員もまたそうだろう。
オフィスが急にしんと静まる。そしてそれを好機と見たのか男は再び説明を始めていった。
「皆様にはゲームをしてもらいます。ええ、ストラテジーといったところでしょうか」
「そこで最後の一人となった者に願いを叶える機会を与えたいと思っている次第でございます」
と、彼がそう言い終わる前には部屋内は人々の歓喜によってまるで小規模な地震のような揺れが走っていた。あの大金を見せられては無理も無いだろう。かく言う僕もいつの間にか右手を固く握っていた。
やがて室内に満ちた爆音はわざとらしい咳によってすぐに終わりを見せる。そして、ヘルメットの男がパチンと指を鳴らすとズラっと並んだモニターに淡い光が走った。
「皆様。どうぞお近くの席へお座りください」
各々が手頃な席に座る中、僕も目についた適当な事務用椅子へと腰をかける。
そして僕の目の前には一世紀以上前に流行った据え置き型のパソコン、キーボードやマウス。
コンピュータの方は見たことはあったが入力装置に当たる機器はこれが初めてだ。ふと、何の気も無しにマウスを掴んで裏返してみると中央にある小さな穴から青い光が煌めいていた。
「ああ、モニターの裏に脳波コントローラーもありますのでご安心ください」
言われて僕の視線をそちらへ向けるとヘッドホンの形をとったBCDがUSBコードに巻き取られた状態でぽつんと置いてあった。けれども、旧式のインプット機器に興味があったのでマウスとキーボードで操作してみることにしたのだった。
「さてさて、ターン制のストラテジーと申しましたが皆さんには国家の・・・言わば全体意思としてロールプレイして頂くわけですが・・・」
「急で申し訳ありませんが、ここでその全体意思の能力。簡単に言えばプレイヤー"として"の皆様の能力を決めさせていただきます。このダイスで」
ヘルメットの男が指で賽子を弾く。
「皆様には4つの能力値が割り振られることになり、統率、戦略、知慮、運と言った具合になっております。なお、詳細はゲーム内チュートリアルを用意しておりますのでそちらの方で確認して下さいませ」
「さてそれでは皆様、ダイスをお振り下さい」
言い終わると男は再び指をパチンと鳴らす。
画面を見れば先ほどの表示されていた簡素な青の壁紙は無く、恐らくゲームのメニュー画面であろうものが変わって表示されていた。そして、僕がおもむろにゲーム開始のボタンを押すとロードに入ることもなく黒いバックにポップアップが表示される。
「Shake the dice ?」
勿論、YESのボタンを押す。
「Play 100-sided die . At first , we set attribute value of "Leadership"」
「Ready ?」
Readyのボタンにポインタを合わせてマウスをクリックする。確か運試しをするのは中学の頃に引いたおみくじ以来だろうか。その時と今の緊張感では天と地程の差があるのではないか。
そして少しすれば結果を知らせるウィンドウが出てくる。
ヘルメットの男は特に詳細を話さなかったけどやはり能力値は高い方が良いに決まっている。
見たいような見たくないようなもどかしい気持ちが僕の視点をつい下へ向かせてしまう。生まれてこの方、ここまで心臓の
鼓動を大きく聞いた事があっただったろうか。まるで、はち切れんばかりの心音が一定のリズムを刻んでいる。
そしてよし、と意を決めると僕は一気に顔を上げいった。
出目は・・・"23"・・・。期待値を大きく下回っている。いや、まだ最初だ。と自分に言い聞かせて次に入る。
「Next is "Stratagem"」
しかし、次のダイスが示した数字はなんと"9"と先ほどより更にひどいものとなっていた。
いや次は、次は揺り戻しが来るはずだと、自然とマウスを動かす手が早まる。流石に次の智慮のダイスが50以下なんてことはないだろう。
が、そんな淡い期待を裏切るかのようにダイスは36の出目を持っていた。
「うーん、これは・・・。」
つい、愚痴をこぼしてしまう。それから続いて自然と自嘲的な笑いが込み上げてくるがなんとか我慢する。ここまで全て50以下というのだから驚きだ。ここまで自分に運がなかったとは思わなかったものだ。
「はぁ・・・。」
ため息を吐きながら僕はイスの背もたれに体を預ける。
それにしても先ほど見た札束のタワー・・・。兄さんの治療費に当ててもまだまだ余る程だ。それに流石の兄さんもポンとお金を渡されては断ることも難しいだろう。
他にアテもない今、これは最大のチャンスと思うべきだ。しかし、そうは言っても自分のツキが好機を遠ざけているような気もするが・・・勝負はやってみなければ分からないものだ。
そしてなんの期待も込めないまま最後の"運"のダイスを振ることにしたのだったが。
「ひどいなこりゃ・・・。」
どうやら僕にはツキはなくとも"運"だけはあったらしく、与えられたのは最大値たる100の数字だった。