花畑村の人々
「きゃー!! 止めて止めて止めて!! ぐふっ!!」
スリサズを乗せたソリは崖から勢い良く飛び出し、畑にうずたかく詰まれた雪の塊に突っ込んだ。
山頂から見た時は白すぎて凹凸が見えなかったのだが、畑には家々の屋根から降ろされた雪が集められていたのだ。
音を聞きつけて窓を開けた村人が、雪が止んでいるのに気づいて窓から出てくる。
それは屋根裏部屋の窓だった。
それより下の出口は雪に完全に埋もれていた。
スリサズの上半身は雪にめり込み、足だけバタバタさせている。
村の老若男女がいったい何事かと遠巻きに眺めていると……
バンッ!
雪の塊が弾け飛び、魔法の勢いでスリサズの体が宙に浮き上がる。
「よっと!」
スタッと着地し、村人の注目が自分に集まっているのに気づいて、氷の魔女は杖を掲げて勇ましげなポーズを取って見せた。
長すぎる冬にすっかりやつれたおじさん、おばさん。
六年前に逢ったような気がしなくもないおじいさん、おばあさん。
見覚えのない六歳以下の小さな子供。
雪が止んだことを喜びつつも、春告げ鳥が来たわけではないと気づいて戸惑っている。
突然の珍客に身構える男達を押しのけて、威勢のいいおばさんの集団がワッとスリサズを取り囲んだ。
「あらまあ! 誰かと思ったらあなた、スリサズちゃんじゃないの!」
「ええ!? スリサズちゃんって、あのスリサズちゃん!?」
「まあまあこんなに大きくなって! お父様はお元気?」
「おばちゃんのこと覚えてる?」
「スリサズちゃんが春を呼んでくれたのかい?」
スリサズは気まずげにフードの端を掴み、おばさん達の声で雪崩でも起きやしないかと山を見やった。
「まだ春は来てないデスよ。
雪は一時的にやんでるだけデス。
山の女神が目を覚ましてくれないと、吹雪はすぐまた戻ってきマス」
おばさん達から笑顔が消えた。
「ところでポーラは見つかりマシタか?」
スリサズの問いに、おばさん達は今度は露骨に嫌な顔をした。
心配、という表情ではなかった。
一瞬、スリサズは、彼女らが話したくないのかと思ったが……
すぐに、本当は彼女らはポーラの悪口を言いたくて仕方がないのだと気がついた。
一番大柄で気の強そうなおばさんが口を開く。
「あの罰当たり。春告げ鳥が居なくても春が来るだなんて大嘘じゃないか。仕事もせずに山の向こうの村をほっつき歩いてろくでもない話ばっかり仕入れてきてさ。それをほっとく親も親だよ」
遠くで誰かが走り去る足音が聞こえたが、おばさんの勢いは止まらなかった。
「ねえ、みんなもそう思うだろう? だいたいあの家は昔から……」
「ポ、ポーラちゃんのことだったらティム君とボビー君に訊くのがいいんじゃないかしら?」
青白い顔のおばさん――雪のせいで家の外にもろくに出られない生活をしていたので誰もが青白いが、この人だけはもともとこんな感じなのだろうなという雰囲気のおばさんが――勇気を奮ってさえぎった。
「ちょうどそこに……」
「ああ、ちょうどそこに居るね。ティム!! ボビー!! そんなとこに突っ立ってないでさっさとこっちへ来な!!」
気の強そうなおばさんが一瞬で主導権を取り返す。
遠巻きに見ていたおじさん集団よりも、さらに後ろの二人組みが、おずおずと進み出た。