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スリサズの魔法

 花畑村へ向かう道のりでスリサズは町や村をいくつも通ったが、そのどこもかしこもが完全な春の景色に包まれていた。

 それは山を後一つ越えれば目的地に着くというところまできても変わらなかったが、しかしその少し手前でスリサズは、北から引き返す冒険者の一団と出逢っていた。

 彼らはポスターを見て簡単な人探しだと思ってやってきたのだが、吹雪が強すぎて花畑村にたどり着けずに引き返すところだった。


 山は高く、岩だらけだが、そこかしこに花が咲き乱れ、虫達が楽しげに飛び回っていた。

 その景色は、山頂から見下ろしたところで一変した。

 山の向こうは真冬だった。

 この山が冬を塞き止めているのだ。

 そしてこの山のふもとには、他の山々に囲まれた花畑村が……


「見えないわね」


 一人つぶやく。

 もともと小さな村ではあるが、見落とすというほどではないはず。

 小さな家々は雪に埋もれて、屋根すらほとんど確認できなくなってしまっているのだ。

 スリサズの目には、煙突からたなびく煙の灰色が、激しい吹雪の白さの中に辛うじてチラつくのが映っただけだった。


 花畑村の北側の山の向こうには果てしない氷の平原が広がり、天然の魔力が吹雪となって吹き荒れている。

 だからこそスリサズの父は、花畑村を娘の修業の場所に選んだのである。

 その魔力が、山に春が来ないせいで、山を越えて流れ込んでしまっている。


 雪ならば炎の魔法で解かしてしまえと思われがちだが、ここでは氷の魔力が強すぎて、並の魔法では一瞬でかき消されてしまう。

 魔力を魔石に封じ込めれば少しは持つものの、こちらも家屋内の暖房程度にしか使えない。




 スリサズはポケットからレンズを取り出した。

 それは父のレンズを模して自分で作った物で、神を見るには至らないが、妖精ぐらいなら見える。

 レンズ越しに山を見渡すと、小さな雪の妖精が飛び回って遊んでいた。

 いたずらっぽそうな顔をした、虫の羽を持つ少女が全部で五人。


 スリサズは言葉に魔力を乗せ、妖精の耳ではなく心に直接届く念波に変えて語りかけた。

「お願い! これをあげるから山の向こうに帰って!!」


 そして背負い袋から瓶を次々取り出して、中の液体を吹雪の中にぶちまける。

 赤や黄色に緑とブルー。

 かき氷のシロップである。


「「「「「キャハハハハハッ!」」」」」


 周囲に響き渡った笑い声は、妖精達の口から発せられたのではなく、風の音が変化したものだった。

 カラフルに染め上げられた妖精達は、仲間の姿を面白がってカラフルな雪煙を撒き散らして、じゃれ合いながらどこかへ飛び去り、同時に吹雪が収まった。


 しかし雪は止んでも雲は去らず、気温は相変わらず低くて、積もった雪が解け出す気配もない。

(問題はここからなのよね)

 胸中でつぶやき、スリサズは背負い鞄に刺した樫の杖を手に取った。


 杖の先端を、手頃な吹き溜まりの雪に向ける。

「固まれ! 凍れ! 形を変えてソリになれ!」


 杖から流れ出る光に包まれ、雪の塊が命じられた通りの物になる。

 しかし斜面に作ったせいで、ソリは勝手に滑り出してしまった。


「おわっと! いけない!」

 スリサズは慌ててソリに飛び乗った。


 進路を魔法で制御して木々の間をすり抜けて。

 お尻が冷たいのは氷の魔女の意地で我慢。

 村まで一気に滑り降りる!

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