MD2-098「よじれた木々の先で-6」
誤字脱字の作業でも更新日が変わるのはなんとかならないかなあ。
29日は投稿してないのに日付変わってご迷惑おかけしました。
先手必勝。
これはどの世の中でも変わらない真理の1つだ。
特に、実力が近い物同士だと先に攻撃を当てたほうがほぼ、勝つ。
怪我を負わせるだけでも十分、だよね。
ただ……世の中には例外という物があるわけで。
「雷の……射線!!」
『まずい、壁!』
密集した動きの遅い巨大な芋虫。
こちらに気が付いていないそんな相手に、
わざわざ近づくことなんてしなくても。
そんな気持ちから放たれたマリーの使い慣れた魔法。
それは見事に芋虫たちの一角に突き刺さり、
その結果を見る前に叫ばれた声に咄嗟に、
土の無いこの場所でということで
森の魔法、エルフの力を借りての植物の壁を作り出した。
「なんと……」
「危なすぎますねえ、これは」
じゅうじゅうと、何かが溶ける音と不快な匂い。
マリーの放った魔法は芋虫に突き刺さり、
周囲へと何か液体が飛び散ることになった。
『酸だとは思うが、何か混ざってるな。味方には効果がないようだぞ』
「え? なんて卑怯な……」
あるいはこれは生き物が生きていく上で見につけた能力ということだろうか。
そっと植物を戻し、見えてきたのは
穴の開いた芋虫数匹と、周囲がかじられたように先ほどの酸で痛んだ壁。
そして……無事な姿の他の芋虫だった。
体表を何かの液体がぬめっていることから、
先ほどの爆発の様な酸を浴びているはず。
「全身が弾けるということはあるまい。頭だ、頭を狙え!」
さすが現役軍人というところかな。
号令に従い、背負っていた小弓で矢が次々と芋虫に襲い掛かる。
そのころにはさすがに芋虫もこちらに気が付いたようで、
もぞもぞと数匹がこちらに近づいてくる。
正直、気持ちのいい光景ではない。
「たぶん、お腹のどこかにあれが詰まってる部分があると思う。
マリー、風でひっくり返してしまおう」
「わかりました!」
先ほどの光景、まあ壁越しだけど
起きた出来事と音にびっくりしているのか、
マリーの腰が妙に及び腰だったのは言うまでもない。
こういうところが可愛いんだよね。
それなりに広いとはいっても、大人が並べば結構一杯。
その中を僕とマリーの生み出した風が吹き荒れ、
ころころとした芋虫がひっくり返ったり、
丸まるように固まったり。
どちらにせよ、良い的である。
ハリネズミのように矢の突き刺さった芋虫のいくつかが動かなくなる。
そのまま色が変わっていくので、倒せたんだと思う。
確かめるために近づくのも危ない気がするので、
このまま遠距離攻撃を続行だ。
近づこうとしても魔法で押し戻され、そして射抜かれる。
ある意味一方的すぎる戦いはしばらく続き、
僕達からは奥の方が見えないほど芋虫の死骸が積み重なり、終わる。
強い匂いという訳でも無いけど、
漂ってくるのはあまり嗅ぎたいとは思えない匂いだ。
だけど、誰もがこれが当たり前とまではいかなくても
よくあることということなのか、落ち着いた状態だ。
兵士って大変だよね……。
「マリー、一度下がるか換気しよう」
「ええ、そうします」
こちらは冒険者なので、嫌な時は嫌な感じを顔に出そうと思う。
緩やかな風が洞窟というか巨木に開いた穴を吹きぬけ……。
「! マリー!」
「きゃっ」
奥から伸びる何かを目にした瞬間、
叫びながら彼女を力を込めて抱き寄せる。
半端に抱き寄せると、人間って思わず逆に突き放そうとするときがあるからね。
しっかりと、抱きしめる。
ぎりぎりを通り過ぎる物、それは伸びてきた糸だ。
「さすが芋虫。そのぐらいはやってくるよね」
「後続の増援、いかにもな姿だな」
僕がにらみつける先、そこにいたのは既に死んでしまっている芋虫よりも
やや派手な姿の芋虫数匹であった。
ダグラスさんのいうように、如何にも、だね。
その証拠に、瞳が赤く点滅している。
『気を付けろ、中には糸なのに刃物より切れる力を持つ奴がいる』
(そういうことは戦う前に出来れば聞きたかったなあ)
助言があるだけ間違いなくありがたいのだけど、思わずそんなことを考えてしまう。
その助言に従い、再び伸びてきた糸を下手に受けず、
足元に落ちていた枝でなんとなくからめる。
すると、だ。
「斬れた。受けちゃだめだよ!」
「うひい、ダンジョン怖い、ダンジョン怖い! 隊長、危ないですよ!」
半ばほどから切断されてしまった枝を見てみんながざわめく。
回避しやすいようにと、それぞれの立ち位置をどんどん変えていくミルさんたち。
僕とマリーもまた、近くにはいつつもどちらに避けるかは決めている。
気が付けば、さらに奥から数匹の芋虫。
ここで手間取るのも……もどかしい。
既に転がっている芋虫の死骸が正直、少し邪魔だ。
でも、こんなものはどかしてしまえばいい。
そしてその時に使う風は、僕達の助けとなる。
「風、行きます!」
「うむ、合わせよう」
三度、暴風の様な風が穴一杯に広がり、奥へと発動される。
それは意思無き死骸を吹き飛ばし、同時に生きている相手の動きも妨害。
何よりも、糸の軽さは風に負ける。
何匹かが吐き出した糸は風に負けてふわりと芋虫自身に張り付いていく。
自分を切るということはさすがにないようだけど、
駆け寄るには十分な時間だ。
爆発しないよう、明らかに頭であり口だ、
といった部分に武器を挿し入れて攻撃していく。
こうなれば所詮は芋虫だ。
「とりゃあああ!」
叫ぶミルさんの攻撃によって、36匹目が沈黙。
依頼、完了である。
さて、後はこの芋虫が何かに使えるかだけど……。
糸はもう出てこないし、下手に解体すると例の液体が噴き出すだろうなあ。
「少々もったいないですけど、処分してしまいましょう」
「やむを得んか。持ち帰ってる間にああ破裂しては目も当てられない」
これはダグラスさんらも同じ考えの様で、
混乱なく片づけは進む。
と言っても穴の入り口付近に転がしていくだけだけどね。
こうやって集めると結構な山になるね……。
「ファルクさん、これ、どうやって報告するんでしょうね。また昇るんですか?」
そりゃあ階段でと思ったら来た時の階段がない。
どうしようかと思った時に穴の横に光。
それが消えた後には、最初に上に登った時の様な階段が。
この場所、やっぱり木そのものじゃなくてダンジョン交じりだよねえ?
じゃないと説明が付かないしね。
でも今は、戻って報告だ。
全員で再び階段を上り、木彫りの戦女神像の場所まで行く。
来た時と同じ光景。
心なしか、像も嬉しそうな気がした。
気のせい……だろうけど。
『ありがとうございました。あの中は体の中の様なものなので
なかなか力が及ばず……懸念事項が1つ消えました。
早速報酬を……杖などに向いている木材です。
建物に使えば、その中での魔力修練等にはいい効力を発揮することでしょう』
そうしてうずたかく積み上げられる木材たち。
これは、1人じゃ小振りな物を1本が限界じゃないかな。
そう思って周囲を見渡すと、期待の瞳。
「あんまり言いふらさないでくださいよ?」
「心配はいらんだろう。勤務外の報酬には王宮は結構厳しいのだ。
税金の問題も出るからな。だから敢えて吹聴することはないだろう」
やり取りの間に周囲を見ると、誰もがその会話に頷いていた。
(戻ったら、何か差し入れしようかな)
そんなことを考えるのだった。
そうして僕達は戦女神像に別れを告げ、外に……。
『ああ、忘れるところでした。二人とも、こちらを』
そういって像の方から飛び出してきたのは小さな半透明の玉。
これは……また飲めと?
その気持ちが視線に乗っていたような気がする。
『もしも外で、森の力を借りたいときにはそれをかみ砕きなさい。
エルフの縁者たる2人のために、森が力を貸してくれるはずです』
なるほど、使い捨てのお助け魔道具ってことか。
いざと言う時の札が増えるのは非常にありがたい。
改めて頭を下げ、僕達は巨木から外に出る。
そうした僕達を待っていたのは、行方不明ということで
捜索隊が出発する直前だった。
危なかったね……うん。
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