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MD2-009「戦いの後」

中間回。のんびりです。

リリィと2人、命からがらという状態で脱出した初日、

というか街には自力で戻ったとは言い難かった日。


近くまでは戻ったものの、力尽きそうになったところを

たまたま依頼をこなしにきていた冒険者に見つけてもらったのだそうだ。


というのもそのころの記憶はかなりあいまいで、

ご先祖様から補足を受けてようやく思い出したぐらいなのだ。


1人きりの探索による心身の疲労に加え、リリィの救出と

それに伴う無茶な行軍は僕の体を思ったより酷使していたようで、

その日は報告と治療だけ受けて爆睡である。


「世間的にはポーションや良い薬草って高いんだなあ」


元気になったときの最初の僕の言葉はこれであった。


自分で売っているくせに、その価値という物に疎いというのも変な話だが、

どうやら僕の村は思ったよりも田舎だったようだ。


店での価格はかなりお得、いや……他の仲間には黙っていようと思えるぐらいには安かったらしい。


グランツさんにいわゆる相場を聞かされた時にはベッドから飛び上がりそうになった。


(道理で薬草類と一緒によく売れる割に、同じような面々が買っていくわけだ)


なんと、自分の店で売っているより最大で5倍もの値段がついていた。


だから、というわけでもないのだろうけど

ポーションを使えば問題ないといった僕をグランツさんは叱ってくれた。


『忙しい合間だろうに面倒を見てくれるなんていい人だな』


「うん。本当にそう思うよ」


階下にグランツさんが戻り、1人となった部屋で

僕はご先祖様にそう答え、窓からの光に目を細める。


目覚めたのがここならば、治療を受けていたのもここ、

グランツさんの店の2階にある宿の部屋だ。


『俺の時は気にしたことも無かったが……言われてみればいつもポーションか魔法だったな』


「かなり贅沢ってことだよね。ちょっともったいないかも、ぐらいの値段だけどさ」


ポーションを治療に使うことを止められたのは何も値段だけではなかった。


曰く、ポーションは便利だが慣れると自然に治る力が衰えるとのこと。


ちゃんと稼げるようになってからじゃないと

ポーションがないと治らないのに買うお金がない、という悪循環になると。


そんなわけで最低限の軟膏薬だけは使われ、僕は眠りから覚め、

体を休めるように言われて2日目というわけだ。


『悪かったな。大怪我させてしまった』


「ううん。僕が考えなしに突撃しちゃったりしたせいだよ」


申し訳なさそうな声に僕は1人、首を大きく振る。


実際、まだまだ左腕は痛いが動かないほどじゃない。


(左でよかった……)


これが僕の本音であり、ご先祖様を攻める気持ちなど全くない。


もし聞き手だったらどうやっても生きていないし、

そもそもが村から出ることも無かったであろうからだ。


『いや、俺が甘かったんだ。俺の……作成者の経験で物事を見ていた。

 武器が刺されば英雄もドラゴンも死ぬ。忘れていたってことだ。

 せっかくの子孫を危険にさらしてしまった』


「じゃあこれから返してくれればいいよ」


腕輪から伝わる謝罪の感情に、僕は話は終わりとばかりに切り上げ、

まだ痛みの残る左腕を気にしながら部屋を出る。


階段を下りる僕へと既に起きている何人かの冒険者の視線が刺さる。


そのほとんどは一瞥後、元に戻るが幾人かは僕に向けられたままだ。


「おう、坊主。いきてっか」


「若いときの苦労は買ってでもっていうけどよ、死ぬんじゃねーぞ」


そう、口の悪い冒険者もいるが、ほとんどは戻ってきた僕への

ある意味好意的な言葉だった。


すぐに視線を戻した冒険者達も、別に僕へと悪感情を持っているわけではない様だった。


そう、冒険者という職業は意外と食い詰め、弾かれ者というわけではないのだ。


何でも屋、というほうが正しい。


各々の心情を胸に、なんだかんだと自由に生きている。


「おはようございます」


「おう。今日は元気そうだな」


何かを紙に書き留めていたグランツさんは

僕のその言葉に顔を上げ、そのまま湯気の立つやかんから何かをカップに注いできた。


「これでも腹に入れておけ」


それはなじみのあるお茶で、

優しくお腹に染みていく。


背後には冒険の相談でもしているのか、陽気そうな冒険者達の声。


そんな彼らが何故リリィの出した依頼を受けていないのか、と言えば

1つは依頼料である。


幼い彼女が出せる金額は知れていた。


難易度的には別に大きな問題は無い依頼だったようだけど、

そうはいっても安いのだ。


「今回は災難だったな。まったく、父親がしっかり止めていればいいものを」


僕が落ち着いたのを見計らってか、

そんなことをグランツさんが言ってくる。


そう、リリィの父親の病気だが確かに辛い病気だが、

この土地では誰もが1度はかかる風土病のような物で、

命の危険はないらしい。


ほっといても大丈夫だし、父親もリリィにそう言ったのだが、

苦しむ父親の姿にリリィは納得しなかった、というわけだ。


ギルドに依頼を出していたのを父親は知らなかったそうだ。


たまたまというか運良く僕が出会えたから生きて帰ってこられたものの、

そうでなければ親子そろって悲劇の仲間入りだったわけだ。


「ま、僕にはいい経験になったし、悲しむ家族が増えなかったのならよし、ですよ」


小さなことを言えば、気になることはいろいろあるが、

まとめて考えれば僕にとっては良い事ばかりだった。


僕には緊張感というより、ダンジョンという物がわかっていなかったのだ。


そんなことを考える僕の前にグランツさんから小袋が差し出される。


「ダンジョン変質の報奨金だ」


中身を見ると、渡されたのは銀貨3枚と細かい銅貨たち。


ダンジョンの新しい出来事、予兆なんかを見つけるともらえるらしい


今回は外への穴、ということになる。


安いような気もするが、まずは発見に対して、という形で

何か大きな変化が生じた場合には状況に応じて追加でも支払われるそうだ。


今回の場合、新しい出入り口がどういう影響を及ぼすかが

はっきりしてからなのだろう。


「フローラは明日には戻る。今日はそれで買い物でもしたらどうだ。

 左の防具が駄目になってるんだろう?」


「確かに、そうしてみます」


お茶と助言のお礼を言い、僕は街に出る。


目的地は鍛冶屋だ。




朝からの喧騒を尻目に、僕は目的地へとたどり着き、

長い武器でも持ち出せるようにか高い天井を見ながら店に入る。


『おお、剣だ、槍だ……ほほう』


眺めている僕の脳裏に妙に興奮したご先祖様の声が響く。


そういえば僕の家でも在庫を見る度に声を出していたような気がする。


(こういうの、好きなの?)


『ああ、大好きだな。体があれば好きなだけ作っていたいぐらいさ』


僕も良い武具を見ると感動を覚えるし、

すごいなとも思うけどご先祖様のそれはちょっと僕のと違うようだ。


『生き甲斐……だったな。それが原因で厄介事も多かったみたいだが』


それはどういう、と聞こうとしたところで店員さんの視線を感じた。


店の奥にあるカウンター越しに、こちらを見る店員。


噂にしか聞いたことがないけど、ドワーフってこういう感じかな?

と言わんばかりの見事な髪の毛に体付きだ。


よく考えれば何も話さずに眺めているのだ。


店側からどう見えるかは言うまでもない。


僕は慌てて荷物から残骸、ホブゴブリンに壊された

左手用の手甲を取り出す。


「あの、これの代わりを探してるんですけど」


「どれ……これ自体は直すのは厳しいな。買い換えたほうがいいんじゃないか」


真剣に残骸を見ていた店員さんはそういって店の一角を指さす。


人形が参考になるようにと身に着けている防具、

その中の左腕用をいくつか見ていく。


その途中で虚空に浮かぶ様々な情報。


僕がご先祖様越しに使っている鑑定能力だ。


元々ある程度の目利きは出来るのが、ご先祖様の不思議な力により

その能力は大幅に強化されている。


(これは売れ残りで少し錆が出ている……これは値段の割にいい感じだ。

 おお? 毒耐性だって。モンスターの素材でも使ってるのかな?)


『上手く磨けばダンジョンからの持ち帰り品の鑑定で小銭が稼げるかもな』


色々と見比べての僕のつぶやきに

良い考えを思いついたと言わんばかりの声。


(まあ、確かに訳の分からない物は使いたくないよね……)


そうして僕は1つの手甲を選び、身につけた状態で店を出る。


いつの間にか、時間が結構経過しており

街の賑わいもその度合いを増していた。



次の目的地は冒険者ギルドだ。


いつぞやと同じ騒々しさの中、依頼書の壁に向かう。


改めて眺めてみると、難易度も様々だが

その中身もたくさんの種類がある。


特定のモンスターの素材をいくつ集めろ、

ある薬草を一握りでもいいから、といったものまで様々だ。


僕はその依頼書を片っ端から眺めていく。


通常であればあまり意味のない行為だが、

僕にとってはお金の元だ。


こっそりと虚空に浮かぶ半透明の何か、

ご先祖様曰くメモ帳メニューに色々と入力していく。


その中身は、実家で採取できそうな薬草の種類と数、

といった物だ。


どれぐらい不足しているかを確認し、これならというものは

実家の弟妹に対して手紙を出し、街へと売りに出すのだ。


これまでは外に出してこなかったので、ダンたちのように噂を聞いた人間しか

買い付けに来ていなかったけど、これがきっかけに少しでも増えればいいなと思ったのだ。


かといって需要の少ない奴に対して急に供給を始めれば

それは良くない話も呼び込むだろうから需要も多く、

やり取りも多い部分から始めるようにする必要がある。


僕は実家に手紙を出すべく受付に歩いて行くと、

そこには先客がやってきていた。



「やあ、リリィ。元気かい」


「あ、お兄ちゃん!」


振り返った小柄な少女はほかでもない、リリィだった。


傍らにはやややつれた様子の男性。


恐らく彼がリリィの父親なのだろう。


「あなたがあの……ありがとうございました」


下げられる頭と心からの感謝の言葉に、僕は

たまたまですよ、と答えてひとまず手紙のお願いを先にすませる。


その後、2人と少し話をする。


リリィの父は雑貨屋をしてるとのこで保存食を買う約束をすることになった。


実際にはアイテムボックスがあるのでそこまで気にしなくてもよいのだが、

話の流れと言えば流れだ。


(もっと、地面に足を付けないとな)


『命は1つ、だからなあ。レベリングも良いがお金も稼がねば』


その後も依頼書を眺める僕にご先祖様からの実体験に基づいているらしい

妙に生々しい体験談が語られる。


そうしているうちに僕は感じる。


─如何に自分が自分のことをわかっていないか、を


僕は……浮かれていたのだ。


覚悟を決めたつもりでも、両親を探すという悲劇の主人公ぶっていたところが

今考えればあったように思える。


目的は目的として、まずはそのための力量を得るために生きなければいけない。


そうして、ゴブリンの特定部位採取と、薬草採取雑多を

気合を入れて受けた僕。


そんな僕がギルドを出ると、目の前に人影があった。


「話は聞いたわ。特訓よ!」


それは帰ったばかりらしい姿のフローラさんであり、

有無を言わせずという言葉であった。


「戻るの明日じゃなかったんですか?」


(あ、ちょっと怒ってる。なんでだろ)


『それがわからないから怒られるのさ、子孫よ』


疑問を浮かべる僕に、ご先祖様の呆れた声が届くのだった。





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