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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-081「懐かしの街-4」


魔法の灯りに照らされ、不気味な陰影を浮かび上がらせる鉱山。


入り口からの陽光と魔法の灯り、両方が混ざり合う箇所にちょうど奴らがやってきた。


「コボッ!」


感情の乗った叫び。


恐らくはその手にした粗末な武器や牙で僕達を殺そうとしたのだろう。


ただ、真正面からは悪手だったね。


「この手に集い、赤き楔を解き放て! レッドアロー!」


明星を握っていない左手で、正面に向けて火の初級魔法である火の矢を打ち出す。


多少腕があがったのか、その数は5本。


相手が10はいそうだから半分は巻き込み、牽制にもなるだろうと思う。


その証拠に、僕の横を兵士のみんなが駆け出していき、それぞれの武器を繰り出している。


僕もまた、火の矢を受けてうろたえる一匹に向けて駆けこむと、

火の魔法を乗せてある明星で貫く。


「コ……」


そのコボルトは何かを口にしようとして力尽きる。


最近僕は切り裂くより刺突が増えてきた気がする。


僕の場合、振り降ろし等より威力が乗るからだろうか。


今度、槍を使ってもいいかもしれないね。


(それはともかくとしてっと……やっぱりね)


「ここはダンジョンで確定みたいですね」


血が出るが、跡が残ることなく消えていくコボルトを見てみんなに向けて呟く。


残るのは切り取った透明な部分。


そう、魔水晶だ。


今回出てきたコボルト、そいつの腕が魔水晶だった。


手首から先程度だけど、ランド迷宮のそれより大きい。


手にして観察してみると、なんとなく前に見た物より質がいいように思える。


エンシャンターだったフローラさん曰く、大きいほど厄介だというから……。


「採掘の作業員だけでは危険だな……」


兵士さんの1人が言うように遭遇したコボルトは思ったより早い速度で迫って来た。


よくも最初の発見者たちは逃げきれたものである。


運が良かったって誰もが言うと思う。


改めて、鉱山の入り口付近を探索しなおすと、

人間大の足跡以外には見当たらないことがわかった。


「コボルト共は外には出ていないようだな……」


近くの森にも気配は感じない。


時々、そよ風がやってくるぐらいで平和な物だ。


これならホルコーたちをつないだままでも大丈夫かな?


僕がほっぺを撫でると、ホルコーは自信ありげな瞳で僕を見返してくる。


『ホルコーなら蹴っ飛ばすぐらいはできるだろうさ』


ご先祖様の言うように、ホルコーの強さなら大体何とかできそうな気がしてきた。


改めて準備をし、8人で潜っていくことになる。


穴の高さは僕の2倍ぐらい。


ごつごつとした壁面と比べ、足元はしっかりと整えられているので

ここが比較的長く鉱山として使われていることがわかる。


山に祈りを捧げることで復活するというのは全部ではなく、

ある程度潜ったところからなのでこうして入り口は整備されていることが多い……らしい。


僕もまあ、伝聞だけだから初めてだけども。


「中央に1本、左右に1本ずつ。どっちから行きます?」


現行の鉱山らしく、道に複雑さはなく計算された物だ。


だから事前に準備した地図がすごく役立つはずだし、

戦闘になりそうな場所も大体決まっている。


見通しの良い通路ど真ん中、はあまりこういう場合にモンスターはいないんだよね。


「目撃情報があったのは一番奥だ。警戒しながら奥へ進もう」


年長者である兵士の案に従って、それぞれが警戒しながら歩くのを再開する。


僕が真ん中なのはやっぱりまだ腕が足りないってことかな?


『いや、どちらかというと大事にされてるんだろうさ』


(え? それは……)


戸惑いが顔に出ていたのだろうか?


横にいた若い兵士が僕の肩を叩く。


びくっとなってそちらを見てしまうが、彼は笑顔のままだった。


どちらかというと、イイ笑顔、という言葉が似合う。


「心配すんなって。別に前衛をやってもらってもいいぐらいの実力はあると思ってるけどよ。

 お嬢様のの相手候補なんだ、なんかあっちゃいけないってことさ」


お嬢……様? ああ!


僕はようやくそのことに気が付く。


行きもそうだったけど、この人たちは僕をもう普通の冒険者としては見ていないのだ。


僕のマリーへの告白以外の何物でもない叫びと、

それへのマリーの返事も耳に挟んでいるのだろう。


だから、僕に大怪我を負ってもらうわけにはいかないのだ。


「何か、すいません。でも、その……」


僕だって戦いの覚悟は決めている。


そう言おうとして言葉を飲み込んだ。


そんなことは相手も承知しているはずだということに思い至ったのだ。


「どちらかというと俺達の自己満足だ。お嬢様のために何かしたいと思っている俺達の、な」


その言葉が7人の気持ちの代弁だったらしく、

ちょっと大げさにそれぞれが役割を果たすように進むことになる。


休憩場所や少し広く掘った部分等では予定通りにコボルトが固まっていた。


こちらを見つける度に叫び、襲い掛かってくる。


元々、モンスターとはそういう物だけど……うーん?


「なんだか、人間に妙に驚いてませんか?」


「言われてみれば……そうだな」


僕の指摘に、それぞれが仕留めたコボルトからの魔水晶を見たり、

向かう先の暗がりを睨む。


コボルトは比較的臆病なモンスターだと聞いている。


1本道でなければ、こちらが上手と見るや逃げていくほどだ。


今回の奴らには逃げるやつもいるのだけど、

ほとんどが僕達の事を見るなり、妙に驚いた様子で襲い掛かってくるのだ。


まるでそう、未知と遭遇したような……。


「まるで初めて人間に出会ったかのようだね」


1人の言葉に、僕も頷いて答える。


僕達が友好的ではなさそうな何者かと出会った時、逃げられないとなれば

恐らくは全力で襲い掛かる、それと同じ行動なのだ。


「となると……何かありますね。ってそろそろ最奥じゃないですか?」


地図を見ながら僕は呟いて、

魔法の灯りを奥の方へと一時的に打ち出すようにして飛ばす。


すると……。


「穴……か」


「穴ですね、結構深そうです」


ラークが懐に収めていた鉱石はこのあたりで採掘されたのだろうか。


辺りには真新しい道具が転がっている。


どう見ても、新しく掘った穴、とは思えない。


「俺達は魔法が使えないからよくわからないが、どうだい?」


言われ、僕は慎重に穴に近づき、そっと覗き込む。


魔法の灯りを下に向けて放つと、僕の目にはこれまでと違う光景が映し出された。


これまでの鉱山が岩色というか、そんな感じだったのに対して

穴の中はやや紫がかっているような気がする。


すぐそばには何もいないようだ。


『ちょっと岩盤を触ってみたいな。降りられそうか?』


(うん。やってみるよ)


僕は頷き、荷物からロープを取り出して降りる準備をする。


転がっていたピッケルも1本拾って腰に下げる。


「ちょっと降りて鑑定してみます。どうも普通の岩じゃなさそうです」


「ならば俺が先に降りよう。ファルク君はその後で」


身を乗り出す僕を制止していう兵士さんに頷き、

ロープを譲るとゆっくりと彼は降りていく。


続けて僕、そしてもう1人。


つるはしもついでに持ったうえで、だ。


「硬さはそう変わらなそう……んん?」


ピッケルで岩盤をつつくと、手ごたえはしっかり帰ってくる。


洞窟ごと魔法生物!なんてことはなさそうだけど……。


僕は何かが気になって周囲に断りを入れてつるはしを振りかざし、

すぐそばの壁に打ち込んだ。


「……それは、まさか」


転がって来た岩の塊。


そこに刺さるようにくっついている物体を見て誰かが呟く。


僕もまた、それをピッケルでつついて岩から引きはがし、魔法の灯りに照らす。


向こう側が透けて見える透明な物質。


そう、魔水晶だ。


これまでダンジョンのモンスターの1部でしか産出しなかったソレが

普通に掘れるという事実。


「こいつは……戻ったほうが良くないか?」


誰とでもなく、そんな提案が出され、誰もが頷く。


何かいるのかいないのかはわからないけど、

コボルトはたぶん大量にいるだろうし、

どこまで伸びているかわからない。


全員が上に戻り、適当に周囲の補強用に使うための木版などで穴をふさぐ。


一時的な物だがやらないよりましだろう。


「1つ、わかったことがあります。この下、偶然にか故意にかは別として、

 この鉱山がダンジョン化したというより、別のダンジョンにつなげてしまって

 ここもそのダンジョンと同じ扱いを受けてるんだと思います」


つまりは、ダンジョンが拡張したというわけだ。


『この辺のダンジョンは俺にもわからん。さすがに竜がいるとかはないと思うが』


ご先祖様のやや不吉なつぶやき。


本当にそんなのがいないことを祈るばかりだ。


これはオルファン家の新たな財源となるのは間違いないだろうけど、

場合によっては封印することになるかもしれない厄介な匂いもする。


ただ、今日明日で片付くような話ではなさそうであり、

僕らが必ずやらなくちゃいけないことかというとそうでもないはずだ。


冒険者の依頼にはこういう場所の探索も当たり前のようにある。


危険はあるけど、その分旨みも大きい。


なにせ、踏破時の採取物は基本的に本人達の物だからね。


「では戻ろう。そして報告の上、解散だな」


年長者の兵士の言葉に頷き、僕達はマリーの待つ屋敷へと戻ることになった。


当然、先に麓の街に寄り、ざっくりと事情説明をして鉱山からコボルトが

出てこないかということだけはお願いしてのことだ。


結果として、僕達はそのダンジョンに再び行くことはなかった。


新しいダンジョンは冒険者垂涎の御飯の種となったようで、

どこからか話を聞きつけた冒険者達で鉱山街は活気を取り戻し、

いつしか魔水晶も取れる珍しいダンジョンとして流通も増える。


ごたごたしたオルファン領全体がその恩恵を受け、

人々の領主への視線が変わっていくのを日々感じるという。


騒動が少し落ち着きを取り戻したのは、

冬も山場を越え、寒さも和らいできたころの事であった。


そんなある日、僕は……旅に出る決意を固めていた。


変な病気持ちはいなかったようです。


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