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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-052「銀狼遊技-4」

「……まだ明るい? むしろ、今何日だろう」


『ひとまず拠点にしていた家に行こう。ホルコーの世話も必要じゃないか?』


焦りが声に出た自分と違い、どこか落ち着いたご先祖様の声に従い、

塔を出たところにはまだマリーがいなかったこともあり、

寝泊りした建物に向かうことにする。


人の気配はいくつか感じるので、

他にも冒険者がまだいるのは確実だった。


建物から塔は見えるから、マリーが出てきたらすぐにわかるだろう。


ホルコーの様子を見に言った僕は気になる物を見つけた。


見つけたというか、変わっていないというか。


「ホルコー、誰か足してくれたの?」


そう、塔に向かう時に用意しておいた状態と

ほとんど変わっていないのだ。


ホルコーは何をいってるの?とばかりに首を振る。


「……どういうこと?」


ふと空を見る。


「塔に向かったのは朝、で今は……お昼よりもう少し後、夕方前……ぐらいか。

 え、それだけしか経ってない?」


あの何回もの嫌な死の感覚がこんな短時間に?


入り口にいた依頼で管理などをしているという冒険者の人が

代わりにやってくれたというほうがわかりやすいのだけど、

周囲の状況がそれを否定する。


『ありうるな。俺の時代にも似たような物があった。

 なんでも魂だけを鍛えるらしい』


魂だけ……か。


スピリットなモンスターもいるぐらいだし、そういう物なのかな?


状況はひとまず置いておいて、マリーが出てくるまでに

自分の能力を確認する。


本当はギルドの物か、そういうスキルを持ってないと確認できないらしいんだよね。


虚空のメニューに僕の姿が浮かぶ。


いつみても不思議だけど、便利なのだから使わない手は無い。


その中に、ちゃんと覚えたスキルらが確認できたことに

僕は安心し、そのまま視線を塔へ向ける。


「あ……」


丁度というべきか、マリーの姿。


建物から飛び出すようにして駆け出す。


彼女も僕を見ると、笑顔で駆け寄ってくる。


僕はその顔を見て、彼女も試練を突破できたことを確証した。


「ファルクさん! よかった、私が先かと思いました!」


「お疲れ。マリーも?」


何を、とは言わなくても彼女は頷き、

腰に下げた袋から僕と同じような爪を取り出した。


そのままでも投擲武器に使えそうな鋭い爪。


僕がその爪に目を向けていると、マリーは突然自分を抱きしめるようにして震え出した。


「それにしても、もうやりたくないです。ほんとに」


その顔は苦々しい、というものを体現したような物だった。


よっぽどだったらしい。


「ちょっと休んでこうよ」


「ええ、ぜひ」


フォルティアの言葉が本当なら、

装備を除けば体自体は怪我1つ無いはずだった。


でもこのマリーの疲労具合はどうしたことだろうか。


その理由はすぐにわかることになる。


………


……



「移動詠唱と詠唱妨害耐性?」


「他にも多少魔法は増えたんですけど、大きいのはこの2つですね。

 走ったり移動しながらでも魔法に悪影響が出にくくなるのと、

 詠唱中に魔力の膜みたいなのが自分を覆って、強風とかに負けなくなります」


休憩がてら、マリーの語った内容は

自分の得たスキルや魔法の事だった。


移動詠唱はわかりやすいけど、詠唱妨害耐性は

名前の割にあれだね、魔法障壁、とかのほうがいいんじゃないかって中身だ。


「色々あるんだね。あれかな、王都とかに行けばそういう本もあるのかな?」


「どうでしょうね……よく聞く魔法やスキルなんかは

 習得条件も一緒に教練の教科書になっているとは聞きますけど」


マリー曰く、近衛や軍の兵士は戦力が均一になるように

一定のスキルや魔法は出来るだけ全員覚えるように特訓があるらしい。


それぞれの素質もあるだろうに、大変だね。


「うう、教練とかいってたらまた思い出してしまいました」


マリーが動揺しだすのには理由がある。


僕はフォルティアとの命のやり取りさながらの戦いだったけど、

マリーは別の形だったそうだ。


習得できたスキルからわかるように、

魔法の使い手としてどんな時でも魔法の発動が出来るように、という物だった。


崖の上での詠唱は元より、綱渡りをしながら、

走りながら、大雨に降られながら、強風に吹かれながら。


「え? 塔の中だったんだよね?」


僕の思わずの問いかけに、マリーは頷きで肯定した。


(あの中……そんなことにもなるんだ)


思い返せば、僕の戦っていた場所も

いつのまにかここから見える塔の幅より大きかった気がする。


『実際には体は動いてないだろうからな。そのあたりは望むままなんだろう』


ご先祖様の言うように、僕達はあの塔の中で

ある種、夢を見ていたような物なのだ。


となればなんでもありか。


マリーの告白はそれでもなお、そこまでやるかという物だった、


何回目かには底なし沼に沈みながら魔法での脱出を、

あるいはモンスターかと思わんばかりの虫が飛びかかってくる、

なんてこともあったらしい。


最後のトドメにはいかにもな悪そうな人間数名に

押さえつけられている、という女の子にはある意味最悪な状況でだった。


「さすがに危なかったですね。まあ、見事に発動してというか、

 やり過ぎな感じで吹き飛ばしちゃったんですけどね」


照れ隠しにそういうマリーの手を僕は握る。


「ファルクさん?」


キョトンとした様子のマリーだけど、

僕はそんな仕草にも色々と感情があふれそうだった。


どうしてそこまで頑張れたのか、ということを

うぬぼれでなければという条件付きだけど感じてしまったのだ。


「ありがとう。僕についてきてくれるために祝福を得るまではって

 頑張ってくれたんだよね?」


「えっと……その、ばれちゃいました?」


そういって笑うマリーに僕は、

簡単に言って好意を抱いていた。


そのことを意識すると妙に恥ずかしく、

ごまかすようにして僕は次の話題を口にした。


「得られた祝福は、(ことわり)の祝福、だった?」


「そうです、ね。そんなのが聞こえたので間違いないと思います。

 確実なのはギルドに顔を出して見てもらうことですけど」


ご先祖様の生きていた時代にはなかった祝福というスキルのような物だけど、

今回の効果は幅広い。


なんでも魔力を使う物、要はスキルや魔法全部に補正がはいるらしい。


祝福の強度が上がるとその補正も上昇する様だった。


とはいえ良い事ばかりではなく、その補正はあまり大きくなく、

薄皮何枚か、といったぐらいの物の様だった。


それでも、これを得た人であればその重要性はわかるだろうとも思う。


大体の状況では、その薄皮1枚が勝負を分けるのだから。


「あ、ほつれてる……むむ、ファルクさん。装備は点検した方がよさそうですよ」


装備しているローブのほつれ、穴あきに気が付いたマリーに言われ、

僕も自分の装備を点検しだした。


ローミスリルのリングメイルや剣は無事だけど、

街で買ったマントだとか脚部分の皮、リングメイルの中に着ていた服とかが

何故だか結構痛んでいた。


怪我はしないけど装備は痛む……不思議である。


気が付けば夕方になっていた。


どちらにせよすぐにはグラディアには帰れないけど、

確実に夜営することになるこの時間に出発する必要性も無く、

僕達はこのまま夜を過ごすことにした。


最初より少し意識してしまい、妙にドキドキしてしまう夜を終え、

僕達はグラディアに向けて帰還することになった。




「2人そろって突破か、先が楽しみだな。またな!」


依頼で来ていた冒険者に手を振り、ホルコーに乗ってグラディアに向かう。


これでギルドに提出したら僕達も1つ評価があがる。


評価が上がると受けられる依頼も増えるから、

これまで以上に考えることが多くなるだろうと思う。


「……ファルクさん、ちょっとお願いがあるんです」


「何? マリーが珍しいね」


そう長くない旅路だけど、マリーは僕が心配になるほど

僕の事を優先してくれる。


旅の目的自体が僕の両親を見つける、というのもあるかもしれないけどね。


そんなマリーのお願いだから出来るだけかなえてあげたいと思う。


「落ち着いたら、オブリーンの王都に行ってみたいんです」


僕はその言葉に頷く。


霊山の情報を集めるにも、都会の情報量は大事だと思うしね。


「わかったよ。まずはギルドへの報告だね」


「はいっ。出来れば冬までには行きたいですね」


その後は戻ったら何を食べようか、などとなんでもないことで盛り上がるのだった。



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