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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-039「壁1枚向こう側は何がある?-1」

『右前方、太い木の上だ』


「了解。マリー、いたよ……あれかな?」


「綺麗ですね……本当に虹色です」


背の高い木々が生い茂る林というより森に近い場所。


街からは半日ほど進んだ場所にある街道から少し離れた場所に僕達はいた。


聞こえた鳴き声にすぐに身をひそめ、その主を探す。


程なくして見つけたのは、1本の木の枝でさえずる1羽の鳥。


レイナル鳥っていうらしいけど、僕は初めて見る。


大きさとしては僕の手のひら4つ分といったところだろうか。


枝に乗っているにしては大きいと思うのだが、

その半分以上は長い羽根のせいだと思えばそう不思議ではない。


僕が見たことの無いレイナル鳥をそうだと判断できた理由は2つある。


1つはこの長い羽根。


そしてもう1つは陽の光に照らされ、光る羽根の色。


マリーの言うように、虹色だ。


正確には見る位置によって色が違うのだけど、

どちらにせよ綺麗なのだから問題ない。


これが装飾品としての需要がすごいらしく、

最も高い尾羽以外の部分も飛ぶ金貨と言われるぐらい高いのだ。


そのため、ギルドでも常時依頼は出ているのだけど

達成はなかなかできないらしい。


僕達に気が付いているのかいないのか、

余裕を感じる姿。


どこかに飛び立とうと動いたときと、

2人は魔法を唱え切った時はほぼ同時だった。


今回はあまり傷をつけるわけにはいかないので、

押し出すような感じの魔法だ。


普段であれば相手を吹き飛ばして間合いを取ったり、

動きを阻害するのだけど相手は鳥1羽。


あまり強く吹き飛ばしてどこかにぶつかってもらっても困るので

飛べない程度、に抑えてある。


鳴き声を上げながら落下してくる鳥に僕は駆け寄り、

予定通りに捕まえる。


「ごめんね」


こちらを見る目に感情を感じることはできなかったけど、

僕が自分の欲望のためにこの手の中で命を奪うのには変わりない。


自己満足でしかない一言をつぶやき、

村で家畜をそうしていたようにしっかりと絞める。


『慣れるしかないな。感傷ってやつだ』


(うん。わかってるよ。何をどうしたって僕達は命の上に生きているんだからね)


慰めるようなご先祖様の声にも僕の中の少しもやっとする気持ちは

どこかには行ってくれない。


その気持ちを振り払うようにマリーに声をかけて僕は街に戻る。


結果として、僕達は依頼として受けていた薬草採取のほか、

その報酬とは比べるのも馬鹿らしいほどの臨時収入も確保できそうだった。










「やるじゃねえか」


「運が良かったんだと思いますよ。開けた場所だったですしね。

 もっと木の間とかだったら魔法が上手く当たらなかったかもしれません」


冒険者ギルド脇の討伐記録用のテーブルの前で

僕は受付のお兄さんというかおじさんと語り合う。


話題の主は偶然遭遇できたレイナル鳥だ。


どうやら最近狩られた中でも一番の大きさと程度の良さだったらしく、

良い値段が付くから楽しみにしていろ、とのことだった。


尾羽だけは競売にかけてもらい、

その他の部分はギルドの鑑定結果をそのまま了承してお金に換えた。


今使う現金が欲しかったんだよね。


「そうだな。強さがあっても運が巡らなかったのかあっさりと死んじまったやつもいる。

 お前たちは大丈夫そうだな。必ず薬草採取を受けて、

 討伐が駄目でもからっけつにならないようにしてるみたいだからな」


僕達がこの街、グラディアに来てから既に2週間が経過していた。


その間、宿を見つけてからずっと僕達は依頼を受けている。


その日のうちに余裕があるように帰ってくるようにしているからか、

僕は元よりマリーにも疲れた様子は無いんだよね。


もっとも、スキルとしてのタフネスとかが間違いなく影響してるんだろうけど。


受付のおじさんに笑い返しながら、僕は受け取ったお金を

アイテムボックスに仕舞いながらギルドのホールへと戻る。


何人もの冒険者が依頼の相談でもしているのか騒がしいし、

壁に貼られた依頼書の前にも複数の人。


既に時間は夕方だから割のいい仕事、というのはほとんどない。


残っているのは常設の依頼か、

何かしら売れ残る理由のある依頼ばかりなのは

僕にでもわかる。


『前のままならギルドがやばい奴をそもそも受けないようにしているから

 見てるやつの評価に合わない依頼なのかもな』


ご先祖様曰く、冒険者は言うなれば国同士の共有財産、という考えで

冒険者ギルドは運営されているらしく、1国の勝手で無理が出来ないようになっているはずだ、

とのことだった。


確かに他の冒険者ギルドに行っても登録が最初からね、

ということもなくある程度の情報は共有されているようだった。


だからこそ僕とマリーの薬草採取にも最初から期待されていたし、

ギルド経由の自宅への手紙も思ったより簡単に手続きが出来た。


「マリーが戻ってきたら次の相談をしないと……」


僕は独り言のようにつぶやいて街に出ているマリーの帰りを待つ。


ギルドへの報告は僕がやり、

マリーには買い出しをお願いしているのだ。


僕が報告する理由の1つはアイテムボックスにある。


親から受け継いだ、という名目でアイテムボックス持ちだとちゃんとギルドに

覚えておいてもらうためだ。


どこからアイテムボックスが活躍できる依頼が来るかわからないという考えもあるのだけど、

オーガの角と同じく、黙っていてどこかでばれて狙われるより

最初から知られていたほうが危険性は意外と下がるかな、という考えは主だ。


奮発して買った魔法の袋をこそこそ隠し持っていたら

無くなった、なんて話も聞いている。


もっとも、僕のアイテムボックスは魔法の袋として

売買が出来るような物とは違うので襲われても奪われることは無いわけだけどね。


「お待たせしました。こんな感じですね」


と、そうこうしているうちにマリーが

彼女の体格からすると大荷物を抱えて帰ってくる。


干した果物などの保存食のほか、

僕のアイテムボックスに入れる前提の新鮮な物まで。


「お疲れ様。剣はどうだった?」


僕は彼女から荷物を受け取っては仕舞い込みながら

気になっていたことを聞いてみた。


「あ、はい。明日の朝には出来上がるらしいですよ」


「よかった。早く試したいな」


剣、とは僕が街の鍛冶職人に新しく頼んだ僕の主武装になるであろう物の事だ。


幸いにも僕には苦手な物、というのは無いようだけど

何でもできる、はいざという時に動きに困ると

ルクルスさんやサフィリアさんから忠告を受けている。


ご先祖様もまた、いくつかに絞っておくほうが後々流用が効くだろうとのことで

近接の剣と中距離以上の何か、そして魔法とにしておくほうが良いだろうと助言をくれた。


「ふふ……。ファルクさん子供みたい」


気分が高揚し、はしゃいだ声になっていたからか、

マリーがそんなことを言ってきた。


「ひどいな。僕やマリーはまだまだ子供だよ?」


怒ることなく、笑いながら僕が言い返すと

2人して笑うことになった。


何が面白いんだか自分でもよくわからないんだけどね。






そんな、ある日のことだ。


いつものように冒険者ギルドに顔を出した僕達は

普段なら見ない光景を目にすることになる。


冒険者ギルドには不釣り合いな姿。


僕が言うのもなんだけど、どう見ても子供、

しかもまだ10歳にもなっていなさそうな男の子だ。


「えー、銅貨じゃだめなのー?」


「だめってことはないが、受けてくれる奴はいないんじゃないか?」


やや舌足らずなしゃべりで何かをカウンターに置いて

受付の男の人と話している。


話の内容からすると、男の子が銅貨を報酬に

何かを依頼したいけどギルド側が止めているというところだろうか?


確かに冒険者に依頼するような何か、だとしたら

銅貨は安いというか相場からはかなり離れている、


大体が命のやり取りをするか、僕達が良くやるように外で採取なのだから。


と、マリーを見ると僕に頷き返してくる。


僕もまた、苦笑気味に笑みを浮かべ頷き、無言のまま

なおも話が続いているカウンターに歩み寄る。


「お? ボウズ、ちょっと待っててな。よう、今日はどこに採取に行くんだ?」


既に顔なじみである僕達がカウンターに来たことで

また採取依頼を受けに来たのだと思ったであろう会話を

僕は片手を上げて止め、受付と男の子を交互に見る。


「何かもめてるというか、妙な感じだったので」


「お前さんも人が良いからな。なあに、大したことじゃないんだ。

 ボウズがよ、父親にお弁当を届けたいんだと」


言われてそちらを見ると、男の子がカウンターに置いた何かは

なるほど、確かにお弁当の様だった。


そこで僕は疑問を覚える。


普通に届けにいけばいいではないか、と。


同時に納得もする。


父親は男の子が行くことが出来ない場所に行っているのだと。


「もしかして、鉱山で働いていらっしゃるんですか?」


「おう。ここらじゃ有名な採掘師さ。運が良いのか悪いのか、

 よく魔物と出会うんだが良い鉱脈にも当たるって評判でな」


横合いからのマリーの問いかけに受付さんも答え、

3人の視線が男の子に集まる。


「おにーちゃんがとどけてくれるの?」


「それはわからないけど、どうしても届けないといけないのかい?」


期待に満ちた目で僕を見る男の子に僕は問いかける。


ご飯が無いのは悲しいことだけど、

良い大人であれば何かしらの方法で何とかすることだろうと思うからだ。


「えっとね、今日はお父さんのたんじょうびなの! 

 だからおとーさんがだいすきなおかずばっかりなんだよ。

 となりのおばさんがつくってくれたおべんとうなんだ!」


にこにことお弁当箱を抱える男の子。


僕はそれでようやく納得した。


魔物が出るかもしれない鉱山にお弁当を届けたい。


だから本人はいけないから冒険者に。


そして受付が渋るのも当然だ。


なにせ、出せる報酬が銅貨で5枚だからだ。


本人にとっては大切な銅貨。


でも5枚だと屋台で2人分の飲み物を買ったら

下手したらそれで終わってしまうぐらいのお金なのだ。


何かの用事がある冒険者ぐらいしか受けようとも思えないだろう。


そして今はそう都合のいい冒険者もほぼいないようだった。


そう、僕達を除いてね。


「マリー」


「ええ、行きましょう。お父さんはどこの鉱山にいるの?」


僕が多くを語る前にマリーは頷いて

男の子の視線に合わせるようにしゃがみ込み、話し始める。


見れば受付の呆れたような表情。


対してすぐに明るくなる男の子の表情。


声にはならないけど、ご先祖様が肩をすくめたような気がした。





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