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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-035「グリーングリーン-5」

原因は全く別ですが終わり際に揺れる描写若干量ありです。

その日の朝は妙にすっきりした目覚めだった。


何かの予感……という感じでもない。


昨夜は宴の続きだ、と元気のいいエルフたちに運ばれるように巻き込まれ、

そのままワイワイと騒いだところぐらいまでは覚えているのだけど……。


僕もお酒なんて村のお祭りぐらいだから

ひどく酔っぱらってしまったのだろうか?


父さんもたまにひどく酔っぱらって母に怒られていた気がする。


次の日にはよく覚えていない、なんていいながらね。


ただ、そうやって酔っぱらってしまったにしては

目覚めは悪くない。


こんな日もあるだろうか、と思い直して服を整える。


今日はユグドラシルの元へと行く日なのだから。


記憶が無いのは不思議だけど、

ご先祖様も特にいってこないので

エルフたちに変な姿を見せた、みたいなことは無いんだろうと思う。


というかご先祖様が今日は静かだ。


(ファクトじいちゃん?)


頭の中で呼びかけてみるが沈黙。


もっと意識を向けてみると、黙っているというより寝ているような感じだ。


魔道具に宿った意志みたいなものだから寝る必要はないとか言ってたのにね。


それでも、体がいつもより重いといった事は無く、

むしろいつも通りの補助は感じるので

大きな問題は無いように思える。


生身じゃないとはいえご先祖様も人間。


こんなこともあるのだろう。




「おはようございます」


「ああ、おはよう。マリー君も起きてきたよ」


お湯を沸かしていたのか、かまどの前で

しゃがみこんでいたサフィリアさんが指さす先では

マリーも着替えた状態で部屋から出てきていた。


ここはサフィリアさんの家だという木造の家。


なんでもエルフは独り立ちしたら将来家族が増えた時に備えて

複数の部屋を持った家を作ることに決まっているらしい。


その今は使っていない部屋にお邪魔した、という訳だ。


掃除は魔法で行うのでほとんど労力が要らないそうで、

不在の間はお互いに管理しあうのがエルフの決まりなのだとか。


「ユグドラシルまではサフィリアさんが案内してくれるんでしたっけ?」


「そうなんだけど、ね。どうもお婆様、エメーナ様は閉じこもる人じゃないからね」


アイテムボックスから、預かった小枝を出して聞いてみると

歯切れの悪い言葉が飛び出す。


エメーナさん(こう呼ぶように言われたからそう呼ぶ)は

かなりの高齢のはずなのにかなり元気に歩く。


昨日も何気に帰りは杖無しで歩いていったからね。


「直々についてくるんですか?」


僕は思わず声をあげ、横で聞いていたマリーも同様に頷いて同意してくる。


言うなれば王様が直々に旅に出るような物だと思うんだよね。


「エルフの場合、年を経るごとに経験は増す、を美徳とするからね。

 さすがに以前より魔力のほうは落ちたみたいだけど

 運用は随一なんじゃないかな」


だから、覚悟は決めておいて、と笑ってサフィリアさんは朝食の準備を再開した。






そして……。


今、僕は自分以外の5人と1頭で森の入り口、

いや、村の出口というべき場所にいる。


マリーとサフィリアさん、

そして本当についてきたエメーナさんに

見たことのある2人の若いエルフ。


最初は護衛かな?と思ったんだけどどうも違うようだ。


逆にいい経験だろうからおいでなさい、ということらしい。


流れに乗ってここまできたけど僕とマリーだって

まだ1年も活動していない冒険者の駆け出しでしかない。


こっちのほうが学ぶことが多そうだけど、

それをいちいち口にするのもどうかと思いなおすことにした。


「さあ、参りましょう」


にこやかに笑うエメーナさんの声を合図に僕達は歩き出す。


しばらくはここに来た時の同じような光景が続く。


ある意味静かで、ある意味騒々しい。


でも、どこか落ち着く不思議な場所だ。


「ここってどこになるんですか?」


マリーがそう声をかける先はホルコーの背中の相手。


そう、ホルコーに乗っているのはエメーナさんだ。


サフィリアさんは僕達やその行動に興味を持つんじゃないか、

と言っていたし、恐らくはそうだろうと思う。


でも、エメーナさんは一言、

『よく考えたら私もユグドラシルに用事があるのです』

と言ってきた。


であれば別々に行く必要はないでしょう、と。


こちらとしてはそう言われては何も言えない。


困った時のご先祖様も反応が感じられないわけじゃないけど、

声は返ってこない。


朝と違って今度はどうもこちらの問いかけに答える余裕が無いような感じだ。


どうも忙しく皮をなめしていた父に話しかけた時のことを思い出した。


何かやってるのかな?


ともあれ、目上となるエメーナさんを歩かせて

僕らがホルコーに乗るのもどうかと思ったので

こちらからホルコーに乗るように勧めたのだ。


意外と乗り慣れているのか、

エメーナさんは僕に言われると頷き返し、

そのまま手助け無しでひょいっとホルコーの背に乗る。


その時にホルコーが少し体勢を変えたのに気が付き、

僕はホルコーの頬をねぎらうように撫でる。


「久しく乗ってませんでしたが、やはり馬というのは面白いですね」


そういって笑うエメーナさんはとても里の長をするほどの年齢には見えない。


けど、纏う雰囲気というか気配は

出会ったエルフの誰よりもすごい。


すごいというのも、強いという表現もちょっと変だけど、

長年を生きてきたんだなと否応にも実感させるものだった。


そんなエメーナさんへマリーは疑問をぶつけたのだ。


「エルフの里、そのそばの森ですよ」


からかいとも違う、こちらを試すような声。


マリーはそれを感じ取ったのか、

言葉を選ぶように少し沈黙してから口を開いた。


「ここ、そのまま外から来れない場所ですよね?」


何かを確信した表情のマリー。


そう、僕も感じていた。


この森、そしてエルフの里が色んな意味で普通じゃないな、と。


ここは村のそばにあった秘密の場所と同じ。


特定の入り口からじゃないと入れず、

それ以外は外からはたどり着けない場所。


あの秘密の場所も、外から掘ったりしてもたどり着けないであろう中だ。


「サフィリアの言うように良い子ですね。ええ、その通り。

 別の世界、といって通じるかしら?

 そうね……外でいうダンジョンと同じような物です」


エメーナさんはマリーの言葉に満足そうに頷く。


ダンジョンと言っても洞窟型もあれば

塔のような場所に入る物もあり、

中には明らかに入れそうな場所があるのに

決まった場所以外からは入れないという物もある。


今回はその後者たちということなんだと思う。


「昔々、最初にこの里にやってきた人間は半月ほど森をさまよった末に

 たまたま外に出たエルフと出会い、命をつないだそうです。

 それだけたどり着けない場所であり、外とは異なる場所です。

 仮に森が全て魔法なりで燃やされたとしても里は無事でしょうね」


広大、というしかない森が燃えても無事、と言われても

いまいち想像しきれないけど、エメーナさんが言い切るだけの根拠があるのだろう。


「平和なんですね。そして、だからこそ人間による悪い事件は目立つ……」


僕も噂のように聞いた限りだけど、過去にはエルフをだましたり、

いくつかある入り口から侵入して誘拐するなどの事件が

嘘か本当か結構起きたらしいんだよね。


そんなことを考えながらつぶやくと

エメーナさん以外の2人もそれぞれに頷いた。


「ファルク君が気にしてくれるのはありがたいけど、

 過ぎたことではあるからね。それに、エルフだって欲望はある。

 不幸な事件ではあるけど、違う生き方が出会えば衝突はあるものさ」


歩く僕の肩をサフィリアさんはそう笑いながら叩いてくれる。


エメーナさんや他の2人も同意見らしく、

苦笑した様子でこちらに顔を向けてくる。


そういえばこの2人、最初の挨拶以外に一切喋らない。


その疑問を口にしようとした時の事だった。


たまたま視界に入っていたマリーが

前ではなく、全然違う方向を向いていた。


「? マリー、どうしたの?」


「いえ……何か聞こえた……ううん、何か揺れたような?」


揺れる? この中で?


疑問を浮かべたままサフィリアさん達を見るも、誰もが首を振る。


「何かが迷い込んでくるならともかく、外のように揺れることは無いはずだよ。

 ここは地面も外と違うからね」


代表してかサフィリアさんがそう言い切った時だ。


揺れるというより、何か大きな音が響いたときの波打つような感覚が僕達を襲った。


「!? これは!?」


慌ててホルコーにしがみつくエメーナさんの声にも焦りがある。


僕はとっさに気配以外に魔力を探るように意識を向ける。


すると、向かって右前の奥の方で何かうごめくような物を感じた。


まるで池に石を投げた時のような波のような物。


「あっちの奥、何かを感じます」


僕はそういって、駆け出した。


何があるにせよ、確かめないわけにはいかない。


と、並走する影。


足元に魔力をまとわせたサフィリアさんだ。


「森への入り口近くは稀に、怪物が引っかかっていることがある。

 転移には魔力を使うからね。怪物の中でも魔力を持つ者が

 転移柱を誤作動させることも無いわけじゃないんだよ」


言いながら2人して走る。


1本の大木を迂回した先に、それはあった。


「……ヒビ?」


「ヒビ、だね。これは……」


僕の視線の先にあるのは、空中に浮かぶ半透明のヒビ。


まるで透明な大きな壁に入ったような大きな物だ。


1つ1つが子供ほどの大きさがある。


問題はこれがどうして発生したかだ。


自然にとは考えにくいのは僕でもわかる。


「! 何か来る!」


ヒビの向こうは外の世界なのか、僕のスキルにも何か違う物を感じる。


遠かったその気配が近づいてくる。


僕はその気配に覚えがあった。


これはそう、あのオーガを落としていったであろう何者かの気配。


その時だ。


気配が遠ざかったと同時、僕とサフィリアさんの目の前で

いくつもあったヒビの場所からさらなる轟音と、砕けるような気配が伝わってくる。


続けて響くような地面の揺れ。


いや、確かに砕けたのだ。


半透明に見えていたヒビは完全な穴となり、

そこからは外の、普通の森が見えている。


その穴の周囲には元のエルフの里の森。


「馬鹿な! 迷いの結界が!?」


サフィリアさんが叫ぶのも無理はない。


穴をふさぐようにして動かない巨大な影が2つ。


気配感知に反応が無いので相手はもう死んでいるようだけど、

巨体過ぎる。


呆然と前の光景を見る僕とサフィリアさんの背中に

僕を呼びかけるマリーの声が届く。


振り返れば、マリーやエメーナさんたちもそろってやってくるところだった。


皆、目の前の光景と巨体に驚きから声も出ないようだ。


『地竜、それも2匹か。一体どういうことだ……』


同じように呆然としてしまった僕を引きもどしたのは、

久しぶりと感じるご先祖様の声だった。


ただユグドラシルの元へ行くだけだったはずの予定が、

とんでもないことになってしまったことを感じながら

僕は頭の中でご先祖様に語り掛けるのだった。


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