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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-031「グリーングリーン-1」

「武具は使ってこそナンボだけどよ、良い武器だ。次は上手く使ってやんな」


「はい。耳が痛いですよ、うん」


聞けばドワーフとのハーフだという鍛冶のおじさんから

研ぎあがったばかりの長剣を受け取り、代金を払う。


『スキルが高まれば切れる方向であるとか、斬りたい部分の斬り方とかが

 精霊がなんとなーく教えてくれるんだが……今は経験しかないな』


(一つ一つ、だねえ)


工房から出るとまだ日は高い。


剣を預けたのは前日なのだから当然かもしれない。


マリーは何やらランダさんと郊外に出ている。


特訓だという話だけど、さて……。


視線を前に戻した僕の視界に、教会が飛び込んでくる。


そういえば、ほとんど行ってなかったね。


「村には教会なんて言えるような物は無かったからなあ」


外にはマテリアル教の一文である『精物流転』(せいぶつるてん)

看板というか板がある。


全ては精霊であり、精霊は全てであり、精霊が巡ることで

世界は維持されているという意味だ。


精霊のいない世界が実はあるであるとか、精霊を壊してまで使う禁呪があるとか、

昔から噂の絶えない話であるけど、精霊がこの世界で

非常に重要なのは間違いないと思う。


僕はやや古びた、重厚な木の扉をくぐる。


お年寄りも入りやすいようにか、閉まってはいなかった。


「あれ、サフィリアさん」


「ん? おお、ファルク君じゃないか。君もお祈りかい?」


立ち並ぶ長椅子の1つで祈りの姿勢をとるでもなく、

何故か腕組をして正面の戦乙女の像を見ていた人、サフィリアさんに声をかける。


君も、ということはサフィリアさんもお祈りに来たということになるのだが……。


「私はお祈り自体は終わっているよ。少し考え事をね」


僕は頷き、ザイーダじいちゃんに教わったように

戦乙女像の近くまで行くと片膝をつき、祈る。


祈ると言っても特別な言葉等は無い。


今日までの糧と、生きていることへの感謝と、

今日、そして明日も生きることを心の中で宣言するだけのことだ。


ちなみにだけど、飾られている像は教会によってバラバラだ。


というよりも本来は像は無くても一緒なのだ。


なにせ、精霊は全てであるのだから、何を拝もうと精霊を拝めることに変わりはない。


ただ単に、聖女や戦乙女、天使やかつての英雄の像なのがわかりやすい、ということのようだった。


(あれかな、探せばじいちゃんのもあるかな?)


『かもしれんがあまり見たくはないな。恥ずかしい』


照れたようなファクトじいちゃんの声に、僕は内心笑いながらお祈りを済ませる。


その時だ。


「あれ……?」


それは声になったのだろうか?


さっきまでいたはずの石造りの教会ではなく、

僕は何もない黒い、上も下も星空のような不思議な空間に来ていた。


不思議と、足元だけは透明な氷の上にでもいるかのように硬い。


『やはりな。ファルク、先祖返りとでもいうべきか、お前には力がある。

 俺や、かつての英雄たちと同様、自分を把握する力だ』


声が響き、目の前に半透明の何かが出てくる。


「これは……僕? 何か数字が書かれてる」


アイテムボックスを使う時のような文字や画面の中、

そこには腕の良い絵師さんが僕を書いたと言ってもいいような

僕の姿と、横に並ぶ何かの数字。


そして別の場所にはスキル、アイテム、と読める文字が並ぶ。


『今見えているのはステータス、まあ能力の一覧だ。

 普通は、自分がどう育つかは運任せだ。

 こうして祈りに来ることで多少は干渉できるけどな。

 それも精々が力が強くなりたい、と言ったぐらいの傾向の調整だな』


くいっと、僕の腕が勝手に伸びて数字の1つに指先が当たる。


すると、わずかに光ったかと思うとその数字が1増えた。


代わりに隅にあった数字が1減った。


これは……。


『ファルク、俺はお前の切り札だ。爺さん婆さんは孫に甘いとかよく言うけどな。

 俺は今さらだけどその比じゃない。自分がなんにでもなれる。

 その反則具合は唯一無二……かはお前次第だ。

 さあ、今外からはすこーしお祈りしてるだけの時間しか過ぎていない。

 考えよう、今の自分の行く先を』


僕は頷き、質問のために口を開く。






「……ファルク君。君は……」


お祈りを終え、まだ長椅子に座っていたサフィリアさんの元へと戻った僕は

そんな驚きの声で迎えられた。


「冒険者には秘密が付きものらしいです、って言った方がいいんですかね?」


イマイチ世間の事が詳しくないので、見聞きしたことからそれだけを言う。


お祈りをする前と比べて、僕の魔力が増えていることをきっと感じたのだろう。


「ふむ……。まあ、そうだね。魔道具の中には力や魔力、速さや頑丈さなんかを

 大きく高める物もある。だから明らかに何かが変わったこと自体はありうる、ってとこだね」


これなんかもそうさ、とサフィリアさんは無造作に

自身の指にはまっている指輪をつまむ。


「それでもまあ、よかったら里に一度来ないかい? その腕輪の話も聞きたいし、

 里には森の祝福が得られるかもしれない宝珠もあるしね」


「祝福が? でも、エルフの里に人間が入れるんですか?」


やっぱりわかっちゃうか、と腕輪のことを言われたことに若干焦りを覚えながらも

僕は聞いたことのある話を口にする。


曰く、エルフの里は迷いの森であり尋ねようとしても無駄だと。


「確かにね。私たちの寿命の秘密を探ろうとか、魔道具作成の術を手に入れよう、とかね。

 これは人間に限ったことじゃないけども。自衛はするけど、拒絶まではしないかな。

 現にこうして私のように外に出るエルフも徐々に増えているからね」


ルクルスも私の耳を見てすぐに声をかけてきたよ、と

懐かしむようにサフィリアさんはいって席を立った。


「長話なら酒場にでもいこうか。もしくはギルド横で特訓でもいいけれども」


口ではそう言いながら、サフィリアさんの視線は僕の剣とご先祖様を行き来している。


つまりはできれば戦いたいということなのだろう。


頭に浮かぶのはランダさんのいっていたサフィリアさんが攻撃馬鹿だという話。


エルフの割にそういう性格だから里から出てきたんだろうか?


『いや、意外とな……エルフって活発なんだ』


疑問を浮かべた僕に、何かを思い出すようにご先祖様が答える。


そんなもんなのだろうか?


まあでも、人間なんてこうだ、ってひとまとめに言うような物だもんね。


森に潜み、探究を続ける座した者、なんていうのはエルフに対する偏見ということだったのかな。







「私が魔法を普通に使えず、武器にまとわすだけみたいなことをいったのは覚えているかな?」


訓練用の先が丸い木槍を手に、サフィリアさんが言う言葉に僕は頷く。


この前の場所では火が主だったけど、

他の属性も使えるようなことを言っていた記憶がある。


「いわゆる撃ち出すような魔法はほとんど使えないんだ。使えないというよりは

 効力を発揮しにくい、というべきかな?

 使えなくはないんだけど、実用性が皆無でね」


言い終え、何事かを呟いたサフィリアさんの掌に炎。


「え? それって……」


僕は思わずそう言ってしまい、慌てて口をつぐむ。


「いいよ。自分が良くわかってる。これが火の矢だからね。直接投げるぐらいにしか使えない。

 でもまあ、その分こっちは頑張ったよ」


手のひらの炎が消え、僕の視界に新しい赤が入る。


「戦闘中は効率も考えて抑えてるけどね。このぐらいはできる」


「おお……」


『少なくとも火魔法自体は5段階目は超えているな……。

 段階が1つ上がるたびに次に上がりにくいことを考えるとかなりの物だ』


僕の感嘆の声に、ご先祖様からも驚きの声がする。


穂先だけでなく途中や石突まで、ほぼすべてが炎に包まれた槍。


赤い何かで包まれた、というのが正しいだろうか。


振るう度に熱気と、その威力がこの距離でもわかる。


しかも、だ。


何がすごいのかと言えば、これでも手にした自分自身や

槍自体はなんら影響を受けていないということだ。


木槍どころか、穂先の布も焦げる様子すらない。


つまり、外向きにしか影響を与えていない上に

自分自身などは熱くならないということだ。


爆風に下手をすると巻き込む通常の魔法と比べて、

その制御具合のすごさがわかるというものだ。


と、サフィリアさんは炎を収め、ただの槍となった穂先を僕に向ける。


「ファルク君、君は若い。だからこそなんにでもなれそうだ。

 その助けの1つになればと思って教えよう。さあ、好きに打ち込んできなさい」


僕はサフィリアさんの、長命のエルフである人生の先輩へと

頷きと共に練習用の木剣を握りしめ走り出す。



おおよそ1刻後。


「くっ!」


「おっと……。防がれてしまったね」


右肩に迫る鋭すぎる槍。


僕は身をひねりながら剣ではじくのが精一杯だった。


しかも、そのせいで姿勢を崩して尻もちをついてしまう。


「実戦ではその姿勢は駄目だろうけど、成長はしたんじゃないかな。

 今までは突けば突かれるままだったわけだからね」


「ありがとうございます」


サフィリアさんのいうように、ご先祖様の支援をなくした状態では

僕はまだまだ弱かった。


能力自体は底上げされているらしく、こうしようか、ああしようかと

思いつきさえすればぎりぎり体はついてくるのだけど、

まだその判断が遅いのだろう。


「私としては君の経験からその強さという時点でお手上げなのだけどね。

 まだ1年もたっていないんだろう? 精々強くなって私達を楽させてくれると嬉しいな」


ルクルスさんのようなことを言って、サフィリアさんは笑う。


そう、世の中にはモンスターや厄介な事件は数多い。


評価が上がると自然とそういった身の丈に合った依頼を

主に受けなければならなくなってくるわけだけど、

出来ればやりたくないような依頼も多いらしい。


実入りがいいということは、その分事故の危険性も増すという訳だ。


「さて、ルクルスたちやランダも今日は依頼を受けていないからね。

 自由行動ってやつさ。私はまだいいけど、続けるかい?」


僕は返答の代わりに立ちあがり、剣を構える。


そうこなくては、と言わんばかりのサフィリアさんの笑みを見ながら

僕は再び挑みかかる。






訓練を終え、へとへとになった僕は

着替えを済ませ、早々に寝てしまう。


いつものようにベッドで眠り込んだ僕だったが

朝、マリーが同じベッドにいることでサフィリアさんに吹き飛ばされたとき以上に

声を出してしまったのはできれば忘れてしまいたい話だった。


エルフの寿命は200~800ぐらいを想定しています。

この差自体はグリーングリーン終わりには記載予定。

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