表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/257

MD2-003-「1人と1人(?)の旅路」

繋ぎの短い回です。お話は全く動いておりません。

『泣かれたな』


「うん……僕も本当はさ、あの時、泣きたかったんだ。でも、泣けなかった」


(ルーファスもいつの間にか大きくなってたんだな、当然か)


頭に響く声に、僕は一人の馬上でつぶやく。


後ろを振り向いたならば、もうほとんど見えない村の入り口と街道。


振り返ったのはほんの数瞬。


そんな中でも思い出されるのは別れの朝の事だった。





あの日、盗賊達をなんとか全員撃退、正確には全員……殺してしまったのだけど、

逆に村人が殺されるということは回避した夜。


収穫祭として騒ぐ村の人たちを遠目に見ながら僕は決心していた。


両親を、最低でも手がかりぐらいは探そうと。


それはつまり、家を出るということだ。


まだ幼い弟たちを残して。


いつ言い出すかその決心はつかぬまま、

僕は翌日いつものように店の準備をするべく起きた。


と言っても、祭りの時に飲まされたお酒のせいか、

いつもよりはだいぶ遅い時間だ。


冒険者の人が来る時間にはまだ早いが、

お店となれば在庫の状態確認などに時間がかかるのだ。


急いでやらないとなあと思いながら裏口のドアを開ける。


─そこには既にカウンターのふき掃除を始めていた弟、ルーファスがいた


「え?」


いつも、僕が朝ごはんだよって起こさないと起きてこないようなルーファスがいる?


「あ、にいちゃ。おはよう!」


僕の驚きを他所に、ルーファスは飛び切りの笑顔で笑いながら拭き掃除をしたぞうきんを絞っている。


「お、おはよう。早いね」


「うんっ。だって今日からお店はぼくと、メルのお店なんだからね」


ルーファスの言葉を理解するのに僕はしばらくの時間を要した。


見れば、既に棚の商品達にもはたきがかけられているのか

ほこりもほとんど見受けられない。


「お兄ちゃん、おはよう」


どこか呆然と店の中を見ていた僕の背中にかけられる声。


振り返ればいつ手に入れたのか、ピンク色のエプロンをして

箒を抱えたメルが店に入ってきた。


「……どういうこと?」


『鈍い奴だな。2人の目を見てみろよ』


つぶやく僕の頭に、ご先祖様、ファクトじいちゃんの声が響く。


本人的にはおじいちゃんのつもりはないようだけど、

好きなように呼ぶ許可はもらったのである。


言われて、2人の目を見る。


そこには、あの日の僕がいた。


「ああ……そうか」


「うん。にいちゃはさ、行ってきていいよ」


「うんうん」


そこには、あの日、親を送り出した僕がいた。


「にいちゃだって10歳で店番始めたんだから、大丈夫!」


「おじじも、村のみんなもいるよ! あと、この子たちも」


メルの足元でひょこっと動いているのはファクトじいちゃんの出してくれた

魔法の人形2人。


多少なりとも魔法を使い、戦うことになった今の僕にはわかる。


この2人(?)が強いことを。


安全面では大丈夫だということなのだろう。


「そう……か。頼めるかい?」


「うん」


ルーファスは僕の言葉に静かに頷き、じっとこちらを見る。


(ああ……あの日そのものだ)


僕はあの日、同じように頷いた。


そして、何も言えずにある種の後悔をずっと抱えていたのだ。


僕がそれを口にするか悩んでいると、

正面と、横から衝撃。


ルーファスとメルが抱き付いてきたのだ。


小さな、それでもいつの間にか大きくなった2人。


「グスッ……にいちゃは帰ってくるよね? いなくならないよね?」


「絶対、帰ってきてよ」


『ほら、抱きしめてやれよ。お兄ちゃん』


言われるまでも無い。


僕は感情のまま、あの日僕がしてほしかったこと、したかったことを

再現するかのように2人をきつく抱きしめ、約束した。


「ああ。子供をこんなに放っておいて、って叱って連れて帰ってくるさ」




村から出るということに関しては思ったより、村の人々はあっさりしていた。


2人に店を任せた足でザイーダじいちゃんと

村長の元にそれを伝えに行くと、

2人してついにか、と納得してくれたのだ。


餞別にと干し肉なんかを渡してくれ、

じいちゃんは昔使っていたという冒険用の道具をくれた。


そして村人からはなんと、馬一頭。


なんだかんだで、こうして僕は馬上の人となっていた。






『まずはギルドだったかに登録か?』


「そうだね。情報を集めるにしても、力をつけるにしても冒険者ギルドの登録は必須かな」


街道には僕1人、だからファクトじいちゃんにも声を出して答える。


僕の目的は冒険者となり力をつけ、

親の行方を探しながら手がかりを見つけ、発見だ。


良い結果か、悪い結果か、どちらにせよはっきりさせたい。


そのためにはまずは力を付けないと。


『そうだな。昔の通りならギルド間で連絡が取れる。偉くなったり有名になれば

 そういう手段でも情報が集められるかもしれない。訓練も並行してやっていこう』


言葉が終わるや否や、腕輪から暖かい何かの流れが体をめぐる。


まるで日向で空の光を浴びているときのようなぽかぽかした気持ちだ。


『これが魔力の流れだ。魔力を要は食事として精霊に呼びかけ、何かをしてもらう。

 慣れと力の増大で同じ魔力でも大きな結果を呼び込める』


「へー。確かに木の上に飛んだ時もちょっと何かが抜けてる気がしたんだよね」


あの時、僕もご先祖様も呪文は唱えていなかった。


前に会った冒険者は強い魔法には長い呪文が必須だとか言っていたけど……。


『そりゃ人間は精霊じゃないからな。精霊に力を借りるのには言葉がいる。

 厄介なお願い程しっかりと、だな。その分、エルフやドワーフみたいな

 精霊に近い存在程短い言葉で力が使えるんだ』


僕の考えを読み取り、おじいちゃんの豆知識、と言わんばかりに

頭に響く声。


魔法は精霊の力を借りたある種の奇跡、ということかな。


確かに風が吹く、ぐらいならともかく

何もないところに火が出てくる、とか普通じゃないもんね。


『そういうことだな。最後に物を言うのは自分自身の力だ。

 俺は今、ファルクの道具でしかない。補助要員だな。

 決めて、動くのはファルク、お前自身だ。そのことをよく考えておけ』


どこか浮かれそうになった僕の気持ちを感じ取って、

丁寧に注意してくれるファクトじいちゃん。


僕は頷き、馬上ではあるが

僕に今できて、ご先祖様の力で出来ることは何かの教えを受ける。


その結果、わかったことは以下のような物だ。


まずは魔力をちょっとだけ使った保管庫、アイテムボックスと呼ばれる異空間の利用。


今はまだ水瓶5壺ぐらいだということだけど、僕が強くなれば容量はどんどん増えるらしい。


入れた中身が頭と、半透明な紙のような物が浮かんで選んで取り出せるというのだからすごい。


ついでに腐らないらしい。


だから生きてる物は入れられないんだとか。


次に物品生成。


これはファクトじいちゃんが人間だったころに手にしていた力が残っているらしく、

これまた僕の力の育ち具合によって変化するらしい。


今はこの前のような長剣を短時間か、手投げナイフを作るぐらいらしい。


それでも便利すぎる反則能力だ。


次に体や魔法の代理行使。


僕の体と力を使って、腕を動かしたり、

僕が覚えていないような魔法をある程度使えるとのこと。


勿論、無理な物は無理なので補助だと思え、と言われた。


僕が冒険に慣れ、力をつけるほどこれの出番は減るだろうなと言っていた。


他にも細かい話はあったのだが、大きなところはこのぐらいだった。


正直、もてあましそうである。


でも、当てのない旅である僕にとってはこの上なく、頼りになる力と、助言役だろうと思う。






『ほお、これがそうか』


(うん。僕も何回目かだけどやっぱり町は大きいねえ)


段々と街道も綺麗となり、

町の外壁が見えてくると僕とファクトじいちゃんは頭の中でつぶやきあう。


たどり着いた先は村から1番近いギルドのある町。


さらに近くには難易度の低いダンジョンを抱えている。


こういった町が大陸のあちこちにあるらしく、

ダンジョンがあって町が出来たのだろうという話だった。


門番の人に挨拶と馬を預ける先を聞き出し、まずは馬を預ける。


向かう先は剣と盾が目立つ看板の冒険者ギルドだ。


「お邪魔しまーす!」


思ったよりも軽いドアをあけ放ち僕は叫ぶ。


その返事はいくつもの冒険者らしい人々の視線であった。


『普通はさ、もうちょっとゆっくり入らないか?』


(言わないでよ、間違えた!って思ってるんだから)


僕の冒険者デビューは、すんなり、というわけにはいかないようだった。

なお、


・ルーファス

黒髪短髪。瞳はやや銀色。

村の子供らしくちょっと運動が得意なちびっこ。


・メル

こげ茶に近い長髪。黒瞳。

年も年なのでぺったんこです。


どっちもその手に誘拐されて売られてしまいそうな顔立ち、

なんて考えていますが出番は多くありません……残念。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつもご覧いただきありがとうございます。その1アクセス、あるいは評価やブックマーク1つ1つが糧になります。
ぽちっとされると「ああ、楽しんでもらえたんだな」とわかり小躍りします。
今後ともよろしくお願いします。

小説家になろう 勝手にランキング

○他にも同時に連載中です。よかったらどうぞ
兄馬鹿勇者は妹魔王と静かに暮らしたい~シスコンは治す薬がありません~:http://ncode.syosetu.com/n8526dn/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ