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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-028「よぎる不安-5」

不死者のうめき声と、トレントの立てる音。


そして僕達冒険者の叫びと武器の当たる音、

魔法の立てる音。


それらが入り混じり、僕とマリーを襲う。


「マリー、無理せずに行こう」


「えっと、頑張ります!」


緊張にか、ぎゅっと杖を強く握りしめているのを見た僕は

その小さな手をぎゅっと握ってそうつぶやいた。


そんな僕の掌も湿っていたことに彼女は気が付いたんだろう。


そちらこそ、という目で僕を見、頷き返してくれた。


『街中の逢引でつなぐのじゃなく

戦場でつなぐのが冒険者らしいねえ、うん』


(そんなことを言ってる場合じゃないでしょ、もう!)


ご先祖様に指摘され、赤くなりそうな顔を隠すべく、

僕も精霊銀の混ざった長剣を手にしてランダさんらの援護へと回る。


かなり広い空間ではあるけど、トレントは体が大きいし、

ゾンビ達は数が多い。


しかも人型のほか、オークやホーンウルフの姿をした相手もいる。


乱戦の最中では周囲を巻き込むような魔法は使いにくい。


ランダさん達も単発、あるいは冒険者のいない方向へと魔法を撃っている。


僕は相手の数が少ない部分へと進み、いくつかの相手に立ち向かう。


アー、などとうめくような声を上げる人型のアンデッド。


生前の姿が残っているのかいないのか、それすらわからない。


かろうじて人間だったのであろうとわかる姿。


しかし、近づくごとにその異常さに顔がゆがむのが自分でもわかる。


腐った肉体、黄ばんだ骨。


足を引きずるような歩き。


どう考えても戦いには向かない。


それでも、彼らは動く。


「うわぁああ!!」


ただ単に喉があった場所を通り過ぎただけの空気。


それが呼吸のような仕草に見えた時、僕は恐らくは嫌悪感を隠さずに剣を振るっていた。


あっさりとその刃は力を存分に発揮し、アンデッドを胸元付近で両断する。


「はっはっ……」


真っ白になりそうな頭を後ろで魔法を唱えている

マリーの事を考えることでなんとか踏みとどまらせる。


『あの腐ったような肉体も全部魔法の産物だ。不死者という物のな。

 そんな100年も腐らずに残るわけがないだろう?』


頭に響くご先祖様の冷静な声が僕の中に染みていく。


そうだ、彼らは既に眠っていたはずの相手だ。


この土地に、土葬の風習は無い。


火葬後の骨すら、教会から手に入れた聖水で清めたり

祈りの浄化魔法がかけられるぐらいなのだ。


海辺や薪の確保が難しい北限の土地ならいざ知らず、

人間が死んだ時の肉体のままアンデッドになる場合は限られているのだった。


もっとも、オークやホーンウルフはそれに当てはまらないようだけれども。


「一つ……二つ!」


力みが抜けた、と自覚が出来る程度には

やはり緊張していたらしい。


動きの遅い人型を2体倒し、

ホーンウルフらしいアンデッドも1匹切り捨てたところで

一度後方に下がる。


その隙間を埋めるようにマリーから放たれた火の魔法が

炎と音をまき散らす。



「マリー、助かった!」


「ファルクさんこそ、お怪我は?」


剣にこびりついた深く考えたくないあれこれを剣を振るうことで飛ばしながら

マリーに声をかける。


声の調子からすると彼女は大丈夫そうだった。


周囲に目をやれば、各方面は目立って苦戦している様子はない。


ルクルスさんは元より、他の冒険者達も熟練者らしく、

安定した戦いを行っているようだった。


「おかしいわね……」


「え?」


そんな安心しかかった僕へと、ランダさんの言葉が届く。


見れば険しい表情のまま、ランダさんはいくつかの魔法を前線へと打ち込み、

アンデッドを崩れさせる。


「何か、嫌な気配でも?」


前に戻るつもりの僕だったが、ランダさんの言葉が気になって

剣を手にして警戒しながら問いかける。


「手ごたえが無さすぎるのよね。このダンジョン化の規模からいって、

 もっとこう、撤退も前提に考えるような強さが相場なのよね」


『確かにな。この強さじゃ初心者クラスだ』


これまでの経験からか、言い切るランダさんの言葉を

ご先祖様が肯定する。


僕からしてみれば、楽なのはうれしいことはあっても

困ることは無いと思うのだけど、そうでもないようだった。


視線の先で、両断されたはずのアンデッドが

うずくまるようになったかと思うとよろめきながらも

くっついた状態で立ち上がってくるところだった。


「そんなっ!」


叫びながら、僕は再び前へ。


今度は足、手、首と我ながらやり過ぎかなと思うほどに切り刻んだ。


しかし……。


再び相手は立ち上がってきた。


「どうしたらいいんですか、ランダさん!」


「復活速度は中級、ううん。上級ぐらいね。その割にこの弱さ。

 ……そうか、そういうこと」


僕は助けを彼女に求めるが、何やら難しい表情をしているランダさんは

僕に答えてはくれない。


と、その顔が僕の方を向く。


「坊ちゃん、キミと同じみたいよ。このダンジョン」


「え?」


一瞬動きが止まる僕の横を、ランダさんの放ったマナボールが通り過ぎる。


最初に試し、あまり効いていないように思えたのでやめていた魔法だ。


でも、今ならわかる。


効いているけど復活しているのだと。


「このダンジョン、若いのよ。出来てすぐだわ。だから、守護者である相手も弱い。

 でも、その代わりにコアはよほどの物よ。この復活速度が証明している」


じゃあどうすれば、と思ったのは僕だけじゃないはずだ。


「おいおい、冗談だろ?」


ルクルスさんの声が妙に響いた。


見れば僕が相手をしたアンデッドだけでなく、

他の場所でも倒したはずのアンデッドが起き上がってくるところだった。


ルクルスさんたちの攻撃で倒されたアンデッドは

僕の相手とは比べ物にならないぐらい、ある種悲惨なぐらいばらばらになっていたはずだった。


それでも、寄り添うように骨と肉塊か集まったかと思うと元の姿に。


その姿はまさに不死者。


『待て……マナボール以外の魔法で倒された相手はそのままだぞ』


その指摘にはっとなり、たとえばマリーが

小さなファイアーボールを当てた相手はどうかと見れば焦げた何かの塊のまま。


相手の数が多いから気が付かなかったのだ。


「火の魔法を、あるいは何か属性で攻撃を!」


僕は叫びながら左手の指先を剣の腹に乗せ、滑らせるようにして魔力を練る。


『そうだ。多くの魔法は基本的に武具に付与が出来る。矢に雷を乗せたようにな』


ご先祖様の導きに従い、僕は魔力を、魔法を繰り出す。


「エンチャント、ファイア」


言葉の意味はよくわからない。


それぞれが付与とその属性である火を表しているということぐらいだ。


何百年も前から伝わる、力ある言葉、なのだ。


と、魔力が抜けていくと同時に剣の刀身が赤い光を帯びる。


相手がアンデッドであろうとトレントであろうと

火に弱いのは共通しているからこそだ。


制御はご先祖様に今は任せ、僕は切りかかる。


何とも言えない手ごたえと共にアンデッドは焦げながら沈黙していくのだった。


きっかけさえあれば皆、熟練の冒険者達だ。


すぐさまアンデッドの数が減り、トレントが目立つようになる。


僕も何人目かのアンデッドを切り倒しながら、

心の中にふつふつと怒りの感情が沸き立つのを感じていた。


(みんな、静かに眠っていたんだ。なのに!)


アンデッドはスピリットが実体だと聞いている。


そのスピリットが産まれる原因はいくつかあるけど、

そのうちの1つは現世への未練。


そのまま現地で埋葬されたりした戦場跡等ではよく聞くらしいのだけど、この場所は墓地だ。


勿論、無念のうちに無くなってしまった人もいなくはないだろうけど、

何年もスピリットでいられるほどの未練はそうそうないらしい。


ましてや魔力が無いとスピリット自体にもなれないらしい。


そして別の原因は、外部からの呼び起こしだ。


そう、何者かが外道と呼ばれる魔法でもって、

眠っていたスピリットやスピリット未満の感情を呼び起こしたのだ。


……歪な姿を与えて。


ふいに足元から気配。


僕はとっさに地面を掘り起こすように立ち上がってきたアンデッドに切りかかり、

その体を両断して眠らせる。


ぼろぼろだけど、ちゃんと服を着た老人のような姿。


鼻に届く嫌な臭い。


目の前に広がる直視しがたい姿。


耳に聞こえる怨嗟の声。


彼らは生者である僕達にひるむことなく向かってくる。


それらは彼らの望んだ姿なのだろうか?


それとも、眠りたいのに起こされたが故の恨みの声で、

眠らせてほしいから向かってくるのだろうか?


「この手に集い、赤き雷鳴を高らかに響かせろ! レッドシャワー!」


僕は高ぶる感情のまま魔力を練り上げ、

たまたま冒険者のいない一角へと全力の範囲魔法を撃ち放った。


全力疾走を続けたような疲労と倦怠感が全身を襲う。


冷静に考えればトレントが燃え、あちこちに燃え広がるかもしれない危険な行為。


でも、その行為は誰もが思っていなかった結果を産んだ。


「なんだ!? 魔法をはじいた!?」


それは誰の言葉か。


僕の放ったレッドシャワーは見事に

いくつものトレントやアンデッドを貫き、奥へと突き進んだ。


それが途中で何かに邪魔されるように霧散したのだ。


瞬間の沈黙。


良く見ると、そこには太陽の光が注いでいた。


アンデッドの住処である以上、望まれた光ではないはずだけど、

その原因ははっきりしていた。


天井に開いている大穴だ。


エルダートレントであろう巨木たちのいる場所とは違う一角。


人が積み上げたであろう石材の壁と屋根を突き破りました、

という感じの大穴が開いていたのだ。


しかも、そこから差し込む光の先には……。


「竜……の石像?」


それは全身が黒く、石像というにも妙な物だった。


翼と体、そしてその顔からかろうじて竜とわかるような出来栄えの物。


ただはっきりしているのは、その像が魔法をはじいたのだということ。



「こういうもんはいくつかに分ければ弱まると決まっている!」


その石像の不気味さに多くの冒険者が沈黙する中、

ルクルスさんは背にしていた両手斧を手にし、突撃した。


その刃部分は魔力を感じる何かに覆われている。


どうやら予備武器だと思っていた両手斧は逆に切り札だったらしい。


まだいるトレントやアンデッドの中を突き進み、

雄叫びを上げながら振り降ろされた両手斧は、

見ていた僕が唖然としてしまうぐらいあっさりと、

不気味な石像を打ち砕いていたのだった。




その後は特に目立ったことは無い。


何故か復活の遅くなったアンデッド達を倒し、

めぼしいお宝が残ってないかを探索した一行は

新しいダンジョンの誕生を記録する形で街に戻ったのだ。


どうしてあそこにオークが集まり始めたのか?


あの場所は一体いつからああだったのか?


そして、コアだったらしい石像がどこから来たのか?


厄介に見えたのにあっさりと砕けた理由は何なのか?


多くの謎を残したまま、その冒険は一時の終わりを迎えるのだった。



多くの謎を不安の種として残しながら、続きます。

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