MD2-222「積みあがった実力-1」
その日、僕は広場にいた。マリーと並び、戦うために。普段は訓練に使っているであろう場所には僕たち以外にも多くの人がいる。そのほとんどが観客……ってことになるのかな。集まる視線のほとんどが好意的な物、あるいは様子をうかがうものなのが救いだろうか。
「準備はいいかね」
「魔物は合図で襲ってくるわけじゃありませんからね。いつでも」
少しばかり生意気な言い方になってしまったかなと思いつつも、実際僕もマリーもいつだって大丈夫だ。伊達に2人だけで旅をしていないのだっと、外で待たせてるホルコーが怒っちゃうかな?
ともあれ、少し離れたところにいるマリーを見、そのまま模擬専用の木剣を手にしてだらりと腕を下げる。初めての相手だからしっかりと相手の動きを見ようとしたからなのだけどそれは相手にとっては馬鹿にしたように感じたらしい。準備の具合を聞いてきた女神騎士団の団長はどこか楽しそうな笑みを浮かべてるけど、僕の相手となる男は感情を隠さずに反対側のかから走ってくるのだった。
(どう戦った物かな……)
意識を戦いに持って行きながら、そんなことを考えてしまうのには当然訳がある。女神騎士団の一員であるというソフィアさんに案内され、北にやってきた僕たち。そこで訪れた街の名はノーザンデリア。大きな岩山と、それに覆いかぶさるように建てられた砦のような建物を中心に町並みが広がっている。岩山より北に行くと魔物が多く出てくるという……北の境界線といったところらしい。
そんな場所に案内された僕たちは、そのまま女神騎士団の拠点を訪ねることが出来た。そこで出会ったのは、以前に僕たちと会ったことのある騎士だった。そういえばあの時は挨拶も碌にしていなかったけれど、ソフィアさんが言う通りなら団長ということになる。
ソフィアさんが僕たちとの出会いを報告しながら、随分と褒める物だからなんだかくすぐったい気分だった。
「なるほど。2人とも、ソフィアを助けてくれてありがとう。本当なら謝礼金の1つでも渡すのが筋なのかもしれないが……」
「お金以上の物は貰ってますから、大丈夫ですよ。ソフィアさんとの出会いやこうして話せることはそれ以上だと思います」
『少しばかりあからさまじゃないか?』
素早くご先祖様からのツッコミが来るけれど、やっぱりそうだろうか? 僕としては、下手に貸し借りを作ると面倒なことになりそうだなという予感があったのだ。例えばそう、金額の大小でこちらの反応を伺ってくるんじゃないか、とかね。
マリーが素早く僕の半歩後ろで僕の方を立てた位置にいるのもそのあたりを読み取った結果なんだと思う。ともあれ、ここは僕が交渉の番、ということだ。
「ふむ……ソフィアが言うだけのことはある、か。下手な騎士より騎士らしい心を持っているようだ。ソフィア、良い出会いだったようだね」
「ええ、彼らに出会えたのはまさに幸運でした。団長、彼らには騎士団管理下のあそこに潜る権利を与えてほしいのです」
それまでどこかにこやかだった団長の顔が真面目な物になる。拒否……ではないと思う。視線をソフィアさんと僕たちを行き来させているから、値踏み中ってところかな?
顎に手をやり、考えている団長の姿に自然と僕達の緊張も高まる。即答がないということは、それだけ重要な役割を持つダンジョンなんだろうか? 祝福をいくつか授かれるだろうってソフィアさん言ってたもんな、浅いということも無いと思う。
「……それだけの実力があると?」
「見た目で判断すると痛い目に会う、団長が訓練の時にも言っていることです。事実、奴らの大半は彼らが討伐したのですよ」
その言葉が後押しをしたのか、団長は首を縦に何度も振った。どうやら了承のようだけど……たぶん、すんなりとは潜れないよね。大体こういう場合は、実力を見たいって言われるんだ。
『よくわかってるな。団長とやらも気配が膨らんできたぞ』
そう言われて、僕はマリーを後ろにかばうべく体重のかけ方を変えながら、片手を明星の柄に近づけている自分に気が付いた。全く意識していなかったのに、そんな動きをしていた自分に逆に驚いたぐらいだ。
「ふふ、良い動きだ。ちょうど昼からの練兵の時間だ。そこで少し見させてもらおう」
そう言われれば僕たちに断る選択肢はない。強くなれるに越したことはないのだ。問題は僕はいいけれど、マリーはどう実力を見るのかということだった。杖で殴り合う訳にも……ねえ?
案内を受け、外に出た僕達が目にしたのは広い砂地の広場。団長の言うようにここで訓練をしているんだろう。いくつもの木人形が並び、中には焦げ付いた物もある。ということは……。
「2人ともそれぞれに、力を見せてもらいたい。審判の穴に潜る権利があるかどうかをね。相手は……団員だ。魔法使いの彼女は的を相手にで構わない」
ぞろぞろと時間なのか集まってきた団員であろう人たちに聞こえるようにか、団長は良く通る声で宣言した。にわかに団員たちがざわめき立つのがわかる。ほとんどは僕たちより年上で、同い年ぐらいの子はほとんどいない。
「団長、聞き間違えですよね? そんな子供が潜るって?」
「聞き間違いでも私が冗談を言ったわけでもないな。嘘だと思うのなら、君が相手をしたまえ」
いらだった口調で前に出て来た騎士は……どこかラーケルたちのところにいた騎士と同じ空気を感じた気がした。こちらを見る目つきもどこか馬鹿にしたような、良くない物だ。ちらりと横を向くと、戸惑った様子ながらも訓練に使うであろう木剣を数本持ったままのソフィアさん。僕はそんな彼女に、明星を鞘ごと渡して出来るだけ同じぐらいの大きさの木剣を受け取った。
「ファルク君」
「大丈夫ですよ。僕はこんなところで躓くつもりはありませんから。もちろんマリーもね」
「当然です。目にもの見せてあげますよ、はい!」
自分なりに気合を入れるためのやり取りのつもりだったのだけれど、ソフィアさんと団長以外にはそうではない捉え方をされたみたいだ。さっきの男以外ははやし立てる様な雰囲気になった人がいたり、興味深そうにこちらを見る人たちとなっていく。
「では彼女はあちらで魔法を見せてもらう」
「はい、構いませんよ」
そうしてマリーが離れ……男と僕はそれぞれ反対側に下がり……戦いの時を迎えたのだ。相手がどれだけいらついているかは、精霊の動きを見るまでもなく明白だ。そんな状態で魔物相手に大丈夫なのだろうかと心配するぐらいだった。
団長との短いやり取りの末、男は合図を待たずに走り寄ってくる。
「ぜやぁ!」
勢いの乗った、力のある一撃だと思う。そこらの魔物なら大打撃だろうね……当たれば。こちらを舐めてかかっているのかはわからないけれど、余裕を持って回避することに成功した僕は明星と同じぐらい長さと重さのある木剣を振るい、相手へと襲い掛かる。
「はっ!」
「くっ」
ぎりぎりで僕の攻撃を受け止めた男の顔に浮かぶのは、焦り。予想外の動きだったのだろうか? けれど、僕が手を止める理由にはならない。そのまま体格差がある中、踏ん張りをしっかりして逆に相手を押し込むようにした。
崩れた姿勢のまま、なんとか押し返してくる相手にさらに踏み込もうとし、相手の左手が動いたのを見てすぐに後ろに下がる。風を切り、目の前に振るわれたのはナイフほどの大きさの木剣。なるほど、使う武器は事前に確保しておくのも手だね。
「続けましょうか」
「てめぇ……ただのガキじゃねえな?」
離れたところでマリーが放ったであろう魔法が爆音を響かせる中、僕と相手の戦いはまだ続く。
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