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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-021「危険と踊る-4」

『来るぞ、土壁!』


「我が手に集え、母なる息吹! ブロッカー!」


マリーが返事をする前に、気配探知に引っかかる巨大な気配の動き。


僕は詠唱を省略せず性能を重視した土壁を前方に産み出す。


冬、凍った池の氷に遠慮なく棒切れをたたきつけるような

くぐもった重い音が無数に響く。


僕の生み出した壁に巨大サボタンの針が刺さっている音だ。


(くっそ、こんなことならもっと魔法を鍛えておくんだった)


土壁を維持しながら、虚空のメニューで

じわじわと減る自分の魔力に顔をしかめる。


「だ、大丈夫ですか?」


「今のところね。とりあえず、さっきの答えが聞けると嬉しいな」


幸いにもというべきか、巨大でもサボタンはサボタンなのか、

針の発射はしばらくして止まる。


再度土壁を展開できるように警戒しながらも、僕は視線を巨大サボタンから外さない。


背後で、マリーが乱れた服を直すのがわかるが

そちらを向かないのが気遣いってやつなんだろう。


「嬉しいです。大事って言ってもらえて。それでも、我慢できないことがあります!」


何を、と僕が疑問を言葉にするより早く、

マリーの叫びと共に膨らむ魔力。


何人もの狩人が一斉に矢を放ったかのように、

赤い光がマリーの手から生み出されては飛んでいく。


『まさに弾幕、だな。今のうちに深呼吸! 魔力の回復に努めるんだ』


「私の事を仲間だっていってくれるなら、私にとってのファルクさんも同じです。

 貴方に出会った時、私……ピンと来たんです」


喋りながらもマリーは手にした杖の機能を利用し、

恐らくは同じ魔法を充填していたのだろう、同じ規模の火の矢が飛んでいく。


「1人じゃない、2人でやりましょう!」


言い切ったマリーの顔はすっきりとしており、

巨大サボタンの前に倒れそうになっていた時の姿はどこにもなかった。


「確かにね。そうしよう」


僕も魔法を発動しやすいように剣を構え、集中する。


僕の場合、杖を使って魔法を撃つ、というのが

どうにも苦手なので剣を構えるほうが良かったりする。


そこそこ長い付き合いになった変哲の無い長剣。


ジガン鉱石混じりだというけど、特別業物というわけじゃあない。


それでも、壁の光に照らされて光るその刃は

僕の心を落ち着かせる。


煙が収まり、相手が見えてくる。


「あまり、効いていない?」


「いや、見て……再生してるんだ」


マリーのつぶやきを僕は否定し、剣の先をちょうど胴体付近に向ける。


そこではマリーの魔法でえぐれたと思われる部分に穴が開いており、果肉が見えている。


ところが、気味悪くうごめいたと思うとそこは埋まり、そして元の通りに針が生えてきてしまった。


「こんなところまでサボタンそのまま、か」


『一撃で刈り取るか、飽和攻撃しかなさそうだな』


僕は元々のサボタンの特徴、果肉片の少しからでも

再生することがあるというその異常とも思える再生能力を思い浮かべる。


ポーションの材料としては非常にありがたいその再生能力が、

敵対する相手となるとこうも厄介だとは……ね。


半端に手を出しても意味がなさそうなので、動きを観察することにすると、

巨大サボタンは奇妙な動きをしだした。


「踊ってますね」


「うん、一体……」


僕達が動かず、魔法も止めると巨大サボタンはその場から動かず、

奇妙な踊りを踊り出した。


と同時に僕はどこか高揚した気分、あるいは春の木漏れ日に

あたっているようなふわふわとした感覚に襲われる。


それはそう、満月の夜に見かけたあの集団の……。


「! 広がれ、全ての源! マナ・ウォール!」


僕はとっさに、使うことも無いだろうと思っていた魔法を撃ち出す。


一応は攻撃魔法なのだけど、ちょっと強い風、ぐらいにしか

物を押し出せないような魔力の壁を広げる魔法なのだ。


自分の意識する敵味方を区別して広がるぐらいが

利点だと思っていたこの魔法だけど、

この瞬間には最良の一手だったらしい。


「はっ!? ファルクさん!」


「うん。あの踊り、そのまま見てると危ないみたい。

 外の踊りみたいに変なことになるよ」


そう、あの奇妙な踊りは魔法的な攻撃だったのだ。


その何かを僕の魔法が押し出せたという訳だ。


『さて、どうするかな……この距離で撃ちあいはやめた方がよさそうだが……』


(僕もそう思うよ。たぶん、魔力が持たない)


返事をしながら僕は覚悟を決めるように剣を持つ手に力を籠め、

前を向いたまま語り掛ける。


「マリー、少しずつ近づこう。そして、いけそうだったら一気に刈り取る」


「そうです……ね。そのぐらいしかなさそうです」


そうして僕達は脱出するために前に進むという、

神経を使う作業に入る。






何度目かの土壁、そしてマリーの火球。


僕達と巨大サボタンしかいない空間に爆音と、

針の突き刺さる音が響く。


「だいぶ近づいたけど、もうちょっとかな……」


「まだ、行けますよ、ええ」


汗だく、とはなっていないものの僕のつぶやきには疲労が混じっていたのだろう。


マリーも自分を鼓舞するかのように言って、さらに魔力を練り上げる。


『すまないな。妙案が無くて』


(ううん。十分だよ)


勿論攻防の間、ご先祖様が何もしなかったわけではなかった。


戦いながらの中、僕へとスキル習得の助言をいくつも与えてくれたのだ。


曰く、強さは十分だけどまだ覚えられていないスキルがいくつもある、とのこと。


そんな中の1つが、マリーも覚えた魔力回復だ。


これにはいくつもの強度があり、2人が覚えたのは最低の効率。


それでもあると無いのとでは別世界だ。


何故かこちらが動かなければ踊ることしかしない巨大サボタンを前に

自分たちの都合で休憩が行えるのだから。


時々、踊りの効果を消すためにマナ・ウォールを撃つ必要があったけど、

それ以外には特に何もない。


もしこれがなければ、もっと早く力尽きていたことだろう。


それ以外にも僕の気が付けない巨大サボタンの挙動に注意し、

攻撃の際に声をかけてくれているからこそ、僕の土壁が間に合っている。


振り返れば、何度も作り上げた土壁が崩れては徐々にその姿を消していく。


魔法で作られた何かしらはダンジョンの外では残るけど、

ダンジョンの中ではこうして少し経つと消えていくのだ。


噂によれば、魔法で作り出した毒水でダンジョンを埋め尽くし、

全てのモンスターを討伐した凶悪な魔法使いもいるとかいないとか。


ともあれ、今は目の前のコイツだ。


「あの、ファルクさん」


気配を伺っている僕に、おずおずと言った様子のマリーの声。


「どうしたの? 休憩なら土壁出すけど」


「違います。ちょっと気が付いたんですけど」


続けてのマリーの声に、僕はご先祖様に警戒を任せて振り返る。


これでマリーからすると気配を探りながら

いつでも土壁を放てるようにしている僕の出来上がりだ。


「実はですね。気のせいかもしれないんですけど、あのサボタン。

 決まった動きしかしてなくないですか?」


「え?」







唐突なマリーの告白は、事実を見抜いていた。


「2人で合わせて6歩目で膨らみ、10歩目で発射。ただし、魔法発動は2歩とする……か」


「むう、家庭教師の授業を思い出します」


まだ駆け寄るには遠い距離。


それでも僕とマリーは巨大サボタン攻略に光明を見出していた。


道理でじっとしていてもそのうち針は撃ち出してくるし、

何度も防ぐ必要があるわけだった。


ダンジョンの道中も思い出せばこっちの行動を何かで読み取っていたからこその

サボタンの出現だったのだろう。


後は、相手の正確な情報だ。


「マリー、このぐらいの火の矢を作って撃って」


「はい、わかりました。大きさを確認するんですね?」


僕が自分の手の先から肩までの長さを示していうと、

マリーはその意図を正確に把握してすぐさま魔力を練ると1本の火の矢を撃ち出す。


ただし、横向きのまま。


何も魔法は決まった向きで撃ち出すとは決まっていないのだ。


ただ単に、火の矢となれば普通の矢の方に

まっすぐに刺さるのが普通、と思うからだ。


僕はご先祖様からの助言をマリーに伝え、

いくつもの魔法を改良して実戦で試してみたのだった。


そして、火の矢の着弾。


「あれなら……うん。きっと行ける」


「私はファルクさんを信じてますよ」


背中に届く声にくすぐったさを感じながら、僕は手にした剣に力を籠め、

ご先祖様から教わった力を繰り出すべく、考えをめぐらす。


このサボタンは確かに強い。


その針は無限と思えるだけ撃ち出され、

恐らく威力は人を容易に貫く。


しかも前にも後ろにもという全方位攻撃だ。


どうしようもなく、厄介だ。


「この距離なら……ね!」


やることは最後まではほぼ同じ。


進み、魔法を唱え、針を防ぐ。


ただその間、僕達は駆け抜けるのだ。


足元に風の魔法をまとわせ、

飛び跳ねるように1歩1歩を大きくして。


どれだけ小さかろうと、大きく飛ぼうと1歩として扱うのは実験で確認している。


これまでは途中で針に迎撃されてはいけないと遠慮していたのだ。


そしてもう1つ、サボタン自身の体が弱点となる。


巨大でも、外で出会った姿と変わらないその姿。


「針、来ます!」


「行くよ!」


膨らむ巨大サボタン。


そして僕はマリーを力強く抱き寄せ、ご先祖様の力も借りて飛び上がる。


全身針だらけといっていい巨大サボタンの体で唯一、

その頭の部分にあるでっぱりを除いて針が生えていない場所の真上へ。


眼下で針が全方位に打ち出される。


この距離でもわかるその1本1本の太さと鋭さに恐怖しつつも、

僕達は見事に思った場所への移動に成功する。


「つらぬけぇ!」


空中で姿勢を変え、マリーを背負うようになった僕は剣を突き出し、

力をその剣へと意識して注ぎ込み、叫ぶ。


「ベッカー……インパクト!!」


空中にいるというのに、僕の体は魔力であろう力をまとってぶれる。


剣先が素早く動き、サボタンの頂点へと3連撃を叩き込むことに成功した。


えぐれ、人などで考えると無残な姿となるその部分。


だが、これで終わりではない。


僕達は魔法と、今のスキルの反動で上に飛び上がったままだ。


「マリー!」


「はいっ! 轟く雲間の怒り! 雷の射線!」


僕の肩越しに、マリーの手から光が走る。


威力や速度などは優秀だけど、その効果範囲故に

速い相手や巨大すぎる相手には有効とは言い難い雷の魔法。


でもこの場では狙う場所は決まっており、相手も動かない。


まさに、的だ。


僕のつけた傷を広げるようにサボタンの体が雷に焼かれるのがわかる。


「とどめ!」


そんな場所に着地するかのように僕はマリーと共に落下し、

むき出しの果肉へとさらなる一撃を繰り出した。


後でわかったのだけど、それは追加の打撃を行うスキル、

エコーエッジの効果も乗っていたようで、

さらに巨大サボタンの頭部を中から切り裂き、四散させる。




「これなら!? うわああ!」


「きゃあああ!」


やった、と喜ぶ前に僕達の目に入ったのは爆発するかのように膨らむサボタンの体。


そしてその中身として飛び出した濁流のようなサボタンの水分が

僕達を押し流すのだった。





抱き寄せた時にどきっとしたかは……本人達だけが知るみたいな?

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