MD2-202「人形は夢を見る-3」
「これ……入って大丈夫なのかな?」
「確かにこれは少し……怖いですね」
「期間限定のダンジョンとは聞いていたけど、まさかねえ……」
鍛冶の街、スコットから馬に乗って半日ほど。普段はただの大岩がぽつんとあるだけの森の中に、僕達はいた。ここに期間限定のダンジョンが出てくるという話を聞いたからだ。目的はその中で見かけたという精霊銀。
一説によれば戦女神以外にもいる天使であるクラウディーヴァという存在が製法を授けたというある種伝説の金属だ。今、人間が受け継いでいる製法と、最初に授けられた精霊銀は似て非なる物だという噂もあるけど結局はおとぎ話の時代の話なのではっきりとしないかな。確かなのは……ご先祖様曰く、他の金属と比べて伸びしろが大きいという点だ。ただ使ったんじゃ鉄より少しいいかな、ぐらいらしい。そこに独特の加工を加え、付加価値を付けることで唯一無二の物になるんだとか。
「冒険者でも限られた人間しか持てないっていう精霊銀装備……小さいのでも手に入ったら幸運よね」
「昔、揃いの装備を身につけた兵士が祈りを重ねて強大な敵を討ちたおしたとか言いますよね」
そう、2人の言うように精霊銀を使った装備は限られていて、それを持っている人間には逸話がつきものだ。だからこそ、色々なお守りになるという話が独り歩きもし始めてしまうわけだ。
『とりあえず、顔だけつっこんでみないか? そうじゃないと始まらないだろう』
(確かに、このままだと何にもならないね。ちょっと不安だけど……)
こうまでして僕達がダンジョンに入るのをためらう理由、それは目の前に広がるダンジョンの入り口が……妙に可愛らしい、子供向けの演劇みたいな造りで、どうしたことか入り口には……ようこそ!なんて書かれた板があるのだ。それが大岩をくりぬいたようになっているから、大岩が飾り立てられた状態だね。
「よし、僕が行くよ」
念のために明星を抜いたまま、ゆっくりと扉に近づき手をかける。ゆっくりとだけど開いた先には、結構広い空間が広がっていた。さすがに大岩そのままの大きさという訳じゃなかったみたいだ。安心したような、どうなってるかが怖いような……。
「ええい、女は度胸! マリーちゃん、行きましょう」
「は、はい!」
入ってすぐのところで中を確認している僕のすぐ後ろに、結局2人もやってきた。今のところは動く相手はいない。明るい緑や青、黄色や桃色といった妙な色合いの板が敷き詰められ、どこかダンジョンというよりは遊ぶ場所という印象を受ける。
『恐らく、中にしっかり入ってからが本番だろう。油断するなよ』
「二人とも僕の鎧を掴んでて、どこかに転移させられちゃうかもしれない」
指摘にはっとなった2人がリングメイルを掴んだのを確かめてから、ゆっくりと歩き始める。いざ戦いとなったらこうやってくっついてるのは不利だけどバラバラになるよりはいい気がした。灯りも無いのに、なぜか暗さを感じない空間。これだけでも洞窟型のダンジョンとは大きく違うね。近いのは……あの紫色の塔の中……だろうか?
「もし、また多人数前提のダンジョンだったらなんとか逃げよう」
「ええ、そうですね。あれはもう出来れば……」
「噂には聞いてたけど実際にそんなダンジョンあったのね。あら? あれ……人形じゃない?」
少し歩いた先で、壁際にはビアンカさんの言うように小さな動く物。人間でも魔物でもない……人形だ。んん? なんかルーちゃんに似てるな。だけど気配が全くない。それに、近づいてもこちらを振り返ることもしないぞ?
念のために地図でも確認してみるけど、すぐそばの人形は何の光も発していない。まるでそこにいないようだ。ふと思い立ち、明星の先をその人形に近づけると……突き抜けた。刺さったんじゃなく、突き抜けたんだ。
「幻?」
「みたいですね。でも何か掘ってますよ」
そうなのだ。不思議な人形はおもちゃみたいなつるはしを持って、いろんな色の壁に突き刺している。何度もやってるうちに、小石ほどのそれが零れ落ちてくる。こっちもそうかなと思ってダメもとで手をやると、なんと拾えてしまう。
「石……には見えないわね」
「ええ。見たこともないし、なんだかわからないんですよねこれ」
『俺でもわからん。これはたぶん、外に持ち出して初めてわかるダンジョンの物だろうな』
その後もさらに零れ落ちてきたものを拾ってみた結果は同じ。ご先祖様からの話も合わせると、このダンジョンでは何かわからない鉱石の素みたいなのを拾える。脱出するか、攻略した後にその中身が判明するだろうとの予測だ。
「となると精霊銀が混ざってくるかもってことかしらね。行けるところまで行きましょうか」
「わかりました! たくさん拾っても大丈夫ですからね、どんどん拾いましょう」
他の冒険者と比べ、僕達には有利な点が1つある。他でもない僕の使えるアイテムボックスにこの石は入れることが出来たのだ。つまりはその容量が一杯になるまでひたすら拾える。
たぶんだけど、こんな入り口付近だと良い物はあまり拾えない。大体が、危険と引き換えなのは世の中のお約束だもんね。今は触れない人形だけだけど、そのうち敵対してくる何かが……。
そんな風に思いながら先に進むと、扉の代わりに壁に埋め込まれた4色の球体が出て来た。よく見ると球を結ぶ形で壁に溝がある。ちょうど長い四角になる感じだった。その隣には3つ、2つ、1つと球が減っていっている。そして同じように溝が四角くなっている。
「何かの仕掛けのようですね。よく見ると色がついてますよ、ほら」
「ほんとだ……赤、青に、こっちは緑? これは……金? 黄色かな?」
「悠長に探ってる暇はないみたいよ」
拳ほどある大きさの球体を覗き込む僕とマリー。そんな背中にかけられたビアンカさんの声は硬かった。その意味するところは、襲撃。振り返ると、ぼんやりと薄暗い遠くから何かが迫ってくる。刺激するかもしれないとは考えたけど、はっきりさせるために僕は天井へ向けて魔法の灯りを撃ちだした。白い光に照らされたのは……クッションをくっつけたようなゴーレムの姿だった。
1体、2体……3体かな? ゆっくりと歩いていて、1歩ごとに足元が曲がってるから岩っていう硬さではないみたいだった。
「ファルクさん、謎解きは任せました。私とビアンカさんでゴーレムの相手をします」
「お願いねっ」
「了解! 出来るだけ早く解くよ」
後ろを2人に任せて、僕は改めて壁に向き合う。たぶん無理やり切り裂くとか吹き飛ばすとかはやらない方がいいよね……さて。まずはしっかりと周囲の観察を……んん? なんだ、何か板があるや。
『これは珍しい。エルフ語だぞ。今のお前なら読めるはずだ。飲んだあのハーフエルフ相当になるやつがそんな力もくれている』
結構前に、エルフの里でお土産にもらった不思議な力。森の力を借りられるだけじゃなかったみたいだ。道理で色々と出来るわけだ……それはともかくとしてっと。何々……。
─光在りて、風が吹き、火が燃え盛り大地を乾かし、水を求める
「風からはなんとなくわかるね。最初の光は……あれか」
光と言えば太陽、だから上と思って見上げると結構上の方にそれらしい球体があった。下には4か所溝の枠があるのは、もしかして使える魔法に限りがある場合の救済措置ってやつかな? ダンジョンにしては気が利いている。
「まずは灯りを……えいっ!」
少し高いけどライティングはなんとか届いた。球体に飛び込んだ魔法の灯りが白い光を放つと、そこから下に向けて光の道が伸びていく。その先には僕のいる溝の枠。後は書いてある通りに魔法を……うん、僕が全属性使えなかったら駄目だったね。
順番に魔法を撃ちこみ、最後にアクアショットを弱めに青い球体に撃ち込むと、球体に灯った光は輝きを増していく。その光は溝の枠へと延び……最後には光る枠が出来上がった。ごとりと音を立てて、壁が消えていく。
「マリー! ビアンカさん! いいよ!」
「はいっ!」
「特に回収物もないし、今行くわっ!」
振り返って叫ぶと、既に1体の謎のゴーレムを倒した2人がもう1体を相手しているところだった。そのまま2人はこちらに駆けだすと、僕と一緒に開いた場所をくぐるのだった。
感想やポイントはいつでも歓迎です。
頂いた1つのブックマーク、1Pの評価が明日の糧です。
誤字脱字や矛盾点なんかはこーっそりとお願いします




