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MD2-002-旅立ちの夏-2

「……盗賊か、怖いな」


そんな僕の言葉が1人だけの空間に静かに響く。


石壁に備え付けられたランタンもどきが明るすぎず、暗すぎずと

絶妙な明るさでその場所を照らしている。


僕がいるのは岩の中。


そう、岩の中だ。


村はずれの小高い丘の脇には、なぜだかわからないが

いくつもの岩が埋まっている。


そんな巨大な岩の隙間、人一人がようやく通れそう……なところを

僕が通るとこの空間に飛ばされるのだ。


父親いわく「昔の偉い人が作った休憩所兼地方拠点だな」とのこと。


試しにザイーダじいちゃんに付き合ってもらったことがあるのだが、

じいちゃんの目の前で僕が消えていったらしい。


その中は岩の見た目よりはるかに広く、

そして、僕達にとって恵みがいっぱいだったのだ。


壁には等間隔に魔法の灯りらしいランタンもどきが

光を放ち、中を照らしている。


中は蝋燭であるかのように、時折揺らめくのが不思議で仕方がない。


そんな灯りに照らされるのは、僕が両手を広げたぐらいの広さの枠に囲まれた花壇のような区画。


そこはまるで世界中の薬草を取り揃えました、と言わんばかりの四角い枠が立ち並ぶ。


その中に、様々な薬草が育っているのだ。


多少は土ごと採取してもなぜか一週間もすると完全に元に戻っている。


温かい場所、寒い場所、等育つ環境は違うはずなのになぜか皆、調子がよさそうである。


そっと手を近づけると、それもそのはず。


南の方にしか育たないといわれる薬草の近くは暖かいし、

逆に高原に育つ、と言われるような物のそばはひんやりしている。


魔法で暑くしたり、涼しくしたりできるとは聞くけど、

こんな状態を続けるのはどんな凄腕でも無理だろう。


反対方向には極彩色の壁。


そこは掘れば掘るほど何かの鉱石が出る。


残念ながら僕がまだ鑑定しきれないし、需要もあまりないのでそちらにはお世話になることは少ない。


村の人たちも僕がどこからか薬草なんかをを仕入れていることは感づいている。


それでも特に何も言ってこないのは、僕達が儲かった分は井戸の修理や

村の柵、街道の整備のために寄付として使ってしまっているのがあるのかもしれない。


もっとも、ただの優しい人たちという説のほうが濃厚なのだけれども。


おかげで子供3人とザイーダじいちゃんで暮らしながらも

村で肩身の狭い思いをしなくて良いのは非常にうれしいことである。


僕は考え事をしながらも目の前の極彩色の壁にピッケルを振り降ろす。


「よっと、これは……うーん、鉄鉱石か。純度は高そうだけど……」


盗賊のことは悩み事ではあるけれども、今どうこう出来る問題でもないことも確かだ。


用意してきた袋に鉄鉱石を入れる時に、腰に下げた真剣、

売れ残りの中でも比較的マシっぽい長剣の鞘が地面に当たり音を立てる。


僕は無言でその鞘ごと剣を握り、視線を周囲に向けた。


壁の灯りが静かに部屋の中を照らし、どこからか流れるわずかな空気の流れが

僕の鼻に薬草たちの匂いを運び、視線の先では長く伸びた種類の

薬草がゆるやかに揺れている。


(ダメだな。集中できない)


僕はため息一つ、椅子代わりの岩に座る。


アキ達の、正確にはダンの話を聞いてから僕は感情を抑えきれないでいた。


親を、探しに行きたいという思いだ。


「5年だぞ? 5年。まともな親なら手紙の1つ、よこすだろう」


口にして、僕はその言葉の重みに沈み込みそうになる自分を勇気づけるように上を向いた。


きっと、恐らくは……親は生きてはいないだろう。


霊山をさまよっているかもしれない、なんてものは適当に

地面を掘ったら古代の宝が埋まってました、なんて類の話だ。


でも、それでも。


「せめて何で勝手に死んだんだって怒ってやりたいよな」


ふと、思ったより時間がたっていることに気が付いた僕は

慌てるように立ち上がり、道具を手にしたところでそれを目にした。


「あれ……?」


それは部屋の中央付近にある、明らかに人工物に思える台座の上。


ここに親と一緒に来た時から、そこには謎の腕輪が乗っていた。


なぜか不思議な力で守られるように触ることはできず、

何なのかを鑑定することもままならなかった。


親曰く、「きっと持ち主か、時期を待っているんだ」とのこと。


いつ見ても、静かに部屋の灯りを反射している妙な金属の腕輪。


それが、光っている。


しかも……浮いていた。


「弟たちは何も言ってなかったし、僕がここに来たから?」


確かに僕は15の誕生日を迎えた後には、この場所に来ていない。


それでも一か月ぐらいのはずだ。


「……」


僕は無言で、フラフラと近寄って行く。


何かに、呼ばれた気がしたのだ。


不思議と、僕はその腕輪を手にすることが出来た。


脳裏に、道具にとりついた悪魔の話が浮かぶが

僕は何かに誘われるがままに腕輪を自分の右手に通していく。


ひんやりと冷えた金属の感触を肌に感じることで

どこか冷静さが戻ってきた気がした。


「なんだ。何も起こらないじゃないか」


触れ、身に着けることが出来た時点で

異常すぎたはずだが、僕はその時状況に疑いを持つことは無かった。


きっと、どこかで感じていたのだろう。


時が来たのだ、と。


光にかざすように腕輪をした右腕を上げ、

その輝きをじっくりと見ていた時だ。


後ろに突然の気配。


「「あっ! にいちゃっ」」


弟たちだった。


しかし、あちこちを泥だらけにし、何度もこけたであろうことがわかる。


その上、その表情は何かにおびえているのだ。


「何かあったの? じいちゃんは?」


咄嗟に僕は誰も来ないであろう入り口から2人をかばうように後ろにやると、

腰に下げたままの長剣の重みを確かめながら問いかける。


じいちゃんが料理中にやけどをした、なんてことがあったとしても

2人そろってこんな必死に駆けてくることはないだろうからだ。


「と、盗賊が!」


「じいちゃは村長さんを守るって! ボク達はにいちゃのとこへ行けって言って!」


2人から語られる内容に僕は愕然とした。


なんということだろうか。


朝耳にしたばかりの盗賊が恐らく、やってきたのだ。


僅かばかりの好景気に沸く小さな村の蓄えを狙って。


ザイーダじいちゃんは冷静に、2人をかばいながらでは戦えないこと、

どこが1番安全かを判断し、2人をここに向かわせたのだ。


(どうする? 最悪、3人ともここにいれば命だけは助かる……はずだ)


この場所は僕たちの血縁者でなければ恐らく入ってこられない。


薬草たちをかじれば数日どころか数週間だって生きていける。


それだけの時間があれば盗賊だってどこかに行くだろう。


でも、それでいいのか?


(きっと、必要なものを奪ったらみんな殺される……)


流れの、追われる立場の盗賊はそういう物だと良く親が言っていた。


冒険者の依頼の中にはそういう奴らの退治も無くはないのだと。


であれば、きっと村長やじいちゃんも、最後には殺されてしまうだろう。


いくらじいちゃんが強いとはいえ、村人を人質に取られれば下手に動けない。


最後には殺されるだろうとは思いながらも、だ。


「にいちゃ、みんな、大丈夫かな?」


「いっぱいいたよ!」


僕の服をつかむ2人の、村の人たちを心配する声に僕ははっとなった。


暗い考えをしていた己を叱咤するように両頬をはたき、

僕は抱き付いたままの2人を引き離した。


「いいね。ここから出ちゃいけないよ? 必ず、迎えに来るから」


「にいちゃ?」


問いかけてくる妹の頭を撫で、僕の言葉を理解した弟のほっぺを同じように撫でる。


余分な、採取物を入れた袋をおいて装備を整える。


と言っても緩んでいたベルトなんかを締め直すだけなのだけれど。


そのまま、普段の採取とは違って引き抜くようにして

部屋の奥にある、そのまま齧っても効果があるらしい

希少な薬草類を集め、無造作に袋へと突っ込む。


(不意を突けば1人ぐらい……ゴブリンと同じだと思え)


外に出て、小さな村だと油断しているであろう奴らに一泡吹かせる。


理想は、きっと人質を取っているであろう奴らを倒し、じいちゃんたちの手助けをすることだ。


僕の手持ちの武器は腰に下げた長剣に森の獲物を捌くためのナイフ数本、

後は身につけたばかりの腕輪だ。


「あれ、にいちゃ。その腕輪、光ってない?」


「わあー、綺麗!」


2人に言われ、僕もつられるように腕輪を見ると、確かに光っていた。


光を反射して、ではなく明確に自分から光っている。


(これ、魔道具だったのか?)


もし、もしも力のある魔道具だったら……。


そう思った僕は、とある言葉を口にしていた。


おとぎ話にもなりそうな時代。


英雄たちが身に着けていた魔道具は

動かすために魔力と、力ある言葉を必要とした。


それは強すぎる力への戒めでもあり、

今から振るう力が異質な物であることを自覚させるための物であったという。


(頼む!)


「─精霊よ、我と共に在れ。ウェイクアップ!」


瞬間、腕輪が僕の腕にぎゅっと、吸いついた気がした。


溢れる何か。


「わっ」


「わー!」


驚く弟たちの声を聞きながら、僕は目を見開いていた。


腕輪からあふれる光、それは精霊だった。


半端な力しかないはずの僕にすら実体を伴って見える無数の精霊達。


狭い場所に押し込まれていた物を解放したかのように

精霊達は腕輪から周囲に飛び立ち、

僕を中心に飛びまわったかと思うと、消えていった。


僕と、腕輪の中に。


「な、なんだんた?」


これ、良い奴だったんだろうか?


『ああ、きっと良い奴だ。恐らくは我が子孫よ』


「だ、誰!?」


叫びながら、僕は弟たちが驚いて僕を見ることに気が付く。


「もしかして、2人には聞こえなかった?」


なんのこと?と首をかしげる2人の様子に僕は確信する。


今の声が僕にしか聞こえていないと。


『正解だ。腕輪を通してお前だけに話しかけてるのさ』


(念話スキル……とも違うのかな? 知らないけど)


僕は心配そうにこちらを見る2人に頷き、

秘密の部屋を抜け出した。






外に出た僕は周囲を確認し、村のことを思う。


無事でいてほしい、と。


『なるほど。大体わかった』


(え? 僕、何も言ってないよ?)


腕輪から聞こえた声はどこか安心する、力強さを感じる物だった。


だから僕も思わずではあるが、期待を込めて問い返す。


『今、俺とお前は一心同体みたいなもんだ。強く思ったことは言わずとも伝わる。

 出来るだけ姿勢を低くして走れ。そうだな。あの森からがいいだろう』


声がそう言った途端、僕の首がくいっと動き、森の一角を見るようになる。


「え?」


その動きに僕は思わず声を漏らした。


『詳しい話は後だ……と言いたいが何もわからないんじゃ混乱するよな』


そうして腕輪の声は僕に様々なことを教えてくれる。


と言っても、言葉じゃなくてこう……思い出す、みたいに

頭の中に入ってくるんだよね。


目立たないように木陰に入り、僕はその感覚に身を任せる。


(細かい話はともかく、僕は戦える、と)


『おう。あまり暴れると後で疲れるだろうけどな。後ろっ!)


声だけでなく、体を突き動かす何かに従って

僕は転がった。


「チッ、外したか。カンの良いやつだ」


地面に転がる僕の上に降ってきた言葉は聞き覚えの無い声。


あちこちに草がついているのを気にせずに立ち上がり、

視線を向けるとそこには明らかにまともな生活をしていません、という姿の男がいた。


右手の手斧はさっきまで僕のいた場所に振り降ろされたらしく、土がついている。


『盗賊か。いつの時代も、まったく……ちょっと我慢しろよ』


僕が何を、と問いかける前に一瞬、体をぴりっとした感覚が襲い、体が震える。


「へっ、怯えてやがるか」


僕のその震えを怯えているからだと勘違いしているらしい

男の言葉に何か言い返そうとすると、視界に人影。


「にいちゃ……」


弟たちだった。


しかももう1人の盗賊に両腕に1人ずつ抱えられている。


「なんだぁ? 坊主、こいつらの兄貴か」


僕に向かって声をかける2人を捕まえている男の声はからかいがほとんどだ。


ただの村人、しかも子供はどうとでもなるという考えなのだろう。


実際、僕は動けないでいた。


「おい、こいついい腕輪してやがるぜ」


僕に襲い掛かってきた男が目ざとく腕輪を見ると、無造作に僕の腕をつかもうとする。


僕は恐怖に硬直していて、なすがままだった。


……そのはずだった。


「え?」


僕の右手がすばやく跳ね上がり、つかもうとした男の手をはじいた。


一瞬のことだ。


驚いた様子の男。


それは僕も同じである。


村にやってきた冒険者が気まぐれに見せてくれた剣の動きより速い。


そんな動きを、僕の意志に反して体が勝手に行ったのだ。


『左手をあっちに向けろ!』

「!? う、うん!」


理由はわからないが、脳内の声が叫ぶままに左手を2人を捕まえている男に向ける。


そして、体をめぐる何かの、魔力という力。


『何年ぶりだろうな。武器生成C!! ショットダガー!』


手のひらが光り、何かが出てくる。


無骨な、僕の知っているダガーとは違う何かが生まれ、刃の部分だけが飛び出していった。


突然のことに反応できなかったらしい男は肩に刃を受け、なぜかその場にすぐ崩れ落ちる。


『右の男に向かって駆け寄りながら右手を突き出せ!』


「えええ!? えいや!」


何が起こったのかわからず、僕と仲間とを見比べているままの手前の男に向かい、

僕は声に導かれるままに走る。


『武器生成C!! パラライザー!』


右の手のひらから光と共に飛び出すように生まれる何か。


今度は長く、いわゆる長剣だ。


「ぐっ」


突き刺さるかと思われた攻撃はぎりぎり動いた男をかするだけで終わったが、

なぜか男はその場に倒れこんだ。


「なんだったんだ……」


泣いたまま僕に抱きついてくる二人を抱きとめながら、僕は目の前に倒れている盗賊に視線を向けていた。


『どっちも麻痺してるのさ。強力にな。ちゃんと止めをさせよ』


腕輪の声に、足元に残ったままの長剣を見る。


この手で、この2人の命を奪う?


2人とも麻痺に体が動かないのか、芋虫のように動くだけだ。


口もまともに動かないのかうめき声が響くだけ。


1人は倒れ伏したままで首も動かせないらしい。


しかし、もう1人はその瞳だけは僕達を何かの敵のように睨んでいる。


(ここでやらなきゃ……駄目だ)


「二人とも、ちょっと目を閉じてて」


僕はしばしのためらいの後、弟たちを引き剥がして盗賊に近寄り、

うつぶせのままの1人、こちらをにらむ1人、それぞれに止めを刺す。


普段ゴブリンなんかを相手にしている長剣はあっさりと肉に沈み、

その命を絶つ。


ここでやらなければ次は自分たちなのだ。


『よくやった、というにはちょっと重いな。俺は最初は苦労したもんだ』


(貴方は一体……)


脳内の声が助けてくれたのだと気がついて、思わず言葉を選んだ僕の思考は、

視界に入った煙に中断される。


「にいちゃ! 村が!」


「あれ、村長さんの家だよ!」


二人が指差す先にあるのは村で一番大きい家。


それが燃え始めている。


ザイーダじいちゃんは? 村の人は無事なのか!?


『おっと、どうする? お前が覚悟できるなら力をやるぜ』


(力を……?)


『ああ、使い方によっちゃ世界を騒がせるかもな』


そんなものはいらない。


家族を、みんなを守る力が今は欲しい。


『ああ……それでいい。人一人には世界は広いもんだ。名前は?」


「ファルク。僕の名は、ファルクだ」


一人でしゃべりだした僕を不思議そうに見る2人に向けてどういったものか、

と考えたところで左手が勝手に上がる。


『このままだと2人が心配だろう。えーっと……あったあった。それっ」


声とともに空中から大きな人形が出てくる。


どこか可愛らしい、でも手に持つのは本物の刃。


身軽な服装をした女の子の人形が2体だ。


僕の腰ほどの背丈の小人のような姿。


『こいつらならそこらのゴブリンなんかじゃ相手にならない。2人を守るように言ってみな』


「二人を、僕の家族を守ってくれる?」


恐る恐るそういうと、人形はうなずき、すばやく2人を挟むように陣取った。


弟たちも突然出てきた人形に驚いたようだが、

昔、両親に聞いた魔法生物を思い出したのか、今度は興味深そうに人形の服をつまんでいる。


それを見て、今度こそ隠れているように二人に言い、僕は駆け出す。


不思議と、僕の足はいつも以上に力強く地面を蹴っていた。


こんな全力疾走、すぐに息が上がってしまう。


そのはずだったのに、まだまだ遅いと言わんばかりに力があふれて来ていた。


『一時的にブースト、強化をしている。ため込んだ精霊の力を借りてるが、

 1刻も持たないだろうさ。さあ、行くぞ』


言葉少なく、今の状況の説明を腕輪の声がしてくれるが、

僕はそれどころではなく、経験したことの無い速さで走る途中に

こけないようにするのが精いっぱいだった。


すぐさま村が近づいてくると、鼻には家が燃える嫌な臭い。


視線の先に人影を見つけ、咄嗟に横に飛んで木陰に隠れる。


『これを使え』


響く言葉と共に、どこからか右手が良くわからない筒を取り出す。


そのまま右手の筒が目の付近にくると、目の前に盗賊らしい嫌な顔が映った。


「わっ!?」


『悪い。拡大しすぎた。これでどうだ』


思わずのけぞった僕に声が届き、視界いっぱいに映っていた盗賊の顔が小さくなる。


それはまだ離れているはずの村の姿だった。


「2……3、7人? 10人もいないのか」


『村の規模から十分と思われたか、本隊は別の場所を襲っているか、とかだろうな』


僕のつぶやきに腕輪の声、たぶん僕のご先祖様が答える。


最初、子孫って言ってたしね。


筒の向きを変えると、見覚えのある人たちがいた。


村長や村の人達を背に、ザイーダじいちゃんと

武器というには心許ない農具らしきものを手にした人たちがいたのだ。


その手前には盗賊たちと、朝、畑に出ていたであろう村の子供をとらえている別の盗賊。


『時間の問題だな』


僕はその言葉に頷く。


村人にとっては最後には子供を見捨て、皆が生き残るようにするかもしれないが、

それでも盗賊相手にどれだけの人が生き残れるか。


かといって出すものを出せば全て奪われ、殺されるだろう。


『少し飛ぶぞ』


「え? っと」


僕の体をどこからか風が包み込み、ふわりと浮き上がる。


村のそばの背の高い木。


その太い枝に飛び上がったのだ。


ここからなら全体が筒を通さなくても良く見える。


『あとで教えてやるが、風の補助魔法だ。ついでに、今から突撃するための魔法でもある』


再びの浮遊感。


僕はなんとなく、後に起こることと、僕がすべきことを悟った気がした。


きっと、僕は既にその時……どこかで感じていたのだ。


突風となり、僕は飛ぶ。


目標は子供をとらえている盗賊の背後。


完全なる奇襲が無防備な盗賊の背中にぶつかり、子供たちは解放される。


「じいちゃん!」


何事かと盗賊や村人がこちらを見ると同時に僕は叫ぶ。


「ぬおおおおお!!!」


じいちゃんは咆哮でそれに答え、全身に気迫をみなぎらせながら盗賊に切り込んでいく。


僕は奇襲を仕掛けた盗賊の首めがけて覚悟を決めて刃を振り降ろし、

体を包む浮遊感、というよりも追い風に体が飛ばされるようにして別の盗賊へととびかかった。






結果として、あっという間の出来事だった。


盗賊たちは皆、その命を刈り取られ、死体となっている。


火の放たれた村長宅は村人総出の消火活動により鎮火。


何人もいたけが人は僕が在庫の薬草やポーションを使うことで事なきを得た。


家畜には多少被害が出てしまったのだが、

盗賊に襲われたと考えれば無事、と言ってもいい状況なのではないだろうか。






「ふう……みんな元気だな」


盗賊の脅威が取り除かれ、どこか興奮した村の人たちは

一足早い収穫祭として騒ぐことを選択した。


犠牲になった家畜の処分もしなくてはいけないということもあったのだろう。


互いの無事を祝い、騒ぎは夜遅くまで続いている。


弟たちは早々と村の子供と一緒に寝てしまっているし、

じいちゃんも大人たちとお酒を交えた騒ぎの中だ。


僕も村の人たちや村長からは感謝の言葉と歓迎を受けたが、

さすがに疲れてきたので騒ぎの外、丸太の上に適当に腰かけて空を見上げていた。


『良い事だ。元気がなければ何もできない』


腕輪からは相変わらずの声。


「そういえば、誰だかしっかり聞いてなかったね。

 なんであんな場所にいたの?」


僕は思い出したようにそう問いかける。


腕輪はしばらく沈黙していたが、

いつしか言葉と、頭に浮かぶイメージで語り始める。


遠い、遠い時代の話を。


『……って感じでな。眠ってた』


「ご先祖様の眠ってた場所に偶然たどり着くなんて……」


僕はまるで行商人に聞いたおとぎ話のような話の内容と、

腕輪の正体に驚いていた。


いや、驚いた、ですませていけないことはわかっているが、

今はそういうしかないぐらい驚いているのだ。


『眠っていたとはちょっと違うが似たようなもんか。こうなったからには

 俺はお前の力になる。どんな道を進もうがな』


「そっか。さすがご先祖様。わかってる」


どうやら僕はよほど強く考えていたらしい。


村を出て、両親の行方を捜す旅に出ようということを。


『そういうことだ。ああ……いつまでもご先祖様、じゃ変な感じだな。いいか? 俺の名前は……』





こうして、僕の夏は波乱に満ちた夏となっていく。


ご先祖様、何百年も前の冒険者、ファクトじいちゃんと一緒に。

冒険と言えば15歳。勇者になるのかどうかは今後次第で。

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