MD2-198「西方探索模様-5」
かつて、世界は工夫と熱意に満ちていたという。それは最初の精霊戦争の結果、世界のあちこちから多くの精霊が失われ、結果として魔力もその力を減らしたからだという。精霊の回復はひどくゆっくりで、かろうじて回復して来た中、再びの騒乱により危機に陥る。第二次精霊戦争の頃である。けれども、再びどこからか現れた英雄たちが世界が精霊に満ちた姿を取り戻したという。
「それからの年月は平和……ゆえに、強力な魔道具などを作る必要もなくてな。段々とすたれていったのだよ」
「なるほど……だからダンジョン産の魔道具なんかが高く売れるわけですね」
今じゃ、作れないから。そういうことなんだろうね。ご先祖様の生きていた時代だと、火球を撃ちだす杖が普通の村人も護衛に持っていたぐらいの時代があるそうだけど本当かなあ? 今ならそんな杖、下手すると金貨がいるんだよね。
『そこそこ高い時もあったぞ。戦争前だが』
(争いが起きたから必死になるっていうのも悲しいよね)
ご先祖様の力を借りたら魔道具の1つや2つ作れそうではあるが、もしそんなことをしたら冒険どころではなくなってしまうので全部終わってからのいざという時の手段にしよう。今はそれよりもお爺さんの話だ。
露店で売っていたガラクタ同然の状態の物を1つ1つ手にとってはこれが何でと説明をしてくれるが、やはりほとんどは真偽不明のまさにガラクタ。ただ、中には僕が見つけた水筒みたいに本物が混ざってくるから油断できない。ガラクタ扱いの方も、はっきりしないだけで意外と全部……まさかね。
「ふう……話を聞いてくれてありがとうよ。最近の奴は綺麗な状態の発掘品にしか目が行かない。目利きが出来ないからとよくわからないものは全部不要、だと。それも経験を積まねばならんのにのう」
「僕も何回も怒られましたよ。手伝うならしっかり覚えろって……ははっ、なんだか懐かしいや」
もっと色々聞いておけばよかった。もっと色々教えてもらえばよかった。そんな気持ちばかりが浮いては沈む。気が付けば、よくわからないガラクタを力いっぱい握りしめていた。金属なのか、ほんのり冷たいのが僕の心を冷やしてくれた気がした。
(いけない、見つけるんだろう、両親を)
こういう時、ご先祖様は……お爺ちゃんはあまり物を言わない。僕が乗り越えるべきことだし、本当に言葉が欲しい時にはくれると信頼してるから、別に構わないのだ。
「見たところ若いのに、何やら大変そうだのう。私でよければ話を聞くぞ? おっと、その前にその腕輪についてもう少し話しておこうか」
ちょっと不思議だけど、お爺さんは良い人っぽかった。僕が落ち込んでいるのを見て取るや、笑わせようと話題を変えたりとして来てくれた。そんな話題の1つが、ご先祖様の宿る腕輪のことだった。どうやら腕輪そのものは世界に1つということではないようだった。
「色々と言い伝えはあるが、ほとんどが信ぴょう性は薄い。過去の英雄と評された人物の腕には、ほぼ間違いなく腕輪がはまっていたという話があるぐらいでの。それもたまたまと言えばたまたま。坊主のそれはそのものかはともかく匹敵すると言っても過言ではあるまい。大切にするんだよ」
「はい、もちろん」
世界には、実家の薬草な洞窟みたいな場所がいくつもあるはずだ。実際にこっちに来て遭遇したわけだしね。そこには腕輪は無かったみたいだけど……探して回るというのもちょっと違うかなと思った。こういうのは、出会ってこそ、そんな気持ち。
その後も色々と話し込んでいると、時間が結構過ぎていた。
「おお、そうだ。坊主はアイテムボックスを持っているな? ああ、うん。隠さずともいい。魔道具と同じで、独特の魔力の流れが感じられるのだ。問題はそれの使い方だよ。ただ出し入れするわけじゃないことを1つ、教えてあげようかの」
そうして教わったことは、ご先祖様でさえ、初めて知ったぞそんな使い方、なんて言わせる物だった。どこか興奮したご先祖様を不思議に思いながら、宿に戻る。部屋からは聞き覚えのある女性2人の声。マリーとビアンカさんが戻ってきていたのだ。
僕はラヴァゴーレムを倒す手段が増えたことに喜んでいた。だからそれを早く伝えるつもりで勢いそのまま部屋のドアを開け……ビアンカさんに体を拭かれているマリーに出くわした。
「ファルク……さん?」
「ご、ごめっっ」
「男の子は外に出るっ!」
背中をこちらに向けていたから肝心なところは見えてはいない。ただまあ、言い訳に過ぎないね。窓からの光に照らされて真っ白に光る肌はとてもきれいだった……って、僕はダメな奴だな……忘れようとしても逆に強く思い出してしまうや。
『それが普通じゃないか? 好きな、相手のことならな』
優しい声色のご先祖様が今日ばかりは憎い。というかご先祖様は忘れてよね! そんな感じで一人怒ったり悲しんだりをしていると、ゆっくりと扉が開いた。
「もういいわよ。まったく、声ぐらいかけたほうがいいよ」
「まったくもってその通りです」
ビアンカさんに引きずられるようにして部屋に入ると、マリーは窓際で少し顔を赤くしてこちらを見ていた。椅子に座り、どことなく居心地が悪そうだ。だから僕は離れたまま、頭を下げて謝罪する。いくらか怒られるかと思っていた僕だったが、マリーの言葉に驚愕することになる。
「いいですよ、ちゃんと責任を取ってくれそうですし」
「2人旅だからもしかしてと思ったけどやっぱり? じゃあ私がお邪魔だったのかな」
「違わないけど少し違わない?」
確かに今さらマリー以外の人を選ぶつもりもないけれど、出来ればこういうことは雰囲気を上手く作ってやりたいな、なんて思うのだ。贅沢な話な気がしないでもないけどね。っと、それよりもだ。
僕は部屋にある椅子に座って、2人に向き直った。あのダンジョン、大量に出て来たラヴァゴーレムを倒せるかもしれない手段を聞いたからだ。そんなことが出来るのかと、僕と同じように驚く2人。だけど実際に威力を弱めて試して見せると2人とも納得した。
後は都合よく討伐の話が出てくるかだけど、ギルドに行ってみるまでわからないね。専用の人員が調査に行くとか言ってたしさ。
結局、僕の心配は無用だった。確かにギルドの受付の人も人を向かわせると言っていたけど、解決させるとは言っていなかったよね。だからなのか、依頼書として新しく……ラヴァゴーレムの出来るだけの殲滅の話が出ていたのだった。
「これ、出来るだけでいいんですよね」
「はい、そうですって貴方達は! 気を付けてくださいね。一応核を討伐証明に使いますからしっかり拾ってきてくださいね」
そうして僕達は、再びダンジョンへと出向く。途中、何人かの冒険者に出会ったけれど半分ぐらいは火傷や装備の焦げを見つけた。やはり近いからなのか挑んでみた人が結構いるみたいだった。
「じゃ、お手並み拝見と行こうかね」
「ええ。じゃあ……」
まだラヴァゴーレムからは離れた場所で3人は立ち止まる。ここからじゃ一部の魔法が届くかどうかぐらいだ。当然、剣なんかは届かない。そんな場所で、僕はアイテムボックスの口をラヴァゴーレムに向けて中身を取り出そうと考えた。
新しいアイテムボックスの使い方。その効力は……無数の水の槍に貫かれるラヴァゴーレムの姿が証明していた。
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