MD2-182「嘘か真か-5」
ずっと戦い続けるなんていうことは誰にとっても困難な物。それは僕達にとっても、一緒にいる他の大人たちも同じだった。しばらくは儲けを取り戻さないと、という気持ちでもあるのか元気だった人達が疲労していくのが目に見える。
『一度作戦を練り直すべきかもしれないな』
(そうだね。僕達なんかこの坑道がどのぐらい続いてるかも知らないもんね)
誰に言うべきかはわからないけれど、何人かに言えば伝わるだろうな、そう思った時だ。坑道の奥から敵の増援がやってきた。何回目かも覚えていないコボルト、そしてゴブリン。組み合わせだけでも外ではありえない光景なのだけど、ダンジョンとなれば本来の縄張り意識だとかを無視して出てくるというのはある意味常識だった。
「ファルクさん、まだいますっ」
「あれは……またなの?」
僕がそう言ってしまうのもしょうがないと思うんだ。2種類の魔物の奥に見えたのは、銀色の鬣を持った狼だった。初めて見るから何ウルフと呼べばいいのかわからない。仮にシルバーウルフと安直に呼ぶことにしよう。みんなも狼を見つけたんだと思う。何人かはやる気が沸いたのがわかるし、逆に何人かはやる気が減ったように見える。
みんな、もしかしてという気持ちと、また厄介な銀モドキだったら嫌だなという気持ちがせめぎ合ってるんだ。
それでも魔物を放っておくわけにもいかない。ダンジョンからは基本的に出てこないとなぜか決まっていると言っても例外はあるようだし、何よりこの場所で採掘がやりにくくなってしまう。怪我をするのも馬鹿らしいとばかりに、マリーを含めて何人かから魔法が飛び……何度も繰り返したように魔物が倒され、溶けるように消えていく……残るのは古びたコボルトやゴブリンの武具、そして……金属の輝き。
動かないでいるみんなの代わりに、僕は徐にそれを拾いに前に出て、魔物が来ないことを確認しつつ拾い上げる。手の中の感触はあの水銀とは全く違う。とても馴染みのある物だった。
『銀だな、間違いないぞ』
「たぶん、銀です。親がそういう店をやってたんで慣れてるんですけど……」
おずおずとそれを差し出す僕を見るみんなの目に輝きが戻って来た。兵士であろう人はともかく、冒険者にとっては損をしない、というのはとても重要なことだ。それが需要が常にある銀相手となればなおさらである。
すぐに話し合いが始まり、少しずつ奥に進むことになった。坑道の終点までもそんなに遠くないというのもあるらしかった。僕は先に拾いに行く危険を冒したからと最初の銀を貰うことが出来た。特にお金には困ってないけれど、貰える物は貰っておこう。
「不思議な魔物でしたね」
「うん。鬣が光ってたってことは……どうやって産まれたんだろう。でも、元々毛皮とか牙が獲れるんだもんね。同じような物かな?
頭に浮かぶのは、銀塊が盛り上がって狼の姿を取る、なんていう光景だったけど恐らくはそうはならないだろうなとも思っていた。想像の答えは案外早くやってくるかもしれなかった。
「また来たぞっ! さっきより銀が濃いっ!」
坑道を走ってくる何匹ものシルバーウルフ。その遠吠えと共に生み出されるものは火球。口から撃ちだされるそれを金属の盾や魔法で防ぎつつ、相手を切り捨てる冒険者達。そして残る銀を手にしては喜んでいる。なんとも不思議なダンジョンだった。
「おい、見ろよ」
誰かの声にそちらを向くと、主に銀を掘っていた場所なのか天井も高く、広い部分が見えてくる。その中では壁に添えつけられた作業用のランタンがまだ灯りをともしていた。魔石や魔水晶を燃料に、何日も維持できるものがあるらしいからたぶんそれだろう。
その灯りに照らされるのは、壁を掘るコボルトやゴブリン。周囲にはうず高く掘った岩塊が積まれている。その中に顔を突っ込み、何かをかじっているのは狼だ。状況的には、コボルトたちが銀を掘って、狼がそれを食べて自分を強化している……?
「あんな連携を魔物がするんですか?」
「わからん。が、ダンジョンでは色んな魔物が協力するかのように行動してくるのはよくあることだ。恐らくはその1つ……来るぞ!」
さすがに話声が届いたのか中にいたコボルトたちが気が付く。すぐに戦いが始まり、乱戦模様となってくる。シルバーウルフはというと、コボルトたちの後方に飛びのいたかと思うと唸り声をあげている。一斉に魔法を使うつもりなんだろう。
「マリー! 魔法が来る!」
「そうはさせませんっ!」
コボルトたちを飛び越えるように、マリーの手から雷の網を飛ばす魔法が放たれる。ちょうどこういった戦いのときに後方を攻撃するために編み出された魔法のはずだ。そしてそれは魔法を使うべく唸り声をあげていたシルバーウルフたちを何匹か巻き込み、その邪魔をする。それでも何匹かは無傷のままで、その口から小さな火球がいくつも撃ちだされるという状況となった。
「こいつら、お構いなしか!」
そう、撃ちだされた火球はコボルトやゴブリンもお構いなしだった。直撃したというのに、彼らは後ろに怒ることもなくこちらを敵として挑んでくるばかりだ。どこか不気味な物を感じながら、僕達は戦いを続け……ようやく静かになる。
「これがいつもの状態になったらこの場所も掘りにくいぞ……」
誰かのつぶやきが全てであった。こんな魔物の襲撃を防ぎながら掘るというのはなかなか厳しいものがある。採算が取れなくなってしまうのではないか? そんな考えが全員の頭をよぎる。僕はそのまま広間の中央まで歩いて行って、横穴から魔物が飛び出してこないかを確認する。
そんな時だ。
「ファルクさん!」
「これは……」
床からせりあがってきたのは、戦女神様……? いや、もっと小さいしなんだか子供っぽい。羽の生えた村の子供、それが一番似合う。後、精霊の姿に似てるかな?
─ 試練の突破を確認。これからも鍛えるように
そんな誰かの声が頭に響いた。そして瞬きしてる間に、よくわからない相手はふっと消えてしまった。嫌な感じはしないけれど、スピリットの類だったのかな?
『そういうことか……これは……クエストの1種。女神と戦女神の試練だったらしいぞ』
そんなご先祖様の声を聞きながら、僕は黒龍と女神様たちの違いがどこにあるのか、わからなくなってきていたのだった。それでもさっきみたいな魔物が出てきそうにないことは自分以外の皆もなんとなく感じたらしい。
恐る恐るという感じではあるけれど広間にやってきては周囲の確認をしている。小走りにやってくるマリーとそっと手をつなぎながら、僕も戦いが一応終わったんだろうなと考えていた。
「ファルクさん、私……女神様の試練ってなんだろう?って思っちゃいました」
「うん。何なんだろう……ね」
解散と帰還の宣言が響くまで、僕達はそのまま呆然と周囲を見渡すのだった。
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