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マテリアルドライブ2~僕の切り札はご先祖様~  作者: ユーリアル


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MD2-175「善意と悪意-2」


「せぇい!」


「火球、行きます!」


 硬い手ごたえ、それに顔をしかめるよりも早く後ろに飛びのいた僕と入れ替わるようにしてマリーの放った火球がゴーレムにぶつかり、その体を炎で包み上げる。傷だらけだったゴーレムは隙間から中身を焼かれたのか、少し暴れた後にそのまま崩れ落ちるようにして沈黙した。


(これで5……うーん、どこから出て来るかは丸わかりだけどきっついなあ)


『積極的に出てくるという感じではないようだな』


 慰めのようなご先祖様の言葉も今はありがたい。これで好き勝手に外に出てくるようならもっと対策を考えないといけないからね。見える範囲でのゴーレムを討伐し、明星を構えながらも休息に入る僕。マリーもホルコーの背中に用意して置いた皮袋から水を飲んでいる。長丁場になりそうだからね、しっかりと休んでもらわないと。


「光ってるのは不気味だけど、一体何が目的なんだろう? ダンジョンなのは間違いないと思うんだけどなあ」


 僕が監視を続けるのは、シャルナさんの領地内で突然光を放ち始めた場所にある謎の水晶塔だ。高さ的には普通の家が10個ぐらい重なったぐらい……まあ、十分大きいよね。横幅はちょっとした広場よりはるかに大きいから太い柱みたいな感じだ。そこには入り口がいくつか。それらと敷地を守るように出てくるのが、塔と同じような紫色をしたゴーレムだ。正直、ちょっと不気味を通り越して近づきたくないよね。


「形状からして誰かが作ったように見えますね」


「うん。他の地上にあるダンジョンもそうだけど、自然には出来ない感じだもんね」


 なおも2人で警戒を続けていると、街の方から何人かの人がやってくる。装備からして依頼を受けた冒険者かな? 相手は僕達を見て最初は警戒した様子だったけど、同業者であろうことがわかると警戒を解いてくれた。そのままざっくりと説明をすると、みんなして塔を見ることになる。


 曰く、一応同じような動きのダンジョンはあちこちにあるらしい。こうやって光るのは初めてらしいけど……こんなのが何個もあっては困る気がするし、ちょうどいいのかな?

 ゴーレムが一応鉱石類を残すことを伝え、魔法で砕けば儲かるかもという話を聞いた冒険者達は塔の周囲にいるゴーレムたちを破壊し始める。調査のため、と言えば問題ないだろうからかな。


 冒険者も調査や警戒に加わりはじめてしばらくの時間が経過する。大きな動きは無く、不気味な光が空の雲を照らすばかりでゴーレムが外にたくさん出てくるということもなかった。ゴーレムは一定量の数を保つように出てくるだけのことがわかってくる。こうなると僕も驚くのだけど、人間というのは慣れる生き物ということで冒険者達も依頼を受けてはゴーレムを破壊し、出てきたものを回収しては戻る日々になっていく。


「全部ギルドに投げて、実績を積むだけの依頼にしてよかったですね」


「全くでございます。そうでなければ今頃依頼金でとんでもないことになっていました。ファルク様の先見の妙でございましょう」


 ゴーレムの難易度、そして得られる物を確かめた僕は、シャルナさんに普通の依頼形式を止め、探索の許可といったものをギルドに丸投げすることを提案したのだ。要は敷地内にダンジョンが出来たよ、好きに探索していいけど喧嘩とかしてもウチは知らないよ、とそんな感じ。実際にはダンジョンそのものである塔に入ろうとする冒険者はまずいないため、一見するとすごい平和な時間が過ぎていくことになる。


「ですけど、あの光を見慣れたくはないですよねえ……」


「そうなんだよね。根本的な解決にはなってないと思う」


 言いながら、ずっと静かなシャルナさんをふと見ると、なんだかきりっとした顔をして僕を見て来た。なんというか、シーちゃんとは別の意味で分かりやすいなあ……気持ちはわかるんだけどね。僕としては……。


「シャルナさんはダメですよ」


「っ! まだ何も言ってませんわよ!」


 顔を真っ赤にして言い募るシャルナさんだけど、カップをわざわざ置いて深呼吸なんてしてたらわかりやすいなんてもんじゃないと思うんだよね。気持ちはわかる、わかるんだ。塔を攻略して両親がいないことをはっきりとさせたい、そういうことだとね。


(だけど、駄目だ……と思う)


『駄目だ駄目だというとこっそりついてきそうだから、しっかり説得しないとな』


「僕が止めても勝手に行っちゃうかもしれませんけど、何かあったら……みーんな路頭に迷うんですよ?」


「私が言えたことじゃないですけど……家の血筋がおひとりなら我慢することも必要です」


 お姉様、と力なくつぶやいてマリーを見るけれど、彼女が縦に首を振ることはない。マリーも家の継承者としての立場があるから本当はこんな旅をしていては、と思う人もたぶんいるんだけど彼女は彼女なりに覚悟を決めてこの場所にいる。そのことがありがたくもあり、申し訳ないなという気持ちもある。


「わかり……ました」


 脱力するように肩を落とす姿は見ていていい気分の物ではないんだけど……正直、戦い始めたばかりの彼女を連れてダンジョンを踏破する余裕はたぶんないと思う。何が起きるかわからないしね。だけど、このままというのもかわいそう。というわけで……僕達の出番である。


「終わったら、いつもより豪勢な夕食にしようね」


「……承知いたしました。腕によりをかけて……お約束いたします」


 え?とびっくりしているシャルナさんの代わりに、爺やさんがそんなことを言って頭を下げてくる。僕とマリーだけでどこまで行けるかはわからないけれど、最悪逃げてくるつもりだ。なんとか逃げ出して見せるさ……。


「お二人とも、どうしてここまで助けてくれるんですの?」


 そんなことを言われて、マリーと2人で向き合ってしまった。そう言われてみれば、という気分だった。言葉にすると色々と出て来るけれど、どれも大体は後付け……かな。だって、理由はもっと単純な物。


「そうだなあ……シャルナさんがシャルナさんだからかな?」


「どういうことですの? さっぱりわかりませんの」


「うふふ。私もファルクさんも、自分より年下のシャルナさんが笑顔でいられない世界なんてぽいってしちゃえ、そういう気持ちなんですよ」


 正直に伝えるのがちょっと恥ずかしくて誤魔化した僕の代わりに、マリーがきっぱりと言ってくれた。そう、僕も子供だけど……もっと子供なシャルナさんが笑顔になれないのはきっとおかしい、そう思ってるのだ。

 それがダンジョンのせいだっていうなら、僕はそのダンジョンをなんとかしてしまいたい。


「私、そこまで子供じゃありませんわ」


「子供さ、子供で良いんだよ。僕だって大人って言えやしない。だから、自分の好きなようにやるのさ」


 ダンジョンにシャルナさんの代わりに挑もうというのも僕達のわがまま、そういうことだね。ずるいって顔をされたけど、ここは年上の言うことを聞いてもらおうと思う。

 ホルコーを預かってもらうことをお願いし、僕達は翌日、謎の塔へと挑むことに決めた。


 翌朝、シャルナさんや屋敷の使用人の人達に見送られながら、僕達は塔へと向かう。何回か行き来した場所なのに、今日ばかりは結構緊張するね。


「やれますよね……」


 不安そうな声にまだ塔につく前だというのに開いた手で彼女の手をしっかりと握ってしまう。少しでも安心してくれればと。横を見ればはにかむような笑みで杖を左手に持ち帰るマリー。なんだか胸が温かくなるのを感じながら無言で進み、たどりついた塔。


「退治した後なのかな……?」


「そうみたいですね。今の内に行きましょう」


 珍しく、ゴーレムが塔の手前にいない。これ幸いとばかりに僕達は手をつないだまま塔に足を踏み入れ……独特の浮遊感を味わった。


(転移!? マリー!)


『しっかり捕まえてろよ!』


 視界ははっきりしないけれど、手の感触は間違いない。離さない、そう念じながら手をつなぎ続けて……次に視界がはっきりした時には周囲は全て紫色に包まれていた。


「塔の……中?」


 手をつないだまま、一緒に転移できたマリーの声が妙に響いた気がした。




大体ネトゲのダンジョンって入るとローディングがありますけど、

実質転移してますよね……ってイメージです。


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