MD2-170「川のほとりで-2」
投稿遅れました! すいません!
「そういえば、お前さん達はスライムを倒したことは?」
今さらながらの問いかけ。街を出る前に聞かれなかったのは、この依頼を受けるぐらいなら当然経験があるだろうという思い込みからだったんだろうね。ただまあ、僕たちも倒した経験はある。問題としては、主に洞窟のような狭い場所でということになるけれど。
「何度かありますよ。ですけど……こんな屋外はあまり経験が無いですね」
「僕の知ってる限りだと、スライムって沼地とか洞窟の中にいる印象なんですけど」
「なるほどな。このあたりは魔物も地域性って言うのか? 特徴があるんだろうな。このあたりのスライムはむしろこういう開けた場所に出る。主に川に沿ってだが」
手入れされた街道を3人で歩きながらの会話だ。今回はホルコーはお留守番。遠くに水車であろう物がいくつか見えるけれど、周囲の光景は珍しいものだった。街道を逸れ、ちょっとした丘の上から見ると川がぐねぐねと曲がっている。あちこちで泉のような池のような場所があり、まるで水玉模様を地面に押し付けたような光景だった。
「元々、魚がよくいるからってんでこのあたりは有名だったんだがな。どうせならって水車を設置して流れを緩やかにしてるわけだ。ただ……」
「上流からスライムが漂ってくるときがあるんですね?」
依頼として出てくるぐらいだから頻度はそこそこ、毎日という訳じゃないんだと思う。雑草を引き抜いてきてくれ、みたいな軽さだったからそんなに大きな相手とかじゃないとは思うんだけど油断は禁物だ。
なぜならスライムは、近くで切り付けるような戦い方をするには非常に怖い相手なのだから。
「その顔じゃ二人ともわかってるみたいだな」
「はい。私もファルクさんも口酸っぱく言われました。近づかず、焼け、あるいはなんでもいいから削れと」
僕も頷きつつ、一応明星に手を伸ばしながらもそれは魔法を撃ちだす際に向きを意識するための杖代わりとしてだ。右手で普通に撃ってもいいんだけど、左側に撃ちだすには剣の方が何故だか調子がいいんだよね。そういう癖がついてしまってるのかもしれない。
「ははっ、上等上等。この辺じゃ遊んでるガキでも知ってらあ。だから魔法が使えない相手に依頼が回ってくることは無いし、頼む側も魔法が使えるだろう前提で頼むわけだ」
僕達が旅をしてることを見抜いたマーヴィンさんは、地方にはそんな独特の慣習のようなものが前提にある依頼が結構あるから気を付けろと教えてくれたのだ。そのことに感謝しつつ、最初の水車に見回りに向かう。今のところこの水車には問題はなさそうだ。
「氷……だと水車が壊れるかもしれないから弱い雷ですかね?」
「うん。川から顔を出してるなら風の刃で斬ったりしてもいいかもしれないね」
「選べるほど使えるのかよ……こりゃすげえ」
練習がてら、マリーが水車に向かって弱く雷を放ち、僕も水面を切り裂くように風の魔法を放つ。それぞれスライムぐらいなら十分だと思う。外から当てる分には、ね。
こりゃ楽が出来そうだな、なんて呟くマーヴィンさんと笑いながら、警戒しつつも僕達は水車を回っていく。ついに見つかるスライムたち。ほぼ透明な奴から、泥を吸ったのか全身茶色い奴まで種類がある。水車に乗ってぐるぐる回るやつから、岸辺に漂う奴までいる。
「今日は固まってるな。よし、始めるか!」
「「はいっ!」」
声を合図に、僕達は互いが互いを支援できる位置について魔法を放つ準備をする。マーヴィンさんは風魔法の使い手らしく、水面や岸辺にいるやつを主に狙っているようだった。僕とマリーは水車にいる奴を狙いつつ……あっさりと仕留められていく。
「思ったより魔法には弱いんですね」
「ああ。魔法が使えれば事故にさえ気を付けりゃ余裕余裕。弁当でも持って散歩がてらに狩るやつもいるさ。どうせ何も取れないからな。核だって小さいもんばかりさ。それでもまあ、狩っとかないと危ないからな」
そう、スライムは個体差はあれど……そんなに強くない。ごく一部の地方にはすごいのがいるとか聞いたことあるけどね。大体は慣れた冒険者なら正面から戦って負ける道理はないんだ。そのはず……なんだけど。
僕達の耳に、川と水車以外の音が聞こえた。どこか遠くからの叫び声だ。
「悲鳴!?」
「あっちです。行きましょう2人とも」
駆け出すマリーを追いかけるような形で、僕達は曲がりくねった川沿いを走る。所々にある橋を渡り、向かう先は少し離れた場所にある古い水車。というか動いてないし……廃棄された奴なんじゃないの?
「いたぞ! おいおい、マジかよ」
「あのままじゃ……」
水車を回り込み、悲鳴の主を見つけた僕達は思わず足を止めていた。どうするのが一番いいか、悩んでしまったからだ。3人が見つけたのは、スライムに体を取り込まれた状態の少女。首から上が出ていて、まだ息はある。むしろこちらを見つけて必死に叫んでいるぐらいだ。
「た、助けてっ」
「わかってる! 下手に動くな!」
涙をぬぐうこともできないからか、女の子としてはひどい状態の顔になっている。むしろもっとどうにかしてあげたいのはスライムに埋まっている体のほうだ。スライム自身は砂や泥を吸い込んでいるからか、あちこち靄のように茶色い部分がある。少女としてはそれが良かったと言えるかもしれない。なんでかって言うと……スライムが器用に服や鎧を剥ぎ取った状態だからだ。
「あれだけ元気で装備が剥ぎ取られてるってことはまだ半日立ったかどうかか」
「どうしましょう。あのままだと……」
「ファルクさん、あまり見ちゃだめですよ」
マリーがそんなことを言い、焦りつつもすぐにどうこうしないのには訳がある。さっき言ったようにスライムは器用に少女の装備を剥ぎ取っているんだ。まあ、だからスライムの中で少女は素っ裸なわけ。砂や泥がわざとかなってぐらいちょうど隠すようになってるから裸だろうな、ぐらいで済んでるんだけどさ。
「火と雷は論外。岩だと下手にスライムが動いて当たったら悲しいし……氷だとあの子も凍えますよね」
「属性の数はこの際置いておくとして、だろうな。あのままよりはましだと思うが……他のを消化する方に気をそらせれば……」
「あっ! ファルクさん、地面を見てください!」
視線を向けると、大きな物が這った跡が残っている。地面に生えた草が見事になくなって土が見えているからなんだけど……そうか! 後で草花には謝りつつ、ポーションでも振りかけることにしよう。
マリーと頷き、僕達は魔力を練る。使うのはいつもなら拘束に使ったりする緑の魔法。
「「いたずらな手!」」
力ある言葉と共に、地面から雑草にしか見えなかった草花が無数に伸び、狙い通りにスライムに突き刺さりながらも音を立てる。ずぶっと入っていく音でもあり、その中でさっそく消化されてしまっている音でもある。周囲にちょっとだけど草とかを絞った時のような青臭さが満ちる。
「今なら!」
「ようし、おい嬢ちゃん! 掴まれ!」
スライムの気がそれているけれど、それでもすぐそばに近寄るのは危ない事。だからマーヴィンさんは持ち歩いていた長い棒を突き出してスライムに突っ込むと少女につかまらせ、引っ張るも上手くいかない。そりゃそうだ……あんだけぬるぬるしてるもんね。
「ちょっと冷たいけどすぐ溶かすから!」
叫んで、僕が行使するのは氷の魔法。それはちょうど少女の手と棒の部分だけを凍らせる。乱暴だけど棒と少女が離れないようにしたんだ。マーヴィンさんはそれを見るや力一杯引き抜き……栓を抜くかのように少女がスライムから飛び出て来た。その勢いは結構な物で、飛び出してきた方向には……僕だ!?
幸いにも、凍ったのはスライム部分だけだったみたいで棒から少女の手がすんなり離れたようだった。だけどその分飛び出した勢いは減らずに……僕とぶつかった。裸の少女が……。
「きゃっ!?」
「ぐえっ」
「ファルクさん!?」
少女がぶつかってきたのが背中側だったのはマリーとの問題を考えるとよかったのか悪かったのか。少なくとも僕はそのまま地面に体を打ち付け、意識が半分飛んでしまうのだった。
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