MD2-159「調和を乱すもの-1」
「これで8頭目っと」
「そろそろいいんじゃないでしょうか?」
大きな音を立て、地面に倒れ伏す大きな鹿を見ながら僕はマリーの言葉に頷いていた。今日も無事に8頭目を仕留めることが出来た。大き目の個体をとにかく選んでるから周囲への影響も予定通り、かな?
『ひとまず冷やそう。せっかくの食料だ』
「暑い時期には冷やすのは大変だけど……んんー! ブリーズ!」
氷の塊になるでもなく、中まで凍るわけでもないある意味この状況に最適な魔法を選び、僕は獲物を保存するべく凍り付かせる。後は……元気いっぱいのホルコーに乗せる……わけもなく、アイテムボックスに入れる。さすがに自分より大きな物を背負わせるのもどうかと僕は思うんだよね。
「……考えたらいけないんでしょうけど、この場合重さはどこに行くんでしょうね」
「んー、別世界じゃないかな? ほら、エルフの里とかみたいな場所があるんだと思うよ」
前に気になってご先祖様に聞いたときには、ちゃんと説明してもたぶん意味が分からないからそういうものだと思っておくのが良い、だってさ。確かにそうなんだよね……魔法だってそれが出来るってわけで本当のところは僕にもよくわからない。精霊が関係してるのは間違いないんだろうけど、ね。
そんな雑談をしながら、僕達が戻る先はとある村。もうすぐ町になれるかな?という大きさだ。モンスターの街道封鎖をなんとか解除してから西に進むこと数日。もうすぐ両親の友人が住むという場所に近づいてきたと思う。そんなところで立ち寄った村、一つだけあった酒場兼ギルド、な場所に一応顔を出すと、害獣退治の依頼を見つけたのだった。
僕も村で暮らしていたからよくわかるけど、この場合の害獣とは例えば熊だとかに限らない。鹿とか草しか食べないような相手だって数や大きさ、そのほかの状況によって厄介な相手になるんだ。今回もその例にもれず、増えすぎた鹿を退治してほしいという物だったんだよね。
「この角ならそりゃオークも逃げるわけだ……」
「エルフの力が借りられてよかったですね」
そう僕達は森の中で相手に出会うなり、二人していたずらな手、エルフの力を借りた状態であれば拘束に長けた魔法となるそれを発動、大きな体を拘束して一気に仕留めたのだ。雄が3頭に雌が2頭、雄の角は僕の腕ぐらいの長さがあるものすごい物だった。
村が近くなってきたので、1頭をわかりやすくアイテムボックスから出して引っ張っていく。覚えたばかりの身体強化の魔法だけど効果は大丈夫みたい。かなり重いけど、なんとかなってるからね。マリーも同じようなことが出来ると思うけど、女の子にはこういうのはさせられないよね。
『直接ではなく、何かでそりのように引っ張ればよかったんじゃないか?』
(だからそういうことは早く言ってよね……)
そういうことに気が付かない僕も僕なんだけど、出来れば助言が欲しかったところである。今さら枝を確保したりするのも逆に面倒なので、村までずりずりと引っ張り、結果的に門番な人に驚かれることになってしまった。
「ちょっと仕留めすぎましたかね?」
「いやいや。逆にありがたい。最近妙に増えてきましてね……難儀していたんですよ」
報酬の一部として料理してもらっている肉の焼ける匂いに鼻を引くつかせながら、僕がそんなことを聞いてみると村長さんらしい相手は勢いよく首を振った。既に10頭以上、まるで馬かと思うような相手を仕留めているのにまだ問題が無い? かなりの大事じゃないのだろうか?
街育ちでこういうことに詳しくなさそうなマリーも目をぱちくりと驚いた様子だった。ここは田舎者な自分が話を進めるべきだろうね。別に自虐的な意味じゃないけれど、この感覚のズレはどうも危ない予感がするんだ。
「僕も田舎暮らしが長いですけど、この数でまだ仕留めて大丈夫って、かなりの問題じゃないですか?」
「やはり、そう思いますか……」
そんな言葉と共に沈んだ顔をする村長を見て、僕はしまった、と思った。何かって? 依頼されたことだけこなしておけばよかった、ってことさ。うん。
とはいえ、こうなった以上は出来るだけ片づけてすっきりしておきたいという気持ちもあるからね。そう言うことにしておこう。
「村の狩人も今年はおかしい、と言っておりましてな。今回お二人に向かってもらったのとは別の山に入っては獲物を毎回持ち帰ってきているわけで……もちろん狩人の腕もあるのでしょうが、確かに数が多いのです」
「去年から今年にかけて獣が育つほど山が豊かな感じだったんですか?」
僕がとっさに思い浮かべたのは、山の木の実だとかが豊富で、子供もたくさん産み、多くが餓えずにそのまま成長できたということだ。これなら数そのものは説明が出来るけど……どうも少し違うみたい。
「特には……ですのでこうして間引きのみを依頼して様子を見ているわけですよ」
「そう……ですか」
僕は村長さんと2人してうんうんと唸り始めるけど、良い答えは出ない。まあ、しっかりした答えが出ることが少ないとは思うけど、考えないというのもね。そう思っていた時、隣に座っていたマリーが顔をあげて僕達を見た。
「あの、何かに山奥から追い出されてきたってことはありませんか? 例えば、変な魔物が住み着いたとか」
『十分ありうるな。問題は確かめに行くべきかどうかだが……』
マリーの意見は全くないわけじゃなさそうだった。ご先祖様的には、むしろその可能性が当たりだと思っているみたい。その上で僕達がどうするべきかが問題だけど、どうしようか?
「そうじゃないといいんですが……もし頼むとしたら」
「僕達より人数がいる他の人の方がいいかもしれませんよ?」
これは謙遜だとかそんなんじゃなく、単純に人手が足りないからだった。山は広いし、相手だってたぶん移動する。そんな中で僕とマリー、後ホルコーだけでもれなく探索っていうのはなかなか困難だし、多分無理。村長もそれはわかっているみたいで、何度も頷いている。
「また都合が付けば依頼を受けていただけると助かります」
僕達が丁寧に接していたからだろうか? 村長さんは冒険者に向けていうのには丁寧すぎるその返事を合図として、話を終わりにした。僕達もまた、少しもやもやしつつも宿に向かう。ホルコーをねぎらいつつ、そのまま夜。
僕はどうも眠くならなくて、窓から空の月をぼんやりと眺めていた。空のはいつもと変わらない月。おとぎ話じゃ、あの空の月にも神様がいるとかいうけどどうなんだろう。いつか会ってみたいような、そうでもないような……知らないことが多すぎるよね。
『お前なら世界のどこにでも行けるさ。手助けはする』
(そう? じゃあ僕は……)
いつの間にか眠気が襲い掛かってきていたらしく、僕の思考はそこで途切れていた。そのまま気が付けば朝。マリーに起こされることになる。
「ファルクさん、どうも気配がおかしい気がするんです」
「気配が? ……本当だ。なんだろう……」
地図には反応はないけれど、どうも僕の知らないところで何か起きている、そう確信できる妙な気配だった。僕自身が自覚出来ていないだけで、身についた力が何かを感じているんだろうか?
ひとまず何があってもいいようにと装備を整え、食事もそこそこに外に出る。村の様子はここ数日と一緒。今のところは何かあったという訳じゃなさそうだ。そうなると一度外の様子でも見てくるしかないかな?
「おはよう、ホルコー。朝からだけど少し出るよ」
いつでも大丈夫とばかりに僕の顔を舐めてくるホルコーを頼もしく思いながら、2人して飛び乗って門から村の外に出て……すぐに立ち止まった。森の方角から何かを感じていたんだ。
「ファルクさん」
「うん。何か……くる」
魔力を練り上げ、いざとなればホルコーごと魔法で飛んで村に戻ろう。そう思っていた僕の視界に入ってきたのは、集団で森から駆け出してくる鹿の集団だった。
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