MD2-128「元をたどれば-1」
増えすぎたモンスターがあふれてくる、という言葉に頭をよぎるのはよくない想像ばかり。最悪の状況を想定しておくのが世の常、とは言うけれど限度があるよね。
僕はすぐそばで一人、腕組みしながら待機している熟練者風の冒険者に声をかけることにした。
「あの……ここの大発生って初めてなんですけど、どんな奴が来るんですか?」
「ん? ああ、年によって違うな。ノイジーだったり、コボルトやゴブリンだったり。この辺特有だと……餌となるデミホッパーが大量に発生した場所があると聞く。今年の本命はデントードだな」
考え込んだ冒険者の口から出てきたのは確信を持った言葉。いわゆる経験上、ってことかな。
もちろん、根拠がない場合もあるけれどそれでも経験というものは非常に貴重な物だ。
彼が嘘を言う利点も無いので、僕はその話を真剣に聞くことにした。
『俺が知る限りでも倒すだけなら楽だが……危ない奴だ』
「デントードは要はでかいカエルだな。だが、子供ぐらいなら一飲みにしちまうぐらいでかいし、捕食の動きが厄介だ。粘着質の液体がたっぷりついた舌を伸ばして獲物を捕らえる。普段は森ででかい虫や小動物なんかを食べるんだ」
ご先祖様に頷きながらも、冒険者の言うデントードの怖いところを頭でまとめ直す。たとえば遠距離から魔法で倒す分には楽だけど、近接でとなるとコツがいりそうな相手だってことかな。
「むう……出来れば私は相手をしたくない気がしますね」
「うん。マリーは後ろで援護を頼むよ」
でっかいカエルにぱくっとされるマリーなんて想像したくないからね。安全な場所にいてもらう方が良い。戦いに安全っていうのが無いというのもわかってるけど、それでもね。
ホルコーもいつでも逃げられるようにどこかに縛っておくのは無しだ。むしろマリーに乗っていてもらおうかな。
その後も聞けた話によると、やっぱりたまにこうして森からはモンスターがあふれてくるらしい。ひどい数ってほどじゃないそうだけどね。放っておくのは問題が残るのでみんなして迎撃に参加するわけだ。
僕達もしばらくはここにいるんだし、階位のためにも参加しないわけにもいかないね。
「デントードだとしたらなんでも武器はいいぞ。大体効くからな。だいぶ柔らかい相手だ。厄介なのはその舌ぐらいなものだよ」
「ありがとうございます」
そんなところにやってくる数名の男性、話をしてくれた冒険者と合流し、モンスターが大発生してきたという方向へと歩き出した。恐らくどうやら仲間を待っていたらしかった。
僕達も臨時で組んでもいいけど、急に組んで上手く動けるとも思えない……現地で必要があればでいいかな。
(さっきの自分を殴りたい……)
「うっわぁ……なんですか、あの数」
「僕が聞きたいよ。そこそこじゃなかったのかな……」
森というよりは林に近い状態で木々が生える街の南側。まさに密林と言える向こう側の森からいくつもの影が飛び出してくる。
足はそんなに速くない……けれど、飛び跳ねる姿とその大きさが異様だった。地面が正直、ほとんど見えないんだけど。
『数はともかく問題はでかさだ。聞いたより倍はあるな』
そうなのだ。事前に聞いていたデントードの大きさは大きくても僕の腰か胸元ぐらい。
でも目の前のはどうだ。たぶん僕ぐらいは余裕であるよ。下手したら僕もぱくってされちゃうんじゃないかな。
「デミホッパーを食べるって言ってましたよね。私たちが出会ったのが既に本来の群れの一部、だとしたら?」
「あんなにいた群れが本来の一部?……考えたくないんだけど」
既に始まった戦いの音を聞きながら、マリーの推測に素直に感想を言う。ただ、一番あり得そうだなと思った。
デミホッパーは倒せば階位が上がる、つまりはモンスター扱いだ。そんな奴らを餌として食べる奴がいたら、それは食事だけでも戦ってるのと一緒だ。そうして考えれば、いつも以上に成長して大きくなっている理由に説明がつく。
「でもやることは変わんないね。ファイアボール、行きます!」
「同じく、続きます!」
事前に、街の周囲は木々が燃えても仕方がないと了承というか、確認はすんでるんだ。
もちろん、わざと燃やすのはダメだけど討伐の時に燃えるのは仕方がないという考えらしい。
現に僕達以外にも魔法を使える人が撃ちだした魔法が林の下生え部分にあたり、周囲に力をまき散らしている。
『この数だ。斬りに行った方が早いぞ』
(わかってるっ! でもなかなかね)
こういう時、どこで飛び出していくかはいつも悩む。下手に飛び出して魔法の巻き添えを食らったら嫌だもんね。
それでも進まなければ変わらない。という訳で僕は他の冒険者さんらと一緒に駆け出した。
(でっかいなあ……)
近くで見るとその大きさが目立って視界に入ってくる。ここからだとまるで太りすぎたお腹をこすりながら歩いているようにも見えるけど、デントードの移動方法は飛び上がりのみだ。
残念ながら、高さの稼げないデントードもいるみたいだけどね。
伸びてくる舌を回避して、当たればいいなと思いながら明星を振るうと、運よく舌の1本が引っかかりそれが切断される。でもやはり偶然だったようで2回目3回目とはいかなかった。
気を取り直し、明星を構えなおして僕は周囲にその手の中の暴力を解き放った。
時々、手ごたえのような物は感じるけれど大体は何か柔らかい物を切り裂いているような感覚だ。
明星が触れる度に、柔らかそうなデントードの体に線が走る。僕の切った跡だ。この調子なら倒すのに問題はなさそうかな。
『右!』
「っと!?」
そんな僕の油断を狙ってか、熟練した兵士の繰り出す槍のような鋭い舌先が僕の頬をかすめる。
もう少しでとんでもないことになるところだった。危ない危ない。
「ファルクさん!」
「マリー!」
遠くから聞こえる声。ちらりと見ればマリーがその手にした杖の先に貯めた魔力と魔法の力。それが後方から魔法の援護として飛んでくるとその傷付近に偶然にか直撃。
ひるんだ隙に僕は数歩踏み込んでその命を刈り取った。素材がどこなのかを聞くのを忘れていた僕はひとまず倒すことに重点を置くことにしたのだ。
何匹倒したかはっきりしない中、視界の中に一際大きなデントードが見えた。この群れの親玉かな?
巨大デントードが鳴くと、どこからか普通のデントードが集まってきては群れをつくる。
冒険者たちが攻撃を仕掛けるけれど、あまり効いた様子は無くついにはそばの冒険者の1人が武器を舌にとられた。
このままではあの人が危ない、そう思った僕は思わず駆け出し、叫んでいた。
「雷の射線!!」
選んだのは速さ、狙いやすさを考えたものだ。瞬きの間に剣先から雷が伸び、デントードを襲う。
痙攣するようになるデントードへと再び雷の射線。僕はそのまま向きを変え、見える範囲の相手に雷の射線を撃ちつづけた。どんどんやれって他の冒険者にも言われたからなんだけど、思ったより効果あるんだよねこれ……。
そのまましばらく撃ち続け、ひとまずの大発生が終わったらしいと、僕達はその戦いの後に聞くことになった。
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