婚約破棄したくてもできない!~ヒロインが引き篭もってしまった場合~
ああ、怖い
今日もあの人たちがドアを叩く。
ここは女子寮なのに、彼らは寮の規則もそっちのけでズカズカ入り込んできて、私の部屋のドアを叩く。
食堂で食事をしていても勝手に横やら前の席に陣取って話しかけてくる。
彼らの婚約者にどうにかしてくれとお願いしても、泥棒猫と叫ばれ、ネチネチ嫌味を言われる。
お願い。
私をそっとしておいて。
授業に出るのが怖い。
女子からの嫌がらせではなく、休み時間に奴らの強襲を受けるのが怖い。
同じクラスにも奴らの一員がいて、班やチーム分けの時に一緒になりたがる。一緒に作業するのが怖い。
もう、いや。
折角、国が能力を見出してくれて入学できたけど、耐えられない。
ストーカー共の声を聞きたくない。
はじめは普通の同級生、先輩だったのに、どうして、どうしてこんなことになってしまったんだろう・・・?
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マロン・クリームが彼らをストーカー認定してしまった結果、衆目を集めての婚約破棄はマロン不在で行われることになった。
「マロン・クリームに対する誹謗中傷、暴言、持ち物を盗むなど目に余る嫌がらせの数々、申し開きないな、サンフラワー・マーガリン」
サンフラワー・マーガリンは王子の言葉を聞いても顔色一つ変えなかった。
彼女は王子と婚約しているからこそ、王子の心を魅了したマロン・クリームに色々言いもしたし、自分の取り巻きに愚痴りもした。
最後の持ち物に関しては預かり知らぬことだが、色ボケした王子に何を言っても無駄なことには気付いていたのでどうでも良かった。
「ございませんわ。それが何か? 身の程も知らずにも殿下の御心を乱した小娘に相応しいですわ」
「言うにこと欠いて、そんな口を叩くのか、サンフラワー・マーガリン! よろしい、ならば婚約を――」
「ちょっと待ってくださいー! そこで婚約破棄してどうするんですか?! 次の婚約者は決めているんですかー?!」
良識ある従者が王子を止めた。
「邪魔をするな」
「もし、次の婚約者をマロン・クリーム嬢にと考えているなら、彼女はもうこの国にいませんよ」
「はあ?!」
「ですから、マロン・クリーム嬢はもうこの国にいないんです。将来、国を担う若者を惑わせて学園に迷惑をかけたからと、国を出て行ったそうです」
「はあぁぁぁ!! ちょっと待て!! その話を詳しくしろ!!」
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「本当に助かりました」
国境の検問所の前でペコリと何ヶ月もの引き篭もりの末、青白い肌になった少女は一緒にいる男に頭を下げる。
「クリームさん、本当にうちの国に来て頂けるんですね?」
男の言葉に振り返って母国の風景を眺めた少女は噛みしめるように言った。
「はい。――もう、私はこの国に居られませんから・・・」
泣き出しそうなその横顔は、権力者たちに寵愛され、故郷を離れるしかなかった彼女の郷愁を表している。
男は歳下の後輩にするように少女の頭を軽く叩く。
「うちの国はとても果物が豊富な国でね、きっとマンゴーは病みつきになりますよ。マンゴーには高級食材としてもてはやされるアルフォンソマンゴーと・・・」
男のマンゴーという果物についての説明を聞きながら、少女は次第に笑顔になっていく。
こうして天才少女の噂を聞いて学園に入り込んだ他国の密偵は、彼女を自国に連れ帰ることに成功した。
しかし、密偵もマロン・クリームも密偵の国ですら彼女を巡る権力者たちの恋の鞘当てが起きることを、予想だにしていなかった・・・。
持ち物紛失に関しては犯人は逆ハーメンバーという名のストーカー共。
マロン・クリームの両親
父はアイス・クリーム
母はクリーム・ブリュレ
兄弟はショコラとパンプキン
同名の叔母がいるらしい
兄弟と同名の祖父母がいるらしい