4・言葉と酒とボディーランゲージと国境
協会の前で涙目で絶叫していたら人が集まってきてしもうて妾はパニック状態になってしもうた。
なんでかって?集まって来た人、人、人?片っ端から何か可怪しいんじゃ。
なんなんじゃ貴族風の服を着た男は背中からパイプとういかマフラー伸びてるし腕に鍵盤ついてる!。
メイド服の女性は腰にホルスター肩からガンベルト、背中にはライフルの銃身が覗いてる。
あっちのインテリ風紳士は片メガネで紐を引いたら蒸気と連動して望遠してきて凝視してるし。
極めつけは空から降ってきて着地時に逆噴射で綺麗に着地、ズボンの裾の埃を払って綺麗な姿勢で挨拶してきたよ!貴族風に!!。
それと、其処の烏みたいな皮のマスク被った二人!妾の事を指差して無言だけど肩震えてるしモロ解りだからな!笑うのやめてもらいたい両親から柱を指さしてはいけませんって教えられなかったのかの?。
パニックの原因で一番大きいのは相手の言葉が解らなんだのじゃ、言葉が通じない、解らない時の焦りとか解るじゃろ?納得して貰えたと思うので話を進めるとじゃ、仕方ないので妾は精一杯のボディーランゲージを開始したのじゃ。
自分を指さし(妾は)
両手を肩幅に広げて小さく出して半球を描くように横へ(置いといて)
もう一度自分を指さし(妾は)
半身で腕を伸ばし協会の方を指さす(協会に)
その場でステップを踏んで(用事があるから)
小首をかしげる(良いかの?)
集まった全員が首を立てに振って答えてくれたので満足して手を振って(さらばじゃ)
大股でずんずん立ち去ったのじゃ。
協会の地下に駆け込んだら天使が布に包まれた荷物を渡してきおった、妾が絶叫して人が集まって来たので渡せなかったと説明してきた、たしかに人前に天使がほいほい出られても困るしのぉ、こいつら無表情で白目のくせに妾より神々しい気がするしの。
受け取った布を広げると《この地域の通貨・100パンク》《この地域専用翻訳薬》。
早速、翻訳薬を水がないので飲み込んで少しだけ酒魔法の練習と実験をして協会を出た、元の場所に戻って来たら全員居るよ…。
「なんでじゃぁあああああ!お主らなんで居るのじゃ」
最初に話しかけてきたのはグレーに白のストライプの上下、赤のネクタイにベージュのベスト、キャンペーン・ハット、胸元にはバッジ、左腕は肩から先が骨組みとピストンや歯車が見てとれたのじゃ、服装的に考えて多分保安官的な何かだのう。
「とりあえず落ち着け、この街の保安官のガンツだ。お嬢さんは協会の関係者かい?」
右手を差し出してくるガンツさんはやはり保安官じゃった、一安心してその問に頷くき手を伸ばし握手をする。
ガンツさんは集まっていた人達に散れと合図してくれた、三々五々帰って行く野次馬達、好奇の視線から開放され一息ついた所でガンツさんの案内で保安官事務所に付いて行くことになった。
道中で聞いた話では、この街は鹿の街、17年前にできた魔石鉱山付近にある街で資産家や資産家の使用人、雇われ探偵、賞金稼ぎ、この街特有の治療に来る人等が偶に来るだけで比較的穏やかな街だそうじゃ、冒険者等は鉱山方面に多いらしく鉱山に巣食う魔物退治をしてるらしい。
保安官事務所について席を進められるままに腰掛けているとガンツさんは紅茶を入れてくれた。
見つからないように酒魔法で少しだけ指先から酒を出して混ぜて呑んだら気持ちが落ち着いてきた、少しガンツさんと話てみようかの、頭頂部の丁髷を撫でながら先ずは自己紹介じゃ。
「改めましてじゃ、妾は極東地域から来た岡っ引きのリーナなのじゃ!」
「極東から来たのか道理で此方では見掛けない服装なわけだな、そして協会関係の賞金稼ぎ?ふーむ」
顎を指でなぞりながら考えている様子、イマイチ納得してくれない様子。
「賞金稼ぎなんだろ?リーナの武器はそのベルトの鉄の棒だけか?他にも有るだろ?まさか魔法が使えるなんて言わないよな?」
「ガンツさんは酒は呑める方、呑まれる方、どっちじゃ?」
「おいおい、答えになってないだろう?それとも酒がリーナの武器だってか?」
ふんすっと鼻息荒くドヤ顔をしてから空になったコップにを手元に置く、ガンツさんの視線を誘導するように人差し指をコップに近づけると指先が魔力光の粒を集めていく。
「うおっ、しかし、ほぉぉ」
ガンツさんは指先の魔法光に驚いた様子じゃ。
魔力光からエールをゆっくり、泡が細かくなるよう波々と注いでからずいっとガンツさんの前に押し出しててやる。
どうだ崇めるが良いとばかりにもう一度ふんすっと腕を組んでドヤ顔したやったわ。
「で?これがエールだって?そんな馬鹿なことがあるか!そんな魔法聞いたこともないし、魔石だって使って無いだろう、そもそも…いやしかしリーナの表情とその自信満々で挑発的な表情、まさか本当なのか?」
渡されたコップをじっくりと視て、匂いを嗅ぐ、そして目を瞑り、一口含み目を見開くと妾とコップを交互に見比べてから一気に飲み干しす、勢いよく立ち上がり妾に顔を近づけてくる、妾は組んでいた腕を腰に当て旨を反らせて自信満々に鼻息でふんすっ!と返事をしてやったわ。
「まさかとは思うが、もっと出せるのか?」
お、おうぅ、なんか予想以上にグイグイくるな…ちと怖いのぉ。
今は魔力の値が9なのじゃ、協会で試したら魔力の値以下の度数のアルコールしか出せんかった、つまり9%のアルコール飲料なら何でも出せる。
「勿論じゃとも、樽の一つでも持ってくるが良いぞ!」
「ほっ本当か?」
自信満々の表情の妾の顔をみてガンツさんが奥の扉から樽を持ってきた、これバーレル(180リットル)サイズっぽいしバーボン樽かの?上にある木の栓を抜いて香りを匂う。
「蒸留酒用の樽じゃな?」
「おぉ詳しいな、その通り、こっちの国の地酒でバーボンって酒の樽だ」
横に並んでバンバン背中を叩いてきた、痛い、痛いって、無言で顔にエールを掛けてやったが嬉しそうな表情で更に叩いてきたから距離を離す。
「この樽にはスタウトというエールに似た酒を入れておくから一年後に呑むが良い」
「え……?なんだって?一年後…」
ガンツさん、ちょっとその図体で捨てられた子犬みたいな表情するの止めてもらえんかの?いや止めて下さいお願いします、何故かこっちが凄く悪い事した気分になるのじゃ…
「理解った!もう良いわ、今夜っ、今夜だけじゃぞ?皆に振る舞おうではないか!無礼講で行こうぞ!」
明日のことは明日考えれば良いと思ってた時期もありました、ガンツさんの紹介で食堂へ、小さな店じゃが混雑しておった、皆よく飲みよく食べよく騒ぐ、妾が好きな雰囲気じゃ。
「皆よく聞け!」
ガンツさんが食堂中央のテーブルに土足で上がり大声で注目を集める、一瞬でシーンとした店内。
「今日は其処に居る、変な格好したリーナって賞金稼ぎのお嬢さんが皆に酒を振
る舞ってくれるそうだ!なっそうだろリーナ」
おいおいやってくれるのガンツさん、なら派手に以降ではないか。
ウエイターの娘にエールを2杯、ガンツさんの分と頼んで持ってきてもらう。
「今紹介に預かった極東の協会から来たリーナじゃ、此処で出会ったのも何かの縁、妾が酒は注いでやる、順番に並ぶが良い、但しじゃこの店の売上に迷惑を掛けるわけにもいかん、解るな皆!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」」」」」」
「いつもの酒代はつまみに変えて注文!良いな?!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」」」」」」
「よし!共に呑んで騒ごうではないか!カンパーイ!!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「カンパーイ!」」」」」」」」」」」」」」」
お前らノリ良すぎ、酒の飲み過ぎ、朝まで食堂に集まった大人約30人に樽2本分(360リットル)注ぐ羽目になった、しかも自分が呑む暇が殆どなかったが、大いに呑んで騒いで皆笑顔じゃったから良しとしようではないか。
言葉と酒とボディーランゲージが有れば国境とか種族は関係ないのぅ。