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俺に殺せるのか…

第八節


「このぬいぐるみどこかで…」

何度も縫われた跡があり明らかにほかのぬいぐるみよりも大事にされていることがわかる。そしてタグに書いてある『アキラ』と言う文字。これは昂のことを言ってるのかそれとも美加の友達なのか。

「ちょっと先輩何してるんですか!?」

クローゼットの中から美加が飛び出してくる。クローゼットの掃除をしていたらしい。昂からぬいぐるみを取り上げると

「人の部屋のもの勝手に触るなんて最低です。非常識ですよ」

そんな注意はよそに昂はぬいぐるみについて聞き始めた。

「そのぬいぐるみってなんだ」

「ただのぬいぐるみです。昔、大事な人からもらった」

どうやら美加がもらったぬいぐるみは恋人からもらったものらしい。これ以上の詮索は美加を傷つけると考えた昂は晩ご飯ができたことだけを伝えると部屋を出ていってしまった。

「気づいてないのか……このぬいぐるみくれたの先輩なのに……」

ぬいぐるみを元の位置に戻すと美加もあとを追いかけるように部屋を出ていった。リビングに戻ると三つの皿が机の上に乗せられていた。ただ一つはもう半分以上なくなっていた。

「二人とも遅いので先に食べちゃいました」

といいながらも食べ続ける弥生。二人は気にすることもなくカレーを食べ始めた。ふと弥生がおもむろに口をあけ、

「そうです。昂さん今日は一緒に寝ましょうね」

二人は同時に噎せた。

「弥生さん。こんな非常識な先輩と寝てはダメですよ」

当然のごとく先ほどのことを根に持っていた。そしてケダモノを見るような目で昂を睨んでいた。弥生は何故か首をかしげ

「なぜですか?お父さんと一緒に寝ると同じじゃないんですか?」

「それはそうですが…」

「美加よ。弥生は無垢なんだよ」

「そうみたいですね…」

美加はわかってくれたみたいだが肩に手を置いていたことがバレ、平手打ちをくらう。ここまであからさまに嫌われると涙が出てしまう昂だった。

「さっさと食べて上の作業に戻ります」

美加はカレーを食べる速度をあげた。

「待ってくれ。その前に少し話があるんだ。後で庭に出てくれないか?」

「少しだけですよ…」

そう言うと二人はカレーを駆け込んだ。当然のことだが弥生は一人で風呂に入りに行っていたようだ。


◇◇◇


ご飯を食べ終えた二人は庭にある縁側に座っていた。

「話というのは何ですか?」

「俺の母さん、『イシス』ついて何かしらないか」

美加は少し考えるとため息をつきいった。

「死について、ですね」

「正確には誰が殺したかを知りたい」

「死にますよ。確実に」

美加は察したらしく忠告をしてくれた。だがそれでも…

「教えてくれ」

ため息をつくと立ち上がって

「馬鹿ですね。いいえ馬鹿なのは知っていました」

「ごめん」

「いいですよ。教えてあげます。でもこの事は弥生さんには言わないでください。それだけは約束してください」

なぜ弥生には教えてはいけないのかはわからないが今は母さんを殺したやつを知るのが大切だった。そして美加は口にした。昂の復讐相手の名を。

「『アザゼル』弥生の父であり天界の反逆者。悪魔よ」


◇◇◇


ベッドに転がると深くため息をつく。電気は点けずに月明かりだけが部屋の中を照らす。一人で考えるには適していた。

「『アザゼル』か…」

考えれば考えるほど頭の中に余計なものが浮かんでは消えるを繰り返していた。

「にしてもなんで『イシス』と言っただけで美加は俺が死んだことを知りたいとわかったんだ…」

こっちのことを考えている余裕もなく復讐することだけを考えることにした。相手が悪魔なのだから。

「今日はいろいろあったな。すごい疲れたし寝るか」

目を閉じると心地よい眠気を誘う。ベッドがここまで気持ちいものだとは思わなかった。だがそれはつかの間の休息だった。急に部屋の扉が開かれ目を覚ます。目をこすり扉に目をやると弥生が立っていた。そのままベッドまで来ると倒れた。すでに弥生は寝ていた。当然だがこのベッドはシングルだ。二人が寝るとかつかつになる。つまり密着して寝ることになる。昂は弥生に背を向ける形で寝る。それでも寝息が聞こえるほど近い。


──やっぱりソファーで寝るか


ベッドが名残惜しかったがこのまま一緒に寝るよりはいろんな意味で安全だった。だが腰に手を回され身動きが取れなくなってしまう。強く抱きしめられる女性特有のあれが背中に押し当てられる。


──このままだとすごく…まずい


離れようと試みるが回された手を離すことが出来ない。それどころかもっと強くなる。そして小さな声で弥生ははっきり言った。

「お父さん、行かないで」

「……」

今日の話が聞かれていたのかそれとも怖い夢でも見たのかは知らない。でも確かに「お父さん」と言った。


──俺に殺せるのか…弥生のお父さんを…


「一人にしないで」

悔しかった。自分で決めたことなのにだんだんと後悔が詰め寄ってくる。だんだんと押し潰されていく。その日昂は少しの間涙を流した。


◇◇◇


早朝、人々は鳥のさえずりで朝を迎える。街を一望できる丘がある。そこには古びた天文台もある。そこの丘に一人の男が立っていた。男はサラリーマンなのか黒いのスーツに身を包んでいた。

「ここは空気がいいな。昔にあんなことがあったなんて思えないな。それにいい退屈しのぎができそうじゃねぇか。天使がこんなに一箇所に集まってるなんてな。ハッハッハ」

男は笑いながら丘を下っていった。


◇◇◇


「昂さん、おはようございます」

朝が来たらしく起こされる。体に重みを感じる。目を開けるとにこやかにこちらを見る弥生がいた。

「あぁおはよう。でも…上に乗るのはやめてもらえるかな」

「お兄ちゃんはこうして起こされるのが嬉しいと書いてあったのですが」

「それは一部の特殊な人の話だ。俺は違う。その前にお兄ちゃんて…」

「そうですか…それでは明日は起こし方を変えてみますね」

そう言うとさっさと部屋を出ていってしまった。朝ごはんを作りに行ったのだろう。


──下に降りるのが怖いな。さっきのシャツ姿だけでも刺激が強いのに下でもしもあんな姿してたら


想像しただけで顔が熱くなるのがわかった。想像するをやめて美加を起こしに行くことにした。美加に様子を見に行ってもらうためだった。

「ノックして入らないとな。昨日もしたのにな…」

部屋を出て右にある部屋のドアをノックする。ノックをしていないと怒られたため強めにノックするがやはり返事はない。

「起こすためだ。致し方ない」

ドア開けるとやはり寝ていた。足元にはぬいぐるみが散乱しており足の踏み場がない。


──意外に可愛いパジャマ着てんだな


くまの柄が入ったパジャマを着ている。高校生が着ても違和感がないのは見た目の幼さがあるためだろう。肩をつかみ揺さぶるが起きない。だがこれ以上やると怒られる未来が見えている。

「起きろ美加」

声をかけ肩を揺するが起きない。激しく揺らすと目を開いた。起きたと思うと暴れだしてしまった。

「ちょっと変態。離してよ」

「ちょ、暴れるなよ」

体のバランスを崩し倒れる。

「うぅ…」

「大丈夫…か!?」

自分の状況が非常にまずいことに気づいた時にはもう遅かった。

「その…なんだ……柔らかいもんだな」

「最低!死ね!」

フルスイングのビンタをくらって派手に部屋を退出する。


──ついてねぇな俺って


少し涙が出てしまう。でも叩かれたことはそう悪くないと思ってしまっていた。だがそれだけでは終わらなかった。朝ごはんを食べようと下に降りている時だった。誰かが後ろから昂を蹴り飛ばしたのだ。後ろを振り返るとそこには涙目でこちらを睨む美加がいた。そこで昂の意識はフェイドアウトした。


◇◇◇


「結局こうなるのか…」

昂は一人、誰もいない道を通り学校に急いだ。当然遅刻だ。あのあと目覚めると誰も家におらず一人で赤い海の掃除をしなくてはならなかった。犯人である美加はその血で壁に『死ね』と書き残していったらしい。どこまでも嫌われていく昂であった。

「学校まで後数秒…間に合うか…」

学校に着くと自転車を乱雑に止め教室へと走る。教室に飛び込み席ついたが…

「文月君。遅刻だ。一緒に職員室行こうか」

「先生。僕は行きたくありません」

だがそんな意見は認められず、昂は先生に引きずられ教室から退出していった。

「生きて帰ってきてください」

弥生はそう願うのだった。担当の教師が入ってきて黒板にチョークで文字を書いていく。五分たった時だ。放送が入る。

『天使が出現しました。校内にいる者はシェルターへ避難してください。繰り返します…』

教室にいたものは皆、一斉に走り出し地下のシェルターを目指していく。その中、弥生は一人屋上へと走るのだった。

「今度は誰が来たんでしょうか」

そう言って美加と合流するのだった。


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