死なないみたいだな
第五節
「苺花!直樹が死ぬってどういうことだ」
「男が急に直樹を殴り出したのよ」
「は!?」
「血が出てるのにやめてくれないから怖くなって」
「くそっ!誰だよそんなことする奴は」
広場につくと人影一つも見つからなかった。
──誰もいないのか
「移動したのか……いくぞ」
「さてここで問題です」
「!?」
背中に冷たい何かが押し当てられる。そこからじわじわと痛みが走る。
「私は誰でしょうか?」
「答えないという選択肢はあるかな?」
ひきつった笑顔で聞いたが……
「そんなものありません」
昂は背中からなにかに腹を貫かれ広場に倒れ込んだ。
◇◇◇
「あれ?昂さん?」
家は静かで弥生以外の人間の気配を感じない。時刻は21時を過ぎている。不安に思った弥生は玄関に行くと靴はなかった。そしてあるはずのないものがあった。それを見た弥生は家を飛び出していた。
「嘘……こんなに早く来るなんて」
弥生の手には一枚の大きな白い羽が握られていた。鳥のものとは思えぬ大きな大きな羽が……
「これは……」
羽はまるで弥生をどこかの場所へ誘うように落ちて道を示していた。罠だとしか思えなかったが弥生に迷っている時間はなかった。
──無事でいてください昂さん
◇◇◇
「うぅ……」
目を覚ますと昂は広場の街灯の下にいた。
「俺……死んだんだよな」
腹を見てみるが傷一つ無い。まるで再生したかのように。だがそれに一番驚いているのは刺した張本人だった。天使は血に濡れた杖を昂に構え
「なんで死んでないのよ!?」
「驚きたいのはこっちなんだが」
「答えて!」
「知るかよ」
初めて昂は敵の姿を見たがどこから見てもただの修道士にしか見えない。いわゆるシスターと言う奴だ。羽がついていることを除けば。
「ならもう一度殺すまで」
そう言うといとも簡単に心臓を刺され死んだ。だが……
「痛ぇな」
「なぜ立ち上がるのよ!?」
「さぁ?知らないけど…死なないみたいだな」
死なない自分に驚くことはなかった。昂は気持ちがどこかで高まっていた。死なない体を手に入れたことで天使に対抗できることに。
「ならこっちからも行かしてもらう」
「化け物め!!」
「お互い様だ」
一歩また一歩と足を踏み出す。だが天使は……
「こんなところで死ねない……」
杖が光、辺り一帯が光に染まった。次に目を開けるときには天使はいなかった。
「…逃げたのか」
そして地面に倒れ動けなくなってしまった。二度も短時間で死んでしまったのだ。ダメージは想像を絶するものだろう。
「俺……学校行ける…かな…」
そこで昂の意識は途切れた。
◇◇◇
「昂さん!」
弥生が到着した時には天使との対戦が終わった直後だった。辺りには少しの明かりでもわかるほどに血が飛び散り、昂も血まみれだった。
「昂さん!昂さん!昂さん!!」
弥生は必死に昂に呼びかけたが昂からなんの反応を帰ってこない。涙が溢れてくる。
──死なないでください、一人にしないでください。
「久々に帰ってきたと思ったら何だこれは」
「海斗さ…ん。昂さんが……」
「あー大丈夫、大丈夫。コイツ死なないから」
「なぜそう言いきれるんですか……」
海斗は昂をおぶると言った。
「こいつ……天使だから」
この真実を昂が知るのはそう遅くはなかった。