天使の言葉は絶対なんだよ
第四節
「どうするんですか、これ」
黒い封筒を机の上に置き弥生が聞いてくる。昂は首を横に振り、
「そんなのほっといたらいいだろ。タチの悪い嫌がらせだろ。ほかのやつに回すくらいなら燃やしておくよ」
牛乳をコップに注ぎ一息つく。今は昼過ぎの一時。昼ご飯を食べ終わった子どもたちが最寄りの公園で遊んでいるようで声が聞こえる。
「じゃあ俺は少し寝さしてもらうわ。夜になったら起こしてくれ」
「わかりました。おやすみなさい昂さん」
弥生は昂を見送りカバンから宿題を取り出し机でやり始める。昂は自室に帰ると椅子に座り眠りにつく。なぜベッドがあるのに寝ないのかは女の子の匂いがついた布団にねるなど変態がする行為でしかないと昂は考えていたから。
◇◇◇
「……ここは…どこだ」
雲の大地に立っていた。ここは空の上だということはわかった。体も何故か薄くなっていた。
「……俺死んだのか」
家に届いた手紙のことを思い出す。
──あの手紙で死んだのか……
ひどく静かだった。いや静か過ぎた。天国だといえば信じるだろうが想像していたものと違ってしまう。そしてあの黒い手紙にこんな力があるとも思えない。何よりもあんなイタズラで死んだなんて思いたくなかった。だったら今の昂の状況はなんなのかを説明することはできない。
『説明は私からしましょう』
声がした。でもそれは耳に入ってきたのではなく頭に直接入ってきたような言葉に思えた。
「……誰だ」
ここまで来るとリアクションは取らない。
『貴方達は天使と呼んでいますね』
やはり耳にではなかった。天使だと聞いて悩みはなくなった。この状況も大体想像はついた。
「俺がここにいるのはあんたのせいか?」
『ご明察』
「何の用だ」
『手紙を燃やすと言っていましたね。そんなことはさせませんよ。燃やすというのであればあなたをここで殺します』
「天使様が怖い言葉をお使いてなるんですね」
皮肉っぽく言ったつもりだったがそのような安っぽい挑発では天使は乗らなかった。
『なのでここで死ぬか回すか決めてください』
「どっちも嫌なら……」
『天使の言葉は絶対なんだよ?そんなことが許されるとでも?』
「……」
『でも今は無理みたいだね。邪魔が来たからね』
そして昂の視界は暗くなった。
◇◇◇
「…らさん」
──なんだ?まだ眠いんだよ。
「…きらさん」
──眠いんだよ。寝かしてくれよ。
「昂さん!」
「うおぉ!?」
椅子からずり落ち尻もちもつく。昂はそのまま後ろへと倒れ込んだ。そこには男のエデンが広がっていた。
「白か……ってそんなことしてる場合じゃない」
と起き上がるとスカートに引っかかり出ることができない。ほかの人が見たらスカートに潜り込んだ変態としか思わないだろう。
「昂さんのバカー!!」
案の定、弥生は平手打ちをすると勢いよく扉を開きリビングへと走り去ってしまった。
「複雑だ。嬉しいのに悲しい」
そこでふと考えた。なぜ悲しい感情が出てきたのか。だが答えは出なかった。
「謝らないとな……」
リビングに降りると机の上にはカレーが置かれていた。三日もカレーを見ているとそろそろ飽きてくる。それよりも前に弥生を探すと部屋の隅で座り込んでいて話しかけられるような状況ではなかった。
「カレー食べて寝るとするか。さっきまで寝てたけど……」
するとインターホンがなり画面がつく。画面にはひどく息を切らせた苺花が映し出されていた。ただ事ではないと思い玄関を開けると苺花が飛び込んでくる。
「どうしたんだよ!?」
少し動揺を見せる。飛びつかれた拍子に体勢を崩し倒れる。
「直樹が……直樹が死んじゃうよ」
「!?」
昂はそのまま走り出した。そのあとを追いかける。
──死ぬなよ直樹
走りながら昂は直樹の無事が頭から離れることはなかった