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プロローグ

三月下旬。桜が咲き街を色付ける。今年は遅咲きの桜だけあって街行く人々は皆、桜に目を奪われた。

「ありがとうございます」

店員は男にそう言って会釈した。男の手には色鮮やかな花束が抱えられていた。このお店においてある人気の花を詰め合わしたものだ。男は店員に会釈しかえすと人の波に消えていった。


◇◇◇


「母さん。久しぶり。元気にしてた?」

男は水を含んだタオルで丹念に拭いていた。ここは霊園。別の言葉で言うなら墓地とも言える。

「おれさ。四月から高2になるんだ。早いもんでもう十年も経ったんだ」

花を添え、線香を焚く。両手を揃えて黙祷を捧げた。

「それとさ。来る時は必ず言ってると思うけど……まだあの子には会えてないんだ。母さんが良くしてくれたあの子にさ」

男は小さな笑みを浮かべながら世間話をするかのように言った。墓地にはたくさんの人々がいた。男以外にもたくさんの子供達が。

「あの子も無事でいればいいけど……話したいことはたくさんあるけど話してたらきりが無いや。そろそろ帰るわ」

男は立ち上がると出口に向かい歩き始めた。いつもと変わらぬ空。青い青い空。あの出来事が嘘かのような青い空。あれから十年、人々は消せない傷を抱えながら生きていた。似たような事は数え切れないほど起きていた。その度に傷を負う人が出た。


◇◇◇


街に戻ると電気屋に沢山の人が集まっていた。誰もがニュースに目が釘付けだった。

『○○市で傀儡天使が現れました。傀儡天使は街を破壊しながら現在も北上中。軍は「AK」に出動要請を出すともに人々の避難をさせています。繰ります……』

「ちょっと近いな。早めに帰って飯でも食べるか」

男は帰る足を早めた。


◇◇◇


天使。それは十年前突然現れ、街一つを吹き飛ばすという事件を起こした未確認生命体だ。いまニュースでやっていた天使は十年前に現れた天使とは違い量産型のように考えられていた。軍はこれを傀儡天使と名付けていた。


◇◇◇


坂道にはたくさんの桜の木があり満開だった。近くの公園ではニュースを見ていない子供達が砂場で遊んでいた。蘇るあの子と遊んだあの日の記憶。昂はしばらくの間その子供達を見ていた。

「おっとっと。早く帰るんだった」

我に返った男は坂を一気に駆け上がっていった。日が傾きもうすぐ夕暮れに差し掛かろうとしていた。家の近くまで来たとき男は足を止めた。家の前に知らない女の子がたっていたのだ。年は自分と同じか少し幼いくらいだ。キャリーバッグを持っているところを見ると旅行帰りだと推測できた。

「あのどなたですか?」

男は恐る恐る声をかけた。女の子はこちらを見ている。何故かジト目で。自分が何かした記憶はこれっぽっちもなかった。

「あの俺何かしましたか?」

女の子からの返事はなく依然としてジト目だった。会話にならないと思った男は玄関の扉を開け中にえと入っていった。

「なんだったんだろう、あの子」

靴を脱ぎリビングに入った。リビングは白い壁に黒いソファーと机にテレビと言うモノクロカラーになっていた。テレビの隣にあるデジタル時計は18時になっていた。男はニュースを付けるとレトルトカレーの鍋に入れ温め始めた。ニュースでは夕方に見たお姉さんが傀儡天使のことを言っていた。

『傀儡天使の撃退に向かった「AK」でしたがそれを察知したのか傀儡天使は姿を消してしまった模様。幸い死者はおらずけが人だけで済みました。それでは次の……』

そこでテレビを消した。温め終わるのを待つためソファーにもたれ込み溜息をついた。

「また同じ結果か」

その時だった。家のインターホンが鳴った。

「誰だ。こんな時間に」

画面をつけて見るとそこには先ほど会った女の子だった。通話ボタンを押し対応する。

「はい、どちら様でしょうか」

「こ、この家の人ですか?」

「この家の人でなかったらインターホンに出ていません」

「そ、そうですよね」

何この子?天然?

「で?なんの御用でしょうか」

「あのですね…」そこで電話が掛かってきた。スマホを取り出し画面を見ると『オヤジ』と、書かれていた。

「すまん。ちょっと電話に出るので少し待っていてください」

そう言って男は電話に出た。

「なんだよ。こんな時間に」

『あ。昂か。家に女の子が来たら入れてやってくれ。これからそっちに住むから。よろしくな』

そこで通話は強制的に終了した。

「なんじゃそりゃ!!」

「ひっ」とインターホンにごしの女の子は小さな悲鳴をあげたが男には聞こえなかった。


男の名は文月昂。高校生二年生の春。女の子と一緒に同居始めました。


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