キャラは固定しよう!
「あ、話はぁ、あ、聞かせてもらったぜぇ~?」
声の方を見ると、ドアにもたれかかり、何故か口に葉っぱをくわえている夏海が居た。お前はどんなキャラになりたいんだよ。驚いてオロオロする梅島さんの前までツカツカと歩く。
「てゆうか夏海、お前なんでここに?」
「あ、それはだなぁ~、あ、あ、お前さんがぁ~」
「そのなんだかわからない歌舞伎口調やめろ」
「うん。話辛かった。」
そう言って夏海は口にくわえた葉っぱも取った。あ、その葉っぱもそのキャラにはセットなんだ。
「昨日結局怖くてあたしあきちゃんち泊まったじゃない?そしたらあきちゃん、朝早く一人で出てくんだもん。だから追っかけて来たの」
「お前は俺のストーカーか」
「だって一人で家に居てもヒマなんだもん」
ヒマだとお前は俺をストーカーするのか。
「そしたら昨日の教室から悲鳴が聞こえたんで、こりゃあきちゃん死んだかなって思ってそーっと様子を見たら、二人が話してたってわけ」
死んだかな、じゃねえよ。まあ俺も死んだと思ったけど。ふと梅島さんを見るとオロオロしながら俺と夏海を交互に見ている。夏海もそれに気付くと、梅島さんの方を向き直った。
「あ、あたし小菅夏海。夏海でいいよ。すごいな、本当に幽霊なんだね。あたし今幽霊と話してるんだ」
「あ、あの、夏海・・・さんと、竹ノ塚くんって、その、す、進んでいる仲なんですね」
「へ?なんで?」
梅島さんが顔を真赤にして言ったので俺はわけがわからず聞き返した。
「その、男子の家に泊まるとか、あの、あたしの時代だとそういうのってなくて。だから、その、すごいなーって思いまして」
完全に誤解している梅島さんに慌てて説明する。
「ち、違う違う。夏海と俺は単なる幼なじみで、泊まったって言っても姉ちゃんの部屋に泊まっただけだから!そういうんじゃないから!」
「そ、そうだよ!今はまだそういうんじゃないから!!男女7歳にして月日は百代の過客にあらずって言うじゃない!」
「それを言うなら男女7歳にして同衾せずだー!!!」
「そうとも言うね!」
俺達のやり取りを見て梅島さんはくすくすと笑う。
「そうなんですね。でもお二人が仲が良いのはわかりました。うらやましいです、仲の良いお友達が居て」
そう言っている梅島さんの目は、楽しそうで。それでいて寂しそうだった。憧憬の念、とでも言うのかな。自分じゃもう手に入らないものへのあこがれ。まぶしそうに、俺達二人を見てる。そうだよな。この子は、何十年も、こんな狭い教室に、ずっと一人で。いつ終わるともしれない、地獄みたいな毎日。
「梅島さん。俺、何か力になれないかな」
気づくとそんな言葉が口から出てた。
「何か俺、出来る事ないかな。したい事とか、何か」
梅島さんは一瞬目を大きくして、そしてしばらくスカートの裾をいじり、恥ずかしそうに言った。
「成仏・・・したいです」
それって照れながら言うことなんだ。
「いえ、その、幽霊になったからには成仏というのは最終目標なんですが、その、あたしなんかが言うのは、おこがましいんじゃないかって」
「そういうもんなのかね」
幽霊の常識というのはわからないけど、多分そういうもんではないんじゃないかなと思いながら俺は言った。
すると夏海がまたビシィ!と梅島さんを指さした。
「あいやわかった!その願い、叶えてしんぜよう!!まずは・・・」
そういった夏海の腹から、ぐぐぐぐぐうという音が鳴った。ため息を吐きながら俺は言った。
「まずは、一旦家に戻って朝飯だな」
***
家までの帰り道、夏海はしばらく黙って歩いて、それから俺の方を見ないで口を開いた。
「あきちゃん。どうするの?」
「どうするって、なにが」
夏海は振り返り、俺の目を見て言った。
「ちふゆちゃんのこと。あたしたちに何かリスクがあるかとか、わからないんだよ?あの子はあそこから出れない。見て見ぬフリすることだって出来るんだよ?」
「俺は・・・」
言葉に詰まった。確かに彼女は幽霊だ。俺とは住んでる世界が違う。俺はその世界のことを何も知らない。どんなリスクがあるかもわからない。
それでも。
それでも、梅島さんは今まで何十年もあの部屋でずっと一人で。俺達が見て見ぬふりをしたとしたら、これからもずっと一人で。ただ少し話しただけなのにあんなに楽しそうな、そして寂しそうな目をする梅島さんを、放っておけるのか?
「俺は、彼女を助けたい」
そう言うと夏海はニッコリして「幽霊にまで優しいのかこのお人好し!」と肩にパンチをしながら言ってきた。そして「あたしも一緒にやるからね」と言った。お前の肩パンチは痛いんだよ。全く。お前だって相当なお人好しだよ。
次回も本日、1月4日中にアップします。