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幽霊と話そう!

ひと通り悲鳴を上げてみたものの、俺にはどうすることも出来なかった。俺と扉の間には幽霊が立ちふさがっている。どうする。どうすればいい。何か武器になるようなものを探す。幽霊に普通の武器が効くのかどうかはわからないが、ないよりマシだ。目を泳がせていると幽霊は口を開いた。


「昨日は驚かせてしまってごめんなさい・・・落し物を拾ってあげたんだけど、あの、わたし、恥ずかしくてあまりハキハキと話が出来なくて・・・」


見ると、幽霊は顔を真赤にして俺の財布を持っている。あれ・・・?ひょっとして、これは大丈夫なパターンのやつかな?少し冷静になり、女の子の幽霊を観察する。まぎれもない美少女だが、そうだな、制服の着こなしとかはイマドキではないのかもしれない。やっぱり見たとおり足は無くて、透き通るような肌も、よく見たら透けてる。


「それで、ごめんなさい、悪いとは思ったけど中身を見させてもらったの。それで、名前を。住所もわかったんだけど、届けようにもわたし地縛霊だから・・・」


地縛霊って言っちゃった!この子自分で霊って言っちゃった!!そういうカミングアウトするんだ幽霊って!俺が声に出さず驚いていると幽霊は財布を差し出した。


「あ、ありが、とう」


俺が財布を受け取りそう言うと幽霊は微笑んだ。やべえ、この子とんでもなく可愛い。見たところ敵意はないようだし、このままダッシュで逃げるという手もある。いやしかしまて竹ノ塚明。お前の人生でこれほどまでに可愛い女子と会話をする機会があるか?いやない。反語。

恐怖心を好奇心(という名のスケベ心)で押し殺し、俺は倒れている椅子を起こして腰掛けた。


「てゆうか、幽霊って昼間に出てもいいの?」

「?ダメなんですか?」


きょとんとした顔で俺のことを見つめる女の子(の幽霊)。こ、これは・・・!ひょっとして、現在は絶滅危惧種に指定されている「天然」という女子ではないだろうか。自称天然の女子は至る所にいるが、それは弱さを見せることにより事を有利に運ぼうという綿密な計算か、単なるバカかのどちらかだ。しかしこの子は違う。このきょとんとした瞳は中々出来るものではないぞ。究極のきょとんだ。このきょとんの前では自称天然の女のきょとんなどはゴミ同然、そんなのは本当のきょとんじゃない。明日またここに来て下さい。本物のきょとんをお見せしますよって言われる本物のきょとんだー!!


「どうしました?竹ノ塚さん?」


ついきょとんについて脳内で熱くなってしまった俺を不安そうに見つめる天然女子(の幽霊)。


「いや、なんでもない。少し大事な考え事。あ、そうだ。名前はなんていうの?」

「梅島 ちふゆって言います。歳は16歳です」

「あ、そうなんだ。じゃあタメじゃん」

「って言っても、もう何十年もここに居ますけど」

「何十年も?」


どうやら幽霊というのは年を取らないらしい。ここは敬語を使うべきか?と思ったけど、なんというか、今更感があるのでやめた。


「ええ。具体的な日付はあんまり覚えてないんですけど、気がついたらここに居て、それからずっとここに居ます」

完全に暗い、幽霊の話なのに梅島さんは何故かにこやかに話す。


「さっき地縛霊って言ったけど、地縛霊って、土地に縛られてる霊ってことだよね?梅島さんはどこに縛られてるの?」

「この教室です」

「え、ここだけ?」

「はい。この教室だけですね。扉から先には出れませんし、窓の外も『空中セーフ』なんてのはないです」


この狭い教室の中しか行動範囲が無いってことか。それって、辛いことだよな。ここに居るってこと以外は何も出来ないんだ。『空中セーフ』という言葉のチョイスの古さに目をつぶるくらいかわいそうだ。


「梅島さんはそんで、普段はなにしてんの?」

「普段・・・ですか?」


「んー」と言いながら唇に人差し指を当てて、右斜め上を見る梅島さん。仕草もちょっと古いかもな。そしてスルスルスルと音を立てずに空中を滑って窓際まで移動する。


「昼間はここから校庭を眺めて、みなさんの体育の授業とか、部活とかを見ています」

「へー。夜は?」

「夜は寝てます」

「寝るのかよ!!」


つい反射的にツッコミが出てしまった。それを見て梅島さんはキャッキャと笑う。


「幽霊も普通に笑うとかわいいんだね」


俺がそう言うと、梅島さんは顔を真っ赤にして、うつむいてしまった。

やばい。傷つけるような事を言ったか。


「ご、ごめん。つい。その、俺・・・」

「あ、ち、違うんです・・・その、わたし、嬉しいんです・・・」

「え?」


もじもじしながら梅島さんは続ける。

「わたし、ずっとみなさんの事見てるばっかりで、誰もわたしに気付いてくれなくって。こんな、何十年ぶりに人とお話が出来て、わたし、本当に嬉しいんです・・・」


俺の方を見て、微笑む梅島さん。相当かわいい。でも、何十年も一人でこんな所に居たなんて、俺だったら死んでるな。いや、死んでるんだろうけど。そんな事を考えていたら梅島さんが小声でつぶやいた。


「しかも、かわいいだなんて・・・竹ノ塚くんも、その、素敵、です・・・」

「え?なんて言ったの?」

「いえ、なんでもないです・・・」


もじもじする梅島さん。ヤバい、この子めっちゃくちゃかわいいなオイ。すると、廊下から芝居がかった声が聞こえてきた。



次回も本日、1月4日中にアップします。

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