肝試しに行こう!
懐中電灯の丸い光が廊下を照らす。
「ちょっとコンビニ行ってくる」と家を出たはいいが、遠くで雷鳴が聞こえ始め、学校に着いた頃には雨になっていた。今日の昼間、だいぶ暑かったからな。結構激しい雨だった。
「雰囲気出てきたね~」
嬉しそうに言う夏海だが、手はずっと俺のTシャツの裾を持っていた。こいつ、完全にビビってるな。ヒタ、ヒタ、ヒタという俺たちの足音と、窓ガラスに叩きつける雨音だけが廊下に響いていた。
一瞬外が明るくなり、その直後に一斗缶で作った塔をぶち壊したかのような、雷鳴。
「きゃあああああああ!!!!」
夏海が腕にしがみついてくる。普段なら胸の感触を楽しむところだが、今はそんな余裕はなかった。
「お、お前!びっくりするからその絶叫やめろ!!」
「だ、だって怖いんだもん!!」
「お前が来ようって言ったんだろうが!!」
「だって・・・!」
シャンプーの後のしぼんだ犬みたいに情けなくなっている夏海。
「どうすっか。やめるか」
俺がそう言うと、夏海の目に微かな光が戻った。
「やめない・・・やめるわけにはいかない・・・あきちゃんの悲鳴をこの耳で聞くまではー!!」
よくもまあそんなくだらない理由がモチベーションになるもんだ。開かずの教室の前に着き、ベニヤ板を外す。
「本当にいいんだな?」
振り返ると、夏海は意思の強い瞳でコクリと頷いた。だからなんなんだよその強固な意思は。
引き戸を開けると、教室は思ったより整理されていた。机と椅子が整然と並んでいる。自分たちの教室と同じ。その雰囲気に少しだけホッとした。夏海もだいぶ安心したようで、机に腰掛けて言う。
「なーんだ!結局なんもないんじゃんね!ビビって損したぞなもし~」
夏海の変な口調は無視して教室の中を懐中電灯で照らす。本当に、単なる、普通の教室だ。
「でも、夜の学校にふたりっきりって、なんかドキドキするね・・・」
夏海のつぶやきとほぼ同時に稲光。
その瞬間。
夏海の後ろに何かの影が見えた。気がした。今のは・・・女?
慌てて懐中電灯を影の方へ向ける。しかしそこには古びた掲示板があるだけだった。
「ど、どうしたの?あきちゃん。あきちゃんも緊張して」
「いや、今人影が見えた、ような・・・」
「ちょ、ちょっとやめてよ!こんなとこで言う冗談じゃないでしょ!」
『・・・し・・・た・・・』
深い深い井戸の底から聞こえるような、くぐもった声。助けを求めるかのような、ねばつく声。
『・・・お・・・ま・・・し・・・よ・・・』
夏海は慌てて俺の腕にしがみついて、顔を寄せて小声で言った。
「・・・あきちゃん・・・聞こえた・・・?」
「ああ。誰か喋ってるな」
「・・・これ・・・ヤバい。しゃれになんないよ・・・」
見ると夏海は小刻みに震えていた。少し涙目になってる。いや、この状況では男の俺でも怖い。すると、懐中電灯の光が消えた。
「ちょ、ちょっと!この状況でそんなこと・・・!!」
「ち、ちがっ!なんも押してないのに急に・・・」
その時、今までで一番大きな雷鳴が光と同時に鳴り響いた。そして俺たちの目に、女が映った。髪の長い、セーラー服を着た女。足は、無かった。
「ぎぃいやぁあああああああああああ!!!!!!!!!」
「うおあおえああああああああああああああ!!!!!!!!」
俺と夏海は同時に回れ右をして全力疾走した。
次回も本日、1月4日中にアップします。