夏休みを無駄に過ごそう!
続き物の小説を書き始めました。
見ていただけたら幸いです。
話は昨日の夜にさかのぼる。
「あきちゃん、こわくないの?」
俺こと竹ノ塚明がバイオハザードをプレイしているとTシャツにハーフパンツの夏海が後ろから声をかけてきた。
「んー」
「ちょっと、聞いてんの?」
俺がテレビから視線を逸らさずに生返事をすると背中に蹴りが入った。
「いてえなー、なんだよ」
「そんなホラーゲーム、怖くないのって聞いてんの」
「いやまあ、ホラーゲームだし、怖いけど。でもゲームだし」
「じゃあさ、なんか二人で出来るやつやろーよ。地球防衛軍とか」
「なにお前、怖いの?」
「怖くないし!!」
そう言いながら夏海はもう一度俺の背中を蹴り飛ばした。
だからいてえって。俺は夏海の足を引っぱたいた。
小菅夏海。
幼稚園から高校現在までの幼なじみで、家も隣同士。親同士も仲が良い。まさに幼なじみの中の幼なじみだ。夏海の家の両親は研究職で、相当仕事が忙しいらしく、普段はまともに家に居ない。
だから夏海は俺の家で飯を食い、風呂に入り、ゲームをする。寝る時だけは自分の家に戻るが、面倒になったら俺の姉と一緒に寝る。小学生までは良かったが、さすがに中学生になり、年頃なんだからそろそろこういうのはやめた方がいいんじゃないかと親に言ったら「いいのよー、夏海ちゃんはどうせうちにお嫁に来るんだしー」だと。夏海の両親も「それだったら安心!ハッハッハ!」って。俺らの意見無視っすか。
夏海は俺の背中に足の裏を置いたまま、ベッドに寄りかかって漫画を読んでいる。くっ、背中に感じる感触に負の感情が高まるぜ・・・!出来る事なら振り返って足首を掴みたい。そしてそのままドラゴンスクリューに持ち込み、太ももを抱えて足の指をなめたくりたい!
「バ、バカァ!あきちゃん、そんなとこ、汚いよぉ」って顔を赤らめる夏海に「夏海に汚い所なんてないよ。俺は夏海のどんな所だって舐められるぜ!」そう言った俺は身体を反転させ・・・っと、いかんいかん。妄想の世界へ行くとこだった。
女の足を舐めたくるというのは高校生の男子だったら誰だって持っている健康的な妄想だが、それを行動に起こすには相手が幼なじみでは今後の事を考えるとハードルが高い。
「お前怖いの苦手だもんな」
俺が平常心を取り戻してそう言うと夏海は漫画を脇に置いて俺の背中にかかと落としを決めた。
「痛い!てめえ!」
「バッカじゃない?たかがゲームでしょ?怖いはずないじゃん」
「ほほーう」
俺は訝しげに言った。だってそうだろ。昔から怖い映画見て泣いてたじゃんよ。
「フッ・・・あきちゃん、あたしがいつまでも同じだと思ったら大間違いだぜぇ?」
「なんだそのキャラ」
ビシィ!と俺を指さして夏海が決め台詞を吐く。
「男子三日会わざればカイカイ祖にして漏らさずということわざを知らんのかね!」
「男子三日会わざれば刮目して見よ、な」
あと天網恢恢疎にして漏らさずとも混ざってる。そしてお前は女子だ。
「それだ!!まああたしだって日々成長してるんだよ。いつまでも怖がりの夏海ちゃんじゃないってことだよ!!」
大体このやり取りを見てもらえばわかると思うけど、夏海はバカだ。成績で言うと俺と似たり寄ったり(ということはかなりのバカなのだが)だけど、基本的な言動がどこか抜けている。しかし、運動能力はずば抜けている。様々な部活からオファーがあり、時々助っ人として参加をするとどんな試合でも必ず勝つ。典型的な脳筋女子だ。
それでも夏海は帰宅部を貫いている。助っ人だと公式戦には出られないから、もったいないと思って一度聞いてみたら「親が帰ってる時には、出来るだけ一緒にいたいから」と言っていた。運動も勉強も残念な俺からするともったいない話だが、夏海の気持ちもわかる。そうしてこの夏休みは毎日俺の部屋でゲームをしたり漫画を読んで過ごしている。メイン職業学生、サブ職業にニートを選択したというわけだ。
俺は夏海にコントローラーを渡して言った。
「じゃあさ、バイオハザード二人用出来るから一緒にやろうぜ」
「の、のぞむところじゃああ!!!」
体勢を立て直し、肩まである髪を手で跳ね上げ、コントローラーを握る夏海。そんなに気合入れなくてもいいだろ。
「二人のが効率いいからな。難易度も低いから大丈夫。敵が出たら撃つ。それだけ」
「任せろ相棒!足を引っ張るなよ!!」
10分後。テレビには『GAME OVER』の文字。傍らには死にかけの夏海が居た。10分間、ずっと悲鳴を上げ続けて一匹もゾンビを倒せなかったのだ。
「おい、大丈夫か?」
「ゾンビが~、ゾンビが走るとは~。奴らはピョンピョン跳ねることしか出来ぬはずじゃったのに~」
「それはキョンシーな」
仕方なく地球防衛軍のケースを取り出して交換しようとしていると、夏海は立ち上がって両手を前にし、手首をぶらんとさせて「ゾンビじゃ~」と言いながら俺の背中にもたれかかってきた。
「やめろっつーの」背中に当たる柔らかい感触には未練があったが、地球防衛軍のケースで夏海の頭をはたく。くそー。発育いいなー。
すると夏海はまた立ち上がり、ビシィ!と俺を指さして言った。
「てゆうかあきちゃんだけ悲鳴あげないとかズルい!」
「いや、これはたかがゲームだから。そんな怖いもんじゃないだろ」
「ふーん?ゲームじゃなかったら怖いのかな~?」
「どうかな。少なくともお前よりは怖がりじゃねーよ」
夏海は顎に手を当ててニヤリとした。多分ろくなこと考えてないな。
すると俺の机からマジックを取り出して、画用紙に勢い良く書いて掲げた。
「『ドキドキ!真夏の学校心霊ツアー!!!』これでどうだーーー!!!」
「・・・は?」
俺の手から地球防衛軍のケースがこぼれ落ちた。
次回は本日、1月4日中にアップします。