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作者: 怜央

じゅん!」

いつもは、立ち入り禁止になっている、何もない屋上に縁に潤は立っていた。

「わっ! 悠惺ゆうせい、よく俺がここにいるって分かったな。いや、そういう風に考えるのが普通なのか…?」

「潤。お前なんでそんな…さっき図書室で『死』だのなんだの言ってたけど、本当にやる気なのか? 本当に死ぬつもりなのか!?」

「……ん~…さぁ?」

「ハ? え、何故『さぁ』?」

「俺が立ち入り禁止の屋上で、裸足になってここに立っているのは事実だけれど、別に死のうと思っているわけじゃないし。ただ、死とは何なのか、生とは何なのか、死の間際に立って考えてみたかっただけ。…っと、裸足で歩くのは痛い!」

潤は後ろにジャンプして、靴を置いた場所へと向かった。

「……ったく、変な心配かけんなよな。つか、痛いんだったら何で離れたとこに靴置くかなぁ~」

俺は潤に待っているように言って、潤のもとに靴を持って行った。

「サンキュ。…なぁ悠惺。俺がもしあのまま飛び降りてたらどうする?」

「どうするって…そりゃ打ち所が悪くなけりゃ即死じゃないだろうから、すぐに救急車を呼んで……」

「そうじゃなくて。俺の質問が悪かったな。もし飛び降りて死なずに生き残ったら、お前は俺にどういった態度をとるかってこと」

「あぁ? あ~…お決まりっぽく言えば、『いつもどうりの態度』なんだろうけど、そんなのは無理に決まってるし…。そうだなぁ。ウ~ン…俺だったら、まず理由を知りたいな。何故死のうとしたのか、何故黙っていたのか…とかさ。それで、その答えがお前らしかったら何も変わんねぇんじゃねぇか? わざと変な態度取っても仕方ないしさ。もし、答えがお前らしくなかった時は、それはお前が黙っていたいって思った時だろ? そん時に無理に聞いても仕方ねぇし…――」

「悠惺、悠惺! もういい。お前がどうするか大体分かったから。うん。俺が聞いたのが間違ってた」

「ん~なんか今、小馬鹿にされたような…。まぁ、いいや。帰ろうぜ、潤」

「あ? あぁ、うん、そうだな。帰ろう」

「潤、お前熱でもあんのか? なんか変だぞ?」

「何でもねぇよ。さ、帰ろう、帰ろう!」

いつの間にか靴下を穿いていた潤は、靴を穿くとすたすたと扉へ向かった。

「あ、置いてくなよ!」

俺は駆け足で潤に追いつくと、屋上を後にした。


教室で、バックにノートを入れていると、マナーモードにしていた携帯がメールの受信を知らせた。

「ん? 珍しい…潤からだ」

〈「死」とはいつでも「生」と隣り合って存在してるものだ。表裏一体の様にね。だから「死」は唐突にやってくる。なのに、何故人は『死』を恐れるのだろうか。俺はただ、『死』を知りたいんだ―――〉

俺はそこまで読んで、身体に寒気が走った。

(もしかして…まさか! いや、でも…)

俺の単純な頭は、潤が飛び降り自殺をするのでは? と考えついて、急いで屋上に向かった。

「潤!!」

「え? あぁ、悠惺。よくここが…いや、それが定番だからか」

俺が屋上のドアノブをひねると、予想していた通り扉が開き、潤が目の前のフェンスも何もない屋上のふちに、裸足で立っていた。

「潤。お前この前変だなって思ってたけど、やっぱり自殺しようと考えてたんだな」

潤は俺の方を向くと、どこか苦しんでいるような、悩んでいるような表情を見せた。

「なぁ、悠惺。お前には人生というものの中に〈どんな価値〉があって、〈どのような価値〉があるのか、分かるか?」

「は?」

潤は苦笑いをすると、別の質問をしてきた。

「今生きている俺達人間は、自然の中で暮らしながら、自然の摂理を無視して、壊しながら生きてるだろう? そんな俺達には、生まれ、行き、死にゆく過程の中に、どんな種類の価値があるんだ? そしてその中にはどのような価値があるんだ? 俺には生きる意味も死ぬ意味もわからない。だから、せめてその価値が知りたいんだ。お前には、それが分かるか?」

潤の目は俺に向いていたが、その目はどこか遠くを見ているようだった。

「お前が何を言いたいのかさっぱりわかんねぇよ。つか、その前に辞めようぜ。戻ってこいよ」

俺は潤に近づいたら、潤が飛び降りてしまうのではないかと思って前には進めなかった。

「悠惺、近づくんじゃねぇぞ。それ以上近づいたらすぐにでも飛び降りるからな」

「っ!」

まるで俺の心を読んでいるようだ。

「悠惺、正直にいえば、俺はその答えを知っているんだ。…この前、俺はここに同じ状態で立っていただろ? あの時、俺は自分が出した答えについて考えてたんだ」

「……それで?」

「それで、俺自身は『生』を、生きることを求めていないってってことに気付いたんだ」

「何だよ…それ。それじゃぁ、お前は生きることを求めてないから死ぬっていうのか? お前は死ぬことを求めているのか?!」

潤はその質問に声を出して答える事はなかったが、潤の表情が、俺の質問に答えていた。

「…ウソだろ……。お前、ほん――!」

「本気だよ? マジじゃなきゃ、こんなところでこんな恰好してないから。悠惺、お前は俺を止めに来たんだよな」

俺は潤から目を離さずに頷いた。

「じゃぁ、止めてあげるよ」

「えっ!!」

「ただし、俺の疑問に、俺が納得できるような答えを言ったらな。どうする?」

潤はどこか悲しそうだった。表情や態度ではない。潤の―――

「俺の疑問を聞くか?」

〈声〉が。

「それとも聞かずに終わりにするか?」

隠し切れていない悲しみが、その言葉から伝わってくるようだった。

「選べよ。悠惺」

だが、最後にそう言った時の潤の言葉からは、悲しみが無くなっていた。

俺には〈どちらかを選ぶ〉という選択肢はなかった。もし、俺が選んでいたのなら、俺は酷く自分を責め、罵った事だろう。

「当たり前のことを俺に聞くなよな。聞かせろよ。お前のその疑問を」

呆れたような、そしてどこか挑みかけるような声で答えた。

潤は一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに不敵な笑みを浮かべ、淡々と言った。

「生と死だ」

「は?」

「生きるとは何だ? 死ぬとは何だ? 俺は辞書とかそういった物に書いてあるような答えも、世間一般に言う答えも求めてはいない。純粋なお前の答えを聞きたいんだ。生きるとは、死ぬとは、お前にとって一体何だ?」

「俺に……とって?」

潤は静止したまま俺の答えを待った。

生きて死ぬ。そんなことに何故潤は疑問を持つんだろうか。そんな想いが頭をよぎったが、俺の口からはスラスラと潤の疑問に対する答えが出ていた。

「俺は頭が良いワケじゃないから、ここでお前が期待しているような答えも、納得するような真実も持ってはいないと思う。ただ、俺の考えってのを言うなれば、俺にとって『生』は《過程》で、『死』は《結果》だ。『生きる』ことの意味なんてわかるもんか。《過程》の時に意味なんてわかるはずもない。『死ぬ』ことで生きてきた時間の意味がやっとわかるんだからな。要するに、今、お前がここで死ぬってことは、お前の生きる意味がやっとわかるってことで、俺はお前にそんなことしてほしくないんだ」

悠惺は俺の最後の言葉をなかったことのようにして言った。

「……過程…そして結果…か。俺にはなかった考え方だな。…本当はな悠惺。俺も答えは出ているんだ」

何故だろうか。今、潤は悲しい笑みを浮かべているような気がした。そして、潤は俺に言うのではなく、まるで虚空に話すかのように空を見上げて続けた。

「『生きる』とは何か。『死ぬ』とは何か。…人は皆、生きることは素晴らしいと言う。人は皆、生きている時間を大事にしろと言う。…それは何故なんだ?」

そこまで言うと、今度は顔を俺に合わせて話した。

「俺は、『生きる』とは人生の一部であり、『死ぬ』とは人生の分岐点だと考えてるんだ。……確かに、人間観だけで話したのなら、過程と結果というものが成り立つのかもしれない。けど、俺は『死』というもので人生が終わるようには思えないんだ。でも…じゃぁ何故生きて死ぬんだ? 俺はそこに価値があるからだと思う。じゃぁその価値って? そうやって一つの疑問に答えを出しても、また疑問が出てくるんだ…もう―――」

潤はそれ以上何もいわなかったが、その声や表情から伝わってくるものがあった。

「潤、俺は――――」

「悠惺」

潤は俺の名前を呼ぶことで続きを言わせなかった。

「俺は『俺が納得のできるような答えを言ったら』と言ったはずだ。お前は自分の言った言葉に矛盾があることに気付いてないのか? 『死をもって生きてきた時間の意味が分かる』それってつまり…〈永遠に『生きる』事の意味も、『死ぬ』事の意味もわからない〉ってことだよな。そんなんじゃ、その答えを求めている奴らは誰も納得しねぇよ。少なくとも俺はな。…俺が言いたいこと、分かるよな」

―――何も言えない。そう思った。『少なくとも俺はな』そう言われた瞬間、頭が真っ白になって、身体を動かして潤を引きずり降ろそうと思っても、身体は鉛のように重く、動くことはできなかった。

「じゃ、悠惺。お前は俺を止めることに失敗した。だからもう止めないでくれ。人は緩急はあれど死に向かって流されていくもの。残りの時間を無駄にすんな。じゃぁな」

潤はそう言うと、俺に笑みを向け、天を仰いだ。

その時になって、やっと、足が一歩前に出た。するとまた一歩と前に出て、いつの間にか俺は走っていた。だが、その間にも潤は斜め後ろへと倒れていく。

「潤――――!!」

縁に辿り着いて、手を伸ばすも、手はむなしく空を掴んだだけだった。


「潤――――!!」

ガツンッ!!

「イッテッー!! 何すんだよっ潤!?」

頭を何かで殴られたような気がして振り向くと、辞書を手に持って立つ潤がいた。

「何が『潤――――!!』だ。気持ち悪いっつうの! つうか、勉強教えてほしいっていうから、わざわざ図書室からおまえん家に場所変えて教えてやってんのに、寝てんじゃねぇ!」

「エッ? あれ? 潤?? えっと…夢?」

「あぁ? いつまで寝ぼけてるつもりだ? もう一発必要か?」

そう言って潤は俺の頭をはたこうと、辞書を持ち上げた。

「うわっ待った、待った! それ下ろせって! 俺が変な夢を見たのが悪かったから、な?」

「……もう一発必要らしい。とうっ!」

ガツンッ!!

「ッテー!! 潤、加減ってものがあんだろ!?」

「さぁ? 何のことやら」

「許せん! 二発目は納得いかねぇ! お前も痛みを味わえ!」

そう言って俺は潤から辞書を奪った。

「………ん?」

辞書には、俺には見覚えのない付箋がいくつかつけられていた。

この辞書は潤の物だ。付せんが付いていてもおかしくはないが、いつの間につけていたのだろう?

「なんだよ、潤。付箋なんかつけてカッコつけやがって」

ふざけるように言って、俺はそのページを開いた。

夢と現実は違うと。またいつもの日々が続いていくと信じていた。

開かれたページの言葉は『死』。ご丁寧にマーカーでラインも引いてある。

恐る恐る俺は潤を見た。ここは夢ではないと、そう確認するために。

だが…

「なぁ、悠惺。お前は『死』について考えた事、あるか?」

俺はその表情に、その目に、見覚えがあった。


最後まで読んでくださってありがとうございます^^

空白・改行なしで数えると4446文字の短編になります。

自分で書いてきた短編中では一番長いかな?

作品自体はずいぶん前から完成していたのですが、PCに打ち込むのが面倒でこんな時期になってしました(笑)


ご指摘等ありましたら教えて下さるとありがたいです(><)

あとがきも読んで下さって、本当にありがとうございます!!

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