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5/10

逃避行は計画的に

話をしよう

あれは今から36万…いや、5ヶ月前だったか…まぁいい

作者にとってはつい昨日の作品だったが、君たちにとってはたぶん…日曜の作品だ


作者には役30通りもの名前があるから、何て呼べばいいのか…たしか、一番新しい時は…猫海月


そう、作者は最初から執筆が遅かったよ

最初から不定期更新にしておけばな…


まぁ、いい奴だったよ


そんなネタで大丈夫か?

大丈夫だ、問題ない


人物表

ルカ

何気に主人公 お金稼ぎのために依頼とかも受けてます


アリス・イン・ワンダーランド

きっとヒロイン 起きてからしばらくの間は寝ぼけてます



 目を覚ますと、ベットのサイドテーブルに1通の見慣れた封筒があった。

 思わず破こうと力を入れそうになるけど、何時だかそれで火傷をしたのを思い出して思いとどまる。

 コレ読まないとダメかな…?ダメだよね?

 捨ててもまた戻ってきそうだし。

 まぁどうせ暇な入院生活。読んであげるのもいいでしょう。

『拝啓、親愛なる友人へ、お元気ですか?

 入院したらしいですね。情けない』


 …これ、切り裂いていいかな?

 とはいえ切り裂くと何が起きるかわからないので、込み上げる意志を何とか収めると先を読む。

 我ながら面倒な奴と出会ったものだねぇ。


『入院をしたということはそちらに行っても変わる事が無い様で、嬉しさ半分悲しさ半分です。嘘ですが。

 とはいえ初めての入院生活エンジョイしてますか?

 ボクも一度したことがありますが、好きな人に甘えれるのは中々良いものです。

 それでは、お手紙の返信もきちんとしてくださいね。色々と困りますから。


 追伸

 抜け出すときのルート確認は徹底的にしたほうがいいです。


 返信方法は以下のとおり…』


 後はいつもと同じ内容なのでスルー。というか返信方法毎回書く必要あるのかねぇ…?

 まぁ、とりあえず返事をしないと色々と困るらしいのでペンを握って内容を考える。

 別にあいつが困る分には大いに歓迎なのだけれど、わざわざ書く辺り困るのは私になりそう。

 内容は…そうだねぇ。


『スクランブルエッグのスクランブルって緊急発進って意味なんだけど、知ってた?』


 まぁ、嘘だけどさ。



□ □ □ □



 緊張で震える手を深呼吸でねじ伏せる。

 必要なのはタイミングとテンポ、オーケー?オーケー。


「アリス、ご飯かパンかどっちがいい?」

「んー」


 ここで最近不足気味なアリス分を摂取するためにぼけーっとしているアリスへと話し掛けると、彼女は少しだけ宙を眺めて考え始めた。

 私に緊張が走る。


「パンー」

「あいあい」


 内心ほっとしながらまたフライパンへと向かう。

 ご飯がいいとか言われたらどうしようかと思っていたので、彼女がパンを選んだのは何より。正直言うとパンしか準備してなかった!

 いや、すぐにご飯とか炊けないし。

 火加減は?オーケー。心の準備は?問題なし!

 いざ行かん!

 彼女のために美味しい朝食を作るために!


「…どう?」


 パクパクむしゃむしゃむぅむぅと私の作った朝食を食べているアリスへと話しかける。

 久しぶりに彼女のために作った朝食のメニューはトーストとスクランブルエッグ。このスクランブルエッグ、入れるものやらタイミングやらで凝った物に出来そうで一人で奮闘しているのだけれど…。


「んー…」


 そうかそうか!いつもと変わりないか。

 …少し、泣いていいかな。


「ルカさんルカさん」

「ん、何?」


 心の中で涙を流しつつも表面上は満面の笑顔という器用な事を為し遂げながら、卵をかき回した料理をツンツンと突付いているアリスへと向かう。

 美味しくなかったのかな…?


「スクランブルエッグのスクランブルってどういう意味なんでしょうねー?」

「そういえばなんて意味なんだろね?」


 緊急発進(スクランブル)?さすがにこれは違うか。違うよね?違うと信じたい。緊急発進卵とか作れないし、そんな逃げそうな卵嫌すぎるぞ、私は。


「かき混ぜるとかそんな感じの意味なんじゃない?」


 とりあえず無難そうな答えをしておく。間違っても緊急発進卵なんて教えない。信じそうだし。


「んー…」


 どうも私の答えが腑に落ちないのか、ツンツンと卵を突付くアリス。

 そしてその様子に顔がにやけないように精神力を使い続ける私。

 ああ…いいねぇ…。

 最近アリス分が減少の一途を辿ってるからふとした事で顔がにやけそうになる。不審がられそうだから決して悟られないようにしているけど…目の前の人が何の理由もなく顔をにやけさせてたら嫌でしょ。

 私は変態ではない。友人曰く異常ではあるらしいけど。


「緊急発進…」

「いや、ソレは違うと思うけど」

「むぅ…」


 ポツリと呟くアリスを即座に否定する。このままではホントに緊急発進する卵が食べたいとか言い出しかねないし。

 さすがにソレは無理だよお嬢さん。


「そういえばルカさん」

「んー?」


 私がアリス分の摂取しすぎで出そうになった色々を抑えていると、アリスが相変わらず寝ぼけているぽけーっとした顔で話しかけてきた。

 ああ…いいねぇ…。


「今日はお出かけですか?」

「ん?どうして?」


 何でわかったんだろ?私何か言ったっけ…?アリス分摂取がばれたとか?いやいや、ソレは拙い、色々と拙い。


「んー…コートを脱いで無いですからー。いつもなら脱いでたなーとー?」

「ああ、よくわかったね」


 とりあえずアリス分摂取は関係ないらしくて一安心。最近会えなかったから不足してるのだよ…。

 それにしてもいいねぇ…。


「ほめてほめてー♪」


 何と!私が肯定すると、アリスさんは何やら嬉しそうに擦り寄ってくるではないですか!え?何で?いやいや拙いから!色々出るから!鼻血とか手とか色々さ!

 え…何?寝ぼけてるの?寝ぼけていつもと違うような展開なの?それともオーケーサイン?もしかして私誘われてる?


「えへへー」


 どうも褒めろというので、ぎこちなくも彼女の頭を撫でながら色々と悶々としながらも耐える。

 耐えろ…耐えるんだ私!動かすのは片手だけだ!いいな?鼻血とかは絶対にダメだからな!?


「ア、アリス?」

「んー…?」


 なるべく声が上ずらないように気をつけながら、目を細めているアリスへと語り掛ける。


「お、お手洗い行ってもいいかな?」


 …我慢できませんでした。



□ □



「それで、何処行くんですか?」


 トイレであらぶる色々を鎮めた後に戻ってみると、もう目が覚めたようでいつものぼけーっとしたアリスが居た。別にあらぶる右腕とかは鎮めてない。


「ん…」


 何処行くってそりゃアレですよ。


「んと…ちょいとお仕事に」

「ふむふむ?」


 適当にぼかしながら言うと不思議そうに首をかしげるアリス。

 うん、そりゃそうだよね…基本的にアリスは稼ぐ必要ないもんね…。


「あの…先立つものが少なくてですね」


 敬語になっているのは決して後ろめたいものがあるからではない!決して無い!


「ふむふむ。んー」


 私が説明すると、アリスはまたぼーっと宙を眺め始める。

 …ものすごーく嫌な予感がする。


「それじゃ私も一緒に行ってもいー?」

「えっと…」


 いや、何がそれじゃなのかわからないし…あの、来てもらうのは大歓迎なんだけど私は遊びじゃなくてお仕事なんですけど…。


「ダメですか…?」


 その…一応受けたのは私でして…。


「それじゃしょうがないですか…」

「いやいや、ダメじゃない!大丈夫大丈夫!」

「ほんとですか!」


 しょんぼりとするアリスに慌てて言うと、彼女は嬉しそうに目を輝かせた。


「うん。だから着替えて来てくれる?そろそろ出かけるから」

「はーい」


 大丈夫…うん、パートナーなんだし。うん…たぶん大丈夫。何だか嫌な予感がするからなるべく連れてきたくないんだけど…まぁしょうがないか。

 とてとてと着替えに行くアリスを見守りながら依頼内容をどう説明しようか考える。



□ □ □ □



 依頼主は何処と無くやつれた感じの不健康そうな妹。名前は…なんだったっけ?覚えてないし妹でいいや。

 依頼内容は兄を探して欲しいとの事。

 話を聞いた限りだとある日突然居なくなったとか、後は兄の話を永遠と語られた。もちろん内容は忘れた。

 この兄さん…こっちも名前忘れた。兄でいいや。は何処にでも居そうな普通のとっぽい兄ちゃんが第一印象、いや写真しか見てないけどね。

 それにしても…兄のことを調べる限りでは突然居なくなるタイプにはとても思えないというのが私の考え。

 でも兄さんの友人から聞いた限りでは『やっぱり居なくなったんだ』とのこと。思った理由は何となく。反応からすると何とも胡散臭い依頼である。彼もどこに行ったかはわからないらしい。

 職業は…医者だっけ?何だかそんな感じの医療関係だかで診療所に勤めてるらしい。頭はいいみたいだねぇ。

 彼女持ちで彼女は同僚の看護士、出会いは職場。

 というのが、ここ数日アリス分を摂取せず、足を使って汗水流して得た情報である。

 何とも嫌な予感しかしない依頼だねぇ…特に友人の話とか、妹の反応とか。


「と、言うのが今までの達成状況…」

「ふむふむー」


 一応アリスに説明しておくと、なにやら考え始めた。


「愛の逃避行…」


 …いや、それは違うと思いますアリスさん。

 なにやらぼけーっと呟くアリスを放っておいて、今日向かう場所の確認をする。未だに紙の地図なんて使ってるのは私くらいのような気がする。


「そういえば何処行くんですか?」

「んーと…とりあえず彼女のとこかな?」

「ふむふむ…」


 後回しにした理由は単純に捕まえづらかったから。遠いのだよ…距離的な意味で。

 熱心な妹に嫌気が差して友人宅に逃げ出したとも思ったのだけれど、どうもあてが外れたしねぇ。


「愛の逃避行ですか…」


 いや、だからそれは違うと思いますアリスさん。


 そうこうしていると、職場らしい診療所が見えてきた。外見は良く言えば趣があるという、わびさび。悪く言えばぼろいだけの、さびさびと言ったような木造建ての建物。看板とか錆びてて読めないぞ…大丈夫なのかここ。

 しかしそんな他人の心配をしている余裕はないのである。まだ余裕はあるとは言え…何らかの事故やら事件やらで怪我をしたら治療費で一気になくなりそう。

 適当に生活をするには余裕を見ながら稼ぐのが大事なのである。

 受付らしいお姉さんに来場の旨を伝えると、しばらく待っていてくださいとのこと。やけにあっさり通してくれるのねぇ…?


「ルカさんルカさん」


 アリスはしばらくの間ものめずらしそうに辺りを見ていたのだけれど、やがてそれも飽きたのか、私に話しかけてきた。


「んー?」

「ルカさんは一つだけお願い事が叶うとしたら、何を願いますか?」


 願い事…それはアリスの幸せ!とかいえたらどれだけ楽か。


「んー…あんまし思いつかないね…」


 結局逃げるへたれな私。


「ふむふむ…そうですかー…」


 なにやらぼーっと考え始めるアリス。このままでは沈黙が支配してしまうでは無いか!


「アリスは何をお願いする?」

「ほぇ?」

「お願い事、アリスなら何を願うのかなーって思って」


 そんなに意外だったかな?


「んー…好きな人と一緒にいられることでしょうかー?」


 少し恥ずかしそうにぽけーと笑いながら言うアリス。

 …その…ね?お、お手洗い行ってもいいかな?


「お待たせしました…」


 そんなことを話しながらしばらく待つこと数分。どうも件の人物が現れたらしい。

 彼女さんはどこか不健康そうな青白い顔で服は白衣。医者の不衛生…というよりはノイローゼみたいな感じかな?彼氏が突然居なくなったらそんなものなのかねぇ。


「初めまして、私はルカ。この子は私のパートナーのアリス」

「初めまして…」


 怪訝そうにこちらを見る彼女に対して、軽く自己紹介をして二人でぺこりとお辞儀をすると、彼女のほうもお辞儀を返してきた。

 例の如く彼女の名前なんぞに興味は出ないので、記憶から消し去っておく。


「では早速ですが、彼氏さんの行方について何かご存知でしょうか?」

「…?はい、知ってますよ?」

「えっと…」


 私がそう聞くと、彼女は心底不思議そうに返してきた。

 …んん?


「会わせていただける、とかは?」

「…教えないとダメなんでしょうか…?」

「こちらも仕事ですので、出来ればお願いできませんか?」


 私がそう言うと、彼女は何かを考えるようにし、誰かを探すような仕草の後に、にっこりと笑いかけてきた。


「ええ、もちろんです。彼も喜ぶでしょうし…」


 そこで区切ると少しだけ時間を見上げる。


「あの…出来れば仕事が終わるまでお待ちしてはもらえないでしょうか?彼は私の家に居ますので」

「はい、わかりました。お待ちしています」


 では失礼します。といって彼女は再び奥へと去っていった。

 それにしてもこうもサクサクと進むとは…今までの努力は何だったのだろうか。


「ルカさん、今のどう思います?」


 私が今までの時間に彼女に会っていたらどれだけのアリス分が摂取できたのかと計算していると、今まで黙っていたアリスがいつもとは違う真剣な顔でぽつりと呟いた。


「んー?どうかしたの?」


 どう思うって…どうも思わないのが正直なところ。やっぱり愛の逃避行なのかねぇ?


「あまりにも早すぎると思いませんか?」

「早すぎるって言われてもねぇ…?」


 少しだけ彼女のことを思い出しながら答える。


「そんなものじゃないのかなー?」

「ふむぅ…そうですか…」


 アリスはそう呟くと、またいつものようなぽけーっとした顔に戻った。


「ルカさんがそう思うのならそうなんでしょうねー」


 おおぅ…信頼されてるな私…。信頼…されてるのかな?


「そうそう。それじゃ私は依頼主に連絡してくるから…」

「はいな、いってらっしゃいー」


 とりあえずは何かわかったら教えるように、って依頼主から念を押されていたので伝えてくることにしよう。



□ □ □ □




 彼女の仕事が終わったのは、周りが黒く塗りつぶされてからだった。


「アリス、アリス…起きて…」

「んぅ…?」


 まるで幽霊のように生気なく歩いてくる彼女を確認すると、私の肩にもたれるようにして眠っていたアリスを起こす。

 眠っていた間は何をしなかった…!出来なかった!泣きたい…。


「お待たせしました。では行きましょう」

「はい、お願いします」

「んー…?」


 未だ寝ぼけているアリスのちっちくてやわっこい手を引きながら彼女の後を追う。緊張しているのは、もうすぐ依頼を達成するからでは決してない!


「こちらです。あの…少し片付けてきますので待っていて貰えるでしょうか?」


 色々と見せたくないものでもあるのだろう。私たちを外において彼女は中に入ってしまった。

 まぁ…突然の訪問だしねぇ。

 彼女の家は診療所から徒歩数分といったところの様で、普通の一軒家。たぶん借家…かな。

 何にしても職場に近いのはかなりのメリットかな?代わりに彼氏の家からは遠いけど。


「ルカさん?ここ何処ー?」

「仕事先ー」

「ふむふむー?」


 彼女が帰ってくるまで暇なので寝ぼけているアリスの目を覚まそうと奮闘する。ここから先、寝ぼけてるのは少し拙そう。


「お待たせしました、どうぞこちらへ」


 そのまま二人連れられて中に入ると、彼女はがちゃりと玄関に鍵を閉めた。その上にご丁寧にチェーンまで。

 そして、ちょうどリビングのところ、電気もついていないテーブルの上にそれはあった。

 大きさは大体20数センチと言ったところか。よく冷やされているのかまだ嫌なにおいは漂ってきておらず、形が歪んでいる。どうも鈍器で殴られた後のよう。

 いったい静かに閉じられた目線は何を思っているのやら。

 そこには、どこかの写真で見た男性の生首があった。


「ご紹介します、私の彼です」


 彼女はどこか愛しそうに生首を撫でる。


「…これは初めまして」

「初めましてー」


 私はアリスの手を優しく握りながら、彼女に話を合わせる。

 アリスは電気がついてなくて生首がよくみえていないらしく、まだ寝ぼけたまま。何か衝撃的なことでもあれば起きそうなんだけれど…。


「ごめんなさい、彼、最近寡黙でして…二人きりの時は結構話しかけてくれるのですが…」


 先ほどまでとはうって変わって表情がコロコロと変わる彼女。

 これは…拙い、かなり拙い…。私ひとりならいいけれど、何よりもここにはアリスが居る。彼女が傷つくのだけは何としても避けないと…。


「そうですか。それでは、彼も探せたので私たちはこの辺で…」

「あら待ってください、今紅茶を入れますから」


 回れ右をしてさぁ帰ろう、としたら引きとめられた。

 強引に逃げるのは…難しそうかな。チェーンに鍵も掛けられてたし…間取りもわからないから窓を割って逃げるのは最後の手段としよう。罠がある可能性も否定できないし。

 アリスはまだ寝ぼけている…かといって彼女に危害を加えるのは色々と拙い。

 まだ、彼女は私たちに対して何もしていないのだから。


「んー…?どうかしましたかー?」


 あまりにも動かない私を疑問に思ったのか、不思議そうにアリスが手を引っ張ってくる。いつもの経験からだと、後数分で起きるんだけどな…

 後数分、何とかするしかないかねぇ…。

 私がそう覚悟を決めた瞬間、突然物陰から誰かが飛び出して来て私へとぶつかってきた。

 そして胸の辺りに広がっていく熱い感覚。

 ヤバイ…油断してた…。

 とっさの判断で誰かを殴り飛ばすと、その誰かは突然壁へと叩きつけられて動かなくなった。そして包丁の抜けた私の胸から血が溢れて来る。


「ルカさん!?」


 驚いたように目を見開くアリス。

 どうも目が覚めたようね…それはよかった…。

 それにしてもここに居るのは拙い…。ほら、もう動き始めているし…何か呟いてるし…。


「ルカさん…ルカさん…」

「アリス…大丈夫だから…逃げましょう?」


 泣きそうな顔で私の名前を呼ぶアリスに言い聞かせると、よろけながらもゆっくりと歩き始める。

 彼女はもうどれだけ起き上がったのだろうか、後ろを見るだけの余裕も無いのでいまいちわからない。

 アリスはパニック状態だし…とにかく逃げないと…。でも…何処に?

 手近な部屋に逃げ込むにしても、ここは私の家ではない。すぐに見つかるのがオチでしょう。だから逃げるなら窓のある場所…?

 もたれる足を動かしつつも何処かの部屋へと入り込むも、段差に躓いた。

 あ…ヤバイ。

 最後の力でアリスを巻き込まないようにすると、私はろくに受身も取れずに倒れた。そして、胸やらなにやらから広がる激痛。

 耳を澄ますと、とた…とた…とゆっくりと彼女が廊下を歩く音が聞こえてくる。

 拙…い…衝撃で…体が…うごかな…。


「アリ…ス…先に…逃げ…」

「嫌ですよ…逃げないと…」


 とりあえずアリスだけは逃がそうとするも、アリスはどこか泣きそうな顔で私の体を少しずつ引きずる。

 コレは…拙いなぁ…アリスはパニくってるし…私の体は段々と動かなくなってるし…。


「彼は渡さないんだから…もう…誰にも…」


 このままでは拙いので全身に力を入れて立ち上がろうとしていると、追いついたらしく部屋の外のほうから声がした。

 そして必死に私を少しでも遠くに逃がそうとするアリス。

 私が最後の力で何とか立ち上がった瞬間、ガラスの割れる音がに響いて、小柄な体が彼女へとぶつかっていった。

 そして聞こえてくる、壁や廊下を破壊する音。


「やっぱりあんただったのね…」


 ちらりとそちらを見ると、そこには依頼主がバットを持って彼女を睨みつけて居た。

 彼女の方も頭から血を流しながら親の敵を見るようにして妹を睨みつける。

 …何はともあれ…コレは…チャンスよね…。


「アリス…逃げ…よ…?」


 私は突然の事態に対応しきれてないアリスに声を掛けると、アリスの手を借りながらゆっくりと窓から逃げ出した。

 診療所…近くて…よかった…。



□ □ □ □



 その後、件の家から聞こえた破壊音を近所の人が通報。

 そこには一人の女性の撲殺死体と成人男性の生首。そしてバットを手にしながら、生首に対して何かを嬉しそうに語りかけている少女がいたらしい。

 あいにくと私はあそこから逃げ出した後即入院したから、人づてに聞いたんだけど…。

 と、いうことで無事ではないけれども依頼は達成。

 アリスは怪我をしなかったし私も死ななかった。言うこと無しの万々歳だね。

 ただ一つだけ悩みがあるとしたら…


「アリスが見舞いに来ない!」

「意外と元気そうだねぇー」


 私が叫ぶとグラサンに帽子とコート、さらに顔にはマスクという怪しさ大爆発の男が答える様に言った。

 何故だ…何故私のところに居るのがアリスじゃなくてこんな怪しい男なんだ…。

 パートナーである山口さんは書類の作成やら何やらで来れなく、いくつかの果物を代わりということで送ってくれた。何でも隊員が治療するときの補助の手続きやら何やらで忙しいらしい。ほんとにいい人だ…。


「いやぁー、まさか君が入院するとは思わなかったねぇー」


 何処と無く楽しそうに話す山田。こいつ絶対アレでしょ…ラムネのビンとか後片付けも考えずに割って楽しむタイプ。


「あ、コレ今回の依頼金。どうも払えなかったみたいだからボクが立て替えといたよ」

「いやー、本当に隊長は頼りになります」


 山田隊長っていい人だなぁー…。

 やがて面倒ごとはすべてパートナーに投げた山田も帰った後、私はひっそりと病室を抜け出す。

 医者は絶対安静とか死にたくなければ動くなとか色々言っていたがそんなの関係ない。

 ここ数日間、アリスと会ってなくて枯れそうなのだ。それはもう色々と。

 昼間だというのにひっそりと静まり返る診療所内を歩く。

 気を抜くとギシギシと鳴るぼろい床は、看護士が来た時に寝た振りが出来て便利なのだけれど…ソレが今となっては疎ましく感じる。

 抜き足差し足で仮眠室を通過。よし、一番の山場は過ぎた!

 受付の死角はすでに把握済み!後は自由を求めて外へと飛び出しアリスへと会いに行くだけ!


「あ…ルカさん…」


 とばかしに診療所から外へと出るドアを開けると、そこには沈んだ顔のアリスが居た。


「アリ…ス?」

「その…あの…えっと…」


 私が彼女の名前を呼ぶと、アリスは沈んだ様子で何かを口ごもっていた。

 え?何?何でそんな沈んでるの?どういうことなの?


「あー!」

「あ…拙い」


 私がアリスの様子に混乱していると、抜け出そうとしている私に気づいた看護士が私を指差して叫ぶ。


「先生!脱走者です!」


 その一言で、何処かからぞろぞろと出てくる看護士の群れ。群れ。群れ。ええい!仲間を呼ぶな仲間を!


「アリス!とりあえず逃げよ!」

「…ほぇ?」


 未だについていけずに不思議そうにしているアリスの手を引くと、外へと走り出す。

 走るたびに胸が痛むが、怪我なんて関係ない。彼女と一緒に居られたのだから、それでよしとしようじゃないか!


「ルカさんルカさん!」

「なーにー?」

「その…何処まで逃げるんですか?」


 んー…。

 少し悩むと後ろから声が追ってくる。


「何処までも!付いて来てくれる?」

「…はい!」


 私が叫びに答えたアリスの顔をちらりと見ると、彼女はさっきまでの沈んだ顔ではなく、楽しそうに笑っていた。

 このまま愛の逃避行と洒落込むのなんて最高じゃない!

 …いや、まだ告白とかしてないんだけどさ。

 というか私が告白する日は来るのだろうか…?

 でも、今はまぁ…。とりあえず逃げよう!

 五体満足、結果オーライ、病室に缶詰なんてやってられるかー!

ああ…

やっぱり、今回も没だったよ

あいつはネタを選ばないからな…


作者の投稿される作品は没を潜り抜けたものだけ…

まぁ、よほどのカオスか面白くない評価じゃない限りは没にならないんですが

後は続きが書けなかったとか色々です

あれほど書けるネタを使えといったのに…


どれだけ期日が迫ってても、我慢できずに没になるとわかりきってる作品書いちゃうんだね

しかたなぁいね


関係ないですがこの前書きとあとがきのためにPVを見まくりました

さらに関係ないですがエルシャダイ面白いです

お勧め!

いや本当に!

思わず定期投稿(笑)とか無視してやりこもうかと思ったくら…


アーチのコンボとか考えるのが楽しくてしょうがないです


この話事態は4年くらい前に考えたんだっけな…

当時は書いたりなんかはしないでネタだけだったんですが、まさか書く日が来るとは思いもしませんでした

書かなかった理由は依頼を受ける形式の作品が今まで無かったから


ちなみに裏設定もありますが…ミステリーとかではないので使う日は無いでしょう


と、いうことで少しでも楽しんでいただけたら幸いです

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