第一話「洞窟」
目が覚める。
そこは薄暗く、洞窟だった。
空間に響く水が落ちた音が、ここが洞窟であることを示していた。
隙間から入ってくる微かな月光と蝋燭の火が、俺を照らしていた。
体に異常は……ない。
意外に好調だ。
ヨシまずは周辺の確認をしなければ。
そうして周囲を見渡す。
どうやら、ちょっとした平らな場所に寝かせられていたらしい。
「ここは…」
思わず声を漏らすと奥からコツ…コツ…という足音が聞こえてきた。
俺をここまで運んだ人。一体どんなやつなんだ。
ハッ…まさかびしょ。
などと思っていると、近づいてきた人の姿がハッキリ見えた。
「なんだこのおっさん!?」
「おっさんだと!?命の恩人に対して!?」
The おっさんといった感じの見た目。
革ジャンがよく似合いそうな渋さもある40歳くらいの男がいた。
目は青く、神は茶髪、背は俺の一回りくらい大きい。いやそれよりも。
上裸、上裸である。
………なんで?
確かに体は締まってて、かっこよくはあるが。
美少女と対極いるやつなんだが。
などと思っていると。
「ふむ…体に問題はない様だな。」
重い声が響いた。俺は思っていた疑問をぶつけた。
「ここは…あなたは誰ですか?」
「よくぞ聞いてくれた!私は…私は…そう一人の教師だ!」
「お、おう、じゃあここはどこなんですか?」
「ここは私の家だ」
「…………」
「ここは!私の!家だ!」
「聞こえてるわ!聞こえてて無視してんのわかんないんか!」
嘘だろ…
記憶喪失してから、初めて会ったのがホームレスかよ。
確かによくよく考えたら上裸だし、意外と。
しかし教師でホームレス?
絶対やばいやつでしょ。
……感謝だけしてどっか行こう。
「では逆に問おう。君は…誰だ?どこからきた?」
「名前はアルバース・アルバ、それから...」
「それから?」
……ここは素直に答えよう。
この人が解決してくれるかもしれない。
「………………分からない」
「わからない?記憶がないのか?」
「あぁ」
「………そうか、ではついてこい」
おっかしいな…確認したんだけどな…とぼそぼそ呟きながら、男はゴツゴツとした廊下を歩き始めた。
その背中を見ながら、俺は不安と共に歩みを進めた。
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出た場所はやはり森だった。
街などない。まぁ洞窟の時点で知ってはいたが。
実際まだ森だと頭が痛い。
洞窟を出てすぐ。
男は止まってこちらを見た。
そして一言。
「裸になれ」
……こいつは何を言っているんだ?
あれか?
教師で、ホームレスで、ホモか。
やっぱり不審者ジャマイカ。
そう思っていると。
「無論理由があるぞ、お前取り憑かれてる可能性があるからな、私は決してホモではない!」
「こ、心を読んだ?」
「本当に思ってたのかよ……まぁ早くしろ」
「いやいや服着せたのそっちだろ!」
そういう俺はギリシャ風の布切れを体に巻き付けていた。
「それは、そう」
「おい!」
「まぁまぁ早く早く」
取り憑かれてる…だと?
何にだよ。いやでも…うーむ。
何かあったらなぁ。どうしよう。
少し悩むしぐさを見せると、自分が着せたであろうローブを掴み、その両手を大きく上げた。
「とりあえずなれ!」
強制的に脱がされた。
晒される細身の肉体。
穢れなき真っ白な体は、月の光に晒されて輝いていた。
コイツヤバぁ……
助けてくれた恩人からやばいやつにランクアップした瞬間である。
数秒の沈黙ののち、少し焦った様子で男は言葉を発した。
「あっ……ふーん………………ごめんなんでもないわ」
「………………」
「いや、ほんとごめん」
……結局なんだったんだ。
「いや、聞いて欲しい」
「あんたあれだぞ?ここが公園とかだったら一発手錠だからな!?」
グイグイ近づく。
教師を名乗る不審者は焦った様子で俺を説得し始めた。
「違うって!聞いて、記憶がないかもしれないけど悪魔に取り憑かれたか、堕天したかと思ったんよ!」
「んえ?」
そいつは説明を始めた。
次回「異世界と出会いpart2」