プロローグ
「いやここどこぉ???」
普段の俺であれば、新天地というのは心を躍らせる場所だ。
環境の変化は成長のチャンス!……普段ならそい言っているところだがそんなことを言っている場合じゃない。
そう、なぜならば。
「俺…………誰だ?」
いや、俺ではあるんだが。
記憶がすっぽり消えている。
名前は覚えている。
「アルバース・アルバ」
現時点での情報はこれだけだ。
そうはならんやろ。
コ◯ンでももう少しヒント多いぞ。
家族も出身も全てが迷宮入りした。
グググっと頭を回したり、右上を見て頭の中を探すも手がかりなし。
今の俺の頭は空洞だ。
…………一旦詰みか。
一周回って冷静になると裸であることに気が付いた。
え?何で裸なん?
謎は深まるばかりだ。
はぁと一……と考えながら進む。なんか体重いし、だるいなぁ...
少し進んだ先、喉乾いたなと考えていると、都合よくササァという水の流れる音が聞こえた。
俺は、よっしゃ!ラッキだぜぇぇぇぇぇ!という感じで走っていった。
普段運動していなかったのか、生まれたばかりのように体が重かったからか、かなり疲れていた。
顔は満面の笑みだろう。
しかし、それはすぐに反転した。
川の真ん中にはおよそ人智では表現できない異形が立っていた。
体は黒く、頭には湾曲した角が二本、背中に輝く黒い蝙蝠の翼、そして牛のような顔。
そう悪魔がいた。
「え?」
少年はそこに立つ異形を理解できないでいた。
絶望でもなく、恐怖でもなく、ただ立ち尽くしていた。
汗が吹き出し、膝から崩れた。
その眼光が俺を映した時、腰が抜けて動くことができなかった。
足が震える。鋭い鉤爪が、俺を狙っているのが、わかった。
目の前まで迫る。
アルバースは思わず目を瞑った。
ドン!という鋭い音が響き、俺の意識と体は吹っ飛んだ。
「何でここに人がいるんだ…?」
180を超える身長を持った、黒い革ジャンに身を包んだ男は疑問が浮かんだ。
とりあえず移動するか、と少年を担ぎ歩き始めた。
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次回「洞窟」