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プロローグ 凡庸

処女作です。週1更新くらいで頑張っていきたいです。興味を持って読んでくれた人ありがとうございます。

「福勢君、忙しいところごめんだけどこれ来週頭までにやっておいてくれる?」


軽薄そうな男は、俺福勢達也に全く関係がない、比較的重めな社内資料の作成をポンと空虚な謝罪とともに、こともなげな態度で投げた。今は水曜午前11時。たしかにこの資料に集中できる環境であるのならば適正なスケジュールだろう。チームの地味で、でも誰かがやらなければいけない仕事が俺に際限なく投げられる環境でなければ。


「ふざけるな、周りを見れば俺より暇そうな奴がたくさんいるだろう。お前らの雑な仕事でどれだけ俺にしわ寄せがきているかわかっているのか」


そう言いたい気持ちとは裏腹に、自動的に「わかったよ」と答えてしまう。「流石福勢君!それじゃ、よろしくね~」と言いながら、ザ・軽薄男こと吉野は早めのランチに出かけた。ちなみに俺はここ半年メシを食うのは仕事が落ち着く19時~20時あたりである。もちろんそれ以降も仕事は続け、退社するのは23時くらい。それにより8キロ体重が減少した分、日本の食材が余ったことだろう。フードロスの増加に貢献してしまった。その点吉野はきっちり毎食欠かさないため、エコロジカルな男だといえる。


ここは大手食品メーカーの営業部。偏差値50程度の凡庸な大学出身の、特段特技のない俺は身分不相応にも奇跡的にここに滑り込んだ。周りは体育競技で優秀な成績を収めたり、大学院を出て専門的な知識を有していたり、難関大学を卒業していたりと「何かしらの努力をしていた証拠」を持つ輝かしい人材ばかりだ。


そんな会社がどうして俺を採ったのか不思議だったが、飲み会の時に人事が「ある程度マトモそうなやつを絞って、一人だけ可能性枠でクジで決めよう」と社長が言い出し、それに見事選ばれたのが俺だったという話を暴露した。非上場同族経営ワンマン社長の裁量権は絶大である。そんな遊び感覚な人事できるんだ。


と言うわけで、ラッキーマンではあるが存在価値が希薄な俺は、極自然な流れで、誰が言うでもなく、「なんとなくこいつは便利に使えそう」という民意のもと雑用係的ポジションを獲得したのである。先ほど俺に雑用を押し付けた吉野は悪い奴ではない。非常に空気が読める男で権力の流れに敏感なだけだ。かつ、露骨に敵を作らないスマートさがあり、格下相手にも表面上の愛想のよさは欠かさない。ただし「格下に面倒な仕事は愛想よく押し付ける」。陽キャ特有のアッパーな器用さがあった。


俺は「仕事ぶりは変わらないのになぜ雑用係を」「でも今のポジションにいるのは俺の過去の努力不足のせいだよな」「そもそもくじ引きで分不相応な会社に入れてるわけだし」という、どちらかというと自分が悪いよなあという気持ちに傾いているがゆえに「わかったよ」マシーンを受け入れているわけである。


凡庸に生きた凡庸な男が、特別努力してきた人間から見下されるのは当然のことだ。そう納得しながらも、人間プライドというものがありますので、鬱屈とした気分で表の自販機で缶コーヒーを購入し、「吉野殺す」と念じながら仕事の続きに取り掛かろうとしあっ、ここ搬入トラックが通るところだ――。


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