婚約指輪
「リリ・ユウキです!よろしくね?」
「あ………………かわい…………はい、ルーファス・カリストです。よろしくっす」
遊騎盤を一緒にした灰色くせっ毛の黒縁メガネ君がグラセン騎士団の隊服を着ている。
眼鏡からのぞく透き通ったグレーの瞳は少し青みがかっていて、灰色狼みたいな人だ。
「ふふふ、ルーファスくん、お仕事見つかってよかったね?」
「あ、う……」
実は照れ屋さんだったのかな?ゲームの時はしっかりしていた気がするのに。
「リリ、そのくらいにしてやれ。今日はもう空いたから、セトリに行くか?」
そう言ってひょいと抱き上げて下さったので嬉しくて思わず首に抱きつく。
「わぁ!じゃああの窓のあるホテルに行きたいです!」
「いいよ。そのまま泊まって明日の朝セトリを少し歩こうか」
「!!~~~シェイド様、大好き!!」
デートだ!嬉しい!
「俺に……笑いかけてる?この前と……態度が全然ちげぇ……あれ?コレ俺脈アリじゃねぇの……?」
「思春期君、その後の会話聞いておりましたか?団長の部下になったので信頼されただけですよ。クビになれば元に戻ります」
「姫様、分かりやすすぎです……」
◇◆◇
「シェイド様、あれは?」
「パン屋」
「わぁ!絶対明日行きたいです!じゃああっちの緑のドアのお店は?」
「飲み屋。お前は入るな」
「えぇ?お酒、飲みたいです!」
グラセン領の街セトリのホテルの窓から身を乗り出して、あれこれ質問する。夕方の街の賑わいが、雨上がりの匂いと共に風に乗って窓から心地よく入ってカーテンを揺らす。
「記憶無くなるくせに何言ってんだ。魔力譲渡できた事、覚えてないんだろ?」
「ゔぅ……どうやってできたんだろう……私の魔力、どうでした?」
「…………………………」
「シェイド様?」
「俺のいない所で酒は飲むなよ。ほら、落ちるぞ」
大きな手が腰にまわされて、腕の中に閉じ込められる。
「答えになってない!」
「日が落ちてきたな。セトリの街はこっからの方が綺麗だ。この前は、見せてやれなかった」
「?もう既に綺麗なのに、これ以上綺麗になるんですか?」
「ん、もうちょい待ってればわかるよ」
そう言って、髪に結んだ黒のリボンの端を持ち上げてキスをくれた。
「わ……わぁ……!すごい!」
丸い水が真珠の様に連なって、鞠のような形をつくり、それ自体がオレンジ色にぼんやりと光って街を照らしている。
街の空中にランダムにふわふわと浮いていて、灯篭祭りの様な雰囲気だ。
「昼間の明かりを閉じ込めて夜に水魔法で照らすんだ。これを見に観光客も来る」
観光客用なのか出店が次々と開き、昼とはまた違った街の様相をしている。
————「俺の奇跡。俺は……お前さえいればいい」
「?急にどうしたんですか?」
振り向くと私の手を取って甲に、指に、手のひらにキスをくれる。
琥珀色の目がじっと私を見つめていてドキドキする。
「これ……」
いつのまにか、薬指にダイヤモンドの指輪がはまっていて、指輪にもキスが贈られた。
イエローオレンジのダイヤは中心が濃く外に行くほど薄くなり、魔法でカットされたためなのか、指に二重にクロスされたキラキラした光の輪が出来ている。
光にかざすと、一重になったり二重になったりクロスされたりと光の輪が変化して、キラキラした光の指輪をしている様に見える。
「シェイド様の色……嬉しい」
「リリはもっと欲しがってもいいけどな。欲しがらなすぎだ」
「そうです?宝石で作ったリボンも頂いたじゃないですか」
「そういえば、そんなのも買ったな」
「今日付けてるんですよ?」
どこにだ?という目にこの後の反応を想像してニマニマしてしまう。
首に手を回して耳元で小さな声で囁く。
「あのね、琥珀色のリボンで、下着、つくってもらったの」
バキッッッッ
あ、ソファーの手すり壊した。
あ、久々に石化してる。
肩紐と背中にリボン結び、首にクロスするようにもリボンを使って、リボン紐パンもお揃いで作ってもらった。琥珀色にキラキラしててめちゃくちゃ可愛いはず!
石化、治らないなぁ。固まったままの頬にキスをすると、ガバっっっと口元を隠して上を向いた。
あ、鼻血でたな?新バージョン。
「シェイド様?」
「~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
「ふふ、シェイド様が可愛くて、楽しい。大好き」
「~~~~リリお前……分かってねぇだろ」
(ん?何が?)
「俺は明日午後から聖都で会議だ」
「…………?」
「歩いてみたいんだろ?セトリ」
「それは、そうですけど……?それがどういう……?」
「抱き潰すけど、お前、明日の朝起き上がれると良いなぁ?」
「~~~~~駄目!!!~~~っ!チラ見せだけにします!!!」
「あ゛ぁ!?新手の拷問かよ!!却下だ!!!!!」




