誕生パーティー1
遅れた私の誕生日パーティーは私の思った規模を軽くこえていて、近隣の領主や要人まで呼ぶ大規模な物となっていた。
公爵家の大ホールと庭を開け放って、商団やビュッフェブース、スィーツブースにバー、楽団に娯楽の設備まで色々ある。
この世界のパーティーはシンデレラのパーティーの様なダンス主体のものではなくて、どこまでも招待客を楽しませるアミューズメント的な面が大きい。
今回は子供用の催し物もあるようで、貴族の小さな子供たちが景品を持って楽しそうに走り回っている。
ホール正面にはデパートの入り口に対で置かれる大きなクリスマスツリーのごとく、二つの丸テーブルの上にプレゼントの山。
「坊ちゃまもたいがいですけど、聖主猊下も凄いですね。予想はしておりましたが」
「えぇ……ばあや、これ二人から?オブジェかと……」
タワーのようなプレゼントの山に驚愕してしまう。
「そうですよ。物事には限度ってものがありますのに、全くあのお二人は……」
「私は公人扱いだからプレゼントは贈れないんじゃないの?」
「坊ちゃまは婚約者なので大丈夫ですよ。猊下はご実家枠といったところでしょうか。その代わり猊下本人はパーティーに御出席できませんが」
「シェイド様が開いたパーティーだから?」
「はい。お嬢様主催でしたら猊下もお呼びできますが、一貴族と聖主が懇意にする事は禁じられておりますから」
シェイド様からのテーブルを見るとカードがちゃんとそえてあって、嬉しくて飛びついてしまう
——愛してる
ふふふ、約束してから毎回ちゃんとカードをくれる。名前すらない、愛してるだけのカード。
実はプレゼント魔だった様で、苦手なカードの件が解決されてからは、以前のセフィロス様と同じぐらい毎日プレゼントが届く。
日本語のカードを添えて。
すごく嬉しくて、オルゴール付きの宝石箱の中に全部とってあるのはシェイド様には内緒。
——全ての祝福を貴方に 兄より
セフィロス様の思いやりに、じんわりと心があたたまる。
セフィロス様からのカードも同じ様にとっておこう。
二人のかたちの違う愛情が嬉しい。
「リリ、スッキリした顔してるわね?兄様にちゃんと反省させた?もし今日もベールを被っていたら殴ってる所だったわよ。殴った手の方が痛そうだけど!」
「あはは!うん、ちゃんと仲なおりできたよ。もうベールもしなくていいって。今日も護衛なしで好きに動いていいみたい」
「まぁグラセン騎士団の幹部が全員そろっている場で何かしようって輩はいないでしょうね」
入り口近くでアスラン殿下とシェイド様が話しているのが見える。
今日のシェイド様は隊服ではなくて、シルバーに金と紺の装飾がついた礼服を着ていて、グラセン領主としてこの場にいるみたい。
髪が片側だけ上げられてセットされていて死ぬほどカッコいい。
「義姉様も来たがっていたわ、リリにおめでとうを伝えて欲しいって」
「ありがとう。ラミア様の具合はどう?」
何とラミア様のお腹には今赤ちゃんがいるんだって。つわりがあるらしく、今日は欠席されている。
「半分はアスラン兄様の心配性のせいよ。義姉様は無理をなさらなければ大丈夫なのに」
「ふふふ、羨ましい」
「義姉様がリリの儀式の見学にいったのが社交界で話題になってるの」
「うん?」
「結婚して八年、なかなか授からなかった義姉様が妊娠して、社交界はリリへの繋ぎを求める声で大荒れよ!」
「??どういうこと??」
「妊娠希望者がリリの儀式に参加したがってるって事!!」
「まさか!私そんな力ないよ!?」
「兄様もうんざりされてたわ?今日の誕生日パーティーの招待だって、早々に締め切っておられたわ。中にはお金で買おうとした貴族までいたみたいよ?」
「何だそりゃ。異世界、怖い」
「兄様の地位が高くて良かったわよ。兄様と猊下ぐらいでしょうね、リリを守れるのは。王族だって結局は兄様に守ってもらっているもの」
「シェイド様はかっこいいもの」
「そうね。リリの儀式を一早く開催したい各領が戦々恐々として水面下で画策しまくりよ。イレイの木を伐採してしまっていた領主は慌てて植え直しているわ。グラセンのイレイの花と苗が今高騰して大変よ。シェイド兄様あんな飄々としてるけど悪どいわ!聖都に苗をもっとよこしなさいよ!!」
「ふふふ、イレイの花が受け入れてもらえるのは嬉しいな」
「義姉様ご懐妊の話も重なって、リリのおかげで黒への忌避感は急速に無くなりそうよ。リリの今日のファッションだって、絶対に流行るのよ。そのイレイの花のアクセサリー、どこで作らせたの!私も欲しいわ?社交界のボスの義姉様の分も!」
月桂樹を模した銀の花輪のヘアアクセサリーにイレイの花モチーフを付けたしてもらった。儀式用にって思ってたんだけど、可愛いからお気に入りで今日もつけてもらっている。
「これ?儀式様にって作ってもらったの。その時の加工職人さんを今日も呼んであるみたいだから後で一緒にいこうか。私も本当は指輪が欲しかっ」
————「何が欲しいって?」
「シェイド様!」
いつのまにか近くに来ていたシェイド様の圧がすごい。
「えっと……何でもないです」
「逃げるなよ?」
「ほんとに、何でもなくて……」
「へぇ?」
あっという間に壁ドンの姿勢になっていて逃げられない。しかも両腕。
「言わないと今日はここでずっとキスするけど?」
「ひぃっ、なんで!」
魔王スマイル怖い!
「お、怒らない?」
「怒んねーよ。怒った事ねーだろ」
「えぇ……?」
既にキスの体勢に入ってる魔王様の顔が近づいてくる。
招待客が続々と来場しているのがシェイド様越しに見えてワタワタしてしまう。
「えと、その、婚約指輪がほしいなって」
「婚約指輪?」
「こ、こっちの人は、婚約の記念に何か贈ったりはしないんですか?」
「しないな、家同士契約書を交わすだけだ」
「えっと、私の世界は男の人が女の子に指輪を贈るん……です。左手の、薬指に……」
「スラン!今日は聖都の宝石店も全部よんであるか!?」
「主要三店舗呼びつけてございます」
「じゃあ行くか、リリ」
「えぇ……?」
「あら兄様、私にもアクセサリーを買ってくださる?たまには兄様からも贈っていただきたいわ?」
「好きにしろ、あんまり社交界でリリをもちあげるなよ」
「はーい!」




