想いの糸
「リリ、話がしたい。開けてくれ、頼む」
言いながら、ドームの時の様だと思う。
リリはいつも辛さを溜め込んでどうしようもなくなると閉じ籠る。
毎回、原因は俺だなと気付いてしまい絶望する。
中からの返答はない。
「頼む、治療だけでもさせてくれ」
魔力を使った反動で動けなくなっている可能性が頭をよぎる。
無理やり開けるか、移転してしまうか、と早急に答えを出そうとする自分を抑える。
リリが一人でいることを選んでいる以上、今は話が必要だと思い直す。
魔力を糸にしてリリの気配の場所にだす。
リリの国の言語で。
————あいしてる————
リリへの手紙は苦手だ。思いばかりが先行して、小手先の言葉が出てこない。
仕事の手紙とは全く違う、想いを綴る言葉を、俺みたいのが書いてもいいのかと今だに迷う。
自分ばかりが欲した愛情を貰っておいて、それ以上の想いがある事を本能的に隠そうとしてしまう。
魔力を流して補填してやれない分、届けた糸をリリが触れれば染み込む様に、何度も贈る。
——あいしてる
——ごめんな
——あいしてる
——あいしてる
◇◆◇
貧血なのか、眩暈なのか、体が重い。
シェイド様に飛びついていきたいのに、重い体はいう事を聞いてくれない。
シェイド様が私を裏切ったわけではないことは分かっている。
そんな人じゃないことはちゃんと分かってる。
咄嗟に嫌と言った自分に一番びっくりした。
困らせるのは分かりきっているのに。
目の前が不意にぼんやり青く明るくなって、青白く光る糸でできた一筆書きの文字が浮かびあがる。
————あいしてる————
思わず触れた指先がじんわり熱をおびて心地いい。
触れると壊れてしまう様で、消えてしまったけれど、次の光る糸がまた目の前に現れる。
あいしてる
ごめんな
あいしてる
あいしてる
壊したくはないのに心地よくて触れずにはいられない。
シェイド様からの初めてのお手紙に涙が出そうになる。
懐かしい日本語の響きと、彼の優しさが嬉しい。
「シェイドさま……」
不恰好にずりずりと這ってドアの鍵を開ける。上半身だけでも起こせる様になっていて良かった。あのあったかい文字のおかげだろうか。
カチッと鍵の開いた音があたりに響いて、ドアが開く。
頭が重くて壁に寄りかかろうとすると、すぐに抱き上げられた。
「リリ、ごめん」
「シェイドさまは、悪くない。私が、わがままだったの、ごめんなさい」
シェイド様の魔力があたたかい。
急速に体温が戻っていく。
「……傷の手当てをしような」
シェイド様はそう言って、移転の魔法陣を出した。
◇◆◇
「団長が色恋に疎いのは正直仕方ないよね~ずっと戦闘しかしてこなかったし~。なのに極上の妖精ちゃん手に入れちゃったからさ~」
「シェイドも今回のことで懲りたろ、リリ様が絡まなければなんでも怖い程完璧にこなすのにな」
「ヤベェって顔してたな!シェイドもああいう顔できたんだなぁ、兄貴と義姉さんが見たら感動して泣いちゃうよ!戦闘狂みたいな顔しかしらんかったけど、怒り以外の表情筋あったんだなぁ~おじさん嬉しい!」
「テオを泣き止ますの大変でした……」
「解散しますよ、後は団長に任せましょう。教会警備も引きます。団長一人いればどんな騎士団よりも強いですから」
「団長帰ってきたの~?見かけなかったけど~」
「はぁ~リリ様のおられる扉前まで移転されておりました。見つかったら罰金だけでは済みませんよ全く」




