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タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する  作者: 雨香
第2章

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想いの糸


「リリ、話がしたい。開けてくれ、頼む」


言いながら、ドームの時の様だと思う。

リリはいつも辛さを溜め込んでどうしようもなくなると閉じ籠る。

毎回、原因は俺だなと気付いてしまい絶望する。


中からの返答はない。


「頼む、治療だけでもさせてくれ」


魔力を使った反動で動けなくなっている可能性が頭をよぎる。

無理やり開けるか、移転してしまうか、と早急に答えを出そうとする自分を抑える。

リリが一人でいることを選んでいる以上、今は話が必要だと思い直す。


魔力を糸にしてリリの気配の場所にだす。


リリの国の言語で。 


————あいしてる————


リリへの手紙は苦手だ。思いばかりが先行して、小手先の言葉が出てこない。

仕事の手紙とは全く違う、想いを綴る言葉を、俺みたいのが書いてもいいのかと今だに迷う。

自分ばかりが欲した愛情を貰っておいて、それ以上の想いがある事を本能的に隠そうとしてしまう。


魔力を流して補填(ほてん)してやれない分、届けた糸をリリが触れれば染み込む様に、何度も贈る。


——あいしてる

——ごめんな

——あいしてる


——あいしてる




◇◆◇




貧血なのか、眩暈(めまい)なのか、体が重い。


シェイド様に飛びついていきたいのに、重い体はいう事を聞いてくれない。

シェイド様が私を裏切ったわけではないことは分かっている。

そんな人じゃないことはちゃんと分かってる。


咄嗟(とっさ)に嫌と言った自分に一番びっくりした。

困らせるのは分かりきっているのに。


目の前が不意にぼんやり青く明るくなって、青白く光る糸でできた一筆書きの文字が浮かびあがる。


————あいしてる————


思わず触れた指先がじんわり熱をおびて心地いい。

触れると壊れてしまう様で、消えてしまったけれど、次の光る糸がまた目の前に現れる。


あいしてる


ごめんな


あいしてる


あいしてる


壊したくはないのに心地よくて触れずにはいられない。

シェイド様からの初めてのお手紙に涙が出そうになる。

懐かしい日本語の(ひび)きと、彼の優しさが嬉しい。


「シェイドさま……」


不恰好にずりずりと這ってドアの鍵を開ける。上半身だけでも起こせる様になっていて良かった。あのあったかい文字のおかげだろうか。


カチッと鍵の開いた音があたりに響いて、ドアが開く。

頭が重くて壁に寄りかかろうとすると、すぐに抱き上げられた。


「リリ、ごめん」


「シェイドさまは、悪くない。私が、わがままだったの、ごめんなさい」


シェイド様の魔力があたたかい。

急速に体温が戻っていく。


「……傷の手当てをしような」


シェイド様はそう言って、移転の魔法陣を出した。




◇◆◇





「団長が色恋に疎いのは正直仕方ないよね~ずっと戦闘しかしてこなかったし~。なのに極上の妖精ちゃん手に入れちゃったからさ~」


「シェイドも今回のことで懲りたろ、リリ様が絡まなければなんでも怖い程完璧にこなすのにな」


「ヤベェって顔してたな!シェイドもああいう顔できたんだなぁ、兄貴と義姉(ねえ)さんが見たら感動して泣いちゃうよ!戦闘狂みたいな顔しかしらんかったけど、怒り以外の表情筋あったんだなぁ~おじさん嬉しい!」  


「テオを泣き止ますの大変でした……」


「解散しますよ、後は団長に任せましょう。教会警備も引きます。団長一人いればどんな騎士団よりも強いですから」


「団長帰ってきたの~?見かけなかったけど~」


「はぁ~リリ様のおられる扉前まで移転されておりました。見つかったら罰金だけでは済みませんよ全く」


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