表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する  作者: 雨香
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/97

ベール


グラセンの美しい主教会の聖堂前に、シェイド様と騎士団のみんなが騎士の礼をとって出迎えてくれている。


昨日の事が気まずくて、シェイド様のお顔が見れない。

呆れてるのかもしれないし、怒ってるのかもしれない。  

ベールがあって本当によかった。誰にも泣きそうな顔を見られなくて済む。 


「やぁシェイド。今日は僕らも見学させてもらうよ」


「アスラン、リリを返せ」


「別に僕がとったわけじゃ無いんだけど。シェイドにも苦手な事があったなんて驚いたよ。リリ嬢が関わると人間らしくていいね」


「意味わからんはやくしろ」


「グラセン公爵様、今日はわたくしのエスコートをしてくださらない?猊下にして頂こうと思っていたのに、いらっしゃらないんだもの」


ラミア様がずいとシェイド様の前にでて右手を出す。


「本日までは、グラセンの取り仕切りですので」


「ね?だから良いでしょう?」


「………………承知致しました」


聖堂の中には二十人程の魔熱患者が眠っていて、この前のように(わめ)いたり叫んだりはしないまでも、苦しそうにうめいている人ばかりだった。

私はもっと波の間隔があったけれど、普通はこの人たちのように間隔も短いのかもしれない。


アスラン殿下にお礼を言って、一人奥に進み、花鋏(はなばさみ)を持って花束を作って行く。

パチン、パチンと余分な枝葉を切り落とす


()っ……」

ベールで前がよく見えず、手元が狂って枝先と一緒に指まで切ってしまい、ポタポタと血が下に落ちた。

涙が落ちたのかと思って狼狽して、赤さを認めて安心した。


「姫様!!!!!」


テオ君の叫びで我に帰る。


「姫様、姫様!あぁ……!お手当を!」


テオ君が今にも泣きそうな声を上げ、布で止血をしてくれた。

私よりもテオ君の顔の方が真っ青に違いない。ごめんね。せっかく見学に来てくれていたのに。


「リリっ!!!!!!」


シェイド様の声がする。

胸が痛い。


「大丈夫。ベールで、前がよく見えなくて……」


「ッ————!」

シェイド様が一瞬立ち止まった隙に手早く花をかき集め、胸に抱く。

また駆け寄ってくださろうとしているのは分かったけれど、そのまま魔熱患者の真ん中に立つ。

今回はベットごと運び込まれているので立ったまま祈る。


今はこの人たちを助けることだけ考えよう。


私は自分のやれる事を頑張りたい。


魔の魂に呼びかける。

——貴方達に感謝と癒しを

——ありがとう、天に帰ろう


目の端に黒い光を認めて、安心したのと同時に体から力が抜けていく。

ベッドの柵に捕まって眩暈(めまい)をやり過ごす。


「リリ……」


すぐ近くにシェイド様の声がして振り向くと

「ごめん」と絞り出すような小さな声がした。


シェイド様らしくないな。

いつもは〝悪かった“って言うのに……

と、取り留めのない事をぼんやり思っているとギュッと抱きしめられて——————


——甘い、ローズの香水の匂い——


「嫌っ!!!!!!!」


転がるように腕の中から出て奥に走る。

足がもつれて上手く前に進めない。

開いたドアから廊下に飛び出て、突き当たりの部屋に入って鍵を閉めた。

そのままズルズルと座り込む。




◇◆◇




「公爵様!姫様が!まだ出血はとまっておりませんのに!」

テオが俺にかけより、血のついた布を見せる。


「公爵様……?薔薇の、におい……?」


テオの言葉にその場の全員が固まり、嫌な沈黙が流れた。


「団長、午前中にヘスタのご令嬢と一体何を?」


「何もしてねぇ。魔力を流しただけだ。気を失ってふらついたから……支えた……」


「リリ嬢はご存知なんですか?指先一本でも触れれば魔力は流せることを。いつもいつも抱きしめたり口付けたりと好き勝手なさってますが」


「……………………………………」


「詰みましたね」

「詰んだな」 

「これは詰んだね~」

「僕も……詰んだと、思います」

「確実におじさんの出番!」


訳がわからず泣き始めたテオをアランが抱いて連れて行く。

その場に縫い付けられたように足が動かない。

手の中から逃げた事はあっても拒否された事は無かったなと回らない頭で意味のない事を考える。


「シェイド、猊下からの伝言だよ

〝引くのは今回だけだ“ だって。じゃあ僕は行くね。グラセンを観光しようってラミアと約束したんだ」


最悪の伝言と特大の嫌味を落としてアスランが消えた後、一人リリの後を追う。


奥の部屋に気配を感じて思わず移転してしまいそうになり、教会内だった事を思い出して舌打ちする。


ドア一枚の距離がこんなにも遠い。


「団長、まずは湯浴みが先かと。そのままリリ様に会うおつもりですか?」


廊下まで追ってきたクリフのセリフに、まだ香水の匂いがついたままの隊服を一瞥(いちべつ)する。どんなに傷つけたのか計り知れない。


「分かってる」


「その間私がここで警護致しますよ。お急ぎ下さい。一個隊は教会警備に残してあります。我々とて、グラセンの騎士を癒していただいたお礼を言いたいのです」

 

「ああ。俺もお前みたいに上手くやれればな」


「リリ様なら許して下さいますよ。這いつくばって謝るしかありませんが。大切なのでしょう?」


「ああ」




◇◆◇




ドアの前でうずくまっている間に、外でシェイド様とクリストフさんの声がしたような気がするけれど、それもすぐに途絶えて静かになった。


少しづつ落ち着いてきて、自分についたローズの香りを散らす様に手で払う。


「痛っ——」


さっき切った傷が引っかかって開いたのか、またボタボタと血が流れてきたのでベールをとってぐるぐる巻きつけて押さえておいた。

どのみちドレスは気づかないうちに血だらけだった。


私が入り込んだ部屋は個人でお祈りをする部屋のようで、八畳ぐらいの広さがある。

奥に白い祭壇があり、男神と女神の像がおいてあった。


椅子はなく、床に大きな円を描く様にステンドグラスがはまっている。上にのっても平気な様で、明かりはついていないのに、ぼんやりとステンドグラスが光っているおかげで部屋の中は割と明るい。


「私、いつも上手くいかない」


魔力を使った反動で立っていられず、そのまま色とりどりの床の上に横になる。

ガラスが冷たくて体温を奪っていく。

これからどうしたらいいのか、分からない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ