聖主1
「お嬢様、猊下からのお手紙がついてございます」
「ありがとう、じいや!」
立派な薔薇の花束の中に、金色の聖教会のマークの入った上質な紙を使った封筒が入っている。
人生で初めてもらった花束が、女たらしの聖主さんからかぁ……複雑だけど花には罪はないもんね。
「ばあや、花瓶をかしてくれる?」
「お怪我をしてはいけませんからね、こちらでお活けいたしますよ。どこに飾りましょうか」
「廊下で十分だろ」
開きっぱなしになっているドアによっかかっる体勢でシェイド様がダルそうに答えた。イケメンが急に現れると、心臓に悪い!
「シェイド様!今日はお仕事、早く終わったんですか!?お会いできて嬉しいです!」
「ぐっっ…………リリ様、猊下との会談には必ずスランを付けてください。屋敷から出る事も考えられるため、クリストフを護衛に付けます。クリフ!」
以前助けてもらった時にいた、金髪エルフ系のお兄さんが入ってきた。聖主さんよりも線が細いからか、彼の方が、よりお話の中のエルフに近い。
「リリ様、アルディス子爵家が三男、クリストフ・アルディスと申します。
シェイド団長の元、第二騎士団の副官を拝命しております。ご降臨の折、少しだけお目にかかりました、覚えておいででしょうか」
「あ!はい、あの時は助けて頂いてありがとうございました。あの、シェイド様は第二騎士団の団長様なんですか?」
「おや、気になるのはそこなんですね?ふふ、リリ様とは仲良くなれそうですねぇ。ええ、そうですよ。シェイド様は第二騎士団の団長を王より拝命されてございます。仕事は主に王城の警備と聖都の警備ですね。第一騎士団は王族の近衛になります。私は団長の補佐役といった所でしょうか」
「わぁあ!騎士団の団長なんて、すごいですね!かっこいい!!!」
「ぐっっ…………!」
「リリ様、団長が石化致しますので、その辺で。では打ち合わせが済み次第護衛につきますので、よろしくお願いしますね」
「はいっ!よろしくお願いします!!」
クリストフさんは騎士の礼をとると笑顔のままシェイドさんを引きずって退出して行った。細いのに、力持ちだな。
◇◆◇
二の鐘が鳴る頃に参上します。
姫君へ セス
封筒の中にはカードが入っていて、同じく聖教会の金のマークが印字されていた。
へぇ、こうやって約束するんだなぁ。
スマホ、ないもんね。
「じいや、これには普通お返事をするの?」
「そうですね、お手紙を届けに来られた猊下の部下の方を待たせておりますので、その方にそのままお持ちいただきましょう」
「カードを何種類か用意いたしますわね」
「うん、ばあや、ありがとう」
異性からの初手紙も、聖主さんかぁ……
いけないいけない、もう考えるのはよそう。
平安貴族が手紙に香を移したとか、花の枝を折って添えたとか、そんな感じですればいいのかな。
いっぱいのバラには何を返せばいいんだろう。
うんうん唸って考えて、庭にある月桂樹の枝を付けることにした。
ほんの十センチほど、綺麗な葉のついたところを封蝋でカードに留めたらなかなか素敵な仕上がりになった。公爵家の鷹の紋章がかっこいい。
承知しました。おまちしております。
リリ・ユウキ
簡潔な文章に月桂樹の葉が映えてとても良い感じだ。
因みに言葉が通じるだけあって、文字も理解していた。
あの薄い膜を通る度に私の体はこちらに順応出来るように変わっていったのだろう。
カードを封筒にいれ、こちらは封をせずに使者の方に渡してもらった。
別に内緒のお手紙交換してるんじゃないしねっていう地味な抵抗だけど、気づいてはもらえなそうだね。
◇◆◇
「見事に私の事は眼中にない感じですねぇ、いっそ清々しい程に」
「…………」
「団長しか見えてない感じがお可愛らしいですねぇ。まさかあれ程美しいご令嬢だとは思いませんでしたが」
「…………気のせいだろ。俺だぞ。可愛い事は否定しないが」
「リリ様のご静養延長の引き換えに、リリ様とのデートの権利をみすみす取られたわけですね?あの狸、やりますねぇ」
「…………デートじゃねぇ。会談だ」
「何言ってるんですか。先程の薔薇の花束、今聖都で流行りの品種でしたよ。ここらで入手するのは大変な品です。移転魔力もないのにどうやったんでしょうねぇ。猊下は本気の様ですよ」
「…………チッ…………」
「団長も送られてるのでしょう?リリ様に」
「…………………………………………」
「はぁ~初手から負けっぱなしじゃないですか」
「俺があいつに勝てるわけないだろ。くそっ!殴って終わりにしてぇ」
「私は負けてないとおもうんですがねぇ?
あのリリ様のご様子。団長、据え膳ですよ」
「あぁ?だから、それは……」
魔獣から助けた俺に安心感を持ってるだけだ。雛鳥が初めて見たものを親鳥として認識するような。
「心配で私を送り込み、尚且つ一週間こちらで書類仕事をするなんて、もう骨抜きじゃないですか、認めてくださいよ」
「…………チッ」
先日の庭でのあいつは、ニ階からの俺の視線に最初から気付いていた。
俺から見えやすい位置にわざわざ彼女をエスコートした上で、自分の背中で隠したのだ。
俺の色を纏った彼女を俺からわざと隠す。
俺からはヤツの背中しか見えない様に。
「やっぱり殺した方が早いか」
「あなたならそれが出来てしまう所が最高に物騒ですね。リリ様が悲しみますよ。向こうの示した戦い方をするしかないでしょうねぇ」
「…………クソが」




