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タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する  作者: 雨香
第2章

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魔熱


「っ…………う…………」


頭痛を伴うひどい眩暈に患者さんの胸元に倒れそうになった瞬間、大きな手に抱き上げられた。


「シェイド、さま……」


「っ……今、分けてやる」

そんな辛そうな顔をしないで?と言おうとしたけれど、体に力が入らなくて声になって出てはくれなかった。


だらんと垂れた右手に重さを感じて眉を寄せる。


「おまえ、殺すぞ。離せ」

重さの元を見やると、灰色の髪の魔熱患者さんが手枷のついた両手で私の右手を包み込んで跪いていた。   

猿ぐつわをかまされて、手枷をされていてもなお力強い灰色の瞳が真っ直ぐに私を見る。


「ズビシっと!!!図々しいな~団長キレたら困るんだよ~後片付けが大変じゃん!残業じゃん!!」


クレッグ君が彼の腕に手刀を入れて灰色オオカミみたいな彼がズルッと倒れ込んでやっと拘束が解けたけれど、まだ身体が重くて自分の腕すら上に上げられない。


シェイド様が抱え直してくださって、どこか休める場所をと聞いてくださっているのが遠くで聞こえる。  




◇◆◇




「リリ、こっち向け」


シェイド様のキスが熱い。気持ちの問題じゃなくて、物理的に熱い。あまりの心地よさにもっともっとと、せがむ仕草をしてしまう。


「っ、はぁ。俺の理性が試されている……」 


「ん、シェイドさま、キス、もっと」


「ぐっ………………何の試練だこれは。リリ、具合はどうだ?直接送り込んだから、治りも早いはずだ」


「ん、もう大丈夫。だから、キスして」


「ウソだろ……このリリはマズイ。お前今どんな顔してるか分かってんのか。まだあっちは片付けと医師の診療でバタバタしてるから今のうちに少し寝ろ。このまま出せねぇだろうが」


「シェイドさま、手、触って」


「手?」


「ん、こっち」


「ああ、さっきの野郎か」


右手をとって、指先にキスをくれる。頬に触れると、そのまま手のひらにもキスを贈られて、やっと気持ちがおさまった。シェイド様のお膝の上で微睡(まどろ)む。


「これはこれで問題だな」


「何か、だめでした?あの時、怖い顔してたから…」


「あの時?」


「イレイの花の灯りの話をしたとき」


「あぁ、不安にさせたか?リリはな、この世界でただ一人の魔熱治療者になったって事だ」


「だめ、でした?」


「ダメじゃない。驚いただけだよ。俺が問題だっつったのは、治療した奴らがみんなリリに惚れる事だ」


「そんな訳ないのに……」


「あるだろ。俺の妖精は可愛いからな。魔熱患者は圧倒的に騎士が多いしな」


「私も、あんな風になってましたか?」


「リリは……毎日魔熱でもいいぐらい可愛かったよ」


「ふふふ、うそつき」


「いやマジだけど」


「シェイドさま、魔力がいっぱいの時に魔力を貰うとどうなりますか?」


「そんな状況あるか?どうもなんねーよ。過剰魔力は体に留まらない」


「ん、じゃあ、さっきの、して?」


「~~~~~~~~~~!!!!!!

……カンベンシテクダサイ」


「やだ」


「……俺トマレマセン」


「シェイドさま、お願い」


「……お前、ほんっとに帰ったらおぼえとけよ?」


キスの代わりに髪を優しくすかれてうとうとと微睡む。

魔熱の患者さんが治って良かった。私にも出来る事があった事が嬉しい。




◇◆◇




ウトウトと一時間ほど眠った私の元に、セフィロス様からの使いの方が来た。


個室に二人きりにはさせられないということで、未だ後始末に追われている聖堂の端でお話することとなった。


セフィロス様はテラスのテーブルを勧めてくれたのだけれど、シェイド様がガンとしてゆずらなかったので、なんだか立ち話みたいな結果になってしまった。

しかも、多分クレッグ君が近くで見てると思う。

見渡しても彼だけここにいないもの。

ホントにセフィロス様のこと嫌いだなぁ、と口元が緩んでしまう。


「お幸せなのですね」


セフィロス様が苦笑して言う。


「はい……いつかは侍女の推薦をありがとうございました。お礼を申し上げたいと、ずっと思っておりました」


彼の推薦が無ければ、ケイトさんは私の侍女になっていない。


「罪滅ぼし……では無いですね。これ以上、嫌われるのが怖かったのですよ。下心です」


「ふふふ、それでも、とてもありがたかったのです。あのころの私には、信じられる味方が必要でしたから」


「あなたを欲する気持ちが抑えきれず、浮かれておりました。シスターの件、謝罪申し上げます」


「もう、良いのです。誰も恨んではおりません。今は、幸せですから」


「ご婚約、誠におめでとうございます。心より……とは言えませんね。失恋は幾つになっても辛いものです」


苦笑するセフィロス様はなんだか以前よりスッキリしたお顔をしている様に見える。


「セフィロス様は、私のことを好きだった訳では無いと思いますよ」


「おや、その様に思わせていたなんて、私もまだまだですね……私は————グラセン公に、嫉妬していたのだと思います。あなたの(がわ)からの好意を頂きたかった。欲をかいて、失敗したのですよ」


ヘーゼルの瞳が悲しげに、優しく揺れる。


「そんなことは……」


「聖教会は貴方の実家であると、まだ思っていてくださいませんか。お心は頂けなくとも、いつでもあなたをお守り申し上げます」


「それは……はい」


「グラセン公と喧嘩なさった時はいつでもここを使ってください」


「ふふふ、はい」


セフィロス様はまた泣き笑いのお顔で一礼し、聖堂から退室していった。

色々な思いが重なって、彼が去った方を見たまま動けずにいると、上からクレッグ君が降ってきて目の前に着地した。


「いや~未練たらったらだね~、団長に何て報告したらいいのコレ。え、報告中に殺されない僕?」


「ふふ、一緒に行ってあげる」


「神!!!!んじゃ、いこ~。手を繋いでいきたいけど、僕の人生終わっちゃうからエスコートね~。これもわりと怪しいけどさ~」


「シェイド様、そんな事で怒らないよ。優しいもの」


「や……やさ?優しいってどういう意味だっけ…………」


水の女神像の側に、シェイド様達を見つけて思わず駆け寄る。貴族の令嬢はこんな事絶対しないんだろうけど。

別に私、貴族じゃないしね!


シェイド様の胸に飛び込んでギュウギュウ抱きつく。


「なっ!?どうした!?あいつに何かされたか!?」


「されてない、シェイド様に会いたかっただけ」


「本当に何もされてないか?」


「ん、本当。もう公爵邸に帰りたい」


「ああ」


「妖精ちゃん!報告、雑っ!!!」



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